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さて、その店に着いてルーファウスがした事と言えば、まずは“驚くこと”だった。 だって何を隠そうその店は、単なる店ではなかったのだ。 いや、単なる店は単なる店なのだが、何というか状況的に言って「単なる店」ではなかったわけである。つまりこういう場合、店というからにはお茶や食事を楽しんだりするものだと思われるが、どうやらそうではなかったのである。 その店は、暗くも、ボーッとも、気だるくも無かった。 店名は「BEST・HOUSE」。まあそれは良いとしても、その店名の前にこうあるではないか。 「“素敵な家具の発信地”…??」 ――――――――――何故に家具。 「…ちょっと待て」 誰も待ってはくれないがついそう言うと、ルーファウスは考え込んだ。 素敵な家具の発信地というからには多分、此処は家具を売っている店である。そんなことは分かりきっている。しかしどうだ。そこに呼び出された自分というのは一体何だ。しかも家具といえば、今日すっかり雷にやられてしまったあの数々のプレゼントを思い起こさずにはいられないではないか。 「まさか…??」 もしやセフィロスは……。 そうルーファウスが悩み出していると、その姿に気づいたのか店のドアが開き、その奥からセフィロスが姿を現した。 「着いたか、ルーファウス。早く中に入れ」 セフィロスはさも当然といわんばかりに手招きなどをしてそう言う。仕方無しにその手招きに従いルーファウスがその店内に入っていくと、その瞬間に店員らしき人物が数人にっこりと笑って「いらっしゃいませ」などと会釈した。 何だ何だ何だ、一体? そう思いながらもセフィロスの後をついていくと、奥の方のテーブルに案内される。椅子をひかれたのでそのままそれに腰を下ろすと、隣の席にセフィロスが腰を下ろした。 で、正面側に店員が二人――――――この構図は何であろうか…。 何が何だか分からない内にその場の一員になったルーファウスを他所に、店員二人とセフィロスは、先ほどまでしていたらしい話の続きをし始めた。 「それでコチラですが、高級絹を使用しております。世界屈指のデザイナーとのコラボレーションで実現した逸品で、勿論のこと一点物でございます」 そう言いながら店員、パサリ、と何やらカタログのようなものを差し出す。 何だこれは、そう思ってルーファウスが覗き込むと、それはどうやらカーテンのカタログだった。 「カ、カーテン…」 もしやこれは、世に言うオーダーカーテンというものだろうか。しかしそうだとしても、はて、何故にカーテン?という事になる。 で、その答えと言えば。 「うむ、やはり仕上げはカーテンだろう。風にヒラヒラと舞うカーテン、これは繊細且つ微妙なセンスの見せ所だ」 「……」 別にそんなところでセンスなど見せないでも良いし、とは言えず。 「であるからして、ルーファウス。さて、どれが良い?」 「俺っ!?」 何故に自分が選ばねばならんのか。 「馬鹿者。その為に呼んだのだ。雷でも大雨でもカーテンの重要さには敵うまい」 敵うって、と言いたい……が、言えず。 というか。その前にまず、そのカーテンが何処に使用されるのかを問いたいところである。そもそもルーファウス宅は関係ないし、セフィロス宅のものだとしたら自分が選ぶ権利も無い気がするが。 しかしそれを問おうとしたルーファウスを遮るように、店員があれよこれよと説明などをし始めた。これは○○氏の渾身の作でだとか、これは××の伝統的な柄で、とかそういう説明である。それがあんまりにも長いものだからルーファウスは、最後にはどうでも良くなってきて、じゃあコレ、などと適当なものを指差した。 それは、柄も何もない無地の白いカーテンだった。 まあ無難だろう、柄も何も無いから店員だって妙な説明に熱など入れないだろうし、なんて思っていたルーファウスだったが、これまた違ったようである。 店員、おおお〜!!、などと言いながら拍手などをする。して、その理由とはこういう事だった。 「これは世にも貴重な、特殊絹で作られたものです。100年に1度しか作ることができないとまで言われている逸品でございますよ!」 ―――――――――本当かよ、と言いたい。 「おお、そうか。さすがだな、ルーファウス」 「お客様、お目が高いですね!」 「……」 ―――――――――ちっとも嬉しくないし。 とにもかくにも、そんな具合に勝手に盛り上がっている店員とセフィロスに、ルーファウスは力なく笑うしかなかった。しかしそんなルーファウスを他所に、やっぱりセフィロスはさっさと話を進めている。ではこれで、なんて言いながら早速寸法がどうのだとか、支払いがどうのだとか言っている。店員曰く100年に1度の逸品なわけであるからお値段が相当はることは分かっていたが、しかしルーファウスにとってそんな事はもうどうでも良かった。どうでも良いから意味不明なこの場から脱したいというのが本音だった。 そしてそんなルーファウスの願いが叶ったのは、大体その憂鬱なやりとり30分を終えた後のことだった。
ホクホクとその“素敵な家具の発信地BEST・HOUSE”を後にしたセフィロスとルーファウスは、雷と雨と風の中、さてどこに行こうか、などという話をし始めた。 セフィロスの様子からすると、用事はあくまでオーダーカーテンだったようだが、しかしそれだけで帰るというのはいかにも不服そのものであった。折角来たというのに、ワケの分からんカーテン選びをして終わりだなんて更にワケが分からない。 というわけでルーファウスは先手を打って、 「これからどうする?」 という言葉を投げかけた次第であった。 それだけで終わりだと思っていたのに、セフィロスは意外とその言葉に「うむ」などと20分は考え込み、挙句の果てには 「取り敢えず車へ」 などと言った。 ――――――――――っていうか、自分は車かよ!…と突っ込みたい。 誰かさんが車厳禁というからこの天候の中電車を使ったというのに…酷い。 しかしそれはどうやら、セフィロスが車だからルーファウスは車ではいかんという事だったらしく、何だよそれは、とブツブツ言いながらも結局はセフィロスの車に乗り込んだルーファウスだった。 そしてその先。 ブーンどころかブロロロといかにもヤバそうな音を立てて、メーター振り切り猛スピードの車は、セフィロス曰く快適に夜のミッドガルをカッ飛ん……走った。 それが続くこと数十分、普通なら30分かかるところを10分でつくという快挙を成し遂げて、ある場所に到着する。そこがどこかと言えば、ルーファウスの知らない場所であった。 ひっそり静かな、人家から離れた場所。 そこに一軒の家。 「何だ此処…?」 しかもその家ときたら何だか妙に豪華で、いわば豪邸という感じである。 雷と雨と風の中、その前に降り立ったセフィロスは「ふふふ」と不気味に笑ってルーファウスを見遣った。その笑みはセフィロスにとってはとても優しげで愛情溢れる笑みだったようだが、残念ながら、風で銀髪は揺れしかも雨でその銀髪が顔の側面にべっとりと張り付いていたため、それはルーファウスにとって不気味にしか思えなかった。 まあそれは良いとしても問題は、その笑みを見せられた挙句に、雷と雨と風の中に立たされているというこの事態である。あの豪邸が何なのかは分からないが、入るなら入るでどうにかして欲しいものだ。 が、セフィロスはそこに入ろうとも言わなかった。 それどころか、こんなことを言い出したのだ。 「見よ、ルーファウス。あれが俺達の愛の巣だ」 「―――――――――は?」 「は?、ではない。愛の巣だ。俺は今までこつこつとこの日の為に用意をしてきたのだ。お前と共に在るためにはこれが必要だと思ってな」 …ってことは何だ。 「まさかお前、俺と住もうとかそういう…」 「まさか、ではない。当然だ」 「……」 ―――――――――――これは喜ぶべきところである。 例え雷と雨と風の中であっても、これは喜ぶべき事態。 だってあのセフィロスが、こんなふうに(柄でもなく)頑張っていただなんて。しかもそれというのは勿論ルーファウスを想ってのこと、これは驚きを隠せない。 これぞ愛の証とでも言おうか。 「じゃあセフィロス…此処に、二人で?」 「そうだ。朝は二人でモーニング珈琲を飲み、夜は二人でワインを乾杯するのだ。どうだ、素敵だろう。そんな日々がこれから始まるのだ」 それは確かに願ってもみない日々である。昼は無理としても、一緒に住めば朝晩は一緒にいられる。その上二人きりだから誰にも気兼ねなくベットインなんかもできてしまう。…というかその辺は今までも気兼ね無かったが。 家の外見ときたら最高級、人家から遠い場所で二人きり。 ―――――それは、本当に夢のような話。 ルーファウスは、吹きすさぶ風で髪が飛ばされそうなのを必死に抑えながらもセフィロスに笑いかけた。今日は何だかんだと悲惨な日ではあったが、こうしてセフィロスが日々自分を想ってくれていたことが何だか嬉しかった。しかもこんな豪邸を用意するだなんて、感激である。 「ありがとう」 取り敢えずそう言ってみると、セフィロスは満足そうに「うむ」と笑う。 そして――――――…。 「これで総て揃ったな。オーダーカーテンが最後だったのだ」 そう、言った。 「―――――――――え。」 何。今、何と言った? オーダーカーテンが最後? 最後とは一体どういった意味だ? そうルーファウスが困惑しているとセフィロスは、さも当然そうにこう言った。その言葉はセフィロスにとっては天国な言葉だったが、ルーファウスにとっては地獄でしかない言葉であったのは言うまでもなく。
「この家の為に、今まで家具を揃えてきたのだ」
ヒョオオオオオオオオ…… 吹きすさぶ風が、一層強くなる。ついでに雨も強くなる。しかも雷がピカーッと光り、ゴロゴロゴロ…と音を立てた。 「―――――!!!!!!!!」 あまりの衝撃に驚くのが10秒ほど遅れたルーファウスであったが、その驚きといったらいつもの100倍は凄かった。 嗚呼、何故こんなことに!?…そう思わずにはいられない事態。 何しろ…そう。あの数々の家具は、この家の為にセフィロスがこつこつと揃えてきた家具だったのだ。まさかそんなこととは知らずに今までずっと「妙なプレゼントだな」なんて思いながら収納してきた。そして何ということか今日、その家具たちは真っ黒黒に焦げてしまったのだ。こともあろうにプシューなどと音を立てて、である。 「ああ、そうだ。今までの家具は此処に運び込んでくれ。うむ…楽しみだ」 「………」 極め付けにそう言われてルーファウスは蒼白になった。 自分のせいではない、天災が悪いのだ、そう思ってもやはり焦らずにはいられない。あれらを此処に運ぶ込むといってもこげこげを運ぶわけにもいかないし、本当のことを言うのも躊躇われる。セフィロスが落ち込むことうけあいである。何せオーダーカーテンまで頼む男なのだ。 では今から自腹で買い込むか…そう思ったが、全く同じものを探すとなると大変な作業である。というかもう既に元の柄だとか色も覚えていない。…ヤバイ。 「ではその日まで楽しみにしておくとしようか」 「うっ!…あ、ああ」 ――――――心底気分が沈んだのは言うまでもないことだった。
その後、胃痛に悩まされたルーファウスだったが、ある報告を受けてそれは少しだけ緩和した。というのも、セフィロスが用意したあの豪邸らしき家はどうも“いわくつき”だったらしいのだ。 元々あんな豪邸ならば破格の値がはるものだったが、それを意外とお安い値段で契約したセフィロスは、その家がどうしてそんなにお安いのかを考えやしなかった。 その家に妙な噂のあるのを今更知ったセフィロスは、勿論のこと憤慨し、その契約をさっさと切ったものである。 というわけで、その夢のような話は、本当に夢となってしまったのだった。 それは残念だったが、ある意味では安心だった。 しかしルーファウスがホッとしたのも束の間、セフィロスはまた新たな住居を見つけようと動き出したわけで…だからルーファウスの胃痛は結局続いていた。 しかしあれほどの豪邸の後に納得できるような物件がそうそう見つかるはずもなく。セフィロスはかなり苦戦しているようで、その間だけはルーファウスは安心できるという不思議な図式が成り立っていた。 ああ、あの雷さえなければ。 今ではさっぱりしてしまった中庭を見つめつつ、ルーファウスは嘆息したりする。
そんなわけで、その後暫くルーファウスは“雷恐怖症”になってしまった。 雷が鳴っている日、セフィロスに「会おう」と言われても、 「雷だから嫌だ」 と答えてしまうようになったのは言うまでもない。
END
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