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TENDERNESS --------------------------------------------------
嘘だ。 そんなはずは無い。
ドクン、と鼓動が早くなる。
昨日は優しく笑ってくれたのに。 その前だって、優しくキスをくれたのに。
嘘だ。 そんなはずは無い。
だけど―――――――この現実は何だ…?
優しさなんか絶対にいらないと思ってた。愛情なんか絶対に信じないと思ってた。 それをくれる人もいなかった。 ただ人の群れの中で、生きたまま死んだように日々を送るだけ。それが自分には良く似合ってると思ってた。 けれどそんな中で、嘘のように優しさをくれた人がいたから、馬鹿みたいにそれを信じてしまったんだろう。 絶対に信じないと、そう思ってたのに。 初めて触れた優しさに、馬鹿みたいに酔って、その愛情に縋り付いていたんだろう。 苦しくなるのは自分だと知っていたのに、それすらも見えなかった。 知ってしまった優しさから、離れることもできなかった。 ずっとそこにいたいとさえ思っていた。 馬鹿みたいに縋り付いて――――――。
今の自分は、どんなだろう?
きっと、惨めな姿を晒してるんだろう。
入った報告に、ルーファウスは声が出せなかった。まさかそんな筈はないと思うのに、それはあまりにも生々しい現実として飛び込んでくる。 丁寧に報告書までが作られて提出されるのだから、認めないわけにはいかなかった。 「神羅屋敷に篭り切りになった後に……姿をくらませたらしくて」 動揺を隠せないままに報告をする部下から書類を受け取りながら、ルーファウスは空ろにどこともいえない一点を見つめている。 神羅の英雄セフィロスは、豹変した後に姿をくらませたてしまった。行方はもう既に分からなくなっており、今は総力を挙げて探しているのだという。 何だろう、これは現実だろうか? あまりにも突然で、あまりにも酷くて、とても信じたくない。けれど目前の部下が言うように、それは現実でしかなかった。 「分かった…もう、下がって良い」 たったそれだけを言うと、部下は丁寧に礼をしてその場を去っていく。 視界にそれはしっかり映っていたが、それでも見えてはいなかった。 独りに戻ったその部屋で、ルーファウスはただ呟く。 「嘘だろう…?」 手にしたままの書類は、嘘ではないと証明しているけれど、それでも心が拒絶をする。 だって、昨日は優しく笑ってくれたのに? その前は優しくキスをくれたのに? それさえかき消すように、それは現実だというのだろうか。 急激に苦しくなって、手から力が抜けた。その反動で書類ははらりと落ち、数枚あったせいでそれはゆっくり宙を舞い、その後にバラバラになって床に落ちた。 バラバラになって――――――。 今まで欠けていた心の何かを埋めてくれたその人は、そうしてまた完成しかけたものを一気に崩してしまうのだろうか。 バラバラに、もう元通りにさえできないように。
本当は、いけないと知っていた。 それを信じてはいけないと。 最後はどうせ、誰しもが独りきりだということも知っていた。 どんなにその人を想っても、その人を手にすることなどできない。 近くなりたい、そう思って求める度に、絶対に分かりはしない心の核に突き当たっては遠さを感じる。 所詮、求めても求めても他人でしかない。 それでもその優しさが嬉しくて、そのことすらも忘れていた。 いつか自分から去っていくということすら、忘れていた。 本当はずっと誰かの愛情が欲しかったのかもしれない。 それを隠して、押し込んで、ずっと心を固くして守ってきたのだ。 それでもそれを優しく解く人がいたから…だから。 信じてみたいと、思ったのだろうか。 たった一度でも良いから―――――――人を信じてみたい、と。
ソルジャーのトップが出席するようにされていた会議で、セフィロスはその姿を現しはしなかった。その咎めというわけではなかったが、とにかく一言言ってこいという令が下る。仕方なく向かったのはルーファウスだった。 セフィロスと話をするといっても、一体何を言えば言いのだろうか。会議内容を説明するなら書類の一つですぐ済んでしまうし、セフィロスはきっとそういう事には耳を傾けないだろう。だからこそ来なかったのだろうから。 そう思いながらも向かった先で、やはりルーファウスは悩む結果となってしまった。 セフィロスはそれに出席しなかったことについて別段何も思ってはいないようで、ルーファウスの言う何にも無表情で返すだけだったのだ。 はっきり言って意味など無い。 どうせ誰かが見張っているわけではないのだから、もうそこそこで切り上げよう。そうルーファウスは思っていたが、その内それがそうもいかなくなってしまった。 セフィロスが話を脱線させたからである。 「お前、確かまだ十代なんだろう?」 そんな言葉でそれは始まった。 不躾に一体何だ、と思う。けれどそれに律儀に返していくと、その内セフィロスは真面目な話をし出した。 何故いきなりそんな話をするのかは良く分からなかったが、それでもその内容は痛いほどよく理解できる。 それはルーファウスが常々感じていたことだったからである。 「こんな組織にいても、自分の意味すら分からないまま終わるんだろうな」 そう言ったセフィロスに、 「それが仕事だろう」 そう答える。でも、実際には本当にその通りだと思っていた。しかしそれはいつも感じていながらも押し込んでいた気持ちだったからか、正反対の言葉が口をつく。 「所詮、人は独りだな」 「…お前は…英雄とか言われてるじゃないか…」 何でそんなことを言うんだ、そんな言葉まで続いてしまう。人に羨望と憧れの眼差しで見られているくせに、そんな事を言うなんて信じられない。 それに比べると自分の立場は、会社の中ではかなり高位とはいってもそういった事には無縁だと思う。 どちらかといえば疎まれて、恐れられていくだけだろう。 けれどセフィロスはそれに小さく笑いを漏らした。穏やかな笑いだった。 「“英雄”は他人の評価だ。心はそんなじゃない」 ルーファウスは、何も答えられなかった。
その人はとても強く、英雄と呼ばれていた。 それなのに、いつでも刹那を感じるように、同じようなものを感じていたのだ。 だから、それがとても優しく感じたのだろうか。 絶対誰にも分かってはもらえないだろうと思っていた寂しさだとか切なさを、その人はとても近い感覚で見ていたから。 こんな人がいたんだ、最初は驚いた。 それは徐々に安心に変わって、都合よく自分の心に同化させていく。 きっと、この人ならば、苦しいと思わなくて済む。 そう、思った。 それは自分の心を守る為のものだったはずなのに、いつの間にか形を変えて自分から求めていた。 そうしてはいけないと、心のどこかで思う気持ちまで失くして。
きっと、その人は自分を愛してはいなかったのだろう。 自分が最初に、苦しまなくて済むと思ったように、近い感覚を持つ者として側にいてくれただけなんだろう。 それを勘違いしたのは自分だけだったんだろう。 求めても良いと、縋っても良いと、そう思ってしまったのは。
それでも、嬉しかった。 優しく笑ってくれるのが嬉しかった。 優しく髪を撫でて、キスをしてくれるのが嬉しかった。 だから、 少しだけ、ほんの少しだけ……
愛情を、信じてみても良いと思っていたんだ―――――――。
床に散らばった書類を拾いもせずに、ルーファウスはズルリ、とその場に膝をついて座り込んだ。 もうきっとその人とは、同じように優しい時間を過ごすことはできないだろう。その姿はもう、自分の意思とは関係なしに、標的として見ることしか叶わないだろう。 あの優しさも、馬鹿みたいに縋った愛情も、どこにもありはしないんだろう。 やっぱり独りでしか、ない。 人の群れの中で、誰も振り向きもしない空間で、たった独りで。 優しさなんか信じない。 愛情なんか信じない。 そうやって生きていくんだろう。 元に戻るだけさ――――少しくらい、道が反れただけさ。 そう思いながら、ルーファウスは少し笑った。 ――――――けれど。 床についた手に、力が入る。それから、震える声で呟いた。
どうせこんなふうに気付かされるだけだったならば、こんなふうに失うものだったならば、最初から欲しくなんてなかった。 少しでも信じたいなんて、思いたくなかった。 優しい笑顔も、キスもして欲しくなんてなかった。
「…優しくなんて…しないで欲しかった――――…」
ルーファウスの呟きは、しんと静まった部屋に溶けていった。 それでも届きはしない、相手に向けて。
END
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