Still Blue

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早く大人になれ。

そんなふうに言われ続けて、だから早く大人にならなきゃいけないと思っていた。

大人になるという事がどういう事かは良く分からなかったけれど、とにかく悪あがいてでもならなきゃいけないと思った。

だから、仕事も真面目に取り組んで、大人の振りをしていた。

煙草を吸って、どんな驚くような事にも、さも平気なふりをした。

我侭は一切言わなかった。

そんな人間が側にいれば、子供だなあと言って笑ってまでみせた。

悔しくても泣かなかった。文句一つ言わなかった。

そうやって、大人の振りをしていたんだ。

早く大人になれ。

そう髪を梳いて、貴方が言ったから。

 

 

 

「え…何で?」

驚きの顔を隠せないまま、ルーファウスはそう声を上げた。

「何でも何もない。とにかくそういう事になった」

淡々とそう語る目の前のセフィロスは、何でもないといったふうに見える。多分、本当に何でもない事なんだろう。セフィロスにとって、約束を破る事なんていうのは。

それは、勿論凄く大切な約束ではなかったし、仕事ができればそちらが優先な事は分かっていた。

自分からずっと会うのを制御してきたルーファウスは、久し振りに「二人だけで会いたい」とせがみ、セフィロスはそれに対して「別に構わない」と言っていた。いつもそんなふうだったから、それは勿論OKを表している事は分かっていた。それでも、急遽入ってきたソルジャーの仕事に、セフィロスは難なく首を縦に振ったのである。

「何だ、そんなに会いたかったのか?」

そんなふうに言って笑うセフィロスを見て、ルーファウスは唇を噛み締めた。悔しかった。きっとセフィロスは何とも思ってないのだ、会えなくなった事にも。

ルーファウスはここ最近で身に付けた“それ”を、敢えてそこで披露してやった。

いかにも何でもないというふうに、笑いながら。

「別に。そんな、子供じゃあるまいし。どうって事、ないさ」

「ふうん?そうか、だったら良かった」

そう言ってはみたものの、笑った口は小刻みに震えていた。

どうって事無いのは、自分じゃなくセフィロスの方だというのは良く分かっている。それでもそんなふうに見られたくなかった。子供だから、なんて言葉は言われたくなかった。そんなふうに言われたら、自分はセフィロスから見放されてしまうだろうから。

「じゃあそういう事なんでな。また適当に」

そう言いながら立ち上がったセフィロスは、そのまま立ち去ろうとしてふと足を止めた。それからルーファウスを振り返ると、その側まで戻ってくる。

「物分りが良くなって嬉しいぞ」

そう言いながら軽いキスを頬にしたセフィロスは、今度こそ部屋を出て行った。そのキスは想いをのせたものではなく、まるで挨拶程度のもので、ルーファウスのプライドを更に刺激する。

どうしてそんなふうにあしらわれてしまうのだろう。

嫌だ、悔しい。

とにかくそんな思いがグルグルと旋回していた。

本当に悔しいのは、自分自身の想いの強さだという事さえ気づかずに。

 

 

 

セフィロスが去った後に、ルーファウスは通常の仕事に戻っていた。

相変わらず心の中は葛藤だらけでそれはどうにもならなかったが、自分の立場上、それをズルズル引きずるわけにはいかなかったのだ。表面上だけでも繕わなければ、と思う。

「副社長、これを」

そんなふうに仕事を増やしてくる部下に、ルーファウスは「ああ」と無表情に返しながらもコンピュータのモニタに目を落としていた。

それはとても優秀な機械で、神羅の全社員の動きが把握できるようになっている。勿論、その動き一つ一つを捉えるなどという機能は無かったけれど、スケジュールに関してはほぼ全部が分かる。

モニタの中でソルジャークラス1stの部分を見つけると、何となく躊躇いがちにルーファウスはそこを開いた。その中でもセフィロスは特別に配置されていて、そこを見るには特別なコードが必要とされている。

こんな所まで極秘になるまでか、とルーファウスは嫌な気分になった。ある意味、特別な関係なのに、それなのにルーファウスにはセフィロスという人が把握できないでいる。それは年齢差からくるものだったかもしれないし、それ以外の要因も勿論あるのだろうけれど…。

「…え?」

目に飛び込んだ文字に、ルーファウスは思わず小さく声を漏らした。目前のディスプレイに表示されたセフィロスの予定には、ミッション関連の事項は何一つ記入が無い。それはつまり今日は何一つミッションが無いという事を示していた。

「何で……嘘、ついたのか…?」

無意識にもそんな言葉を漏らしながら、ルーファウスは眉をひそめた。まさかそんなはずは無いと心の中で必死に拒否してみるけれど、どう考えたって事実は変わらない。変更は即時に反映されるようになっているから、そこに表示された文字が嘘とは思えないのだ。

だから、答えは一つだった。

セフィロスは、自分に嘘をついたのだ。

本当に久し振りに自分から「会いたい」と口にしたというのに、その気持ちを蔑ろにして。仕事という仕事も無いというのに。

「…っ…」

唇をかみ締めて、ルーファウスは手荒に電源を落とした。ちゃんとした手順も踏まずにシャットダウンをするのは故障に繋がると分かってはいるけれど、そんな事などどうでも良いと思うくらいに急速に胸が痛む。

何で?

何で嘘なんか吐くんだ?

会いたくなかったから?

疑問ばかりが浮かんで、ルーファウスは机に臥せった。

大体セフィロスはいつもルーファウスを見透かしたような言動をする。それは分かっていたし、今更それに何だかんだと文句をつける気もない。

けれど、本当に久々にこんなふうに自分から口にしたその気持ちまで届いていないかと思うと遣り切れなかった。そんなふうにする裏にどんな気持ちがあるのか、それは今まで何度か考えてみた事はあったけれど、とても信じたくはなかった。

もしかしたら、最初から気持ちなんか届いていないのかもしれない。そんなふうに思ってルーファウスは目を閉じる。

「馬鹿みたいだ…」

思わず言葉が漏れた。

セフィロスが言った言葉が思い出される。優しく微笑みながら、いつだか自分に向けて彼が言った言葉。

“早く大人になれ”

そんなふうに言われたから、だから今まで頑張ってきた。他の誰でもないセフィロスがそう言ったから、だから頑張れたのに。

本当はずっと、仕事のちょっとした合間でさえ会いたいと思っていた。実際それは可能なことだったし、それだけの時間は何回かあったのだ。

それでもそんな些細なことで直ぐに会いたいなどと言うのは、きっとセフィロスのいうところの“子供”でしかないのだろうと思っていた。だから、それを全部切り捨ててきたのだ。

「…も…嫌だ…」

あまりに自分が情けない。

―――――――ちゃんとこっちを見て欲しいのに、それすら叶わなくて。

 

 

 

数週間が経ち、ようやくルーファウスはセフィロスとまともに会う機会ができた。

さすがにその日はセフィロスの断りの言葉などもなく、スムーズといえばスムーズである。

しかし、その日のルーファウスの心の中はそうそう晴れやかとは言えなかった。前回のキャンセルから数週間、その間にルーファウス自身が考えていた事と、ふいに目撃してしまった場面を考えると、そうそう浮かれてもいられない。

何故なら、原因は目前のセフィロスにあったからである。

 

いつものパターンとしてやはり外食をとることになり、通された席に腰を下ろしながらルーファウスは考えていた。

その場は個室で、部屋の中にはセフィロスと二人きりである。メニューは店におまかせでランダムに出てくることになっているから、特別何かに目を通すことも無い。ただ二人きりで、喋りでもしなければ本当に静かな空間だった。

「何を考え込んでいるんだ」

そんなふうに声をかけられて、ルーファウスは慌てるでもなくセフィロスに視線を移す。

「……さあ…」

本当のことを言ってしまっても良かったが、どうにもそれは躊躇われてそんなふうに答える。しかしそれは勿論、セフィロスにとっては答えになどなっていない。

「さあ、は無いだろう。自分の事だろうが」

「別にどうでも良いだろう」

ルーファウスはそう言い放って煙草に手を伸ばした。

どうでもいいはずはない。本当はそうして気にしてくれるのは嬉しいことのはずだった。

だが、それを素直の喜ぶことも、目撃してしまったものを追及することも、ルーファウスにはできなかった。それは性格的な部分の問題でもあるし、例のセフィロスの言葉のせいでもある。いつもそうやって相反する感情が渦巻いていて、それはこの数週間、激増していた。

すっかり慣れた手つきでその嗜好品を口に含むルーファウスを見ながら、セフィロスは無表情でこんなことを言い出す。

「今日はこの後どうするつもりだ」

「え?」

「だから。この後、だ。…部屋は?」

「…取ってない、けど…」

「そうか」

ルーファウスの返答を聞き、セフィロスは自分から聞いたにも関わらず何も考えていないふうに、自分も煙草に手を伸ばした。それを口に含んで一つ煙を吐くと、

「じゃあ今日はこれだけだな」

とだけ言った。

ルーファウスが絶句してしまったのはいうまでもない。

何を言ってるんだ、と思う。

立場もあってか、関係が出来上がってもお互いの家などには出入りしたことが無い。結果的に、外食、それからどこぞの高級ホテルの一室でその後を過ごすのがパターン化していた。それは大概ルーファウスが手配していたものだったが、そんな出来上がったやり方でなくとも、本来は会うことが目的とも言えるのだから、問題は無いはずである。

しかし、セフィロスの発言はそれを拒否していた。

「何…で。何でそんな事言うんだよ」

煙草の先端の灰が長くなっているのさえ、目に入っていない様子でルーファウスは呟く。

セフィロスの言葉はまるで、食欲と性欲さえ満たせばそれだけで終わりとでもいうかのようで、それはルーファウスにとっては信じられないことだった。

ルーファウスの呟きに、セフィロスは追い討ちをかけるように言葉を放つ。

「“何で”?それ以外に目的があるのか?」

「……」

何も言葉が返せないままに、手にした煙草から、長くなりすぎた煙草の灰がポトリと落ちた。

 

その瞬間、ルーファウスの中で何かが音を立てて崩れた。

それはとても大きく、ガラガラと―――。

 

 

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