SOME MORE

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――――――此処はどこだ…?

――――――ああ…

――――――そう…此処は……

 

じっとりとした湿気が身体にまとわりついていた。

周囲を見回すと、どうもそれは何処かの倉庫か何かのように無造作に色々なダンボールやらが置かれている。それにしても、地下なのかジメジメとしていて嫌な感じがする。しかも電気というものが無いらしく、暗い。とはいってもまだ夜目は利くくらいだ。

問題は…何故こんなところにいるのか、という事だろう。

記憶を辿ると、覚えているのは神羅から連れ出されたところまでである。しかもそれは大事な話があるだとか、そういった内容だったはずだ。

騙されたのか。

ふっとそう思って、ルーファウスは苦笑する。自分を呼び出した相手は覚えている。それはあのセフィロスで、確かに話を振られたときはおかしいな、と思っていた。けれどそれに躊躇うことなく付いていった自分がいたその理由は分かっている。

少し…好きだった。

好きというのが正しいのかどうか分からないが、何となく気になる相手ではあった。

いつからそう思うようになったかは思い出せないが、それでも姿を見ると少し緊張したりしていたものだ。馬鹿だなと自分の事を笑いながらも、やはりそれは止められなくて。

たまに話をする機会があると、何だか嬉しくなった。

勿論それは、期待できるような話題でも何でもなかったが、たった数秒でも一緒にいれるのが嬉しかったのには変わりない。

とはいえ、どうせセフィロスはそんなことには気付いていないのだろう。何しろ誰にも情を見せない英雄と噂の人だし、そういうのとは無縁にしか見えない。だからルーファウスもそんな感情を持ちつつも別に特別な期待などはしていなかった。

そう思っていることを打ち明けるつもりもないし、どうなりたいという訳でもない。非常にさっぱりしている。

たったそれだけのことだ。

それはそれとして、この状況は問題がある。副社長の自分が姿を消したとなれば騒ぎになることだろう。しかも真相はどうだ。

セフィロスが監禁、なんてことになったらば、それどころの騒ぎでなくなってしまう。

確かにこの状況は監禁だった。何故ならルーファウスの腕は、後ろ手に縛られているのだ。それは何かロープのようなもので柱に括り付けられていて、とてもじゃないが何かそれなりの道具がない限りは脱することはできそうもない。道具があったとしても、かなり窮屈だし、器用でなければ不可能だろう。

―――――――正に、困った事態。

そうルーファウスが考えに明け暮れていると、ふっと遠くから光が漏れた。その微かな光は数秒で無くなり、その代わりに足音が響く。それはどうやら近付いているようで、段々と大きさを増していった。

―――――――その人物の姿を確認するのに、そう時間はかからない。

だってそれは、予想通りだったのだから。

「…セフィロス」

暗闇の中でそう声に出して言ってみると、すっと影が揺れた。その影はその後に小さくなり、そして暫くしてシュッ、という音が響く。

それと同時に、やはりそこにはあのセフィロスの姿がぼんやりと浮かび上がった。

「元気か」

少し笑ってそんなふうに言う。

「悪いな、こんな物しかないもんでな」

電気が通る場所ではないのか、セフィロスは一本のマッチで、今やどの家庭でも使われなくなったような蝋燭に火を点したのだった。それはそんなに大きな光は生まず、丁度ルーファウスとセフィロスの間だけにぼんやりとした明かりを作っている。

暗闇の中の、たった一つの光。それが、二人を照らす。

「理由は何だ?…話してくれないのか」

やっと対峙して、ルーファウスはそう質問などをした。さすがにすぐに答えは返ってこないだろうとは踏んでいたが、それは本当にその通りだったようで、セフィロスは黙したままで立っている。

「私を此処に監禁する…何か重要な理由があるんだろう?」

「それを知ってどうする」

どうするも何も無い。説得して脱するほか無いのだから。

けれどそんな真っ当な理由を口にしたところで状況が一変するとは思えず、ルーファウスの心はそんな事よりももっと違うことへの答えを欲していた。

とても不思議なことだが、こんな監禁などという許されないことをされても尚、何故かルーファウスは一向にセフィロスを責める気になれなかった。それはやはり妙な感情があるからなのだろうか。良く分からないが、そこに何らかの理由があるというなら、まずはそれを知りたいと思う。それがどういう内容かを。

「私は、お前の考えてることを知りたいんだ」

だから、言葉を少し変えてそう言い直してみた。

脱するに決まっているだろう、などという言葉より余程しっくりくる。

「だから、それを知ってお前はどうするというんだ」

少し冷めた笑いを見せながら、セフィロスはそんなふうに言うと、少し表情を硬くさせた。そして、こう続ける。

「無責任な言葉を吐くな。あの時だってお前は――――――」

「“あの時”……?」

詰まった言葉の先が聞けないまま、ルーファウスは眉を顰める。

あの時、とは一体何のことなのだろうか。無責任な言葉というのが、いつだかの過去にあったのだろうか。そうだとしてもルーファウスには全く覚えが無かった。

「それは一体―――」

「黙れ」

言葉を遮るようにそう強く言ったセフィロスは、座った状態で縛られているルーファウスと同じ目線になるまでしゃがみこむと、その顔を見ながら笑った。

「…とにかく。明日にはお前の命も決まる」

すっと伸ばした手で、ルーファウスの顎をグイ、と持ち上げると、それを下から見遣る。

「今日で―――――お別れだ」

そう言ったセフィロスの顔は、酷く満足そうだった。

 

 

 

ルーファウスとセフィロスが二度目に顔を合わせたのは、同じ日の三時間ほど後の話である。

意味深な言葉を残して去っていったセフィロスの事を考えて、もしかしたらこのまま放置されるのだろうかとも考えていたルーファウスは、とにかくその姿を見てホッとした。

どうされるかは分からずとも、そこに姿が見えるだけで安心できる。ルーファウスの予想通り地下であるこの場所は、一人きりにされれば大きく不安になるだけの要素は備えていたのだ。

話す気になったのだろうか、そう思って少し笑ってみたが、セフィロスは無表情だった。それを見てすっと表情を戻す。

「…やっぱり話してはくれないのか?」

そう言うルーファウスの言葉には何も返さずに、セフィロスはただルーファウスの隣に腰を下ろすと、シュッ、とマッチを擦って、手にしていた煙草に火を点した。

そしてそれを一回大きく吸って煙を吐き出すと、それからやっと口を開く。

「昔話を一つ、しないか」

昔話?、と聞き返したルーファウスに、セフィロスは何も返さなかった。ただ、その昔話とやらの内容を淡々と話し始める。

その昔話は――――――――その名の通り、もうかなり昔の話だった。

それはセフィロスがまだ英雄と呼ばれる前で、ルーファウスが学生時の話である。

「昔…会ったのを覚えているか。あれは神羅のソルジャービル建設時の話だ。お前はまだ何も分かっていなかったようだが」

「…本当に昔の話なんだな」

そう、それは――――ソルジャーという名称が初めて使われ、そしてそれが確立した頃の話だった。

 

 

 

神羅お抱えのソルジャーは、全ての面倒を見る。そんな方針を定めた故に、そのビルは建設された。一般兵舎とは少し違う少し高価な造りで、ソルジャーはその中に作られた施設を自由に利用ができるというものである。それと同時に宿舎も建てられ、それは完全な形を作っていった。

その中でも、セフィロスには特別なものが設けられる。

一つの家と変わらぬ大きさの建物を用意され、じゃあ今日からは此処に住むように、と言われセフィロスはそれに従った。広い割に何もない。外見的には立派でも、その他には何も揃ってはいなかった。それでも生活に不自由しないことには変わりなく、まあそれでも良いか、とそこに住むことになったセフィロスだが、ある日そこに何者かが尋ねてきて酷く驚くことになった。

誰も尋ねてきたりしないのに。

しかしそれは尋ねてきたのではなく、単に迷い込んでしまっただけだったようだ。

セフィロスより少し幼い顔をしているその少年は、何だか困ったような顔をしている。それだから、セフィロスは彼に話しかけ、そして家に招きいれた。どうせ誰もいない家なのだし、と。彼はそのセフィロスの態度に、少し安心したように笑っていた。

その少年は、自分をルーファウスと名乗った。

何でも神羅の周辺を歩いている内に方向が分からなくなったのだとか言う。それを聞きながらセフィロスは首を傾げた。

「お前は神羅の社員なのか?」

まだ10歳やそこらのルーファウスが神羅の社員な訳が無い。

「違うよ。神羅カンパニーはお父さんの勤めてる会社なんだ」

ルーファウスはそう言っただけだった。まさかそれが社長の息子だとは思わず、そうなのか、とセフィロスは頷いたりする。

セフィロスとしては迷子になった彼を神羅に連れて行かなければ、と思っていたがルーファウスの方はセフィロス自体に興味津々だった。何しろセフィロスの家には、15やそこやの子供が持っているはずのない高価そうな剣などがゴロゴロしていて、セフィロス自体もそれらしい雰囲気を持っていたから。

「ねえ、君。ソルジャーなの?」

「ん?」

「だって。剣とかあるし…こんな家に一人で住んでるんでしょう?」

「ああ。まあな」

セフィロスはあまり人と関わることは得意じゃなく、だからそう興味津々に色んな事を聞いてくるルーファウスが何だか煩わしい気がしてならない。

「じゃ、強いんだ?」

「さあ…」

「じゃあ、弱いの?」

「…知るか。そんな事どうでも良いだろう?」

煩いな、そう思って適当にあしらったセフィロスに、ルーファウスは何だかつまらなそうな顔をした。そして、何も言わないセフィロスに、こんな事を言う。

「ソルジャーは強いんだって言ってたから、じゃあ君は弱いんだ。つまらない」

別に力を誇示したいわけじゃないが、さすがにセフィロスも、カチン、と来た。今までセフィロスは賛辞の言葉ばかりを浴びせられてきたし、誰もセフィロスのことを蔑ろにしたり怒ったりすることは無かった。貶されることすらなかった。

何故なら良識のある大人は誰しも、セフィロスの強さを知っていたからである。

しかし、目前のルーファウスはそれすら知らずにそんな言葉を吐いた。恐れもせず、セフィロスの力も知らずに。

しかしそんなセフィロスの心の動きも知らずに、ルーファウスは次なる話題を進めていた。

「もう少ししたら世界を旅するんだ。その時、強いソルジャーを連れていきたいと思ってるんだけど、君は無理だね」

「…お前、馬鹿じゃないか?」

「だって旅に危険は付き物だ。それとも一緒に来る?」

「は?」

「なーんてね。無理だよ、君じゃ。弱い人は嫌いなんだ」

「……」

「一緒に来たかったら、強くなってよ」

何だか話題が全然離れているが、ともかくセフィロスにとっては「弱い」とか「強い」とかそういう言葉だけが気になるものだった。そもそもこの誰とも知らない子供が世界を旅するだとか言う方が馬鹿げた話である。きっと妄想だ、そう思っていた。

しかしそんな会話を遮るべく、その家にはまたも訪問者が現れたのだった。それはルーファウスを探していた神羅社員であったが、その時はそれだからといってルーファウスがどういう存在なのかをセフィロスは思いつくこともなかった。

もう、こんなところにいらっしゃったんですか。駄目じゃないですか。そんなふうに言う神羅社員に手を引かれ、ルーファウスはムッツリする。ルーファウスにとってはこの一方的な会話がとても楽しくて、それが終わるのが何だかつまらなかったのだ。

しかしセフィロスがそれを止めることも無かった。

強引に手を引かれ連れていかれるルーファウスをじっと見ながらセフィロスは黙っていたが、ルーファウスの方は違っていた。

「強くなったら教えて!」

何故だか必死にそう言って、ルーファウスは去っていく。

同じくらいの歳の人間と話せたのが楽しかったのか、その時のルーファウスは何だか悲しそうな顔をしていた。

 

 

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