SONG FOR US
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いとしいうた
いとしい人へ、この歌よ届け。
デートのお決まりコースの中、必ず耳にする曲がある。それはルーファウスがいつもかける曲で、どこかに行く車の中でも必ずその曲はかけられていた。 何故その曲をかけるのか、それほどお気に入りなのか、いつかそうセフィロスは聞いたものである。しかしそれに対するルーファウスの回答は、静かな笑みでしかなかった。 だからセフィロスは未だに分からない、その曲がルーファウスにとってどういったものなのかを。ルーファウスもまた、それを言うことは無かった。
いつものお決まりデートコース。 これは人目を忍ぶ為にこっそりとなされる為、大体時刻は夜だった。 人々が寝静まった静かな夜に、どちらかが車を出して、ドライブから食事に…という流れ。時々は一緒に朝を迎えることもあったが、それはごく稀だった。何しろ二人はそれぞれ忙しい身で、いくら同じ社内の人間とはいっても所属も配置も随分と違う。 故に、過ごす時間はとてつもなく短い。 その短い時間の中では、お決まりコース意外に特にこれといったことをするというのはほぼ無きに等しい。 だから大体は話をしている。 それでもセフィロスが結構に無口なため、この話というのも、一般に比べればかなり少ない方だと思われる。それでもルーファウスは、それに満足できていた。 そして今日という日も、それと全く同様であった。 つまりお決まりコースであるドライブ&食事をし、その合い間に話をするという…その流れ。その流れは今日も健在で、しかもその合い間になされる会話というのもいつもと同様それほど弾むものでないというのに、それでもルーファウスは満足していたわけである。 今日の運転当番はセフィロス。 だからルーファウスは助手席で例の音楽を聞きながら非常に満足だった。 「これからどうする?」 とりあえず車を走らせているものの、食事も終わったし、いつものコースだと後は帰るのみである。 隣でリズムなどを刻んでいるルーファウスをチラリと見てそう言ったセフィロスは、フロントガラスの向こうに視線を戻してルーファウスの回答を待った。 そして暫くするとその回答が返ってくる。 「そうだな、今日は……もう少し一緒にいたいな」 「そうか。じゃあ…」 その回答が耳に入った瞬間、セフィロスは進路変更をする。何となく走っていただけのものが、目的を見つけてスピードも上がる。 夜の道はすいていて、快適に目的地まで二人を運ぶ。 そうして何分か走った後に車が停まったのは、あるビルの前だった。 そのビルはとても高く、それでもビジネス風ではなかった。一見豪華そうに見えるものの、それはビルの高さがそう見せるのであって、実際はそうでもない。変に飾りつけもされていないし、入り口に妙な高級車が待機していることもない。 このビルが何かといえば、いわゆるホテルの類であることには間違いない。けれど俗的なブティックホテルでもなければビジネスホテルのような寝場所でもないし、かといってVIP御用達の高級ホテルというふうでもなかった。つまりそのどれにも属さない中堅ホテルというふうだろうか。 二人にとってこのホテルは、思い出の場所でもある。それと同時に良く使用する場所でもあった。セフィロスやルーファウスが個々にこのホテルを使用するというのはあまり無く、もし個人的に利用するならば大体が高級なホテルになる。しかし二人が合わさると一転してこの中堅ホテルに来る―――――――それはやはり、此処に思い出があるからだろうし、“いつものこと”になっていたからだろう。 だから今日も異議一つなくそのホテルに車は停まった。
ルームキーを貰って部屋に入ると、その部屋は簡素だった。部屋の外見的にはまあビジネスホテルにプラスアルファをした感じだろうか。少しくらいは飾り立てがあるが、それは気にならない程度。後はテーブルとシャワールームとセミダブルベットが一つ。それから不思議と蓄音機などがある。 ルーファウスが部屋に入ってまずすることといえば、この蓄音機から音楽を流すことだった。それはもう毎回のことだからセフィロスも気にしていない。けれどやや気になることといえば、そこから流れる音楽はやはりいつもの曲だということだろうか。 よほどこだわりでもあるのか、セフィロスにとってはそんな感覚である。 車の中でも、ホテルの中でも、いつでも同じ曲が流れているからもう既に慣れているし、更にいえばもう記憶してしまったという始末である。 その曲が流れる室内で、ルーファウスは満足そうに上着を脱ぎ払った。それから丸テーブルを囲むように二人で椅子に腰を下ろす。 窓は少し大きめだから夜の街が見えたが、ホテルの立地上それほど良い景色ではない。光があるといってもそれは、随分と遠くの小さな光くらいでほぼ闇と一緒だった。 静かな空間に浸透する曲。 暫しの間、言葉は無かった。ただその曲の中で過ごしているというだけで。 それでもどれくらいか経った後、隣のルーファウスを見遣ってセフィロスが口を開いた。 「静かだな」 その言葉は、この空間に対して言ったものではない。ルーファウスに対して言った言葉である。それが分かってルーファウスは、「そうかな」と返す。 「お前は俺といると饒舌になる」 「それはお前の口が閉まってるからだろ」 「……」 自分から話を振っておいて、ルーファウスの言葉に返す言葉を失ったセフィロスは、少し「むっ」という顔をする。それを見てルーファウスは勝ったというように笑った。 そんな軽い会話の間にも、曲は二人を取り巻き流れている。 「そうだな、じゃあ俺が話題提供しようかな」 気を取り直して、というふうにいつもの調子でルーファウスが口を開くと、やっとセフィロスはほっとしたような表情になった。といってもそれはごくごく僅かな動きで、大体は他人に読み取られることがないというほどのものだったが。 「“片想い”―――――したことは?」 「?…俺が誰かに片想いをした経験があるかどうかということか?」 セフィロスが聞き返すと、ルーファウスは一つ頷く。 今までこうして色々話というものは積み重ねてきたものだが、恋愛話というのはあまりしていない。それでもルーファウスの方からは何度かあったが、セフィロスについては全くといっていいほどそういう話題が無かった。というかセフィロス自体そういう話題になるとだんまりを決め込むところがあったので発展しなかったと言っても良い。 それをルーファウスは、敢えてこの静かな空間で始めた。 セフィロスは少しの間考えるふうに黙っていたが、覚悟を決めたのかどうか、とにかくちゃんとした答えを口にした。 「“ある”、な」 「――――――それは、最後まで片想いだったか?」 「いや…仕掛けてしまえば終わってしまう」 「お前ならそうだろうな」 淡々としていて感情などあまり入っていない調子だったが、セフィロスはそのように答えていく。それを聞きながらルーファウスは苦笑せずにはいられなかった。 “仕掛けてしまえば終わってしまう”、それがどういう意味かは良く分かる。 このセフィロスが誰かに恋心を抱くということ自体あまり考えられないことだが、それでもやはりそういう事はあるらしい。ルーファウスが「最後まで片想いだったか」と聞いたのは、その恋心が破れることがあったかどうかという事であり、率直に言えばそれは、実らない恋があったかどうかという事だった。 けれどセフィロスの答えは「ない」である。 つまりセフィロスが自身の想いに忠実に何らかのアクションをすれば、その恋心は成就してしまうということなのである。例えその相手に恋人がいようともそれは同じことで、セフィロスがアクションを起こせばその相手はセフィロスに靡いてしまう。だから恋が破れることはまずない。駆け引きなどしなくても、すぐに手に入ってしまうのである。 しかしそれを直に言うのも気がひけて、セフィロスはそんなふうに回りくどい言い方をした。セフィロス自身はそういった事実に傲慢な態度を見せることもないし、それを鼻にかけようとも思っていない。ただ、過去に聞いたルーファウスの恋愛からすれば、そういった事実は憎らしいものでしかないから。 ―――――――ルーファウスは、それとは正反対である。 本気かどうかという部分を除けば浮ついた気持ちなどは数知れないものだが、そのどれに関してもルーファウスはいまいち全てを手に入れるということが無かった。しかしそれがあまりにも普通になってしまったため、手に入れたいという欲求すら低下してしまった気がする。 それでもそれを覆すように存在しているのが、今、であった。 絶対に欲しい、という感情をもたらしてくれた――――――相手。 「セフィロス。ずっと思ってたけど…俺は謝らなくちゃいけないかな。今こうしてること」 静かなルーファウスの声が部屋に響く。 それはいつもの雰囲気とは違っていた。 「…一体“誰”に謝りを入れるというんだ」 セフィロスはルーファウスの言わんとしていることが分かり、「何に」ではなく「誰に」などと聞く。 「相手に…いや、二人に、かな」 「何故そう弱気になるんだ」 「弱気なつもりはない。ないけど、俺がしたことは多分…世の中では悪いことだろうから。でも俺には分からないんだ。俺は俺の気持ちのままにそうして、だから今があるって思う。そして俺はそれに満足してる。それでもそういう満足が誰かを傷つけたんだ。お前はどう思ってる?」 「……」 ルーファウスの告白にセフィロスは答えなかった。どう思うかと問われているのに答えなかった。というより直ぐに答えるにはその質問は重すぎたのだろう。 しかし、セフィロスが答えない間にもルーファウスの質問は増えていく。 「俺と付き合う前、お前は満足してたのか?」 「……」 それにもやはり答えは無い。 容易に――――――――答えられない。
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