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Re : deem ----------------------------
足りない―――――――…… 何かが、足りない。 この手には。
「―――――――…長……」 視線は一点に集中していた。しかし、それを見ているわけではなく、ただ目は空ろである。 だから、多少のざわめきのあるその場所でさえ、空気は静かに流れているような感覚があった。 「社長!」 二度目にそう強く言われ、ルーファウスはやっと顔を上げた。 ああ、そうだ――――そんなふうに思って溜息をつく。 今は会議中だったのだ。それも、現状を考えるとかなり重要な会議である。 それというのも元はといえばセフィロスが原因だった。というより、その人の背景にある約束の地といわれるその場所のせいともいおうか。 神羅全体としては、そこに無限にあるといわれる魔晄の力を摂取するのが目的だったが、それは一種仮想的なものでもあり、現実は霞の中といった感じである。それを掴むためにまずはセフィロスを捉える必要がある――――――そういった話の展開ではあったが、それ自体がまず困難を極めていた。 だが、今ある現実はそれより重い。 「社長、しっかりして下さい。こんな大事な時期なのですから」 誰かが言ったその言葉に、ルーファウスは一瞥を送る。 「そんな事は分かっている」 ルーファウスはその場に揃う面々に一通りの視線を送ると、苛々とした調子で立ち上がった。それは、もう既にこの場での話し合いは無意味だと、そう判断してのことである。 この会議と銘打たれた話し合いは、もう何時間か続いていたが一向に話の方向は纏まりを見せないでいた。本来なら社長であるルーファウスの言葉が鶴の一声となるべきところだったが、その肝心のルーファウス自体がまず口を重くしていたため、どうも話は四方八方に飛んでいたのだ。とはいえ、ルーファウスが無言かといえばそうでもなかった。 彼は彼なりの意見を述べてはいたが、それはいつもの口調とは少し違っていたのである。いつもならば余裕さえ見せて物を言うルーファウスが、今日この場では何故か威厳を見せぬ物言いをしていたのには、勿論理由があった。 しかし、そうさせたものを誰も知ることなどなかったのである。 だからこそ、そうしてルーファウスが苛々した調子で立ち上がったのを、誰しもが理解できなかった。こんな重要な会議だというのに、と。 「さっき話したことは覚えているだろうな。その通り、やれるだけのことをするつもりだ。…これ以上の御喋りは労力の無駄でしかない」 すっとそう言い放つと、その場はしんと静まった。その中で、凛としたルーファウスの声が続いて響く。 「悪いが――――――私はこれで失礼する」 今や権力の象徴であるその人の言葉に、誰も反論などはしなかった。 ただ、その場には妙な空気だけが沈殿していた。
指令室とは別に作られた社長室。その奥の方にもう一つだけ、あるスペースが設けられていた。これはいわゆる仮眠室のようなものだったが、その規模といったら半端ではない。 家の中の一部屋と同じように作られたそこで大き目のソファに身を委ねたルーファウスは、息をつきながら天井を見上げた。 一人きりの場所では、誰の眼も気にすることなく息ができる。その息の理由を勘ぐられなくて済むのは、本当に楽なことだろう。 「冷えるな…」 丁度ソファの後ろにある窓が、少しばかり開いているのに気付き、それを静かに閉める。それからまた座り直すと、やはり溜息をついた。 あの会議中に思っていたことは―――――ただ、一つ。 力。 言葉にしてしまえば何と陳腐だろうと思うが、それが最も必要なのである。 神羅の武器は何だろうか、そう考えて出てくる答えは、時代を反映した機械仕掛けの道具。勿論その時代というものを作り上げたのも神羅である。それはそれで良いことではあったが、そんな表面上の力が本当に“強さ”なのだろうか、そう思うと疑問が旋回したのだ。 例えば、今の標的であるセフィロス……その男は、力を有している。 それは神羅のように、普通の人間が強い武器を手にするのとは違う。 つまりセフィロスは根本的に“強い力”を持った人間なのだ。 いくら神羅が大企業であり、莫大な財や武器を持っているといっても、そこには根本的な違いがあるといえる。それを考えると、今繰り広げられている現実がひどく馬鹿らしいもののように感じてならない。 勿論―――そんな事を始めから考えていた訳ではないが。 「力が…足りない」 ゆっくりと目を閉じたルーファウスは、その瞼の裏である事を思い出していた。 それは、過去の一部だったが今でも鮮明に覚えている。一時期は忘れそうになった事ではあったがそれが今になって忘れられない過去になったのは、正にセフィロスという存在に理由があった。 ―――――その男と、出会った時。 そんな時期が勿論あった。それは今は遠く昔の話だが、それでももう物の分別ができるようになっていた頃の話で、セフィロスは英雄であり、ルーファウスは副社長を目前にしていた頃である。
神羅には自由に出入りができるようになっていた。 顔はもう既に社内に浸透していて、ルーファウスに向けられる視線の大半は、次期社長としての視線であった。実年齢のままに彼が扱われることはまず無かったといって良い。 それはルーファウス自身も良く把握していた。何しろそんな環境の中で育ったのだ。それ以外を望まれても多分、その方が余程苦しかっただろう。 とにかくその状況は、確固たる自信をルーファウスに与えるのに十分なものだったのである。 だから、思っていた。 自分はいつかこの企業を掌握する。自分が鍵になるのだと。 しかしそういったものにしか目がいかなかったルーファウスも、将来自分が握るであろう神羅が抱える英雄の姿を見た時には、何か引っかかるものを感じたのだ。 その英雄は、そんな代名詞を付けられてはいても結局は組織の一部に過ぎない。つまりは部下で、図からいえばルーファウスにとって相当下の位置にいる人物だった。だから、適わないはずが無い。権力で押さえつけることも、操ることも容易なはずである。 しかし、そうであるはずのセフィロスを見たとき、何故だかそれが崩れたような気がしたのだ。 セフィロスには権力などでは封じ得ない何か特別な力があったから。 それが何かという事よりもまず、セフィロスは自信を持った男で、それが先に目についた。そういう自信の点からいえばルーファウスも負けず劣らずといった具合ではあったが、さすがに年齢や実績の違いはある。 何度か見かけることはあったし、目が合うこともあったが、ルーファウスはセフィロスに話しかけはしなかった。すれ違っても、同じ部屋の中にいたとしても。軽い口を叩き合う、そんな人間像はルーファウスの中では存在していなかったから。 しかし、それがふと崩れた日があったのだ。 それは本当に何でもないことで、ただ同じ廊下をすれ違ったというだけの話だった。廊下の向こうにセフィロスの姿が見えたとき、いつものように素知らぬ振りをして通り過ぎようと思っていたルーファウスだったが、何ということかセフィロスの方から声がかけられたのである。 「…ルーファウスか」 名を呼ばれて、ピクリ、と反応する。けれどその次の瞬間に覚えたのは、嫌悪感だった。初めて言葉をかけられて、その第一声がそれか、そう思ったから。性格からして読み取れてはいたが、突如として呼び捨てとはさすが恐れを知らないだけある。とはいえ、実際に力量の差は見えていたが。 無言で振り返ったルーファウスに、セフィロスは笑っていた。それはルーファウスにとっては嫌な笑いでしかない。だからか、つい反応する顔が険しくなる。 「父親に似ず、綺麗な顔で良かったな」 そう言われ、ひどく腹が立った。けれど言葉を切り返す間は無かった。 セフィロスは瞬時にルーファウスの腕を取ると、その手に力を込め、顔を近付け、ゆっくりとこう言う。 「お前は次期社長だそうだな。――――――…一つ、賭けをしないか?」 「…何の話だ」 簡単なことだ、そう言ってセフィロスはルーファウスの瞳を覗き込んだ。セフィロスの瞳には、ルーファウスの険しい顔が映し出されている。 「どちらが先に世界を滅ぼすか、賭けをしよう」 何を言っているんだ―――――そう思って目を見開く。けれどセフィロスはもう笑いはしなかった。もしかしたら正気ではないのだろうかとも思ったが、それを口にするのは余分なことでしかない。ルーファウスの中でそれは“軽口”になってしまうのだから。 だから、黙っていた。 それを見ながら、セフィロスはゆっくりと手を離すと、もう一度確かめるように同じ言葉を繰り返す。 「これは最大級の賭けだ、ルーファウス」 ―――――――何を言いたいのか、ルーファウスには良く理解できなかった。
何でもない話だと思う。思うけれど、あまりにも意味が分かりかねるし、意味深な言葉だった。大体、世界を滅ぼすために社長職に就くわけではない。何を思ってセフィロスがそう言ったのか…それは今でも分からないと思う。 ただ、印象的だったのだ。その言葉が。 今セフィロスは神羅にはいない。それどころか標的ともいえる。実際の敵とは言い難いが、セフィロスを利用する上でその本体が後々邪魔になるというのなら、それはやはりセフィロス自身が敵とも言えるだろう。 それはプレジデント神羅が求めたもので、それを自分も引き継いで求めているのだと思う。そうしてその約束の場所とやらを見つけ、神羅を発展させることの裏にある利益は、かといってルーファウス個人に何かを与えるものではなかった。 そうする前に――――――まず足りないではないか。 神羅としての、基本的な力が。
少しうとうとしていたらしく、気付いたときには二時間ほどの時間が過ぎていた。 ああ、眠ってしまったか、そんなことを思って時計を見る。もうさすがに会議は終わっていそうな時間だし、それどころか帰ってしまったかもしれない。少し様子を窺ってから帰ろうかと立ち上がると、何だか立ち眩みがした。 思わずよろめく。 しかし何故かそれを支えるものがあった。 「?」 腰の辺りに―――――――妙な感覚がある。 何だろうかと思ってふと腰周りに視線をやって、思わずルーファウスは息を詰まらせた。 「な、っ…!」 ―――――――手。 手がある。 誰もいないはずの部屋の中で、自分の腰辺りに手が巻きついているのだ。一瞬ゾクリと全身が震えたが、よく見るとその手は後ろの方に続いている。 はっとして振り向こうとしたが、それは出来なかった。そうしようとした瞬間に耳元で何か響いたからだ。それはノイズ混じりのようにも聞こえた。 しかし暫くするとそれははっきりとした声へと変わっていく。 その声は―――――呼んでいたのだ、名前を。 「――――――ルーファウス」 やがてそうはっきり聞こえると、ルーファウスはやっと自覚した。その声は前にも聞いたことがある。少し嫌な響きだと思っていたあの声だ。 その人を知っている。 それは、探していた男のものだろう。 やがて、振り向くこともできないままに、ルーファウスは正面を見据えたままその名前を口にした。 「セフィロス…」 それははっきり言えばおかしいことだった。探していた男が、自ら現れたのだから。そこでもしその男を捕らえることができたなら、この先の作業は簡単だったろうが、何故かそれはできなかった。そんなふうに頭が回らなかったのだ。ただ、今そこに突然現れた男に驚くしか、できなかったのである。
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