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QUIZ MANIA -----------------------------------------------
ルーファウス御用達の某店は、日中から白熱灯特有の良いムードを漂わせていた。 店内は席ごとに仕切りがあり、いかにもカップル専用という感じである。しかも椅子は縦長で、横に並んで座れるという用意周到さであった。 基本的には誰でも利用できる店なのに、やたらとラブラブな雰囲気の二人連れが入ってくるのはそのせいだったろう。 その中でも少し高価な席をいつもチャージしていたルーファウスは、そこにセフィロスとやってくるのが結構に好きだった。とはいえ、良いムードになるかと思いきやそうそう、そうなる事は無かった。あまりにお互いの我が強すぎて、ついつい言い合いになることが多かったからである。 その日もルーファウスは少し機嫌が悪く、少しイラ付きながらその店にやってきた。 しかも、理由はセフィロスというわけではない。 「ああ、もうっ!これ、どう思うっ?」 いかにもムカムカしたような顔で薄っぺらい雑誌を放り投げたルーファウスは、目前のセフィロスに向かってそう叫んだ。 「何だ、何怒ってる?」 何が何だか分からん、などと呟きながら、セフィロスはルーファウスが投げた雑誌をさっと拾い上げる。 「ん?」 その雑誌のタイトルは“QUIZ:MANIA”。それを見た瞬間に、セフィロスは何だか嫌な予感がした。…まさか、これが原因で機嫌が悪いとでも言うのだろうか。 まさかそんな単純な、とは思ったが、それは正に大的中をしたのだった。ルーファウスはかなりイラ付いた顔つきでページ数を告げると、後はテーブルに肘を付いてしかめっ面をする。 分からないながらもとにかくそのページを開いたセフィロスは、それを見てから、今度はルーファウスの方を見遣った。 「…で?」 はっきり言って、そのページを見てもセフィロスには何が何だか訳が分からなかったのである。 ルーファウスはブスリとしたまま、 「此処。此処、分からない!」 と、ある部分を指差してそれだけを言った。思わずセフィロスが呆気にとられたのは言うまでも無い。 「…お前まさかそれが理由で怒ってんのか?」 「当然だろ!分からないもんは分からないんだから仕方無いって思うけど、分からないなんて許せないじゃないか!何で俺が分からないんだ!」 「えー…っと。そう言われてもそれはだな…」 かなり混乱気味にお怒りのルーファウスに、何と答えて良いか思わず考え込んでしまう。それはお前が分からないのがいけないんだろう、と当然のことをサクッと口にしたら、ルーファウスが更に不機嫌になるのは目に見えている。 こうしていつも何だかんだと良いムードと無縁な状態が続くと、何だか此処に来ている意味が良く分からなくなってくると思うのは自分だけだろうか、とセフィロスは思わず心の中で首を傾げた。 しかし何はともあれルーファウスは、かなりどうでも良さそうなそのクイズが気になって仕方無いらしい。それを解かないからには、どうにもこうにも先には進まなそうである。 「良し、分かった。俺が解いてやる」 意を決したセフィロスは、かなりどうでも良かったが、良いムードの為に敢えてそう高らかに宣言をしたのであった。
しかし此処からが問題だった。大問題だった。 何せその問題ときたら、なぞなぞ形式になっているのだ。なぞなぞなんぞ、ちょちょいのちょいでなんぞにもなろうぞ…と駄洒落のような文句を述べている場合ではない。 何故ってセフィロスはなぞなぞという庶民的且つ単純な遊びなど生まれてこのかたやったことがなかったのだ。幼い頃からやってきた遊びといえば、迂闊にマテリアを使ってみるとか、ついつい公共施設を正宗で切ってみるとか、どれをとっても高度なものばかりである。ってかソレは遊びなのか!?というツッコミは効かない。 だからセフィロスは、その初めてお眼にかかるなぞなぞなるものにすっかり頭を混乱させていた。 「“点を付けると途端に凍ってしまうものは何でしょう”…??点…点か…点点…」 「その答えは水だ。水に点を付けると氷という字になる」 「おお、なるほど!」 ―――――教えてもらっていては元も子もない。 ルーファウスはそんな調子のセフィロスを見遣りながら、本当に大丈夫なのかと訝しげな表情になった。どう考えてもルーファウスの方が答えが分かる気がする。 しかしそんなルーファウスもやはりどこか変だったらしい。こんな事を言い始める。 「そもそもその作者がおかしいんだ。点を付けると途端に凍ってしまうだなんて…そんなバカな問題の出し方があるか?だったら正々堂々と、摂氏何度で凍ってどうのとかそういう問題にした方が…」 ―――――それはなぞなぞじゃなくて単なる理科の問題です、とは誰も言ってくれない。 というか、どこの世界に正々堂々としたなぞなぞなどあるのだろうか…疑問である。 「まあそこは良いんだ。そこは重要じゃない。問題は此処だって」 ルーファウスは憎き問題を指でピシッと指し示すと、此処だけ解けば問題ないんだ、と言った。そう、ルーファウスが解けなかった問題はただの一つであり、そこさえ分かれば最後の答えが分かるようになっている。だから、最後の答えに対してさして重要じゃない箇所は最初から手をつけていないのだ。 セフィロスはその問題の箇所をじっと睨むと、そのまま「うーん」などと唸り出した。
問題:この世に共通している唯一のものは何でしょう?
ルーファウスを悩ませた大問題はこれである。 「この世に共通しているもの…?」 セフィロスは首を傾げる。ルーファウスも横で首を傾げる。 「命か?」 「バカ、そんなマトモなことを考えてクイズが解けるか!」 「そうか…」 折角の案だったというのにすっかりとルーファウスに否定されてしまったものだから、セフィロスは次の案を考えねばならなかった。 命でないとすると、それは――――――…。 あれよこれよと考えた挙句、セフィロスは第二案を提唱。 「…それは、愛だ」 「――――――――は?」 しかしてそれは、ルーファウスの呆気に取られた一言だけをゲットするに至った。 愛――――――――何とも嘘臭い…いやいや、美しい言葉ではないか。 セフィロスは自分で言っておきながら自分のその回答に思わず痺れたものである。まさかこの世に「愛だけは共通だ」なんて言える人があろうか。これは正しく愛があるからこそ言える言葉である。 ルーファウスに呆気なく否定されるも、何だかその響きにうっとりしたセフィロスは、突如のようにしてその雑誌をパタンと閉めた。まだ答えも出てないというのにである。 そうしてルーファウスに向き直ると、 「そう、愛なのだ」 とワケの分からないことを口走った。そう言われた方のルーファウスはパニックである。先ほど「だったら俺が解いてやる」と豪語したのは何処の誰だったろうか。 「ルーファウス、俺は常々思っていたのだ」 「な、何だよ」 「真昼間からこんなムードの良い店に来ておきながら俺達には少々欠けているものがあるような気がしないか?」 「はあ?」 「いや、気がしないかではなくて、正にそうなのだ。欠けているのだ。それはそう……愛だ」 「―――――」 あんぐりと口を開けたルーファウスは、最早言葉を発することもできなかった。とりあえず思ったことは、セフィロスはとうとう気がふれたらしい、と言うことである。あのセフィロスが愛を講釈し始めただなんて絶対におかしい。というか、おかしい以外の何者でもない。 しかし、すっかり愛に目覚めたセフィロスの方は、こともあろうにルーファウスの手をしかと握り締めると、ずいっと30センチほど近寄ってきた。そのせいで今や二人の距離は「至近距離」と言われるものとなっている。 「この際言っておこう…そう、愛に免じて」 免じるところか否か、甚だ疑問であることは言うまでもなく。 「ルーファウス、欠けている愛とはお前からの愛だ。お前には愛が足りないのだ。こんな店に俺を連れ込み、イタズラにやる気にさせておきながらも愛を出し惜しみとは、これは酷いと思わないか?」 「はあ…まあ…」 その「やる気」とはどういう類のやる気なのだか非常に気になったが、あえてルーファウスはそこを聞かなかった。何故ってどうせ今聞いても「愛だ」とか何とか言われて終わるのが関の山である。 どうせだったら、このなぞなぞに対してやる気になって欲しいもんだとルーファウスは思う。 「俺は思うのだ。毎回毎回、此処にくるたびに思う…回りのカップル軍団があれほどいちゃついているのに関わらず何故俺達はそうならないのだ?」 言い換えれば、何故そうなれないのだ、という具合。それは毎回セフィロスが思っていたことで、こんな機会だから口にしているようなものの、実は切実な気持ちだった。 しかしルーファウスは、手をがっしりと握られたままで首を傾げると、 「なりたいのか?」 と、さも不思議そうに聞いてくる。 そんな具合だったのでセフィロスは、それが出し惜しみなのだ!と少々憤慨しつつも答えた。一見マトモな怒りに見えるこれは、実のところ、そうしたいのにさせてもらえないという悲しい男の願望の現われである。良く考えると結構寂しい…というか、かなり寂しい…。 「ふうん…そうか。つまり、いちゃつきたいわけだ」 「下賎な!俺はただ、良いムードになりたいだけだ」 同じだろ、とルーファウスがツッコミを入れるのに対し、セフィロスは頑なに「違う」と言い張る。この攻防戦はクイズマニア雑誌を横に20分ほど続いたが、全く持って勝敗が決まらなかったので段々とうやむやになって終わった。 しかしともかくのところ、セフィロスとしてはこんなクイズを解いてる場合ではなく、はっきり言えばこんな会話をしている場合でもなかったのである。こういう雰囲気の場に二人だけで来るというからにはやはりそれなりのムードを保ちたい。そしてその線で会話だって進めたい。大体この店以外の場所でさえそうそう色気なんぞ無いのだから、せめて神羅の蛍光灯の下じゃない此処くらいは無礼講として欲しいわけである。 しかしそんなセフィロスの切実な気持ちはルーファウスには伝わらなかったらしい。 「それは無理だな」 残念ながら、愛は未だに出し惜しみなのだった。
数日後、またもや同じ店に訪れたルーファウスは、すっきりとした顔をしていた。 何故なら例のクイズの答えが解けたからである。 それは最後までルーファウスにはわからず、結局ルーファウスはセフィロス以外の人にもそれを聞いて解決したという次第。だからセフィロスの有りがたい愛講釈なんていうものはもう既に意味がなくなっていた。 勿論、答えは愛などではない。 なぞなぞにそんな正当な答えは無かったのである。 「おい、いつまでいじけてるんだ」 すっきりとしたルーファウスの隣でセフィロスは未だに落ち込みムード満点だった。二人での良いムードを望んでいたセフィロスの方がこの調子なのだからどうしようもない。 しかしよくよく考えてみると、セフィロスがあのクイズを解こうと豪語した理由は、クイズなんぞに怒っていたルーファウスをさっさと普通の状態に戻すためだったはずである。 それから考えるとこの日は、最初からルーファウスもすっきりしていたわけだからセフィロスとしては喜ぶべきところだったはずなのだが、何せ落ち込みムード満点なものだからセフィロスはそんな事に気付いてはいなかった。 もう既に、クイズが解けなかった、という方が大きいのである。 「いじけているわけではない。落ち込んでいるのだ」 「一緒だろ?」 「違う!俺はお前の為にクイズを解こうとしたんだぞ。それが解けないとはどういうコトだ!許せん!」 そう言って今度は憤慨し始めるセフィロスは、解けないクイズに憤慨していた時のルーファウスとそっくりだった。 結局、どっか似てるわけである。 「そういうのを単純って言うんだ。そんなのどうでも良いだろ、もう解けたんだし」 「バカモノ!どうでも良いはずがないだろう!そもそも単純とは何だ、お前こそあのクイズに散々イライラしていたくせに」 「そりゃ解けない問題はムカつくに決まってんだろ」 「ふん、でも結局お前が解いたわけじゃないんだろう?ってことはお前も大したこと無いじゃないか」 「何だと!俺をバカにしたな!」 「ふん、ばーかばーか」 「む、むかつく〜っ!!!このバカ英雄!!」 「バカ副社長に言われたくないな」 いつもだったら多少は冷静なセフィロスだったが、何でかその日は妙にハッスルしていた。というわけだから、救いようの無い言い合いが勃発する。 まあこの店の良いムードの中で単純なことで言い合いになるのは二人の常でもあったのでこれは珍しいことではない。ただ悲しいのは、結局いつもと一緒か、と言うことである。 折角の良いムードの店、横並びの椅子なのに、これでは全くもって意味などない。 クイズマニアを一緒に覗き込んでいたときの方が幾分かマトモだったのは言うまでもないだろう。 「あ〜もう良い!今日は帰る!」 今日はすっきりしていて、いつもよりマトモなムードだったルーファウスだが、結局最後にはそんなことを言ってプイ、とそっぽを向いた。それからバタッと立ち上がると、 「じゃあな!」 と捨て台詞を吐く。 「勝手にしろ」 すっかりお怒りだったセフィロスは、はいどうぞと言わんばかりに手をシッシッと振ってルーファウスを追い払うのだった。
そんなこんなで折角の二人の時間がすっかり台無し、それどころかルーファウスも退場してしまって酷い有様となったその場には、セフィロスだけが残された。 喧々囂々なのはいつものこととはいえ、ルーファウスが一人で帰ってしまうというのはなかなか珍しい。本当なら此処で、言いすぎたか、などと反省らしきものをするセフィロスだったろうが、その日はすっかりお怒りだったのでそういうふうにもならなかった。 ルーファウスがいないのだからもう既にこの店にいる意味は無い。 しかしだからといって直ぐに帰るとなると、ばったりとルーファウスと会うことにもなりかねない。それはちょっと嫌だ。 だからセフィロスは、店なんだから何かを注文してみるか、と店員を呼びつけた。 因みに此処の店員は二人のことを良く知っている。 何せ此処はルーファウス御用達の店で、二人は随分と好待遇を受けていたし、こうして喧々囂々に叫びあってもお咎め無しなのはひとえにそのお陰でもあろう。店員はいつも見て見ぬ振りをしてくれる素敵な人々なのである。 その店員がセフィロスに呼ばれてテーブルにやってくると、何でしょうか、と笑顔で対応してくる。 「何か注文をしたい」 セフィロスがそう一言言うと、店員は「かしこまりました」とメニューを持ってきた。 が、そのメニューを受け取ろうとすると、どういう訳だかその店員はメニューをニュッと隠してしまったのだ。しかも笑顔で。 セフィロスがムッとしたのは言うまでもない。 「恐れ多くもセフィロス様。セフィロス様には専用メニューがございます」 「なに、専用メニュー?」 そんなのは初めて聞いた。 そう思ってそれはいかなるもんかとセフィロスが首を傾げていると、何ということか店員は小さな紙切れを差し出してくる。その大きさは5センチ×5センチくらいの大きさでとてもメニューとは思えない。 セフィロスがそれを手にし首を傾げている隣で、店員は笑顔で「ルーファウス様からセフィロス様への特別メニューです」などと言うと、注文も聞かずに去っていった。 ―――――――ルーファウスからの特別メニュー?? 「何だそれは?」 セフィロスはブツブツ言いながらその紙切れをそっと開く。 すると。 「――――――何だと!!!??」 そう…そこには、こうあった。 “クイズ” 「またクイズか!!!!」 そのおかげでこんな酷い有様になったというのに、とセフィロスは憤慨する。しかしそれでもそのクイズとやらを見てみると、それはこんなものだった。
問題:俺がこの世で一番大切なものは何でしょう? ルーファウス
「あいつの大切なもの…??」 セフィロスはその紙をじっと見詰めながら考え込む。どうせだったらその答えは自分であって欲しいなあなどと思ってしまうのは少々傲慢だろうか。 しかしあのルーファウスのこと、まさかそんなふうには言わないだろう。とすると、この世で一番大切なものとは一体何であろうか。 これは正に、この世で一番難しいクイズである。 「おい、店員!」 セフィロスは徐に店員を呼ぶと、やってきた店員にこんなことを言った。 このメニューは少々難しい、だからヒントは無いのか、と。 店員はビックリしたものだが、少し考えてからこんなふうにヒントをくれる。 「ええと…それは。もうセフィロス様はご存知のものです。今だってその中にいます」 その中にいる。 それは、最大のヒントだったようだ。
その後もセフィロスとルーファウスはその店に良く通った。 その店はルーファウス御用達の店で、とても良いムードの店だったが、相変わらず二人はその場で良いムードに恵まれることはない。相変わらず喧々囂々なのである。 けれど、それでも良かった。 何故って、そここそがセフィロス専用メニューの答え…ルーファウスがこの世で一番大切なものだったから。
喧々囂々でも、そこに一緒にいられれば、それは大切な場所なのである。
END
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