POSITION

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食事に行く時、いつも決まった場所に腰を下ろす。

VIP優遇されるいつもの店では、必ずいつも同じ場所に案内される。

それは店の奥の広い個室で、大きな窓からミッドガル全景が見え、白熱灯の明かりでムードが満点の席だった。そこには丸い大きなテーブルがあって、それに沿って椅子が四つ並んでいる。一つの空き椅子、相手、また空き椅子、自分、そんなふうに座るのがいつものことで、それは長らく崩されることがなかった。

それなのに、その日、どういうわけかそれらは崩れ去った。

久々に食事に来て見ると店の奥の広い個室は埋まっていて、大衆と同じオープンスペースに通される。その席には椅子が二つしかなくて、選択肢もないまま、相手、自分、というふうに腰をかけることになった。

白熱灯だけは同じ様子だったが、それにしたって周囲は誰かの話し声でいっぱいである。いつもなら静かに景色を眺められるのに。

その“いつも通りでない”事が、ルーファウスにはどうにも耐え切れなかった。

 

 

 

神羅には英雄と称される男がいる。

これはもう周知の事実で、その銀髪長身の男は誰から見ても憧れるような、ほぼ完璧といえるものを備えた人間だった。

その男と付き合いだしたのは二ヶ月ほど前だっただろうか。

以前は鼻持ちならないと思っていたが話してみると結構に真面目で、どこか説明しづらい雰囲気を帯びている。その説明しづらい雰囲気というのがルーファウスの共感できるところで、普通だったら気にもならない僅かな部分にその男は気づく事ができる。といってもそれは、優しさというよりかは最初から備わっていた彼にとっての当然の事柄というふうで、ルーファウスはセフィロスのそんなところが何となく好きだった。

そういう曖昧な始まりから二ヶ月。

さして頻繁に会うわけではないが、食事をする店はいつも決まっていて、そこでは既に常連というふうに思われているらしい。それはそれで喜ばしいことだったかもしれないが、ルーファウスの中には一つだけ問題点があった。

それは、位置、である。

その常連化した店は、ルーファウスにとっては初めての店だったのだが、セフィロスにとってはそうではなかった。つまりセフィロスの方は、以前からその店に通っていたということである。セフィロスの言葉によると、昔からその店には良く一人で足を運んでいた、らしい。

それを告白されたのは、一ヶ月前のことだった。

別段大きな告白というわけでもないし、他愛もないことなのだが、ルーファウスはそれを聞いて以降、その店に足を運ぶのが少しだけ憂鬱になっている。

今までセフィロス一人だけが過ごしていた場所に、今は自分が共にいるという事。

その事実が、大した事でもないのに違和感を運んでくる。

そういうわけでその店自体に少しばかりの憂鬱を抱えるようになったわけだが、先日などは更に悪いことにいつもと違う席に案内をされ、その憂鬱はますますルーファウスを苦しめたものだ。いつもと違う席は、当然違和感がある。気が晴れない。

そういうちょっとした食事の合間にさえも違和感やら憂鬱やらを引っさげていたルーファウスは、セフィロスとの関係自体にも少しばかりの憂鬱を抱え込むことになった。セフィロスと行動している間のさまざまなことに逐一憂鬱を感じているのだから、最後にはそうなるのも当然かもしれない。

だからなのだろうか、最近ルーファウスが落ち着ける一番の場所は自宅のソファの上だけになってしまった。

此処にはセフィロスがやってこないから、一番落ち着ける。

いつものようにクラシックミュージックをかけながらソファに落ち着いたルーファウスは、その日も、やっと安堵できたといわんばかりにべったりと背をつけた。そうして暫くゆったりとした気分になると、ようやく自分らしく行動できるような気がして最近お気に入りのハーブティなどを淹れにいく。熱い湯で注いだそれを飲むと、本当にゆっくりした気分になれる。

「…なんでこんな憂鬱な気持ちになるんだ」

ハーブティを手に、ルーファウスは天井を仰ぎながらポツリと呟いた。

帰宅する前、少しばかりセフィロスと話していたのだが、その時でさえ憂鬱になった事をふっと思い出す。あの時セフィロスの機嫌は上々で、自分の気分もさして悪くなどなかった。それにも関わらず話していくうちに段々と欝な気分になっていき、帰る時にはすっかり意気消沈気味だったものである。

要するに、セフィロスと一緒にいると憂鬱になっていくのだ。

恋人という立場であるにもかかわらず、それは肥大し悪化していくのである。

それは事実だから認めないわけにはいかなかったが、それにしても何故そんなふうになってしまうのだかルーファウスには良く分からなかった。例えばセフィロスを嫌いだとしたらそれは当然だろうが、そういうわけではない。恋人である以上、当然彼のことは好きなのだ。しかし、だったら何故かという事が疑問になる。それでもその理由は依然分からない。

「…やっぱり無理なのか」

微かに揺れるハーブティの表面に映る自分は、どこか寂しげな表情をしていた。

セフィロスの事が好きなのは確実なことなのに、それでもあんなふうに憂鬱な気分になってしまう。そういう事が続いていくと、さすがにルーファウスも考えざるを得ない。

一緒にいるべきではないのだろうか、と。

セフィロスの口からは何も聞いたことがなかったが、恐らくあれほど毎回憂鬱に陥っているとなれば、セフィロスも薄々感づいてはいることだろう。いや、ルーファウスの共感したセフィロスの自然体からすれば、ほぼ間違いなく彼はそれに気づいているはずなのだ。

それに気づいていたとしたら、当然セフィロスとて疑問に思うに違いない。

何故そんな憂鬱そうなのか、と。

そんなふうにお互いが疑問を感じているとしたらば、この関係は良いものとは言えないだろう。いくら好きだといったって、その証拠としてはいささか疑問が浮かぶ態度である。そうなると、自然と想起されるのが「別れ」というものだった。

「別れ…る、か…」

呟いて、ルーファウスは目を閉じる。

先ほどまで映っていた天井はサッと姿を消し、目の中は途端に真っ暗な世界になってしまう。それはまるで、別れという言葉の向こう側にある世界みたいだ。

だけれどルーファウスは、その暗い世界の中でじっくりと考える。

このままで良いのか、それとも―――――別れるべきなのか。

もし別れたとして果たしてこの憂鬱は解消されるのだろうか、それは分からない。しかしともかくセフィロスにとっての疑問は晴れるに違いない、何せその根源が隣から消えるのだから。しかし好きであるのに別れるということは、また別の憂鬱を運んでくる可能性が高く、恐らくその憂鬱の方が何倍も強力であるに違いなかった。

それを思うと、どうして良いか分からなくなる。

こんなにも憂鬱になってしまう自分を、どうしたら良いのか。

「…?」

そんな思いに耽っていると、ふと、何かの振動音が響いた。

それはどうやら放り出したままの上着から鳴り響いているらしく、その音の調子からしても携帯電話のようである。

それに気づいたルーファウスは、取り敢えず立ち上がってその携帯電話を取り出した。そうしてディスプレイを見やると、そこに表示されていた名前に思わず眉を顰める。

表示されていた名前は、セフィロスだった。

「……」

ルーファウスは自分の気持ちを確かめるように目を瞑ると、大丈夫だと確信がもてた後にその携帯電話の通話ボタンに指を伸ばす。その間結構に時間がかかったように思うが、携帯は依然鳴り続けており、その時ばかりはその長さに感謝すべきだなという気がした。何しろ普通だったらとっくに切れているだろう時間だったから。

電話の向こうから響いてきたのは正にセフィロスの声で、セフィロスは待たされた時間など何とでもないというふうに普通の調子で話しかけてくる。

『ルーファウスか。話したいことがあるんだが、今は大丈夫か』

大丈夫だ、そう答えると、セフィロスはワンクッションも置かずに話を続けた。

その話とはいつだったか話していた外出の話で、ルーファウスにとっては多少憂いを齎すような内容である。

何でも、セフィロスにはずっと気に入っている場所があるのだとかいう。それで、今度そこに一緒に行かないか、というわけだ。

それはある意味嬉しい誘いだったが、例の店のことを踏まえると、セフィロスのお気に入りの場所に自分がまた踏み込んでしまうのは何だか更に苦痛のような気がしてならない。とはいえ、嫌だ、というふうに拒否をするのもどうかと思う。

だからルーファウスは取り敢えずそれを楽しみにしているというような態度で臨んでいたのだが、どうやらその話はとうとう実現化するらしい。

『予定がなければ明日でどうだ。遠い場所でもない、すぐに着く』

「明日…か」

『どうした?何か用事があるのか?』

そう問われ、ルーファウスは「いいや」と答えた。実際に用事などはない。

しかし明日というのは正に直ぐやってきてしまう。それまでの間に、あの憂鬱を撃退することはいかにも不可能のように思える。

『都合が悪ければ別の日でも良いんだが』

「いや、大丈夫だ。明日にしよう」

結局そう言ったルーファウスは、自分がそんなことを快く承諾した事に、内心ため息をついていた。自分で自分に呆れてしまう。きっと明日にはまたあの憂鬱が襲ってきて、自分は駄目になってしまうに違いないのに。

しかしそれでも、セフィロスがそれを少しばかり嬉しく思ってくれているらしいことには満足があった。セフィロスは「楽しみだな」などという言葉を、いつもより若干高い響きの声で言ってくる。

だからルーファウスは、自然と答えを返していた。

私も楽しみだ、と。

その後セフィロスの口から出てきたのは、明日の詳しい時間のことなどだった。仕事は通常通りあるから、大体どのくらいの時間にどこで待ち合わせようとか、そういう話である。それから、どういうふうに行くかとか、そんな話も少しした。

そうして一通り明日の予定が決まると、セフィロスは最後に少しばかりの沈黙をする。電話を切るでもなく沈黙をするセフィロスにルーファウスは思わず不審を感じたものだが、何てことはない、それは恋人特有の自然体だったらしい。

セフィロスは言った。沈黙を破って。

『本当ならば…今すぐに会いたい』

――――――――“会いたい”。

その言葉は、ルーファウスにとってこの上ないほどの嬉しい言葉だった。がしかし同時に、この上ないほど悲しい言葉でもあった。

会いたい、その気持ちが嬉しい。勿論自分だって直ぐにも会いたい。

しかし実際に会ったなら、絶対にあの憂鬱が自分を襲ってくるのだ。それはほぼ間違いないと分かっているから、だから悲しい。

それに―――――――…この電話がかかってくる前まで、何を考えていた?

それは、紛れもなく“別れ”だったはずだ。

『じゃあ明日…またな』

「ああ」

ルーファウスは見えもしないのに頷くと、最後に「おやすみ」と言ってその電話を切る。携帯電話は何食わぬ顔をしてルーファウスの手の中に納まっており、それはまるでセフィロスとの関係が終わったかのように静かな感じがした。

何となく、重苦しい。

暫くその場を動けないでいたルーファウスは、かかっていたクラシックミュージックが途切れたことを契機に、やっと携帯電話を手放した。そうしてもう一度クラシックミュージックをかけなおすと、再度ゆっくりソファにべったりと背をつける。

飲みかけのハーブティは、すっかり冷め切ってしまっていた。

けれどもそれは、ルーファウスに大きな安心感を与えた。

 

 

 

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