パンプディング

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どうも気になる。気になって仕方無い。

悶々としながらルーファウスはそう思っていた。

父親からどっさりと仕事を押し付けられ、それが毎日増える一方な今日この頃――――――はっきり言ってうんざりしていたりする。

その間、父親はというと、やれ接待だとかやれゴルフだとかぬかしては、どこかに疾風の如く消えていた。

そんな時ルーファウスは、何でこんな人の元に生まれたんだろうと自分の運命を呪わずにいられなかった。

そんな訳でやはりその日もどっさり仕事を抱えながらマジギレ寸前のルーファウスだったが、どうもそれより気になるのである。

「おい、早くしないか」

しらっとそう言ってのける目前の人物―――――。しかも人の部屋に勝手に入り込んだ上、茶まで要求し、さらには茶柱が立ってないなどと、およそどうでも良いことで不機嫌になる、その人。最近ではすっかり代名詞で呼ばれているセフィロスである。

「…あのなっ!俺はお前を呼んだつもりは無い!」

机の上にデンと脚まで乗っけている英雄を睨み付けながら、ルーファウスは怒り爆発気味で叫んだ。

勿論その間も仕事の手は休めない。

「何だ、会いたくなかったのか?」

「うっ……」

英雄はあくまでも強気である。

「俺が折角、任務をザックスに押し付け…いや、任せた上で、お前のエサ…いや、お前の為に好物の“パンプディングカスタード添え”まで買ってきてやったというのに」

またもやシラッとそう言うと、英雄はこともあろうか好物の“パンプディングカスタード添え”をルーファウスの前でさもウマそうに食べようとした。

「あああーっっ!!!!」

思わず仕事の手を止めて絶叫するルーファウスに、英雄、至極ご満悦のご様子。

悪魔のような微笑を見せつつ、こんなことを言う始末である。

「仕事なんかゴミ箱にでも捨てておけ」

その言葉にルーファウスは、

「おや、ゴミ箱を漁る奴がいるから無理だ」

と、ごく真面目に答えた。これは冗談ではなく事実で、たまにルーファウスの部屋のゴミ箱は漁られていた。最初は気味悪がって人に相談などしてみたものの、どうにも解決せず、その内慣れてしまった次第である。

今や日課レベルだ。

まあそれは置いておいて、とルーファウスはセフィロスをチラリ、と見た。

「お前、何で此処にいるんだ。俺は本当、呼んでないし、約束とかもしてないぞ」

「いや、したな」

「はあ?」

ルーファウスには全く覚えが無かった。が、セフィロスはニヤニヤしてこう続ける。

「俺の夢の中で」

「知るか、そんなのーっ!!!」

そう叫ぶ裏では、夢の中に自分が登場した事に少し感動しているルーファウスであった。何せセフィロスは、ルーファウスより1枚どころか5枚くらい上手だった。だから、自分がセフィロスに対して思うことの全ては、見透かされているような気がするし、それに対しての切り返しは全て遊びのような気もする。

つまりは、本心が良く分からないのだ。

その割には、ちょくちょく訪ねてくる英雄に、ルーファウスは完全にペースを乱されっぱなしであった。

「おい、とにかく早く終わらせろ。今日は出かける」

「は!?っていうか勝手に決めるな」

「だってお前が言ったんだぞ。今日は出かける、と。―――――夢の中で」

「だから知るか、そんなものっ!!!」

一体どんな夢なんだ、とルーファウスは突っ込みたい気分だった。

しかし二人で出かけるのも悪くない。何せ、どう考えてもこの二人はおかしな組み合わせだったし、だからこそ、そういう事も控えてきたのだ。というか、仕事をごっそり押し付けられてソレどころではなかったというのもあるが、それは悔しいので敢えて除外しておく。

「出かけたくないのか?」

不敵な笑みすら見せる英雄に、ルーファウスは不貞腐れる。それから、どこに行くつもりかを聞いてみた。

しかし…。

「秘密だ」

―――――――ルーファウスはあんぐり口を開けるしかなかった。

 

 

 

結局、数分の間にキリの良いところまで仕事を片付けると、ルーファウスは外出の支度を整えた。

それから忘れてならないのが、英雄から“パンプティングカスタード添え”を取り上げ、腹に収めることである。

それはホクホクと終え、さてじゃあ出かけようという事になったが、セフィロスに連れられてやって来た場所がこれまた不可解だった。

その建物を目の前にして、ルーファウスはこの世の終わりじゃないかというほど眉を顰めたものである。

何故ってそこは――――――――――あまりに見慣れている。

というか、それどころじゃない。

「…何で俺の家??」

それは紛れもなくルーファウス宅であった。珍しく一緒に出かけるというものだから、少しくらい期待しつつ仕事を放棄してきたというのに、これいかにといった具合である。

「お前が言ったんじゃないか」

そんなことを言うセフィロスに、ルーファウスは溜息混じりに返した。

「夢の中で?」

「そうだ」

「……」

何なんだその夢は!と怒鳴りたいルーファウスだったが、そこをグッと抑えると、渋々自宅へと入っていった。

何だか良く分からないまま自宅まで戻り、さて何をしようといっても全く良い案も思いつかない。そもそもセフィロスの夢が原因でこうなったのだから、ここから先も宜しくと言いたいところである。

「で、俺は夢の中でこっから何した?」

ほぼ諦めムードでそう言うと、セフィロスは

「さあ」

などと無責任な言葉を吐いた。思わず「は?」と聞き返したルーファウスである。しかしどうやらセフィロスの夢ナビゲーションは此処までらしい。此処から先は良く分からないのだという。

更に呆れてルーファウスは溜息をついた。

じゃあ何をしようという具合である。何をする感じでもないし、とにかく部屋の中でできることなんか思いつかない。

あるのは―――――…そう思って部屋の中を見回す。ぐるりと見回して目に入ったのは、何ということか…。

「うっ…」

―――――――――ベット?

いや、それはいくら何でもイケナイだろう。何せまだ真昼間だ。

だからそれはまず却下として…他に何があるだろう。考えても考えても巡るものはない。セフィロスはどう思っているのだろうと考えて、ふとそちらを見てみると、何故かセフィロスはニヤリ、と笑っていた。

何だか嫌な感じである。

「…何だよ」

何だか嫌だな、そう思って少し不機嫌そうにそう言ってみると、セフィロスはあろうことかベットの方をチラリと見てこう言った。

「変な事、考えたろ」

「は!?」

「嫌らしい奴」

「なっ!お前な…っ!」

微妙に図星でついつい焦ってしまう。しかし焦っていたのも束の間、少しするとセフィロスはごく真面目な顔つきになると、突然ルーファウスの腕をギュッと掴みこんだ。ぐっと引き寄せられたルーファウスは体勢を崩して、セフィロスへと倒れこむ。やや強引に抱き寄せられ、それを振り払うことも思いつかず、ルーファウスは広い胸の中で口を噤んだ。

無言の中で数分そのまま――――――――少しくらい鼓動が早くなっても仕方無いと思う。頭に先ほどやりかけのまま放置してきた書類などが浮かんだが、それを振り払ってルーファウスは目を瞑った。

たまには良いじゃないか―――――――そう思って。

しかし少しするとセフィロスは小声でこんなふうに呟いた。しかもそれは少し、衝撃的な言葉でもある。

「―――――――見られてるぞ」

言葉の意味を理解してからルーファウスはギョッとして身を起こした。そして周囲を見回すと、小声でセフィロスに返答する。

「見られてるって…どういう…」

意味が分からない。セキュリティ万全のこの家に誰かが入り込んだとでもいうのだろうか。というより問題は見られているこの状況のほうだろう。恋愛沙汰を知られた上、その相手が…。

しかしそんな状況だというのに何故かセフィロスは突然――――――。

「ばっ!何…っ!」

強引にルーファウスに口付けると、そのままの勢いで後ろに押し倒す。勿論抵抗したルーファウスだが、それは強い力の前に水の泡と化していた。

「やめ…っ!見られてるって…おい!」

「大人しくしろ」

何が何だか分からない内にボタンを外されると、お構いナシに肌に指が通り始めた。さっき嫌らしいだとか言ったくせにその態度は何だと思ったが、それを言って手を止めるようなセフィロスではない。見られているという言葉も何だったのか分からないまま、ルーファウスは混乱するしかなかった。

もう良いか―――――――そう諦めが入って、ルーファウスが目を閉じた頃、ふっと状況は変化した。

ゴトッ

そんな音が響いたのである。

その音と同時にセフィロスの手の動きはすっと止まり、それからルーファウスは身を強張らせた。

誰か――――――いるのか?

見られているといった、さっきの言葉は嘘ではないということだろうか。

だとしたら、それは…。

「しっ!」

そう言ってセフィロスはルーファウスの口を塞いだ。それから周囲を注意深く見回すと…。

―――――――どうやら何か妙な声が聞こえ始めた。それはいかにも妙な…。

「おおいおいおい〜っ!」

泣き声だった。

思わずきょとんとしてしまったルーファウスは、ついセフィロスの顔など眺めてしまう。しかし当のセフィロスは無表情だった。そんな状況の中でその妙な泣き声は続き、そしてその声はやがて言葉混じりになる。そうした瞬間にルーファウスの顔色は顕著に変わっていく。

何しろその声には聞き覚えがあるのだから。

「可愛い嫁さんがあ〜…ううっ…」

――――――――呆然とは正にこの事だろう。

嫁さんとは何だ。しかも可愛いとは。

ルーファウスから身をすっと離したセフィロスは、その声の在り処を突き止めた上で、その場所の前にでんと構えた。

はっきり言ってその声の主について、セフィロスもある程度…というか、ほぼ予測がついていた。

「―――――出てきたらどうだ、社長…」

ゆっくりそう言った後、セフィロスの目前にかの有名な神羅の社長が出てきたのは言うまでもない。

侵入者は父親!―――――この事実にルーファウスは口をぱくぱくさせる。何が悲しくて、父親に監視などされなくてはならないのか。というか、どういう神経をしているんだ、一体?…ルーファウスの頭上には疑問符が10個以上点滅していた。

 

 

 

父親の言い分はそうだった。

「可愛い嫁さんが来るのかと思って、見てみたかっただけだあ!」

しかしその“可愛い嫁さん説”がどこから降って沸いたのか全く分からない。しかし話していくうちにそれは判明した。しかもそれは実に単純なものであった。

「…って事は。俺のメールを勝手に覗いて!付き合ってる奴がいるらしい…と?それが可愛い嫁さんって訳か!」

呆れ返ったルーファウスがそう言うと、プレジデントは泣く泣く「だって」などと言い訳をした。

「お前が冷たいから、せめて嫁さんと仲良く…」

「ってその前に人のメールを勝手に覗くなっ!」

ルーファウスに叫ばれて、プレジデントは、わーん、と鳴き声を上げる。この人、余程寂しかったらしい。

とにかくプレジデントはルーファウスの恋人に非常に期待しており、一目でもその可愛い恋人…将来の嫁さんを見てみたかった。

が、しかし。しかしである。

ようやく辿り着いた先に見た姿といえば、髪は長いとはいっても、可愛くも何ともない“男”だったのだ。胸も無ければ余計なものまで付いている。微笑まれてもプレジデントにとってはちっとも嬉しくない。エプロン姿で、“お父様、仲良くして下さいねっ”なんていう事も一切ない。というか、あったら怖い。あんまりどころか、ちっとも見たくない。包丁なんかで可愛く“きゃっ”と怪我でもしようものなら「可愛いなあ」で済むものの、この男ときたら正宗で魚を微塵切りにしてしまうことだろう。せめて3枚おろしくらいにしておいて欲しい。

そんな訳でプレジデントは非常にショックだったのだ。この“可愛くない嫁(?)さん”が。

「こんな嫁さん、嫌だあ〜!!!」

お〜いおいおいぃぃ〜と泣くプレジデントに、二人は顔を見合わせた。そして同時に首を傾げる。

そこで、はっとあることを思い出したルーファウスは、プレジデントに恐る恐るこんな事を聞いた。

「もしかして会社のゴミ箱…漁ってたのって…」

「あ、ワシ」

バキィッ

――――――――――部屋には、鈍い音とプレジデントの鳴き声とルーファウスの毛細血管が切れる音と、セフィロスの溜息が響いていた。

 

 

 

結局エスケープデートも曖昧になってしまうと、ルーファウスは大きな溜息を吐いた。折角の時間もまるで台無し。これではもう雰囲気も何もあったものではない。

結果的にプレジデントは相当ガッカリして帰っていったが、何も疑問は持たなかったらしく、そこだけは有難かったといえるだろう…。

その後に二人だけ部屋に残った訳だが、あまりにも真っ白で何もする気が起きなかった。

とにもかくにも、これで公認の…仲ということになったようなならないような…微妙だが、バレた事には変わりない。

「結局、俺の夢はこれを予知していたんだな」

そう言って一つ頷いたセフィロスに、ルーファウスは「そうかあ!?」と言って溜息を吐く。

「まあ良いだろう。社長もこれ以上、落ち込むことは無いだろう?」

「まあ…そうかも」

ふっと笑いを漏らしたセフィロスは、ゆっくりルーファウスの肩を抱くと、額に口付けをする。

それから唐突にこう言い出した。

「ということは…俺はアレか。例の言葉を言うべきか?」

「例の言葉?」

そう聞き返すと、さも当然のようにこんな言葉が返る。

「息子さんを下さい、とか何とか…」

「ぶっ!!」

「無理と言われても無理だがな…」

そんなことを言おうものならプレジデントは微塵切りにされてしまう。いや、三枚おろしか。

少し呆れ笑いをした後に、ルーファウスは「じゃあ」と言った。

「ご挨拶には“パンプディングカスタード添え”、よろしく」

 

 

 

END

 

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