Morale

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最近、兵士たちの気が弛んでいる。

そう漏らしたのは誰だったか、ともかくそんな言葉がプレジデント神羅の耳に入ったその直後、セフィロスにある一つの連絡がやってきた。

それは、率直に言ってこんな内容である。

“どうにか志気を高めてくれ”。

「…と言われてもな」

その唐突な連絡にセフィロスがそう思ったのは言うまでもない。

何せ今の時期は特別緊張するような事態も無いし、志気を高めるといったって高めるべき士気などどこにあろうかといった具合だ。それはハッキリ言ってしまえばセフィロスも兵士達と同じ気持ちなわけで、何故に自分がそんな面倒なことをせねばならないのかという感じだった。

そもそもどうやったら志気など高まるのか―――――。

「一体何で俺に…」

そんなふうに半ば呆れを感じながらも困惑してしまったセフィロスだったが、そんな彼に答えを与えるが如く二回目の連絡はやってきた。…それは答えというよりもむしろ命令に近かったが。

 

 

 

「模範演技?」

「ああ、そうだ」

無音の静かな部屋に響いたのは二つの声。

その声の主は、ルーファウスとセフィロスだった。

二人は小奇麗なマンションの一室を貸しきってその空間を得ており、それは二人にこうして隔絶された時間を与えてくれている。もうそこそここういった事を続けているから、最早これが家といっても過言ではなかったが、本来の家ではないだけに帰ってきたり帰ってこなかったりという状態だから扱いとしては少々難しい。ただ、最低限の生活はできるくらいに家具などは揃えられている。

その日、久々にこの“マンション”にやってきた二人は、ある話題について話し合っていた。いや、話し合っていたというよりもそれはセフィロスからの報告といった方が正しいかもしれない。

ともかくそのセフィロスの報告から派生した会話が、その空間には流れていた。

「まあアレだ、それほど難しいものじゃない。身の交わし方だとか連携攻撃の際の動き方だとか…そんなもんだな」

淡々とセフィロスがそう語るのは、模範演技というものについて。

ではこの模範演技というのが何処から出てきたかというと、それはある鶴の一声からであった。そう、何を隠そうプレジデント神羅その人である。

プレジデント神羅は、最近兵士たちの気が緩んでいるという事実をどこかで小耳に挟んだらしく、ある日唐突にセフィロスに連絡を取り付けてきた。その内容というのは、兵士達の志気を高めてくれ、というもの。

当初セフィロスは、そういわれたもののどうやって志気を高めれば良いのかが良く分からなかった。その上、何故自分にそういう話が来たのかも分からないといった具合で、これは実にセフィロスを困惑させたものである。

しかしそんなセフィロスの元に二度目の連絡が入り、その二度目の連絡では、プレジデント神羅から提案の姿をした一つの命令が下された。

それが―――…。

「模範演技で志気を高める、か…」

まあそんな方法が無いとも限らないが、そんなことを思いながらもルーファウスは、思わず溜息をついた。

父親であるプレジデント神羅の命令は、模範演技を見せること。たったそれだけ。

確かに悪いとは言えないが、しかしかといって良い方法かというとそうでもないと思う。そもそも模範演技なんて見せられたところで、どうして兵士の志気が上がるというのだろうか。大体兵士の大方は、もう既にそんなものは自分のスキルとして手におさめてしまっているというのに。

全く、何を考えているのだろうか―――――そうルーファウスが思うのも仕方が無い。

「お前も良くそんな命令に従う気になったな」

半ば呆れながらにそう言うと、そう言われたセフィロスは少し不機嫌そうにこう切り返す。

「従いたくもないが、仕方無いだろう?一応は社長命令ということになるからな。それに…」

「それに?」

「いや、何でもない」

セフィロスは言いかけの言葉を飲み込むと、その言葉を無かったことにするかのように別の言葉を口にした。ルーファウスはそのセフィロスの態度に少し不機嫌になりながらも、特別な追求はせずに次なる言葉への切り返しをしたりする。

そんな調子で少々不機嫌にその話題は進んでいたが、二人にとってその会話が不機嫌の理由になる一番の要因とは、実は全く別の場所にあった。

確かにその方法は良いとは思えないし、はっきり言ってしまえば失敗でしかないだろうと思う。しかし実際その模範演技をするしないなどというのはどうでも良いことだった。

問題は、その模範演技の日程である。

その模範演技というのは勿論のこと兵士達の前で披露するわけだから、その兵士達の日程とも合わせなくてはならない。しかし兵士たちというのは比較的タイムスケジュールが密である。といってセフィロスのスケジュールが密ではないというわけではないが、彼の場合はまだ融通が利くところがある。それというのは、セフィロスに与えられる任務の殆どはセフィロスの働きやヤル気如何でどうとでも時間の変更が聞くからだった。

例えば一日で組んでいる任務であっても、セフィロスがその気になってスッパリと終わらせてしまえば半日で済んでしまう。

だから結果的にセフィロスの方が、兵士達のスケジュールに合わせることになる。

例えセフィロスの立場の方が断然上であっても、だ。

そんな訳でその日程は兵士達のスケジュールに合わせて組まれたわけだが、何という事かその日はある重要な任務が重なっていたのである。その重要な任務というのはもうかなり前から決まっていた任務で、セフィロスにとっては絶対に遂行しなければならない任務だった。それだというのに、どうやらその重要な任務を蹴らねばならなくなってしまったらしい。

それは、二人にとっては大問題だった。

「はあ…あんなに苦労したのに」

いかにもといった調子でそう溜息を吐いたルーファウスは、隣にいるセフィロスをなじるように、指折り何かを数え出す。

「まず第一に任務の捏造だろう?第二にスケジュール調整、第三に更新手続き。言っておくが私の休みなんかは親父と言い合いになったくらいなんだぞ。それなのに…」

それだけ苦労したのにこの始末…いかにも報われない。

そう嘆くルーファウスの隣では、ブスリとしたセフィロスが腕組をしている。確かに、苦労話を武器に攻撃されてはセフィロスとて面白くはない。当然である。

しかし、そもそもルーファウスのその苦労というものの出所は、ルーファウス自身にあったりした。というのも、そのセフィロスの重要な任務というのは他でもなくルーファウスによって捏造された架空の任務だったのだから。

筋書きは、こう。

このマンションの契約更新の時期が近付いてきたことに気付いたルーファウスは、そのマンションを契約した一年目のその日に、一年もの間こうして一緒にいられたことを祝そうと提案をした。だからその日は一緒にいようと、そうとも提案した。勿論セフィロスもそれに快諾をしたわけだが、任務というのは容赦なくやってくる。要するに、突然その日に呼び出される可能性もあるのだ。

しかしそれでは折角のお祝いができずに終わってしまう。

だからこそルーファウスは架空の任務を作り上げ、その当日にセフィロスにその任務を当てるように手配をしたのだ。こうすればその日のセフィロスは表面上任務が入っているからそれ以上の任務を入れられる恐れはほぼ無い。後はルーファウスの日程をそこに合わせれば良いわけで、その調整でプレジデントと少々言い争いになったのは悲しい事実だったがそれは何とかクリアをした。

そうして下準備を整えた二人にとって、後はもうその日までを待つのみ、という状態だったのだが――――――――どうやらアクシデントが起こってしまったのである。

それこそが正に、模範演技の件だった。

これは通常任務とは色の違う仕事でほぼボランティアのようなものである。その上プレジデント直々の令ときているから疎かにはできない。

…そんなわけで、二人の中でその模範演技の件は大きな問題となっていた。

「…文句ばかり言っていても仕方あるまい。祝いなどいつでもできる、そちらの日程を変えよう」

結局その問題についてをセフィロスはそう結論付けると、ルーファウスにもそれを了承するように目配せする。その視線に気付いたルーファウスは、その結論に異議を唱えるような不満の視線を返すと、フン、と顔を背けた。…正に無言の戦いである。

どうやらルーファウスは、セフィロスのその態度にすっかり機嫌を損ねてしまったらしく、最早何を言っても無駄な様子だった。

この一年でそんなルーファウスの性格を把握しきっていたセフィロスは、これはもう無駄だと判断したのだかそれ以上何も言わずに立ち上がると、もう一度強引にその話題に関してその結論を突きつける。

それから、さっと身を翻して、

「俺は帰る」

そう言う。

このマンションは自宅ではないのだから、こういう事があってもおかしくはない。つまりセフィロスは自分の家に帰るということだ。

今迄の間こうして小さな喧嘩は絶えなかったが、それでもこのマンションに来た日は大体そのまま朝まで共にいるパターンが多かったからこれは実に稀なことである。

一瞬そのセフィロスの判断に顔を上げたルーファウスだったが、そこで引き止める言葉を吐くのも何だか癪で、結果的にルーファウスは何も言わなかった。

その無言の中、ルーファウスの耳に足音が入り込む。

それは勿論、セフィロスが去っていく、その音。

「……」

――――――――少しは後悔でもすれば良いのに。

少しそんなふうに思ったルーファウスの耳にふっとセフィロスの声が響いたのは、丁度ドアの開く音が響いた後のことだった。

「―――――お前も、見に来たら良い」

そう響いたセフィロスの声は、怒ってはいない。

しかしそれを聞いたルーファウスは、少しばかり怒りを膨張させた。しかしそれをセフィロスの前で表する前にそのドアはパタンと閉まってしまい、セフィロスの言葉に対するルーファウスの呟きは、最早独り言と貸す。

「…誰が見にいくか!」

それは、独り言にしては強い語調でもって、その静かな部屋に響いた。

 

 

 

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