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孤独の部屋 ---------------------------------------------
お前と会うために、部屋を用意したんだ。 20階建ての、その最上階。 その他には使わない。 お前と会うためだけの部屋。 それだけ、たったそれだけの為の――――――。
“好きだ”
自分を戒める為に、この感情に名前を付けたんだ。 “罪”って名前―――――なあ、ぴったりだろう……?
その部屋で、何をするでもなくぼんやりする。 時々は抱き合ったりもする。 けれど大抵は考え込んでいた。 この部屋は、二人だけの部屋。二人で会うためだけの部屋。 本来ならそういう場所はとても愛とかいうものに満ちていて幸せであって然るべきなのに、何故か此処は違うと思う。 とてもとても好きなのに、それは間違ってるとも思う。 というより―――――そう、思ってはいけない…そんな気がしていた。 「どうしたんだ」 そう声をかけられて、ルーファウスは振り返った。いつもと変わらない綺麗な顔がそこにはある。 そして変わらず優しげな表情。 「いや、何でもない」 それを見ているだけでも良い。そう思う。 セフィロスはルーファウスの隣に腰を下ろすと、おもむろにルーファウスの腕を手にとった。そして、その腕に巻かれた包帯を見遣る。 それは、つい先日の事。 ルーファウスが仕事の都合で遠出をした際に、反神羅の人間につけられた傷だった。あまりに普通の人間だったから、用心もしていなかった。 確かにその相手は組織とかではなく、単なる一般市民だった。それでも神羅への反感ゆえに、ルーファウスに近付きその傷をつけたのである。 その場にはセフィロスもいた。一応、警護の名目ではあったが殆どはルーファウスの希望でその場にいたセフィロスは、それを見逃して散々にプレジデント神羅から叱咤された。 ルーファウスの腕の傷は、そう直ぐには治らない―――――。 それが医者の判断である。 もう既にライフルは得意だった。それでもそれさえドクターストップとなってしまった。 だからその傷は、ルーファウスにとっては身を守る手段を失くした傷。 そしてセフィロスにとっては不名誉の傷だった。 「悪かった」 そう一言謝ったセフィロスに、ルーファウスは笑う。 「何故謝る?…こんなもの、どうって事無い」 「だが、俺のせいだ。俺がいながらこんな事になるなど」 「いや…良いんだ」 そんなことで責任など感じて欲しくは無かった。 それはまるで――――――後付された事実で縛っているかのようで、嫌だから。 しかし実際、それは本当の事であった。 この部屋は二人で会うためにルーファウスが用意した部屋だったが、この腕の傷が付く前は、使用頻度は極端に少なかったのである。 それがあの一件以来、セフィロスは毎日のようにやってきてくれた。 それはきっと、罪悪感があるからだ。 守れなかった―――――そういう罪悪感。 けれどそれは、ルーファウスを、というよりかは、もっと別の感情からくる罪悪感だった。それは彼の代名詞にもなっている“英雄”。そういうものでありながら、それすらできなかったという、ある種の屈辱が、そうした罪悪感に繋がっている。 そうルーファウスは思っていた。 だから――――セフィロスはそれが許せないから、この部屋に来てくれるのだ。 「セフィロス。一緒にいてくれ」 「ああ」 その答えを聞いて、ルーファウスはふっと笑う。 そうして側にいてくれることはとても嬉しい。けれど、これも違う。 腕の傷が治らない限り、セフィロスは何でも言うことを聞いてくれるのだ。結局はそれすら、その罪悪感の為にある。 前までなら、そうそうそんな答えはくれなかったのに―――――。 だから、思っていた。 この傷さえ治らなければ、セフィロスはずっと側にいてくれる。ずっと自分を見ていてくれる。この部屋に、来てくれる。 以前まで感じていたジレンマには、もう悩まされずに済むのだ。 同じ神羅の中にいて、こうしてそれぞれの肩書きもあるというのに、ルーファウスにはどうしてもクリアできない壁が今まであった。 それは、セフィロスの囲まれている環境と、自分の囲まれている環境が酷く違うからなんだろうと思う。 例えばセフィロスの場合は、血にまみれた戦いの世界とはいえ、そこには光があった。それは勿論セフィロスがそれなりの力を持っているからなのだろうが、その剣捌きも身のこなしも、誰しもが目を見張る。 全てが洗練されていて、向けられる目はいつも輝いていて―――――。 それに比べれば、ルーファウスのいる世界は、少しくぐもっていた。例えそれが表面的に明るいものでも、その内情といったら酷いものである。 金の工面、裏での暗殺、データの偽造…全て、汚い社会。それはどれも名誉と利益との為に繰り出される、裏の仕事で、ちゃんとした名目の上に剣をかざすセフィロスとは大違いだった。 自分の身を守ることは勿論できたけれど、それでもセフィロスと比べればそれは、雲泥の差で――――周りにはいつも自分を守る人間がいて。 だから、いつも思っていた。 その光のある世界は、明るすぎる―――と。 その光の中で生きるセフィロスに、ルーファウスは惹かれていた。とても強くて、綺麗で、光があって。 自分にはないものを、持っていたから。 だがそれは、許されないことだと知っていたのだ。今のセフィロスがこうして自分の罪悪感の為の何でもいうことを聞いてくれるように、それは最初から叶わないことなのだ。 どんなに部屋を用意して、いつでも待っているといったところで…。 側にいるためには、何かが必要なのだ。 生贄のような、何かが。 だから、そういった犠牲もなしにセフィロスに想いを寄せるのは、やはり“罪”でしかないのである。 ―――――――――ぴったりな言葉だ。 本当は好きなんて思ってはいけないから、それは“罪”。 「ルーファウス、包帯を替えようか?」 「ああ」 優しい言葉をかけてくるセフィロスに、ルーファウスは素直に頷く。セフィロスは用意してあったらしい新しい包帯を取り出してきて、ルーファウスの腕に巻き付けられていた包帯を丁寧にはがし始めた。 「優しいな、セフィロス」 それを見つめながらルーファウスはそう呟く。 「…これは俺がやるべき事だろう」 さも当然のようにセフィロスはそう答え、新しい包帯をほどき始めた。 ルーファウスはその光景を目にしながら、その後は何も言わなかった。
そうしてお前が憐れみの念を向ける度――――――― 俺は、死んでいく
「セフィロス」 「ん?」 包帯を結ぼうとする手を制して、ルーファウスはセフィロス髪を手繰り寄せた。 そして、顔を近づける。 「ベットに…」 口付けたその後に、小さくそう呟く。セフィロスはそれに何の反論もせずに包帯の端を結び合わせて、その後にルーファウスの体を持ち上げた。 そうして、奥の方にある部屋へと姿を消す。 たった少しの間でも、それが本当の暖かさだと思える時間。 とても刹那的なものだったけれど、それは大切だった。 例え体だけでも。
“罪”が膨れ上がる度…… お前から一歩、遠くなる “罪”が俺を殺していく
お前が好きだった お前に触れたかった
叶うなら…… 側にいて欲しかった――――――
でも―――――――
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