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「要するに、だ。緊急会議とやらに呼び出されて行ったら、今日の会議を断固拒否した輩がいるというわけだ。そこでそいつを連れて来いと、まあそんな任務を与えられたわけだな。だから俺は今、任務中だ」 「…って」 ということ何だ、つまりセフィロスはルーファウスを連れ戻しにきたということではないか。今日という日はかねてからの約束の日で、プレゼントまで用意してきたというのに、セフィロスときたら任務を遂行しにきたといわんばかりである。 それを聞いたら、何だかルーファウスは気持ちが沈んでしまった。あんなに断固拒否した緊急会議なのに、セフィロスにまでそう言われたら何だか全てが無意味だったような気がしてしまう。 遅れて悪かった、なんて、結局全然気持ちがない言葉じゃないか。 「…何だよ、それ」 何だかつまらなくなってそう呟くと、ルーファウスは視線を地面に落とした。視界の中にはプレゼントの一端があり、それが何だか妙に悲しい。 ルーファウスは今迄セフィロスとの時間を楽しみにしていたし、大切にしていた。だからこそ緊急で何か起こってキャンセルとなってしまう日などは機嫌も最悪だったし何だか苛々してしまったり、とにかく沈んでしまう。それでもまた次の時に会えるからと自分を鼓舞すれば何だかまだ希望がある気がして乗り切れたものだが、今回のこれはどうだろうか。きっと、それ以前の問題である。 自分が楽しみにしているものを、セフィロスは楽しみにも何にもしていない。 それは要するに、ただ自分だけが舞い上がっているのも同然じゃないか。 先ほどまで想像していたセフィロスの喜ぶ顔などというものは、何だか妙に色あせてしまった気がする。 そうしてルーファウスが悲嘆にくれていると、隣のセフィロスは何を考えているのだか、全く別のことを口にしてきた。 「そろそろ誰かが犬の散歩でもくる時間だな」 それを耳にした瞬間、ルーファウスは今までの悲嘆を一気に怒りに変換させる。 犬の散歩―――――!? その内容の変化もさることながら緊張感の無さには驚きを隠せない。しかも犬の散歩の時間=人が来る=此処にはいられない=任務遂行、という図式がアリアリと分かってしまう。 一体何だ、ちっとも楽しくない。 一緒にいるのに全く意味なんか無い。 そもそもセフィロスなんて―――――――! 「お前は一体今日が何だと思ってるんだ!!」 とうとうガバッと立ち上がったルーファウスは、セフィロスに指を突きつけて一気にそう叫んだ。その瞬間に手にしていたプレゼントはコロン、と地面に転がる。しかしそれを気にするような余裕も無くて、ルーファウスは捲くし立てるように言葉を並べ立てた。 「俺がどんなに楽しみにしてたかなんて知らないくせに!10分も前から来てたんだぞ!合計40分も待ってたんだぞ!それなのに来てみたらお前はいないし来ないし、来たと思ったら今度は本社に連れ戻すだなんて酷いじゃないか!前に会ったのはいつだと思ってるんだ!?二週間前だぞ、二週間前!しかもその時だってお前は1時間も遅刻して、その間俺がどんな気持ちで待ってたか…!」 「ほう…本当は40分も待ってたのか」 セフィロスは感心したようにそう言うと、地面に転がってしまったルーファウスのプレゼントをすっと手に取る。そうしてそれをガサガサをやり始めたが、怒り心頭中のルーファウスにはそれはもう理解できていなかった。視界には入っているのに、それを意識的には捉えていないといった感じ。 ルーファウスの叫びは続いている。 「そうだっ!その間もしかしたら今日じゃなかったかとか、実はキャンセルなのかとか色々心配して、実はそれ以前にお前は今日のことなんてどうでも良いんじゃないかとか…もうとにかく色々不安になってたっていうのに!それなのに何だ!お前ときたらそんなのどうでも良さそうに任務なんて言って!」 「…今回は時計か」 ルーファウスの叫びの脇で、セフィロスはといえばプレゼントをしっかり広げていた。プレゼントの内容は時計で、勿論それもかなり高価なものである。車と並ぶ値段がつけられているその時計はセフィロスに合うようなシャープな作りをしており、すっきりとしたデザインの、それでも素材の良いものだった。 叫びの最中にあったルーファウスはふとそのセフィロスの姿を目にすると、 「そうだ!いつも時間が分からないから任務の時間がマチマチになるとか言ってたし、俺との待ち合わせに遅刻するのが多いもんだから今回は時計にしたんだ!これでもう時間だって分かるだろう!?でもそんなことはもうどうでも良いんだ!それ以前の問題だ!」 そんな内容までその勢いで通す。それはいささか凄い剣幕ではあったが、内容からするにセフィロスを頷かせた。なるほどな、と。確かに普段時計などというものをつけていないから余分に時間をくうことがある、と零したことがある。どうやらルーファウスはそれを覚えていたらしい。 「これはかなり高価なものだな」 じっと見遣りながらそう零したセフィロスに、ルーファウスはやはり同じ調子で「それが良かったんだ!」と叫んだ。叫んでいるのに内容は微妙である。 セフィロスは一通りその時計を眺め終わると、今度はその時計の本当に役割である時間そのものを見遣って、一つ頷いた。それはルーファウスへの頷きではなく、もっと別なものである。そうして頷いたセフィロスは、 「時間だ」 そう呟くと、散々叫んでいたルーファウスの腕を唐突にガッと掴んだ。 怒りの中で唐突にそうされて驚いたルーファウスは、一瞬よろけそうになったのを何とか体勢を整えると、今度は唐突にそんなことをしてきたことに怒りを露にした。本当は怒るところではないはずなのに、勢い的にそうせずにはいられないのである。 「おい!何するんだ!」 「良いから走れ」 「走れって!何でそんなことしなくちゃいけないんだよ!」 「黙って走れ」 「!…んぐっ…!!」 セフィロスはルーファウスの肩を抱き寄せるようにして捕まえると、とうとう手で口までを塞いだ。だからもう叫んで文句も言えなくなってしまう。 ともかくそんな状態で二人で走るはめになってしまうと、普段そんなふうに走るということをしないルーファウスは息があがっていった。その上口が塞がれているから呼吸もいまいち苦しい。 それが我慢も限界になって、苦しいから放してくれ、とジェスチャーしたのは、走り始めてから数分経ち、更には公園の端までやってきた時だった。それほど面積がないその公園でも、端まで走ればそれなりの距離はある。 丁度公園を囲むように植えられた高木の中に紛れ込むようにして姿を隠したセフィロスとルーファウスは、しゃがみこんで公園の中心の方に視線を投げていた。 しかしその状態は、ルーファウスにとってはいかにも意味不明だった。 一体なんで走らなくてはならなかったのか分からないし、そもそも何故こうして隠れなければならないのかも分からない。 息を切らせながらセフィロスの方を見遣ったルーファウスは、一体これはどういうことか、という視線だけで説明を促した。しかしセフィロスはそれに対して特別な答えを言うわけではなく、こんなことを言うだけである。 「そろそろ犬の散歩の時間だからな」 「…またそれか!?」 何なんだ、一体…! そう思ってまた叫ぼうかと思ったルーファウスだったが、次の瞬間眼に入ってきたものに思わず閉口してしまった。 だって―――――――…。 「あ…」 ルーファウスの眼には、本当に犬の散歩をする人の姿が見えたからである。 その上、何やら騒がしい声が一気に聞こえてくる。 何だろう、そう思っていると次第に視界の中に沢山の兵士の姿が見えてきた。それはどう考えても神羅の一般兵士達で、彼らは相当な人数でもってこの狭い公園の中を奔走し始める。 「な、何だ…?」 何でこんな公園に…しかも滅多に人などこない公園なのに、どうして此処に神羅の兵士達が来たのだろうか。そう思って一瞬の内にパニックに陥ったルーファウスだったが、隣で背を屈ませているセフィロスは全くその状態に驚きなど見せず、ただ少し笑っている。 「どうなってるんだ、セフィロス?」 「だから、犬が散歩に来たらしい。普通の犬に混じって、神羅の犬達もな。ご苦労な事だ」 「…って。だから何でアイツラが此処に…」 ルーファウスの視界にいる兵士たちは、何やらを探している様子で、公園の隅から隅までをくまなく見ている。しかし未だに二人が身を隠しているその方向には来ておらず、だから二人が此処にいることには気付いていないらしい。 その状態を考えるに、どうやらこれは―――――――。 「…もしかして、俺?」 ふとそこに行き着き、ルーファウスはセフィロスに向かってそう聞いた。 もしかすると自分を探しているのではないか、とそう思ったから。 確かセフィロスは、自分を連れ戻す任務についているはずである。それは今のところ完遂はできていないわけだが、取りあえずそういう状況であることには変わりない。となると、神羅から誰かがこうしてやってくる事は全てそれのように思える。 そんなルーファウスの思考を肯定するように、セフィロスは、 「そうだな」 と、そう頷いた。 しかしその後に、だが、などと言う。 「お前だけじゃないだろうな。まあ言ってみれば、俺の方だろう」 「セフィロスが?追われてるのか?」 何だそれは?―――――更に訳が分からないではないか。 思わずルーファウスは首を傾げてしまう。だって、セフィロスが追われる理由などどこにもないというのに。まあ強いていうなら、任務完遂していないという部分が落ち度ということになるだろうが、それにしたってそんなもので追われる理由になどならない。 ところが。 「ルーファウス。俺は今すぐにでもお前を神羅に連れ戻さなければならない身だ。その俺が今お前と一緒に隠れているというのはどういう事だか分かるか?」 「やっぱりこれって隠れてるのか…いや、何ていうか…捕まりたくないから?」 「まあ、そうだ。じゃあ何で捕まりたくないか分かるか?」 「何で、って…」 そんなものは、あの兵士達が何故追ってきたのかが分からなければ答えられようはずもない。何で、なんて言われても…。 しかしそこでふとルーファウスは思い出した。それが何かといえば、そもそもこの公園にやってきた理由、である。 そうだ、すっかり忘れそうになっていたが、そういえば此処に来たのは本来なら約束していたからだ。と言う事は、セフィロスはその約束の為に捕まりたくないということだろうか。しかしそれにしたってそのセフィロスは任務中だとか言う。…やっぱり訳が分からない。 結局、そんなの知るか、とそう答えたルーファウスに、セフィロスは笑って「答え合わせ」をし始めた。 「良いか、ルーファウス。今日はお前も知るように、約束した日だ。お前はさっき、俺が連れ戻す為に来たと言ったが、それは違う。だがそれでも俺は任務中だ」 「何だそりゃ…もっと訳わからないぞ」 「まあ聞け。俺は今日普通の任務が終わってから、呼び出されて緊急会議の場に出向いた。そこで俺は、お前を探して連れ戻して来い、と言われた。だが今日は約束の日だ。だから俺はそんな任務につけるはずがない」 セフィロスの言うことは尤もである。確かにそこまでは理解できる。 だがしかしセフィロスは言ったではないか、任務中だと。 「だから俺はそこで、そのヤボ用任務を断った」 「え!?」 「断ったんだ、お前が断固拒否したのと同様にな。だが、そこでお前の親父が相当怒ったもんだから俺もつい…」 「つ、つい…?」 一体何をやらかしたのだろうか、そう思ってルーファウスはドキドキする。 するとセフィロスは、少し言い難そうにこう言った。…少し小さな声で。
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