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雪に想う --------------------------
多分、合わないんだ。 ずっとそんな気持ちが心の奥底で燻っていた。 そもそも考え方だって違うし、食の好みも服の好みも人の好みも違う。 そういう全く違う人間同士がある日唐突に手を繋いで共に歩きましょうと言ったところで、やはりそれは奇麗事で、上手くいくはずなんてないのだ。 クラウドはそんなことを考えながら、早くもクリスマスの話題に花を咲かせている同僚達に目を向ける。彼らは遠く故郷に残してきた彼女だか想い人だかにプレゼントを贈るのだといって、やれこれが良いだとか、やれアレはダメだとか、そんな話で盛り上がっていた。 クリスマスという行事だけでは、残念ながら帰省理由には物足りない。 だから、彼らは直接想う相手に会うことはできない。 それでも彼らはあんなにも嬉しそうにプレゼントの話をしたりして、今や数ある行事の中の一つでしかなくなってしまっているクリスマスを楽しんでいるのだ。まるでどんな些細な幸せの種すら見逃さないとでも言うように。 年に幾つかある“行事”。 行事なんて、それほど重視するつもりは無かった。 別にスルーしても構わないとすら、クラウドは思っていたのである。そう、今迄は。 しかし、今年の冬に関してはちょっとばかり違っていた。 そんなに盛り上がる必要なんて無いよ、と思いながらも、心のどこかではああして盛り上がっている彼らがとても羨ましい気がしていたのである。 だって―――――セフィロスが居るから。 これは超がつくほどの極秘事項で…とはいっても、どうせ誰かに告白したとて信じてなどもらえないだろう事実なのだけれど、クラウドはあの英雄セフィロスと恋愛的な関係を築いていたのだ。クラウドのような一兵士が相手にされるはずもない、普通ならそう考えるだろう。誰だってそう思っている。だから疑われる心配もないし、それどころかそんな気配すらない。それにセフィロスは、一応それらしき対応というものをしていたのである。つまり、悟られないような立ち居振る舞いをしているのだ。 同じ神羅にいる者同士なのだから、会おうと思えばいつでも会える。 それは、同僚の彼らに比べれば随分と良い環境に違いなかった。 それなのに、彼らはあれほど幸せそうに笑っていて、一方のクラウドはちっとも幸せな気分になれないでいる。そういう気分にしかなれない自分が、クラウドは何だか嫌だった。 会いたいのに会えないのと、会えるのに会わないのとでは、大違いだ。 そう思う。 「合わないんだもんな…どうせ」 別に、会いたくないわけじゃない。むしろ、会いたいのだと思う。 でも、何かが違うといつも思うのだ。 いざ会って、一緒に時間を過ごして…そうするといつも思う。 自分とセフィロスはあまりにも“違いすぎて”いて、だから“合わない”のだ、と。 部屋で静かに過ごそうとするセフィロスと、どこかに出かけたいなと思うクラウド。キスやセックスは義務だという認識のセフィロスと、そういうのは情熱あってこそのものじゃないかと考えているクラウド。もっと小さなことも加えれば、そういうズレは恐ろしいほど沢山ある。 何だよそれしき、どっちかに合わせれば良いじゃないか。 以前相談したザックスにはそんなふうに言われたけれど、クラウドはそういう問題じゃないんだと思っていた。そういう問題じゃなくて、どちらかが合わせれば良いとかじゃなくて、もうそもそも大きすぎる溝があるのだ、と。そもそも分類が違うのだ、人間の。だから合わないのだ。 「おー、雪かあ?今年は早ぇなあ。あっちも降ってんのかなあ」 ふいにそんな声が聞こえてきて、クラウドははっと顔を上げる。すると、部屋の窓の外には、ちらほらと細かい雪が降り始めていた。 「あいつも見てっかなあ、この雪…。なーんちゃって!」 クリスマスを楽しみにしているらしい同僚の一人がそんなことを呟いて、おどけたように笑う。とても幸せそうなその笑顔が、クラウドの目の奥にジュッと焼きつく。おどけたふりをしていても、きっと彼は本気でそれを口にしたのだろう。それが分かったから、クラウドは尚更目の奥が痛かった。 ―――――――きっと、見てるよ。だって…気持ち、繋がってそうだから。 同僚の呟きに、心の中でそっとそう呟く。 彼の恋人は、きっと知っているだろう。彼が、白い雪を見て“今頃彼女もこれを見ているだろうか”なんてことを呟いてしまう男だということを。それが分かっていれば、きっと同じように空を見上げるはずなのだ。そうして、同じことを考える。そういうことが“繋がっている”ということなのだろう、例えどんなに離れていても。 ―――――――俺とセフィロスの距離はどれくらいだろう? クラウドの自室と、セフィロスの自室。 直線で結んだって1キロ圏内だ。 たったそれだけの距離なのに、窓の外の雪を見たって何も思い浮かばないくらいに“二人の距離”は遠い。セフィロスがこの雪に対して何を思っているのか、それどころかそもそも何かを思ったりするのか、それすら想像できない。 そう思うと、はらりはらりと舞う雪すら、何だか悲しくて仕方なかった。
雪が降ってきたことに気づいたのは、ザックスの一言があったからだった。 実に端的な一言で、あ、雪だ、と言われ、顔を上げるとぱらぱらと雪が降っていたという次第。まあ雪なぞ珍しくとなんともない…と言いたいところだが、ことミッドガルでは珍しいものの一つに勘定される物体である。 「ここ数年続いているな。異常気象だとか言っていたか」 年末の任務スケジュールをチェックしていたセフィロスは、紙から顔を上げると、珈琲を啜りながらそんなことを言った。 通常であればミッドガルには雪は降らない。花が咲かないのと同じように魔晄の影響と考えられているが、そもそも気候的に条件が揃わないということがあるらしい。 そんなミッドガルでここ数年連続して雪が降っている。 神羅の観測によればそれは異常気象のせいなのだそうだが、雪というものに対して幻想を抱いている人間も多いらしく、そんなマイナスの事実よりもプラスイメージが大幅に上回っているらしい。 因みに、ザックスもそんな人間の一人である。 「まあまあ難しい話は置いといてさ!しっかし遊びてえなあ!積ると良いなあ」 「あと三十分後に任務だということを忘れるな」 「やっべ!そうだった!つーか…最悪じゃん」 この雪の中を任務かあ、と途端に落ち込み気味の声を出したザックスは、飲みかけのスポーツドリンクをグイ、と飲み干して、しかしさ、と話題を転換した。 任務待機用の無機質な部屋には、セフィロスとザックスの二人だけしかいない。特に音楽が流れているわけでもない部屋の中では、はきはきとしたザックスの声は良く響く。 「セフィロスはクリスマスどうすんだ?」 「どうする、とは?」 突如かけられたその問いに、セフィロスはあからさまに嫌そうな顔をする。 その顔はいかにも不機嫌であることを示していたが、ザックスはお構い無しにクリスマスの話題を降りかけた。これは別に空気を読んでいないとかいうわけではなくて、単にセフィロスを恐れていない証拠である。 「クラウドと会うのかなーと思って。セフィロスってクリスマスにどんな事するのか全然想像つかないもんな。だからちょっと興味あってさ」 「別に。クリスマスなど興味もない。あいつとも会う予定はない」 「へえ、そっかあ。――――って、会わないのかよ!?」 「ああ」 一言の元にそう断言したセフィロスは、下らない、と言いながらため息を吐いた。いくらクリスマスといったって、セフィロスにとってはただの平日の一つであり、いつもの仕事の日と同じである。それを特別視する必要性などどこにも感じられない。 そんなセフィロスの前で、ザックスはいかにも納得できないというような顔をしながらタラタラと文句を言い始めた。 「セフィロスってほんっとつれないな。それじゃクラウドが可哀想じゃねえか?普通は会いたいだろ。だってクリスマスだぜ?」 「だからどうした?クリスマスだからといってわざわざ疲れるようなことをする必要があるか。面倒だし時間の無駄だ」 「おいおい、その言い方じゃまるでクラウドと一緒にいるのも面倒臭いみたいじゃんかよ。そりゃヒドイって」 「どこが?事実を言ったまでだが」 「マジかよ…」 ザックスは、窓の外の雪を見ながら、はあ、とわざとらしく大きなため息を吐く。そんなザックスの様子を見て見ぬ振りのセフィロスは、珈琲の残りを啜ると、先ほどまでのように年末スケジュールの紙に視線を落とした。頭が痛くなりそうなほど詰まったスケジュール。普通のソルジャーよりも多くのスケジュールが入っているセフィロスにとって、年末はとても忙しいのだ。 「俺よく分からないんだけどさ、セフィロスは何でクラウドと付き合ってんだ?」 ふいに投げられた問いにも、視線を変えずに返答する。 「そうしたいと言われたからだ。それ以外に理由はない」 「じゃあ好きじゃないんだ?」 「別にそうとは言ってない。嫌いになる理由がないからな。世間では、嫌いでなければ好きだという認識なんだろう?」 「さあ、どうかな。俺は推奨しないな、そういうの。だってそんなふうに言ったらクラウド傷付くよ。好きかどうか聞かれて“別に嫌いじゃない”って?“お前と一緒にいるのは面倒だ”、“疲れる”、“時間の無駄”って?つーかもう最悪じゃねえのそれ」 少しばかり怒り口調になってきたザックスに、セフィロスはすいと顔を上げた。そうして任務スケジュールの紙を折りたたんでポケットに仕舞い込むと、 「何が言いたい?」 そう一言投げる。 しんと静まった無機質な部屋の中で、怒りを含んだザックスの声が響いた。さして強い口調でもないのに良く響くのは単に材質によるものだったが、今この場では丁度良い効果だったかもしれない。 「口出して悪いけど、もう別れれば?一緒にいる意味なんか無いじゃん」 「俺にとって意味がなくとも、あいつにとっては意味がある」 ハッキリとそう断言したセフィロスに対し、ザックスは、へえ、と挑発的に笑った。どうやら余程機嫌を悪くしたらしく、ザックスはすっかりイライラした表情に変わっている。 が、セフィロスにとってはそういった言動自体不可解だったのは言うまでもない。 そもそもこれは自分とクラウドの問題であって、ザックスは部外者なのだ。そこにきてそんな意見をされてもどうかと思うし、そんな他人事でここまで機嫌を悪くできるザックスも安易すぎると思ってしまう。 大体―――――付き合いたいというクラウドの願いは叶えてやったんだ。 もう十分満足だろう。キスもセックスも望むようにこなしているのだし、一体それ以外に何を欲しがるというのだ。こんなにもクラウドの願望どおりに動いているというのに。 自分がクラウドを好きだというよりも、クラウドが自分を好いているのだ。 だから、これは間違っていない。 そんなふうに思っていたセフィロスの頭上に、ガタッと立ち上がったザックスの一言が降り注いだ。 「そうか?自惚れてるだけじゃねえの、それ」 ザックスはそう言い棄てると、先行くわ、と言って部屋を去っていく。 反論する間を与えずに部屋を去ってしまったザックスに対して、セフィロスは吐き出せない不満を悶々と心に募らせる結果となってしまった。出来ることならすぐにでも反論したいのだが、今ここで反論したとて単なる独り言になってしまう。それでは意味がない。 「…あんなのと任務か、全く」 時計を見ると、任務まであと10分。 10分後にはあんな調子のザックスとツンケンしながら任務をこなさなければならないと思うと、憂鬱というよりも苛立ちを覚えて仕方ないセフィロスだった。
白い雪が、天からはらりと降り注いでいる。 それは、誰かにとっては悲しくなるような雪で、誰かにとっては異常気象の雪だった。 街を白く染め上げようとする雪は、雑多な色を一色に塗り替えるペンキのようである。 ペンキで塗ってしまえば、迷いは消えるのかもしれない。
―――――――こんなに合わないのに、一緒にいる意味ってあるのかな? はしゃぐ同僚の声を背中に受けながら、クラウドはぼんやり雪を眺めている。 セフィロスはずっと憧れの人だったけれど、いざ近くに寄ってみると、それはクラウドが想像していたのとまるで違う人だった。 理想の人だったのに、ちっとも理想通りではない。 きっと幸せだろうと思っていたはずの自分は、ちっとも幸せじゃない。
―――――――何故、第三者にまで文句を言われなくてはいけないんだ? 不機嫌なザックスと肩を並べながらの任務中、セフィロスは苛立つ心の中でそんなことを思っていた。考えれば考えるほど、先ほどのザックスの言葉が苛立たしくて仕方ない。 人と付き合うということは労力を使うことだ。 少なからず自分のペースを崩さなければ成り立たない。 自分はクラウドと付き合うことによって色々と憂慮を強いられているというのに。
白い雪が、天からはらりと降り注いでいる。 悲しくなるような、異常気象の、そんな雪。 この街を塗り替えて、この心を塗り替えて、どうか迷いを消し去って。
そうだ。
いっそ―――――いなくなってしまえば良いのに。
いなくなってしまえば、悲しくならずに済む。 いなくなってしまえば、苛々せずに済む。 いなくなってしまえば良いんだ。
目の前から消えてしまえ。
白い雪が、天からはらりと降り注いでいる。 悲しくなるような異常気象のそんな雪の中で、キラリ、と何かが光った。 「?」 何だろうか、そう思った瞬間に、キーン、と物凄い耳鳴りに襲われた。 それは脳をかき乱すほどの轟音で、思わずギュッと目を閉じてしまう。 閉じた目の中で、暗闇がグルグルと回転した。 ああ、きっと、意識がなくなる…。 そう思った次の瞬間には、何も考えられずに倒れていた。
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