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「…絶対に報われないと分かってて、頑張ろうって思えたりしますか?頑張ったら、どこかで救われるって、そう思えますか?」 少年の口から出たその言葉は、セフィロスの胸に突き刺さった。 感動とか、そういうわけじゃない。 ショックといえば良いのだろうか、とにかく少年の口からそのような言葉が出てきたことが衝撃だった。一貫性がなくどこか奇妙だと感じていた少年の口から飛び出たのは、あまりにもリアルでマトモな言葉である。クラウドは奇妙なわけではなかったのだ。クラウドの中のささくれ立った心が、彼を奇妙に見せていただけだったのである。 厭世的なクラウドの中では、突如出会ったセフィロスも世の中と同じものだったのだろう。同じように、攻撃対象だったのに違いない。だからクラウドは生意気そうに笑っていたのだ。 「俺は、良い訓練成績を出すなんて出来ません。そういうふうになってるんです。だから俺は毎回ゴミを出すハメになるんです。罰ゲームをするハメになるんです。神羅は、良い成績を出せない兵士なんて必要ないでしょう?でもゴミを出す人は必要でしょう?…俺は、此処にゴミを出しに来るときだけ、必要とされるんです」 俺、間違ってますか? そう問われて、セフィロスは何とも答えられなかった。 肯定もしたくないし、拒否もしたくない。どう転んでも、クラウドにはマイナスにしか取れないと分かっていたから。 クラウドは手で拳を作ると、それをギュッと握り締めて、焼却場を見遣った。 「…だから俺、ゴミを出したくないわけじゃないんです」 むしろゴミを出し続けたい。 セフィロスの耳には、クラウドがそう言っているように聞こえた。 そんな程度のことでも、必要とされるなら。それでも構わないから、と。 「何故必要とされたい?お前は自ら神羅に入社したんじゃないのか。そうだとしたら、お前が神羅を必要としているんじゃないのか」 逆の理論を唱えてみると、面白いことにクラウドは更に逆の理論を口にした。 どこか暗い顔をしながら。 「違います。俺は故郷で必要とされなかったから、神羅の兵士みたいな凄い人になれば必要とされるんじゃないかと思ってたんです。だから此処に来たんです。俺は神羅を必要としてるんじゃなくて、神羅を利用してるだけです」 「なるほど。それで、その利用も失敗というわけか」 「……」 セフィロスは、言葉に詰まったクラウドをじっと見つめていた。 今までのイメージとはまるで違う。あの奇妙で不思議な少年は今やどこにもいなく、此処にいるのは萎縮した厭世的な少年でしかなかった。 しかし何故だろうか、不思議と嫌な気持ちはしない。 まるで謎が解けたかのような気持ちにあったセフィロスにとって、イメージをがらりと変えたその少年は新たなる興味対象となっていた。 あれほど挑戦的だった少年の中にあったのは、こんな後ろ暗い心だったのか。 いわばあの挑戦的な態度は、それを隠す為の蓑だったのだろう。 しかし一体どれだけ頑丈に心をコーティングすれば、あれほど挑戦的な態度になるのだろうか。余程硬いコーティングをしていたのに違いない。 「クラウド…だったか。もう少し落ち着いて話さないか」 そう切り出したセフィロスの目には、驚いたクラウドの顔が映し出されていた。
神羅のどうしようもない部分を知らないわけではなかった。 世界を牛耳るトップ企業、誰しもが憧れる会社。 統制され万全の管理体制が敷かれた高機能の会社は、右肩上がりで守備も上場、表面上何も問題が無いかのように見えていたが、勿論そういうわけではないことくらいは分かっていた。 イメージ戦略で好感度を操作している神羅にとっては、絶対に晒すことを許さない部分というのが当然存在している。それは事業の中核であったり会社全体の裏事情であったりしたが、ごくごく内部の小さな諍いも、勿論その一つだった。 こんなことはどこにでもあるものだ。 兵士募集の歌い文句には、実に良い事ばかりが掲げられている。 しかし兵士も人間である、何百何千という人間が集まれば、そこには当然それなりの歪が生じるのも当然だろう。その歪の中で、差が生まれるのも仕方が無いといえば仕方は無い。しかし、差があろうが嘘があろうが、誰かの希望を奪うことだけはどんなことがあっても許されることではなかった。 クラウドは、希望を奪われたのである。 勿論、クラウドにとっての神羅は利用だったのだろうが、それでも彼の希望は奪われた。利用するはずが、その代価は大変なものになってしまったというところだろうか。
セフィロスの思った通り、実際のクラウドの訓練成績は悪くは無かった。 しかし、評価をする段になると、その成績は真っ当に反映されないというのである。つまり誰かが操作しているということだ。 世渡り上手の同僚達は、訓練をサボり適当な毎日を過ごしながらも、評価だけは最高クラスを得ているという。彼らがそうできている理由は、ひとえに上との繋がりだった。教官と仲が良かったり、神羅本社に親を持つ息子であったりすると、それだけで評価が甘くなる。それに尻尾を振って付いていく同僚達も、やはり同じように甘い評価を受けるようになる。 クラウドは、世渡り上手でもなければ友達付き合い上手でもなかった。 だから、その生ぬるい恩恵を受けることもない。 実力はあるけれども、それを真っ当に評価してくれる人間がおらず、クラウドはまるで悪の温床の中で一人もくもくと頑張っているような状態だった。 しかしそんな頑張りも、いずれは意味が無いものだと実感せざるを得なくなる。 どう足掻いたって無駄。 どう頑張ったって無駄。 だったら頑張る必要もない。頑張ったって意味なんて無いんだから。 そう思えば思うほど、情熱を持って何かに打ち込むということが薄れていく。本気を出すということもなくなっていく。当然、訓練自体も本当にやる気がなくなってしまう。
本気? 本当の気持ち? 馬鹿馬鹿しい、そんなものはあったって仕方が無い。 だって、あっても無意味になってしまうんだから。
クラウドの話を聞いた後、セフィロスは少し考え込んだものである。 何かを頑張ることや、本気になること。そして必要とされること。 それらはどれも、今迄のセフィロスの中に存在していなかったものだった。考えたこともなかったし、考えようとしたこともなかった。何しろ幼少の頃から神羅に居て、これということもなく求められるままに行動してきたから、しかもそれが出来ないということもなかったから、だから自ら何かに熱くなるということを覚える機会が無かったのである。 なるほど、本気か。 そういう気持ちもあるものか。 漠然とそう思いそれを思い描いたセフィロスは、クラウドの中から欠けてしまったものを、逆に見てみたいと思った。一体それはどの程度のものなのか、試してみたくなったのである。 しかし、差し当たり本気になれるものなど考え付かなかった。頑張ろうと思うことも見当たらないし、必要とされたいと思う節もない。 ただ、今現状のクラウドの状態は、どことなく親近感を覚えるような気はしていた。つまり、何もない空洞のような心境が、自分に似ているような気がしたのである。 クラウドは何かが欠けてしまったからそうなっている、しかし自分はデフォルトでその状態である、というその事実には、さすがに苦笑せざるを得なかったが。
「焼却場に捨てたものを、拾ってこい。そして、俺に見せてくれ」 そう言った時、クラウドは訳が分からないというふうにセフィロスを見ていた。 焼却場に捨てたものは、ゴミ。 それを拾うなど馬鹿げている。 しかしその言葉の真意をようやく理解したクラウドは、捨てたはずのものを少しづつ拾い集めて、セフィロスが見たいといったものを手にし、セフィロスの元に姿を現した。 それは、セフィロスの言葉を受けてからゆうに二ヶ月ほどは経った後のことである。 三度目に会ったのは、焼却場ではなかった。 神羅の兵舎の近くでありながらも人の往来が少ないその場所は、セフィロスにとっては良く通る道の一つである。大体任務に出向くときと、神羅に帰還する際に、セフィロスは裏道としてそこを使用していた。その道を使う理由は、ただ単にショートカットだからというだけでなく、人の往来が少ないというそこに起因していたものである。 だから、驚いた。 そこに、待ち伏せするようにクラウドが居たときには、何故分かったのだろうと疑問で仕方なかったものである。しかしそんな疑問よりも、セフィロスにとってはその再会の方が大きかった。 任務が忙しくなりゴミ焼却場にも出向けないようになっていたセフィロスは、クラウドが会いかわらずゴミを出しに来ているのかどうか、それすら分からなかったものである。当然、調べる術もない。しかしそれでも気にはなっていた。クラウドはどうしているのか、未だにゴミを出しにあそこに出向いているのかどうか。 その結果が、ふいにセフィロスの前に現れたのである。 「こんにちは」 ぺこりとお辞儀をしてそう言ったクラウドは、手の中に大事そうに持っていた紙切れをセフィロスに渡すと、これです、と言った。 これ、とはどういう意味だろう。 セフィロスは首を傾げながらも紙切れを受け取ると、ゆっくりとそれに目を通す。 「これは…」
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