天下逸品装備

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とにかく何か言葉を。

そう思うけれど緊張して上手く言葉が見つからない。

ああ、いつもどうやって話を切り出していたっけ?

単純なことのはずなのにそれすら思い出せないなんて。

「妙に静かだな。聞いていたのと随分違うが」

「あ、いや……まあ」

何だ、この、しどろもどろした口調。

自分でも嫌になる!

そんなことを思っていた折、ふとあることを思い出した。

そうだ、先人の知恵にあやかろうではないか。確か先人は手のひらに「人」を三回書いてごくっ、と飲み込むことで緊張をほぐしたとかなんとか言わなかったか。

まあそんなことで緊張がほぐれるのかどうかは分からないが、何もやらないよりはマシだと思い、クラウドは緊張の中でごくっと三人の人を飲み込んでやった。

その結果。

「……緊張していることはよく分かった。分かったぞ。分かりやすすぎるジェスチャーで有難いくらいにな」

「……すみません」

どうやら無言で意思は伝わったらしかった。

おお、先人よ、ブラボー!

 

 

 

クラウドがこんなに緊張をしなくてはならなくなったのには一つ理由があり、それは残念なことに良い理由ではなかった。

まあ生きていれば誰にだってあること。

失敗という二文字である。

失敗は成功の母だというが、しかし父が怒らないとは誰も言っていない。つまりやはり父親は叱りにくるわけである。叱咤×失敗=成功。まあなかなかできた家族構成ではなかろうか。

そんなことはどうでもよいのだが、ともかくクラウドは自分がしでかした失敗について怒られているという非常に悲しい立場にあったのである。

で、その相手が……セフィロス。

何故そこにそんなビックネームが出てきたのかはクラウドにも分からない。きっといつものように指揮官やら教官やらが怒ってくるのだろうと思ったいたから、セフィロスの姿を見たときには心臓が飛び出そうだったものである。いや、ぶっちゃけ半分はにょっ、と出たくらいだ。

失敗について怒られる。

その相手は初めて会う、しかし憧れのセフィロス。

このどうしようもない事態にクラウドはたじたじになり、その結果「人」を飲み込んだわけなのだが、どうもセフィロスは「怒る」ことを始めない。

誰だって、嫌なことは早々に切り上げたいものだ。クラウドだってそれは同じである。

つまりササッと怒られてササッとこの場を去りたいのだが、なかなかどうしてセフィロスはそうさせてくれないというわけなのだ。

さあ、これはどうしたものか。

「あの……いつ頃になったら怒り始めるんですか?」

「なに?」

「あっ!いや、あの、その、一体いつ頃になったら怒り始めるご予定なのかと……はい」

一応目的はそれなので、と付け加えたクラウドは、できれば早めに怒って頂けるととても嬉しいです、と意味不明なことを付け加えた。

そんなクラウドに対し、セフィロスは首を傾げる。

「お前はそんなに俺に怒られたいのか?不思議な奴だな。人を飲み込んだと思ったら次はそんな要求をしてくるとは」

「違うんです!お、俺だってできれば怒られたくはないんですけど、そういうわけにもいかないっていうか、ここまできたらそれしかないっていうか、そんな感じなんですっ」

クラウドはなるべく一生懸命に本心をそう叫んだものだが、その意味不明な叫びは当然セフィロスを困惑させた。

冷静に考えれば、こんな様子のセフィロスをみれば「この人はきっと怒らないつもりなのだ」ということが判断できるだろう。しかしクラウドはそうじゃない。怒られる予定はきっちりこなされるものだと思っている。

ある意味偉大な少年である。

「お前はおかしなやつだな」

セフィロスは呆れたように笑って、目の前で怒られウェイティングをしているクラウドの肩をポン、と叩いた。

それに驚いたクラウドが「ひっ」と言って地上三十センチほど浮き上がったことは言うまでもない。

「言っておくが、俺はお前を怒るためにここに来たわけじゃない。まあお前のしでかした失敗はもちろん帳消しにはならないが……しかし怒ることとそれとは違う」

「へ?」

セフィロスの言葉にきょとんとしたクラウドは、半ば涙のたまった目でまじまじとセフィロスを見つめた。

一体コレはどういうことか?

セフィロスと思っていたその人はもしや天使か?

いや、それとも神?

いやまさか。

反省用として使われている古ぼけたその部屋の中央で、ビニールが破けてスポンジのびよ〜んと飛び出ているようなアンティークイスに座っていたクラウドは、もう思考回路がパンク寸前だったものである。

「失敗は成功の母だという。知っているだろう?」

「は、はあ」

もちろん知っている。

それどころか叱咤が父親だということすら熟知しているほどだ。

「そこで、お前にはこの失敗を活かして成功をしてほしい。つまり反省部分を次に活かしてほしいわけだ。お前の失敗……それは分かっているな?」

「は、はい……」

失敗したのは単純なこと。

連絡ミスだ。

携帯の配給をされているソルジャーはともかくとして、もっと原始的な無線でもって連絡を取っているクラウド達は、その無線がうまく入らない場合も多々ある。というか携帯も結局は無線通信ではないか、という正当なツッコミはこの際受け付けない。

ともかくその原始版無線は、どうやら電波障害が多いらしいのだ。しかしその場合にも伝達は円滑に行わなければならない。

ところがクラウドは、それができなかった。

というも、別に電波がおかしかったとかそういうわけではない。それ以前の問題なのだ。そう、クラウドはその装備自体をすっかり忘れて任務に出てしまったのである。

―――――結果。

誰もクラウドと連絡がとれないという事態。おかげで大切なポイントの警備ができなかったと周囲はカンカンにお怒りだったわけだが……。

そんな失敗を成功に活かすということはつまり、その物忘れをどうにか克服せよということだろうか。

「俺が引き受ける任務では、一度全員を集めてから志気をを高めるために話をする。まあ大した話じゃないが、それをすることによって気が引き締まるようになる。――――その後、お前に装備点検をしてもらいたいと思うんだが」「はあ、なるほど……――――は?」

うんうん、と頷いたその次の瞬間、クラウドは目を点にして正面に立つセフィロスを凝視した。

今、なんだかものすごく恐ろしい言葉を聞いた気がするが気のせいだろうか?

しかしそんなクラウドのまえでセフィロスは不敵に笑う。

「どうした?顔が固まっているが」

「あ……いえ、その……」

だって、そんなバカな話があるだろうか。

よりにもよってセフィロスと共に行動する部隊に関われと言うのだ。それはものすごい緊張を運ぶものでもあるし、ある意味では責任重大でもあった。

何しろその点検でもしものことがあったら、それはすべてクラウドの責任になってしまうのだ。通常このような点検をする仕事はないから、装備関係については各自の責任となる。ちょうどクラウドがそうであったように。

「お前はこういうことで失敗したんだぞ。だったらお前はこれがいかに大事か理解しているだろう?だったらお前は実に適任だと思うのだがどうだ?」

「どうだ、って……いやその、まあ…確かに俺はそこで失敗しましたけど、でも…」

どうにも責任が重すぎます。

そう言いたかった。が、とてもじゃないがそんなことは言えそうにない。

何しろ相手はあのセフィロスである。

そんな反論が効くはずがないのだ。

「できれば今日の午後の任務からすぐにもやって欲しいんだが。―――やってくれるな?」

「あ、あの俺……」

「――――何か?」

「……何でもありません」

結局。

セフィロスの勢いに押されて、クラウドはその前代未聞の装備点検というありえない仕事を請け負うことになったのだった。

 

 

 

 

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