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「なるほど、あいつは偶然と才能と呼ぶか。なかなか上手いことを言うもんだ」 「そう?俺には、“お前には才能無い”って言われてるようにしか聞こえなかったんだけど」 才能も偶然もありゃしない。 だったらどうすれば良いというんだ。 努力で報われるなら良いけれど、それが報われるという偶然すらない。その偶然を才能だなんて言うんだから困ってしまう。 「本当にバカだな、お前は」 「だからあ!何でそう人のこと馬鹿馬鹿って!酷いよ!」 「お前、呼吸する才能はあるじゃないか」 「はあ!?」 そんなの誰だって出来るし! クラウドは思わずそう突っ込む。そんなの才能なんて呼ばないし、そんな才能があってもどうしようもない。 「お前は俺やザックスを、才能がある人間だと思ってるだろう?」 「思ってるよ、悪いかっ!」 あんまりヤケになったそう叫んだものだから、セフィロスは笑いをかみ殺している。それは有難い、なんて言いながら。 褒めたくなんてないのに、悔しいったらありゃしない。 でも、事実なんだからしょうがない。ザックスもセフィロスも1stのソルジャーだし、戦闘能力だって優れてるし、それは勿論才能だろうと思う。そうでなければここまで名前が挙がったりはしないだろう。 「お前はそう言うが、もし世の中で“呼吸できることは才能だ”と認められたら、お前だって立派な才能持ちじゃないか。単に世間でそう思われていないだけで、それが才能だと思う人間からすればそれは才能だ。そもそもお前が、俺やザックスを才能あると思うのは、ソルジャーというフィールドを考えているからだろう?兵士などには微塵も興味がない人間からすれば、そんなものは才能じゃない。むしろ哀れまれるくらいのものだ」 「でも俺は羨ましいって思うよ!?」 「才能才能と言うが、そんなもの誰だって何かしらは持っているものだ。その才能を認める枠があるかどうかの問題だ。その枠を広げさせるのは確かに大変だろう。何もしなければ広がることはない。だが、残念なことに狭めることだけは可能だ」 お前がやっているようにな、そう言われて、クラウドは首を傾げる。 狭めている?自分が? まるで分からない。 そもそも才能なんて無いんだから、枠を広めるだの狭めるだの、関係ない気がしてしまう。けれどセフィロスは、そういう気持ちが枠を狭めるんだ、とハッキリと言い放った。 「自分には才能なんて無い、そんなこと出来ない。そういうふうにお前は自分にあるものを認めないで遮断するから枠がどんどんと狭まるんだ。ソルジャー試験の合否を決める人間に認めてもらいたいか?自分で自分すら認めていないくせに、誰かに認めてもらいたいのか?――――だからお前は馬鹿だと言ってるんだ」 「…そんなこと言われても」 セフィロスが真顔でそんなことを言うものだから、クラウドは怒られているような気持ちになって、思わず肩を竦めた。ちっとも進んでいないコーヒーが、肩を竦めているクラウドを映し出す。まるで鏡みたいに、静かに。 「クラウド、お前に魔法の言葉をやろう」 セフィロスはそんなことを言うと、すっと立ち上がり、クラウドの真横に座った。 何だろう、いきなり。 そう思いながら隣を見ると、恐ろしいほど近くにセフィロスがいる。いくらなんでも近すぎだと思うくらい近い距離で、セフィロスはクラウドを見ていた。 「もし誰もお前を認めなくても、もし誰もお前の才能を信じなくても、俺はお前を信じている。やれば出来るだとか、頑張れだとか、そういった言葉は俺は好まない。ただ俺は、お前を信じていようと思う」 「え…」 ――――――魔法の…言葉?…これが? あまりにも間近にいるセフィロスに、クラウドは思わず上体を仰け反らせながらそう呟く。真顔のセフィロスにそう言われると何だか不思議と説得力がある。でも、その言葉はなんだか少しクラウドの心に負担をかけた。 「あの…それは嬉しいんだけど…なんていうか、プレッシャーがかかるといいますか、あの…」 「プレッシャーをかける為の言葉じゃない。信じるということは、味方だ、ということだ。俺は、お前の味方だと言ってるんだ」 「味方…」 それは嬉しいけど…味方なんて言われても。 それでも結局、ソルジャー試験に受からなかったら意味がない。味方でいてくれたって、意味ないじゃないかと思ってしまう。 クラウドは、相変わらず上体を逸らしながら、言った。 「でも…セフィロス。俺、ソルジャーになりたいんだ。もし俺に何かの才能があったとしてもさ…俺、ソルジャーになりたいんだよ。枠を広げさせろって言うけど、自分を認めろって言うけど、ソルジャー試験に落ちたらやっぱり俺は落ち込んじゃうよ。セフィロスが言うようには、きっとできないよ」 セフィロスは、クラウドをじっと見やりながらその言葉を聞いている。真顔だ。 セフィロスがあんなふうに話したことを、結果的に否定するようなことを言って、きっとセフィロスは怒っているだろう。怒らないとしても、不機嫌にはなるだろう。それなのに、この近距離。少し怖い。 だけど、それは正直な気持ちだった。 セフィロスが言うようにしてみたいけれど、それはとても難しいことだし、本当にそれが自分の望むところに繋がるものかどうかも分からない。信じたいけど、怖いのだ。 だって――――――もし失敗したら、やっぱり無意味になってしまう。 そんなのは嫌だ。 「――――まあ、そう言うだろうとは思っていた。確かにそうだ、俺が言うのは、理想だ。実際に枠を広げさせることができるのは、ほんの僅か一握りの人間だけだろうしな」 セフィロスはふいにそう言うと、ふう、と息をついてソファの背にべったりと背中をくっつけた。 「確かに現実は現実だ。それは大方の場合、理想だけでは変えられない。俺がその良い例だろう。お前は俺を才能ある人間だと言うが、俺は枠を広げさせてやりたいと思いながらもそれを現実には出来ていない。未だにな」 「…うん」 「だがな、クラウド。理想というのは、現実を変える可能性を持っている。希望を持たない人間には設計図がない。だから流されるしかない、他人が決めた設計図通りに動くだけになる。だからこそ自分を認めて信じなければダメなんだ。そうじゃなければ理想すら追えない。現実を変える可能性すら薄れる。俺はそういうことを言いたいんだ」 たかが理想でも、持たないよりはまともだ、そうセフィロスは言う。 セフィロスの視線の先には窓があって、窓の外にはぽっかりと月が浮かんでいる。あの月はどんな昔から存在しているのだろう。初めてあの月を目にした人は、きっとあの月まで行くことなんて考えなかっただろう。けれど、今ではロケット打ち上げというものが現実に始まろうとしている。神羅の宇宙開発部門というところでは、そういうことが始まっているのだ。 あの月に行きたい、そう思う誰かの理想は、現実になろうとしている。 誰かが枠を広げたのかもしれない。 絶対無理だと思われていたものが、出来るかもしれないという可能性や、できるはずだという自信に変わって、行きたいという理想に変わって…そして、枠は広げられたのかもしれない。 「…セフィロスはさ、俺がソルジャー試験に合格するって、信じてくれるの?」 「ああ」 「もし落ちたら、それでも俺の味方でいてくれるの?」 俺はソルジャーになるって言って飛び出してきた、だからなれなかったら俺の今までは無意味になるんだ、そう説明しながら、クラウドはそんなことを尋ねる。 セフィロスは、少し笑って、そうだ、と言った。 「お前は落ちたら無意味だというが、俺にとってはお前が無意味になることはないし、俺はお前の味方でいる。落ちたら馬鹿にされるとか、落胆されるとか、期待に応えられないとか、そんなことは考えるな。お前を不安にさせるようなヤツのことを考えるくらいなら俺のことを考えろ」 「…はい」 クラウドはおずおずとそう答えながらも、その言葉を頭の中で反芻して、あれ、と首を傾げる。 何だろう、何だか今の言葉…。 「あの…セフィロス?」 「何だ」 「今の言葉ってさ、なんていうかこう…ちょっと告白っぽいね。俺、告白された気分だよ」 あはは、と笑ってクラウドがそう言うと、セフィロスはケロリとした顔でこう返した。 「何だ。お前、告白して欲しいのか?」 「は?いや、別にそういうわけじゃ…」 「だったらしてやろうか?」 「は…」 ―――――――何だって!? 上体を逸らしながら呆気に取られていると、セフィロスがズイズイっと迫ってきて、クラウドは慌てて後ずさりした。が、セフィロスは馬乗り状態で差し迫っており、クラウドはまるで襲われる寸前のような格好になる。 何だこのシチュエーションは!? 聞いてないよ!! そう心中で叫ぶクラウドをよそに、セフィロスは完全包囲といった状態でクラウドを押さえ込んだ。もう既に襲われている図だ、これは。セフィロスの体で完全に日陰状態だ。 「ちょ!ちょっとセフィロス!お、おかしいって!ちょっと!」 「何がおかしいんだ。俺はお前が好きだ」 「え!?ちょ、正気で言ってんの!?」 「正気だ」 ―――――――うそおおおおおお!!!!??? クラウドは絶叫した。…心の中で。 「俺はな、自分を信じている。理想もある。だからそれを現実に変えようとしているんだ。これから俺が実証してやろう」 「ちょーっと!!俺の発言権は!?無いの!?」 「何だ?」 「だから、その…!」 クラウドは思い切り発言権を行使しようと口を開けた。 …が、肝心なことに、言う言葉が見つからない。 これって何だか違わない?、と言いたい気もするが、セフィロスが本当に自分を好きだというなら、まあ間違ってはいないことになる。とすると、これはクラウドの気持ち次第ということになってしまうのではないか。 そう思った瞬間、クラウドはしどろもどろになった。 「お前は俺を受け入れられないか?お前は俺に対して枠を広げてはくれないか?」 「お、俺が…?」 そんな、枠なんて無い。 最初から無い。 それに―――――――――俺なんて、何も無いのに? 「枠なんて、無いよ。だって俺…ソルジャー試験の合否を決める人達みたいに、条件なんて出してないし…」 「俺には枠が見える、俺にはお前の心が分からないからな。お前の中に条件があるんだろうと考えるんだ。だから、自分がその条件をクリアしているかどうかが気になる。俺が勝手に考えた枠は俺を受け入れない枠、だから俺は…その枠を広げて欲しいと思う」 「それって…つまり、好きになって欲しいってこと?」 「平たく言えばな」 セフィロスはこれでもかというくらいの至近距離でひっそり笑った。 そして、クラウドの肩口に顔を埋める。 その一瞬、クラウドはドキッとしてしまった。キスでもされるのかと思ったから。それでなくとも横になって抱き合っているみたいな体勢なのに。 あんまりにもドキドキして、胃に異変が起きそう…。 「あの…さ。聞いても良い?」 「…ん?」 「セフィロスは、俺の才能って、何だと思う?」 何でセフィロスは自分なんかを好きだなんていうんだろう。ちょっと気になった。 最初はまさか冗談だろうと思ったけれど、この体勢はどう考えても…嘘じゃない気がする。だけど何でセフィロスみたいな人が自分なんかを好きなんだろう。まるでさっぱりと分からない。 セフィロスの回答は、さあ?、という言葉から始まった。 さあ?、なんて、まるでちんぷんかんぷんである。 でも…。 「ただ、俺が自分から好きだと言ったのはお前が初めてだ」 「…そっか」 ソルジャー試験になんてまるで関係ない。 関係ないけれど、何だか、嬉しかった。
「またかよ!?」 やっぱり自分は、もうショック死するかもしれない。 クラウドは、手にした憎き紙をまじまじ見つめながら、そんなことを思っていた。 手にした紙は、四度目の定期考査の結果が書かれているもので、結果は…散々。 「あーあ…」 やっぱり、なかなか上手くいかないや。 そうため息を吐くクラウドの隣で、セフィロスがその憎き紙をひょいと覗き込む。 「どうした?またドベか?」 「またって何だよ、またって!そんなことないよ!」 「はは、お前がそう言うなら、じゃあそんなことないんだろう」 「…信じないでよ。悪いよ、結果」 は〜あ…。 ため息だけは無限大。 ため息を吐けば吐くほど幸せは逃げていくというけれど、だったら今幸せってやつは自分の中から大脱走しているような気がする。と、クラウドは思う。 「ねえ、セフィロス。この前セフィロスが怒ってたソルジャーの人、どうなったの?」 あの時、まるで自分みたいだと思ったあの3rdのソルジャー。 彼は今頃頑張っているだろうか。あんなに怒られて、すっかりやる気を失くしてしまってはいないだろうか。 そんなことを思ってセフィロスにそこを聞くと、セフィロスは、あいつには才能がある、と言った。だものだから、クラウドは驚いてしまう。 だって、あの時言ったじゃないか。才能が無い、って。 「あれは言葉のあやだ。才能はある、しかし自分を信じてない。だからあれは、ただの喝だ」 「そうだったんだ…」 じゃあ、あのソルジャーは落ち込んでなんかいないのかもしれない。今頃やる気満々で笑顔で任務をこなしているのかも。 クラウドは、憎き紙をぐしゃぐしゃっと丸めると、思い切りそれを空に投げつけた。 ぽーん…と、空に上がっていく悪い結果。 あれが、空に溶けてしまえば良い。そうしたらきっと、どんな悪い結果がどんなに積み重なったって、広く青く自分を見守る空の一部になるんだから。 「俺は、負けないよ」 「ん」 クラウドの目前には、笑顔で深く頷くセフィロスの姿があった。
数分後――――…。 「不法投棄したヤツは誰だああああ!!」 「やっばいっ!」 クラウドが一目散に逃げたのは言うまでもない。
END
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