才能〜sight know〜

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「また!?」

もしかしたら自分は、そろそろショック死するかもしれない。

クラウドは、手にした憎き紙をまじまじ見つめながら、そんなことを思っていた。

手にした紙は、定期考査というやつで、これでポイントを稼げば上手い具合にソルジャー試験に受かる…という噂がある。まあこれは噂であって、真実はどうかはわからない。しかし真実が分からないからにはそれを信じるのが人間というものだろう。

結果は、散々。

三度行われた考査で、三度とも散々。

――――――さすがにヤル気を失くす。

「あーあ…俺、やっぱりソルジャーに向いてないのかも…」

ソルジャーという結果が出せなければ、意味なんかまるで無い。兵士になりたいわけじゃないのだ、あくまでソルジャーになりたいんだから。

だから、結果的にソルジャーになれないとしたらそれは、あまりにも無意味な時間を過ごしているということになってしまう。

そんなの、嫌だ。

絶対にソルジャーにならなきゃ。

そう思うクラウドだったが、自分が絶対にソルジャーになれるという自信などはどこにもなかった。ただ漠然と、そうなれば良いな、なんて思っているだけで、それはまるで現実を帯びていない。

それでも期待はしているものだから、いざこういう結果を見てしまうと物凄く落ち込んでしまうわけだ。

「もしソルジャーになれなかったら…俺が神羅にいる意味って何もないよな」

はあ、ため息を一つ吐く。

その息が白くなって、空気の中に溶け込んだ。

冬の、始まりだった。

 

 

 

「なんじゃこりゃ!?お前、こりゃ酷いな」

「酷いな、って!ザックスのその言葉の方が酷いよ!」

「うっわ…これなんてドベじゃん。ヤバいぞ、クラウド」

「そ、そんなこと無いよっ」

冬の始まりの、昼下がりのこと。

今日はオフだというザックスが用もないくせに会社に来ていて、クラウドはザックスと散々だった例のブツについて話をしていた。

ザックスは、かなりのスピードでソルジャーになった人だ。

本人は、あんなの簡単だぜ、なんて言っている。

そりゃザックスは良いよザックスはさ、なんて愚痴りながらも、クラウドはその秘訣とやらをザックスから聞き出そうとしていたのだが、ザックスはさっぱりそんなことは教えてくれず、ひたすらクラウドの結果の悪さに爆笑している。

―――――――そんなに笑うことないのに!

酷いったらありゃしない。

「も〜!ザックス、全然アテになんないよ。折角秘訣を聞こうって思ってたのに」

「秘訣?そんなのあるわけねえって」

ザックスはクラウドの悲劇の紙をパラッと脇のテーブルに置くと、才能ですよ、才能、なんて言い出した。

へえ、才能ですか…――――――なんて頷けるか!

才能なんて言葉を出されたら、努力なんか太刀打ちできないじゃないか。

「それって、俺には才能が無いってこと?」

ぶすっとしてクラウドがそう言うと、ザックスは「別にそういうわけじゃないけど」なんて言う。じゃあどういうことだよ、とクラウドが突っ込んだのは言うまでもない。

ひと気の無い兵士用の待機室の一つで、ザックスは椅子の上に胡坐をかいている。そして、目の前の椅子に座っていたクラウドに、

「それはさ」

とにっこりと笑った。

「才能っていうのは、別に技術とかさ、センスとかさ、そういうものだけじゃないって思うんだ。例えばな、運が良いっていうのがあるだろ?あれだって一つの才能なんじゃないかってこと。運が良かったとか、努力が上手い具合に報われたとか、そういうのも才能の一つだと思うんだ、俺は」

「じゃあ俺は、その中の1つも才能が無いってこと?」

「だ〜か〜ら!そうじゃなくてさ、偶然なんだよ。例えば俺は、たまたま上手い具合に受かった。それは、たまたま受かるっていう巡り合わせの才能があったってこと」

「じゃあ…俺にもいつか、それは来る?」

クラウドがそう聞くと、ザックスは両手を上げて「さあ」なんて言う。それを見て、何だよ、無責任じゃん、とクラウドは思わず詰った。

それじゃダメなんだ。

絶対それに巡り合わないとダメなんだ。

そう思うクラウドの前で、ザックスは大きな欠伸をする。まるで暢気だ。

クラウドは頬杖を付きながら、ザックスに聞くんじゃなかった、なんて後悔をする。もっと役立ちそうな、もっと実践的な、そういう言葉を聞きたかったのに、そんなのまるで出てくる様子が無い。

――――――もう良いや。

ザックスがダメなら、セフィロスに聞こう。

クラウドはそう思い立つと、憎らしい紙を手にして、ザックスに別れの挨拶をした。

 

 

 

セフィロスは任務だと言っていたから、すぐには会えないとわかっていた。だけれど、どうしても会いたい。会って、何としてでも実践的で役立つ秘訣を教えて貰いたい。

クラウドはそう思っていたから、セフィロスが帰ってくるまでずっと待っていた。

任務が終わった後は、一旦待機室に戻るから、そこにいればいつかは帰ってくる。

そう思いながら待つこと3時間。

それは、あまりにも長い時間だった。

あまりにも暇だったから、憎い紙をペラリと見てみたが、もう眩暈がしそうになってしまい、クラウドは慌ててその紙を伏せたものである。

――――――セフィロス、早く帰ってこないかな?

何度かそんな言葉を心の中で呟いた後のことだった。

カツン、という音がして、何者かがやってきたことを告げる。

「セフィロス?」

はっとして顔を上げると、そこには確かに銀髪が揺らめいており、クラウドは思わず立ち上がってセフィロスの名を叫……ぼうとした――――、が。

 

「お前には才能が無い!すぐにでも辞表を出せ!」

 

耳を劈くような怒鳴り声。

それが耳に入り、クラウドはビクッとして足を止めた。

見ると、そこにはセフィロスだけでなくもう一人誰かがいる。服の色からすれば、どうやら3rdのソルジャーらしい。

あのソルジャーは何かをしたのだろうか、セフィロスは恐ろしい顔つきでそのソルジャーのことを怒っていた。こんなセフィロスを見るのは初めてで、思わずクラウドは萎縮してしまう。

しかも―――――――“才能が無い”だなんて。

ザックスとの会話を思い出して、なんだか妙に自分が怒られているみたいな気分になって、萎縮するだけでなく気まで滅入ってしまった。

「ソルジャーになれた事をうかれるのは結構だが、大切なのはそれを維持することだ。それを怠るようなら、そんなヤツは不要だ。荷物を纏めてさっさと故郷に帰るがいい」

「す、すみません…!」

3rdのソルジャーは、もしかすると泣いているのかもしれない。声がくぐもっている。

男なのに泣くなんて、そう思わないでもないクラウドだったが、確かにセフィロス相手にあんなことを言われたら、恐ろしくて泣いてしまうかもしれない。しかもセフィロスはただ怒るだけじゃなくて、神羅を辞めろとまで言っているのだ。

そこまで言わなくても良いのに。

クラウドはそんなことを思いながらも、二人の様子を伺う。

「お前は明日も神羅にいるつもりか?」

「お、俺は…その」

「いるつもりなのか、と聞いている。答えろ!」

「は、はいっ!じ、自分は神羅にいたいですっ!!」

「―――そうか。ならば少しは考えることだな。俺の言っている意味が解るな?」

「はいっ!!」

3rdのソルジャーは、敬礼ポーズをしながら一等大きな声でそう叫んだ。本当に分かっているんだか分かっていないんだか、それは知れないが、ともかくあの場ではそう答える他ないだろう。じゃなければすぐにでも辞表を出さなければならないという雰囲気だ。

「帰れ」

セフィロスが静かな声でそう言うと、3rdのソルジャーは深い一礼をして、バタバタとその場から去っていった。

セフィロスは、その後姿を見送りながら、ふう、と息をつく。

――――――やっと終わった…。

クラウドはそう思い、すぐにもセフィロスに話しかけようと思ったけれど、どうも足が上手く動かなかった。どうやら先ほどのセフィロスの迫力に怖気づいてしまったらしい。

バカだな、俺。

俺が怒られたわけじゃないのに。

そう思いながらも、あの3rdのソルジャーは、まるで自分の分身のような気がしていた。あの3rdソルジャーだって、頑張ってソルジャーになったのだろう。それなのに、ソルジャーになったらなったで、あんなふうに怒鳴られるかもしれないのだ。努力していたって、あんなふうに認めてもらえずに怒られるのかもしれない。辞めろ、なんて言われて。

「―――――ん?」

ふと、セフィロスが背後を振り返った。

そして、え?、という顔をする。

「…クラウド?」

「あ…セフィロス。任務、お疲れ様」

酷く遠いのに、何で自分だと分かったのだろう。そう思いながらも、クラウドはひとまずそう挨拶をする。

セフィロスはそれがクラウドだと確信し、何をやってるんだ?と不思議そうな顔をしながらクラウドの近くにやってきた。

セフィロスの体からは外の寒い空気の匂いがつん、とする。

「ごめん、俺、セフィロスに話したいことがあって…待ってたんだ。でも誰かと話してたから…さ」

「ああ、あれを見ていたのか。悪かったな、どうも最近ああいった奴が多くてな。喝を入れてやらんと堕落するのは困り者だ」

「そ、そうだね…」

また“才能”か。

俺にもその才能は無いんだけどな。

そう思いつつも、クラウドは口では同意を返す。

「それで、俺に何の用だ?」

「あ…あのさ。俺、ちょっとセフィロスに聞きたいことがあるんだ」

未だに足が動かないのが悲しいところだが、クラウドはセフィロスを尋ねたその理由――――つまり、秘訣を教えて欲しい、というのを切り出したのだった。

 

 

 

話すのはどこでも良かったが、セフィロスの希望でそこから先はセフィロスの部屋で話すことになった。

ちゃっかりコーヒーなどをご馳走になり、ちゃっかりふわふわのソファなどに腰をかけつつ、改めて例の話をする。

がしかし、それはこの部屋の暖かさとは反対に、実に冷たい言葉をクラウドの突き刺すこととなった。

「――――――ハッキリ言おう。秘訣なんてものは、無い」

「は…」

セフィロスは、先ほど3rdソルジャーを怒ったときの延長戦みたいな小難しい顔をして、コーヒーカップの中身を見つめている。まさかそこに答えが書いてあるわけでもあるまいに、異様に神妙にそこを見つめている。

その神妙な顔がふと自分に向けられたとき、クラウドは悟った。

コーヒーカップの中身に映し出されていたのは、きっと自分なのだろうと。

「お前は役立ちそうなものだとか実践的なものだとか言うが、仮にそういったものが存在しているとしても、それがお前に適合するとは限らないということを考えないのか?」

「いや、だからさ、つまり俺に合った秘訣を教えて欲しいって言うことで…」

「そんなもの、俺が分かるわけないだろう。俺はお前じゃない。俺は俺だ。俺のことしか分からない」

「そんな…」

そんなことを言うけど、セフィロスはさっきあのソルジャーを怒ってたじゃないか。

才能が無いと言ったじゃないか。

それはつまり、これこれこういう基準というのを分かっていて、だからそう判断できたのじゃないか。だったら、秘訣だって分かるはずだ。

クラウドはそう思ったけれど、それを上手く説明できずに口ごもる。

そうこうしているうちに、セフィロスが一つ逸話を、と静かな声で話し始めた。

「俺が以前共に仕事をした兵士で、実に良く出来る兵士がいた。実直、勤勉、類まれなる才能…実に良く出来る兵士だ。だが、聞けば彼は、ソルジャー試験には5回も落ちているというじゃないか」

「5回!?」

「そうだ、5回。俺は何故だか理解できなかった。これほどの才能を持っていながらそれを埋もれさせるなど、神羅は阿呆じゃないかと思った。…だが、確かに彼の持つ才能はソルジャーとしてはさして求められていない才能だ。つまり、彼は素晴らしい才能を持っているが、適合していないというわけだ」

「適合…してない」

そう、とセフィロスは頷くと、そういう人間が五万といるんだ、と続けた。

その場合、彼自身は才能がないわけではないのだ。むしろ、あるのだ。

しかしそれは、ソルジャーというフィールドから見れば、才能が無い、ということになってしまう。求めているものが違うから。

「世の中にはマニュアルのように“こうすればこうなれる”というものが存在する。ジンクスとも言うかもしれないな。例えば、ソルジャーで言うならば……体力や戦闘技術といったところだろう。しかし、もし体の弱い人間だったら?体力作りこそソルジャーへの第一歩と言われて無理に体力作りをすれば、体は壊れる。それでは意味がない。折角もっている才能すら無駄になってしまうかもしれない。つまり、マニュアル自体が適合していない」

「そうだけど…体力が無い人なんて、そもそも兵士に向いてないよ」

「そうだな、確かに世の中の常識だとそうだ。お前は向いてない、お前は才能が無い、そういうことになるだろう。だが、もしそれが彼の唯一の望みだったら?唯一の望みなのにそう言われたら、お前はどう思う?お前は正にそこを悩んでいるんじゃないか?」

「まあ、そうだけど…」

お前は向いてない。お前は才能が無い。

そんなふうに言われたら、やっぱり嫌だと思う。

確かに―――――――今の自分は、それだ。

先ほどの3rdソルジャーも、セフィロスにそう言われていたのだ。才能が無い、と。辞めろ、と。

「お前はどう思う?そういう事態になったら、もう道は無いと思うか?諦めるしかないと?」

「思いたくはないけど…でも、向いてないって言われたら…」

「諦めるか?できるか、それが」

「……出来ない」

ソルジャーになりたい、そう思ってここまでやってきた。

それを、貴方は向いていませんなんて言われて、無駄にしてしまうのは、嫌に決まっている。諦められない。というより、諦めたくなんてない。

クラウドの返答に、セフィロスは少しだけ笑った。そして、そうだろう、と言う。

「道は――――――無いわけじゃない」

「え?じゃあ、どうするの?」

「体力が無いから兵士になれないなんて、誰が決めた?普通兵士とはそういうものだと思い込んでいるからこそ、そう思うだけだ。ソルジャー試験の合否は人間が決めているんだぞ。同じ体も同じ感覚も同じ才能も持たない人間が、どうして誰かを判断することができる?そもそもそれ自体がおかしいんだ。体力が無くとも別の才能のある兵士の必要性を持たせれば、彼は確実にトップクラスになる。だが、その“枠”がない。その枠さえあれば、不適合なマニュアルも不条理な才能も必要などないだろう。彼自身が持つ才能だけで、それは成り立つんだ」

セフィロスは、最後に一言こう言った。

自分が変わるのじゃなく、周りを変えさせれば良い、と。

枠がないなら、枠を広げさせれば良い、と。

それは、クラウドが考えているのとまるで正反対の言葉だった。だって、ソルジャー試験に受かるための秘訣は、ソルジャー試験に自分を合わせるということだ。それに受かるように、自分を変えるということだ。まるで正反対である。

しかし、そうは言っても、セフィロスが言うようなことは大きすぎて出来そうも無い。もしそんなことが出来るなら、それこそ才能があるということじゃないかと思ってしまう。

確かに理想的だけど、そんなの、無理だ。

クラウドはそう思う。

だから、素直にそう告げた。それは俺には出来そうにもない、と。仮にその逸話の彼には出来たとしても、自分には彼のような別の才能すらないんだから、と。

クラウドはそれを大真面目に言ったつもりだったが、セフィロスは何故かそれを一笑に付した。

「クラウド、お前は馬鹿だな」

「ちょ!バ、バカって!酷いよ、セフィロスといいザックスといい!」

「何だ、お前はザックスにも相談したのか?」

「したよ!しましたよ!悪かったですね〜だっ!」

ザックスはなんと言っていた?、そう聞かれて、クラウドは剥れながらもザックスとの会話の内容をセフィロスに話した。そこでも才能がどうのといわれて、更に悪いことにはザックスは何も教えてくれなかった、と。まるで参考にならないからセフィロスのところにきたんだ、と。

それを聞いたセフィロスは、コーヒーを啜りながら、ふうん、と気の無い返事をする。自分から聞いておいて何ていう気のない返事なのだろうか。そう思って、クラウドはますます膨れた。

 

 

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