|
ツリーに願いを -----------------------------
大きなクリスマスツリー。 色とりどりの飾りが揺れていて、イルミネーションがとても綺麗で。 久しぶりの再会がクリスマスだなんてなかなかのシチュエーションだと思う。それを思いついたのはさすがに女性だったけれど、なんだかんだいって男性陣も賑わっていたのは成功の証だろう。 クリスマスの再会は、その日の内に終わりを見せた。 それぞれ忙しいからといって、日付が変わる前には手を振って別れる。別れるときには笑顔でいられたし、これで二度と会えないというわけでもないから気が楽である。時期的にクリスマスというと年忘れも兼ねているという感じだから、恐らくこの再会は今年一年のおつかれ会みたいなものだったのだろう。一緒にいなくても、心では繋がっているというその証拠みたいに。 「終わった、か…」 皆に別れを告げたクラウドは、独りその場に居残ると、そっとクリスマスツリーを見上げた。ミッドガルにあるこの巨大ツリーは、今年のクリスマスには観光スポット並みに注目を浴びており、どうやら相当の数の人々が訪れたらしい。 「昔は…ツリーに願いをかけたな」 クリスマスツリーに飾られているのは靴下だったり星だったり、クリスマス専用の飾りである。だからそこに願いをかけるのは間違っているのだけれど、そういえば昔そんなことをした記憶があるなとクラウドは思い出す。 それは相当昔の―――――――――幼い頃で。
『クラウド、クリスマスツリーには願いはかけられないのよ』 母親が笑いながらそう言ったのに対し、幼少の頃のクラウドは躍起になって、そんなことない!と反論したものである。 家庭用の小さなツリーにはいくつかの飾りがついていたが、さすがに家庭用だけだって目立たない程度しかつけられていなかった。ところが他の同年代の子供の中には、家庭用なのに大きなツリーを飾っているところもあって、それをちらりと覗いたところそこには相当の飾りがつけられていたのである。 クラウドには、それが悔しかった。 幼かったから、家の貧富がどうのなんて考えることはしなかったし、実際それほど貧しいわけでもなかったけれど、何だか自分が負けているような気がして嫌だったのだ。 だからクラウドは、自分の願い事を短冊にして、クリスマスツリーに飾った。 願いは幾つか書いた。 こんなに書いたらサンタさんだって叶えてくれないでしょうと母親に言われたけれど、そんなのはどうでも良かったのである。ただ、そうして願いをかけて、それが飾りになって、煌びやかな飾りのあるツリーになればそれで良かったのだ。 どんな願いをかけたのか、それは覚えていない。 だけれど、時期的にセフィロスが英雄として君臨していた時期だったから、多分そういう事を書いたのだったと思う。強くなりたいとか、立派な兵士になりたいとか、そういうことを。 やたらめったらに願いをかけたそのツリーに対し、母親は最終的にはこういった。笑いながら。 『願い、叶うと良いね』 そう言われてクラウドは、得意げになって答えたものである。 叶うと良いね、じゃなくて、叶うよ、と。
そんな幼い頃のクリスマスツリーのことを、それから毎年思い出していた。 神羅に入って殺伐とした雰囲気の中で過ごしているときでさえ、その時期になるとそれを思い出したものである。 神羅の兵士として過ごしていた時期は、神羅が用意した巨大なツリーを見るのがクリスマスの恒例だった。とはいえそれほど長い期間そこにいたわけではないから恒例といっても数えるくらいの話である。しかし何年も神羅で過ごしてきた人によればそれは毎年恒例のツリーなのだそうで、すっかりそれに慣れていた兵士にとってはそれは最早クリスマスという特別な日を喚起させるものというよりも単なる景色の一部となっていた。 セフィロスは、そういう兵士のうちの一人だった。 長年神羅にいるから、ツリーが出ても「またあれか」というくらいで特別何も思いはしない。ただ単にその時期になったなと思うだけで、基本的に無関心である。まあセフィロスの場合は特にそういう行事に無関心だったから、それが助長されていたということもあるのだろうが。
ある年のクリスマスのこと、クラウドはセフィロスと一緒にクリスマスを過ごす約束をしていた。僅かな期間一緒にいただけでセフィロスの心を開かせることに成功したクラウドは、セフィロスとそういう特別な日を過ごせることに大きな喜びを感じていたものである。 ただでさえ無関心なセフィロスのこと、きっとクリスマスなんてくだらないと一蹴してしまうだろうと思っていた。 けれど、そうじゃなかった。 ためしに、本当に試しに「もうすぐクリスマスだね」と言ったら、セフィロスは思いのほか優しい言葉をかけてくれたのである。 そういえばそうだったな、クリスマスはどうしたい? お前はいつも通り訓練でもするのか、それとも俺と一緒に過ごすか? そう聞かれたら、答えなんて一つしかなかった。一緒に過ごそうというそれしか答えなんてありえない。だからクラウドは嬉しくなって、笑顔で、一緒にいたいとそう告げたのである。 だからその年のクリスマスは、セフィロスと過ごした。 毎年セフィロスが無関心だったクリスマスツリーも、その年だけは意味があるものに変化した。何か恩恵があるわけでもないのに、何となくそのツリーを眺めて、そうして肩を並べあって。 そういうふうにしている間、セフィロスは優しかった。 ツリーを眺める目も心なしか優しい気がして、クラウドにはそれが嬉しかった。だって、そんなふうに優しい目で恒例のツリーを眺めてくれるのも、全ては自分あってのことだとわかっていたから。 『こうして見ると、あれも悪くは無いな』 『え?ツリー?』 『ああ。別にこれということもないが、まあ月並みに言えば…綺麗、というのか?多分、そんなふうに思う』 セフィロスがそんなふうに遠まわしにモノを言うものだから、クラウドは思わず笑ってしまったものである。多分そう思う、だなんて、自分のことなのにまるで他人のことみたいだ。 『変なの。自分のことなのに』 『そうだな。でも俺は、今までこんなふうに思ったことはなかった。あれはただの木でしかないのに、この時期になるとやたらと重宝されることが疑問だった』 セフィロスはそう言うと、でも今年は違う、と続けた。 クラウドは、今年は自分がいるから違うとでも言ってくれるものかと思ってドキドキしたものだが、セフィロスが言ったことはそれとは少しだけ異なっていたものである。 セフィロスは言った。 『ただの木が特別になるのは、行事のせいじゃないんだな。あれは特別になるのはつまり…“俺が特別だと思いたいから”だったんだな』 『特別に思いたいから?』 どういう意味かと首を傾げてそう問うたクラウドに、セフィロスは笑って手を伸ばす。そうしてその手でクラウドの髪をクシャリとやると、たった一言だけ、気持ちだ、と言った。 気持ち。 セフィロスはそう言ったけれど、クラウドは何だか妙な気分だった。 だって気持ちは自分に対するものじゃないのだろうか。一緒にいて、一緒にツリーを見て、綺麗だと賞賛するから特別になるんじゃないのだろうか。 『…やっぱり変なの』 『そうだな』 セフィロスは笑顔だったから、クラウドはそれ以上は何も聞かなかった。 別にそんなことが分からなくても、一緒にいて笑顔でいてくれるなら、それだけで良いと思ったからである。 そんなふうに過ごしたその日の最後に、セフィロスはそっとこんなことを言った。 『俺はこの木に願いをかける。くだらない願いだが…たまには良い』 そんなふうに言ったものだから、クラウドは昔の自分を思い出してちょっとだけ嬉しくなったものである。あの時は母親に願いをかけるものじゃないといわれたけれど、セフィロスもこうして願いをかけるといっているのだ。そういうふうに同じ事を思えることはこの上ない喜びである。 『俺も昔、願いをかけたんだ。クリスマスツリーはそういうものじゃないって言われたけど。セフィロスも俺と同じだね』 『そうだな』 『ねえ、どんな願いをかけたの?』 『秘密だ』 セフィロスは、その願いとやらを教えてくれることはなかった。 それは一年経っても二年経っても同じことで、その内セフィロスはそれを教えてくれるような存在ではなくなってしまった。 期間限定の煌びやかなツリーにかけた願いは、一年の間思い出されることもなく、その時期になってようやく思い出させるものとなっていく。本当に期間限定の願い。 どんな願いをかけたかすら思い出せないままに色んな季節を過ごしていくから、その時期になって、そういえばそうだったなと、やっとその思いに立ち返ることができる。
町を行き交う恋人達の背景でしかないクリスマスツリー。 だけれどそれは、クラウドにとっては単なる背景ではなく、願いをかけるもの。 その願いは年々積まれていって、年輪のように厚くなっていく。 終ぞ叶わなかった願い。 今でも続いている願い。 色んな願いがあるけれど、その中でも一番大きかったのは、そう――――。
幼いあの頃に、家庭用の小さなツリーにかけた願いだったと、思う。
あの頃は、小さくて貧弱なツリーが少しでも煌びやかになれば良いと思っていた。だからこそ、短冊に願いをかけて飾ったのだ。そうして煌びやかになったツリーに、自分はとても満足をしていた。 今はもう、部屋にツリーを飾ることなどしない。 ミッドガルの大きなツリーを見ているだけで十分だし、そのツリーはやたら大きくて十分に煌びやかだったから、自分が何かを飾り付ける必要などない。飾りを増やさなくても、寂しいなんて思ったりしないから。 それに、今はこう思うのだ。 例えばクリスマスツリーが小さくて貧弱でも、飾り気がなくて寂しくても、無理に飾り付ける必要なんて無いんだ、と。今もし此処に小さくて葉だけしかないツリーがあったとしたら、クラウドはそれでもそれに満足するのだと思う。 幼いあの時にかけた願いは、大きすぎる願いだった。 母親に対して「叶える」と胸を張ったことは、今でも叶っていないと思う。 煌びやかになるように色々なものを飾り付けてまるで大きくなったように、力強く綺麗になったように見せかけていたけれど、本当はそれは違っていた。本当のツリーはいつだって質素で飾り気がなくて、ただそれだけの、木でしかなかったのである。 だけれどそれこそが、本当のツリーだったのだ。 それは目に見える煌びやかなツリーではなく、目に見えない心の中のツリー。 年々増えていった願いによる年輪を持つ、大事なツリー。
|