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「何で此処が分かった?」 「えっ!…あ、あの…ザックスが教えてくれて…」 「ああ、あいつか」 まったくあいつはお喋りだな、と、セフィロスは一人でぶつぶつ呟いてる。ベットに横たわってぶつぶつ呟いてるもんだから、ハタから見ればこれはかなり異様だと思う。 でも俺には、そんなセフィロスが何だか少し近く感じられた。 いつもと違って覇気が無いからなのかな、こんなふうに感じるのは。いつもだったら一挙一動がいかにもセフィロスらしくって、やっぱり英雄なんだなあって思うのに、今日は何だかそうは思えない。何だか、とても近く感じられる。 「――――あの」 そう感じたら、何だか俺は自然と焦りが無くなったような気がした。 今さっきまで焦ってた俺は、きっとセフィロスに怒られるんだろうな、とか、嫌がるんだろうな、とか、そんなことを頭の隅で考えていたんだろう。だけど何だか今は、そんなことはどうでも良いような気になってる。 そんなことより、もっと気になることがあった。 それは、セフィロスに覇気がないその理由と思われる部分なんだけど。 「セフィロス、随分バテてるんだってね」 俺がそれを口にすると、セフィロスは覇気のない顔をしたまま「またあいつか」と愚痴をこぼした。それから、少しして「残念ながらそうだ」と肯定した。 「なるほど…お前が此処にきた理由はそれか。あいつの吹き込みで、俺の様子を見に来たというわけだな」 セフィロスはそんなことを言って、俺が此処にきた理由を勝手に納得し始めた。本当は、三週間も会ってないって事の方が俺には大きかったわけだけど、まあセフィロスが納得してるからそれで良いかって思って俺は特に何も言わないでおいた。 「夏はどうもいかんな。失態を見せるようで難だが……どうも毎年バテる。特に今年はマズかったらしくてな」 「特に今年は、って?」 「ああ。実のところ、今年は――――――本当に倒れた」 「ええ!?」 俺は素っ頓狂な声を上げた。 まさか本当に倒れたなんて考えられない。他の人ならまだしもセフィロスが。 確かザックスは言ってたはずだ、セフィロスって人個人が夏に耐え切れないだけで熱中症とかそういうのじゃないって。だけどセフィロスの言葉を信じるなら、今年は本当に倒れたってことなんだろう。つまり、自分が耐え切れないとかそういうことだけじゃないってことだ。 俺は「平気なの?」と聞いてみたりする。 だけど、そう言ってからその言葉がどんなに筋違いかに気付いた。だって、平気だったらこんなにグッタリしてないはずだ。平気だったら俺にそんなこと言わないはずだ。ってことは、平気なわけないんだ。 「平気なのか平気でないのか、俺にも良く分からん。まあ、自分で良く分からないと思う時点で平気ではないんだろうな。気分が優れない」 「じゃ、じゃあ、医務とか行った方が良いんじゃないの!?」 「いや、あそこより此処の方が落ち着く」 セフィロスはそう言うと、何となく笑った。 何となくっていうか、多分セフィロスはいつも通りに笑ったんだろうけど、暑さでやられているせいかそれが普通じゃなく見えるんだ。何だか消え入りそうな笑いに見える。 俺は何だか、自分が馬鹿みたいに思えてきた。 だって俺はセフィロスに会いたいって思ってたんだ。それは別に悪いことじゃないと思うけど、セフィロスが本気でバテてるっていうのにそんな事思ってた俺は、何だか随分とお気楽な奴に思えた。 セフィロスはこんなに辛そうなのに、俺はそんなことちっとも思いつかなくて。 というよりむしろ、俺は恋人なのにそんな事すら知らないって悔しがってた。 でも、よくよく考えたらこれって、悔しいとかそういう問題じゃないんだって思う。だってセフィロスは本当に体調が悪いんだから。 「あのさ、セフィロス」 俺は何だか今までの自分に悔しくなって、無意識にそれを口にしてた。 「俺に出来ることって何か無いかな」 俺なんかに出来ることなんて無いかもしれないけど、もし何か小さなことでもあるとしたら、セフィロスに何かしてあげたいって思う。 どんな些細なことでも良いから、何か出来たら良いのにって。 そんな俺の心に、セフィロスはこう一言投げかけた。 「…そうだな。じゃあ、上半身だけでも起こしてくれないか。どうも起きる気力も無くてな。そもそも動く気力が持てん」 「え。そんなことで良いの?」 「ああ、それが良いんだ」 セフィロスがそう言うから、俺はセフィロスの横たわってる錆びたベットに近づいた。それからセフィロスの肩に手をやると、力を込めてセフィロスの上半身を起こす。セフィロスは力が入らないんだかで全圧力がそこにかかってて、それは俺にとってかなりの重さだった。 上半身だけを起き上がらせたセフィロスは、ふう、と溜息みたいなものをつくと、最後に俺にありがとうと言った。別にたいした事じゃないのにそんなふうに言われるのは何だか悪い気がしたけど、俺はそれにどういたしましてを返す。 何だか変な感じ。 セフィロスが未だかつてないほど近く思えるし、何だか妙に満足した気分になる。何なんだろう、こういう気持ちって。 すごく嬉しいとかすごく楽しいとかそういうわけじゃないのに、心の奥の方がじんとあったまる感じがするんだ。すごく鈍いあったかさなんだ。 外はすごく蒸し暑くて、俺は夏が苦手だけど、この鈍いあったかさは何だか好きだと思った。じんわり肌に纏わり付く暑さも、この時ばっかりは問題じゃないように思えた。 「クラウド」 「うん?」 俺はセフィロスに呼びかけられて、そう答える。 そう答えた後すぐに、俺はとてもドキリとすることになった。 「悪かったな。かれこれ三週間は会ってなかっただろう。俺にも休暇があったんだが、どうもこの調子ではな。起き上がれもしない俺では、一緒にいても意味もないだろう」 「あ…」 ああ、そっか。そうだったんだ。 セフィロスはザックスの言う通りカッコつけマンかもしれないけど、だけどそれだけじゃなかったんだ。それは、俺を気遣う気持ちもあったからだったんだ。 俺は今更ながらそんなことに気付いて、何だかじーんと来てしまった。 だから俺は、本当の気持ちを伝えてみる。 本当は三週間会ってないことが嫌だったんだとか、セフィロスが夏にバテることを俺だけ知らないみたいで嫌だったんだとか、言わなくても良いことだっていうのに俺はそれを全部口にした。そして、最後にちゃんと言った。 「そんなこと無いよ。意味無いなんてこと無いよ。俺は嬉しいよ」 って。 セフィロスが体調悪いのに無理して会うのはやっぱり不味いと思う。だけどもしセフィロスが会いたいと思ってくれて会うとしたら、その時のセフィロスがどんな状態であれ俺は嬉しいに決まってるんだ。 起き上がれないなら、俺はセフィロスを起こすよ。 眠りたいなら、俺はセフィロスの隣で一緒に眠るよ。 そこには嫌なことなんて何もないよ。 だってそこにあるのは、さっき感じたみたいな鈍いあったかさだけだから。 「そうか、それなら良かった。今日お前が来た瞬間、立つ瀬がないと思ってたのも救われるというものだ」 「そんなこと思ってたの?」 「そりゃあな。何せこれじゃあ英雄が形無しだろう?」 その言葉に、俺はちょっと笑った。 カッコつけマンだね、って言いながら。 そしたら、セフィロスもちょっと笑った。 それは、さっきより少し健康的な笑顔だった。 「さしもの英雄でも、倒れれば手が必要だ。独りでは立ち上がれない。もがいているしか能が無い。だから…そうだな、今日お前が来てくれたことは、本当は幸運なのかもしれないな」 心なしか気分が良くなってきた気がする、とセフィロスは続ける。 俺はそれを聞いて、いつだったか見た風景を思い出した。 それは沢山のセミの死骸の中で、ひっくり返ったまま起き上がれなくてジタバタしてるカナブンの姿だった。 周りのセミは短命で、使命を終えたというふうに死骸になっていく。それは彼らに与えられた生き様だからどうしようもない事なんだろう。だけどカナブンは、ひっくり返りさえしなければまだまだ生きていられたんだ。それなのにひっくり返ってしまったが為に、もがいてもがいて、起き上がれなくて、そうして死んでいったんだ。 もしあの時あのカナブンを起き上がらせていたら、きっとカナブンは死んだりしなかったんだろう。きっと今頃頑張って生きてたんだろう。 俺には、出来ることがあったんだ。 あの時も、今だって。 「あのさ、セフィロス。俺、たまにこの隠れ家に来ても良いかな?」 「隠れ家?」 なんだそれは、とセフィロスは不思議そうな顔をする。だから俺は、ここは誰も来ないような場所だから隠れ家みたいじゃないか、と説明した。 その俺の説明にセフィロスは、言いえて妙だな、と唸る。 こんなところにベットがあるなんて不思議だったけど、どうやらそのベットも、過去医務室で使われていたベットだったらしい。要するに、普通に倉庫にあった品だっていうことだ。しかもセフィロスの言うことによれば、隠れ家のようなこの部屋も元はといえば倉庫番という人がいて、その人が常駐する為に作られた部屋なんだっていう。だから此処だけ別世界みたいに部屋っぽいんだ、と俺は思わず納得してしまった。 この隠れ家は埃っぽくて錆びたものばっかりある。 本当なら、療養するにはまるで向いてないって思う。 だけど、この隠れ家でだったらセフィロスだって英雄を休業してジタバタできるんだ。形無しの英雄でもいられるんだ。そして俺は、そんなセフィロスが誰にも知られないまま本当にダウンしてしまう前にちゃんと手を差し伸べてあげられるんだ。 「来ない方が良いなら来ないけど、来ても構わないなら俺はまた来たいな」 「そうか。だったらいつでも来ると良い。夏が終わるまでは此処でぐったりするのがオチだからな」 「じゃあ、その都度俺が起こしてあげるよ」 「なるほど、妙案だ」 セフィロスは少しおどけたようにそう言うと、最後に、 「さながらお前は元気剤だな」 と、笑った。
じりじりと照ってる太陽の下を散歩する。 木が立ち並んだ場所を通ると、ミーンミーンミーン、とセミが大合唱した。 相変わらずすごい音量だなあ、そんな事を考える。 そんなことを考えながらふと足元を見たら、いっぱいのセミが倒れて死んでいた。 そして、その中でまたカナブンが引っくり返って起き上がれないまま、ジタバタしているのを発見した。 「そうだよな。独りじゃ、起き上がれないよな」 俺は徐にカナブンに近づいて、ジタバタしている身体をすっと持ち上げた。そうして、元のように体勢を整えてあげる。 するとカナブンは、慌てて地面を走り抜けて、その内バタバタと飛び去っていった。 誰も手を差し伸べなければそのまま死んでしまうカナブンだけど、誰かが手を差し伸べればああして飛んでいけるんだ。その僅かな差が、あのカナブンの大切な一生を左右してしまう。 あのカナブンに出逢った瞬間、その僅かな差を俺は握ったんだ。あのカナブンにとっての、大切な一生を左右するほどのものを、俺の僅かな行動は握ったんだ。 見てみぬ振りなんて幾らでも出来る。 だけど俺には出来ることがあったんだ。
ねえ、セフィロス。 出逢った瞬間から、俺の中には、俺に出来る大切なものが生まれていたんだね。
END
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