カナブン

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じりじりと照ってる太陽の下を散歩する。

木が立ち並んだ場所を通ると、ミーンミーンミーン、とセミが大合唱した。

セミの鳴き声って重なるとすごい音量だなあ、そんな事を考える。

そんなことを考えながらふと足元を見たら、いっぱいのセミが倒れて死んでいた。

ああ、そうか。

セミって命が短いんだもんな。

こんなに大合唱しているけど、いつかはこうして死んでしまうんだ。

それが俺には、何となく悲しく感じられた。

「あれ?」

俺の目にはいっぱいのセミの死骸が映っていたけど、その中で一つ、動いていたものがあった。セミかな、と思ってそれに近づいてみたけど、どうやらそれは違ったらしい。俺の目に映ったのは、セミとは違う、昆虫だった。

「ええっと…カナブン??」

緑と黄土色が混ざったようなビカビカした色をしてる。確かカナブンだ。

カナブンは、セミの死骸の中で一人だけ、足をバタバタと動かしてる。俺の目に映ってるのはカナブンの腹の部分で、どうやらカナブンは引っくり返って起き上がれないまま、ジタバタしてるらしかった。

俺は暫くそれを見てたけど、やがてすっと目を逸らす。

逸らした先にはセミの死骸があって、耳には五月蝿いほどのセミの鳴き声が響いてた。

そうしてやがて、視界の中のカナブンは動かなくなった。

 

 

 

夏になると周りのテンションがやけに高くなる。

毎年のことだけど、俺はそういうテンションについていけなくて、むしろ暑さにやられてダラリとしてる事が多い。

この夏場に元気なのはザックスくらいのものだろう。

ザックスときたら、行けもしないのに「やっぱり海だよなあ」とか「夏は薄着だから最高だよなあ」とか、ニヤニヤしながら訳のわからないことばっかり言うんだ。極めつけにはこんな事まで言ってくる。

「っつーか、クラウド。お前、確か夏生まれじゃなかったっけ?なのに夏嫌いってのはおかしいだろ。夏生まれは夏好きと相場は決まってんだぜ?」

決まってないよ!

俺は確かに8月生まれだけど、夏はそんなに得意じゃない。得意じゃないっていうより苦手なんだ。暑いし、周りについていけないし、何だかぼうっとしちゃうし…とにかく苦手だと思う。

母さんは何で俺を夏なんかに生んだんだろう。じゃなきゃこんな事言われなかったのに。

俺がそんな理不尽な気持ちを抱いてると、ザックスは突然こんな事を言い出した。

「セフィロスなんかはさ、いかにも冬男って感じだな!夏じゃないぜ、あの顔は」

「顔…」

それって関係あるのかな…?

そう思ったけど、まあ分からないでもないなって気がする。セフィロスはどっちかっていうと、確かに冬っぽい。それはザックスが言うみたいに顔とかそういう部分的な問題じゃなくって、雰囲気なんだと思う。寒いみたいな、そんなイメージ。

俺は何となくセフィロスの事を考え始めた。

冬のイメージがする、寒いイメージがする、セフィロス。

鋭い目つきも、ガッシリした体も、あの長い銀髪も、みんなみんなそのイメージにぴったりハマってるような気がする。涼しいっていうより、寒い。何となくそう思う。

そんなことをつらつら考えてたら、俺はふっとあることを思い出した。

そうだ。

そういえば俺は、ここ最近セフィロスにちっとも会ってないんだった。

何でかっていうと、それはセフィロスからのお達しがあったからだ。

“夏の間はあまり会わないからな”―――――っていう、お達しが。

その言葉に俺が呆然としたのは言うまでもなかった。

だって。

普通、夏といったら何かしらイベントがあるものだ。イベントといったって別に何かの祭りとかそういうわけじゃなくて、いわゆる恋人同士のイベントというか…つまり一緒に過ごす時間が多くなるっていうのが普通なんじゃないかと思うんだ。

なのにセフィロスは、いつもに増してどころかいつもに減して会うのを少なくするって言うんだ。それはあんまりだ。あんまりすぎる。

夏が苦手な俺は、確かに皆みたいにはしゃぐことは出来ないけど、セフィロスと一緒に過ごせるならやっぱり嬉しいかなあと思ってたんだ。それはハッキリ言って矛盾してるんだけど、もしかするとセフィロスだってそう思っているんじゃないかなと、俺は俺の都合どおりに勝手な空想をしていたんだ。

だけど…。

俺はかれこれ三週間はセフィロスに会ってない。

で、ザックスと話してる。

―――――――――結果はこれだ。

あーあ…。

少しくらいセフィロスと多く会えるのかなあと思ってた俺が馬鹿みたいだ。まあ元々その考え自体が勝手だったんだけど、いつもに減して少ないっていうのはちょっぴりショックだと思う。

「そういえばさあ」

「うん?」

ふとザックスがそんなふうに言ってきて、俺はダラリとしながら返事をする。

「お前、最近セフィロスと会った?」

「は!?」

ドキッ。

もとい、ギクッ。

何でそんなタイムリーなネタを振ってくるんだろう。

俺は何故か妙に焦ってしまう。別に答えがYESでもNOでも問題ないことなのに。

「もしかして会ってない?」

「あー…っと。―――うん」

「そっかあ。まあ仕方ないよな。あの人、最高にバテてるしな」

―――――――――え。

バテてる?

セフィロスが?

俺の頭の中にはハテナマークが死ぬほど浮かんだ。

するとザックスは、思い出し笑いみたいにいきなりブッと噴出して、その後に腹を抱えて笑い出した。一体何なんだろう。

「はははっ。いやー、笑うのは不謹慎だとは思うんだけどさ…はははっ、あー駄目だこりゃ!もうセフィロスの顔ったらないぜ!はははっ」

「…???」

ザックスは何がそんなにおかしいんだか大声で笑ってる。俺にはその理由がさっぱり分からなくて、しばらくぽかんとした顔をしてしまった。

笑うのが不謹慎っていうのは、一体どういう意味なんだろう?

俺があんまりぽかんとしてたもんだから、ザックスは笑いを堪えながら俺にこんな説明をしてきた。

「いやさ、セフィロスって夏駄目なんだよ。毎年そうなんだわ。顔だけは涼しそうに形状記憶してるけど、脳内が暑さでやられてるわけよ。で、必ず倒れんの」

「倒れる!?…って、あのセフィロスが?」

「そう、あのセフィロスが。意外だろ?結構レアだって思うぜ。まあ倒れるってったって、熱射病とかそんな深刻なわけじゃないんだ。単に夏に耐えられないんだよ、あの人個人がな。会いに行くとゲッソリしてんぜ、ほんと」

「へえ」

知らなかった。そんなの全然知らなかった。

だって俺はセフィロス本人から夏は会わないってシャットアウトされてたから会いに行くわけにもいかなかったし、偶然に会うなんてこともまるきり無い。

それに比べてザックスはそんな事まで知ってるんだ。きっとこの口ぶりだと、最近セフィロスに会ったんだろうと思う。それが任務か何か知らないけど、とにかく会ったんだろう。ちょっと羨ましいなあと思ってしまう。

俺はシャットアウトでザックスはOKなんだって思うと、ちょっと悲しい。

「…俺、もう三週間も会ってないんだけど」

俺は思わず、そんなことを呟いた。

別にそんなこと言うつもり無かったのに、何だかちょっと悲しくなったせいで、つい口にしてしまったんだ。

でも、その“つい”が、俺にちょっとした喜びをくれたらしい。

「え!そんなに会ってないのかよ!?」

「うん。セフィロスに言われたんだ。夏はそんなに会わないから、って」

「何だそりゃ!ったく、セフィロスも大概酷い男だな。折角の夏だってのに…まあ自分がバテるって分かってるからそう言ったんだろうな」

あの人は意外とカッコつけマンだから、とザックスは言う。カッコつけマンっていうその呼び方自体どうなんだろうとかなり疑問になったけど、まあそこは置いておくとして、取り敢えずそうなのか、と俺は納得したりする。

そして。

「だったら会いに行ってみろよ。俺、あの人がいるトコ知ってるから」

俺はザックスから、セフィロスの居場所を教えてもらう事になった。

どうやらセフィロスはいつものように自分の部屋だとかには居ないらしくて、他の場所を確保してそこを陣取ってるんだっていう。

セフィロスには「あまり会わない」って言われたけど――――――でも、ちょっとくらいなら良いよな。だって三週間も会ってないし、それに、俺はセフィロスのそんな姿ちっとも知らなかったんだ。付き合ってるはずの俺がそれを知らないのは、ちょっと悔しい。

俺はそう思って、セフィロスに会いにいくことにした。

もしかしたらセフィロスは俺に会いたくないのかもしれないとか、本当は嫌いになってしまったんじゃないかとか、些細な疑念がいっぱい渦巻いたけど、それでも俺は会いにいくことにした。そう決めたんだ。

それは、蒸し暑い日のことで、やっぱりセミの声が煩いくらいに響いてる日だった。

 

 

 

ザックスに教えられた場所は、ちょっと意外な場所だった。

そこは倉庫で、使用されていない武器や道具なんかがごっそりある場所。使用されていないっていうのもかなり年季が入ってて、もう何十年も前から使用していないものまである。それが証拠に、仕舞われた物品には三十年前くらいの日付が書かれたシールが貼ってあったりした。

そこに入るとかなり埃くさくて、俺は思わずゲホゲホッと咳き込む。

一体何だってセフィロスはこんなところにいるんだろう。

いくらカッコつけマンだからってこんな所に隠れるほどカッコつけなくたって良いんじゃないのかって思う。

そう思いながら大きな倉庫の中を進んでいくと、突き当たりに小さな扉があった。倉庫の中には物が沢山詰まっていて通るのも精一杯という感じだったから、俺がその扉を見つけられたのは奇跡に近いことだったと思う。だって通るだけで疲れてしまいそうなほど物が雑多に置いてあるんだから。

俺が見つけたその扉は、酷く錆びてた。

それを押してみると、扉はギイイと音を立てたものの難なくスムーズに開いたりする。こんなに錆びてるのにスムーズに開くなんて、これは使用している証拠だな、なんて俺は思った。

「…あ。」

その扉の向こうには、思った通りセフィロスの姿があった。

だけど何だか変だ。だって此処は倉庫なのに、その扉の向こうときたら、まるでそこだけ別世界みたいにちゃんとしてるんだ。何ていうのか…そうだ、普通の部屋みたいなんだ。家具なんかまるで無いけど、ベットとクローゼット様のものがある、部屋。その上ベットの脇には大きな窓まである。窓のサンはやっぱり錆付いていたけど、それでも一見見にそれは快適な部屋みたいに見えたんだ。

隠れ家みたいだ、と俺は思う。

そしてその隠れ家に住んでいるのは、セフィロス。

セフィロスは―――――――――ベットの上に横になってた。

そのベットもやっぱり錆び付いててお世辞にも綺麗なんていえなかったけど、それでもそこにセフィロスが横たわっていることで、そのベットは何か特別なもののように感じられた。

「…セフィロス」

俺は、恐る恐るそう声に出してみる。

こんな誰も来そうにない倉庫の奥にある隠れ家で、錆びたベットに横たわっているセフィロスは、起きているのか寝ているのかさっぱり分からなかった。ただ、目は閉じているように見える。何となく近づけなくて遠目から見ているから、どっちなのか俺には見分けが付かない。

でも。

「……クラウド?」

俺の呼びかけには、返答があった。

僅かにこっちを見た顔が、静かな声でそう言ったんだ。

「あ…」

俺は、セフィロスと会いたいと思って此処にきたっていうのに、いざ会えたら会えたで何だか焦ってしまった。大体何と言って良いか分からない。何しろ俺はセフィロス直々に会わないって言われてたんだから、こんなふうに会いに来たとなればそれなりの理由が必要になってしまう。だけど、俺にはそんな理由なんて無かった。ただ会いたいだけだったし、まあ理由といえば三週間も会ってないからとかそんな陳腐な言葉になってしまう。

「えっと…」

俺は焦りながら、何か良い理由がないか探してた。

セフィロスが納得しそうな理由…セフィロスが納得しそうな…。

「どうした」

「えっ」

俺が必死に考えている内に、セフィロスがそう言ってくる。

どうした、って…その答えは正に理由じゃないか。その理由ってやつを必死に考えてる最中だってのにどうしたなんて聞かれたら、これはもう最高に焦るしかない。

「えっと、その…」

俺は一生懸命考えた。三週間も会ってないから、っていう理由以外の理由を考えた。でも、そいつはなかなか浮かんでこない。

そうする内に、俺はまたしてもセフィロスに先手を越された。

 

 

 

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