炎の烙印

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燃え上がる炎を、じっと見詰めていた。

全てを燃やし尽くす炎、その中で嬉しさに打ち震えた。

この炎は聖なる炎、汚れた血を焼き尽くす聖なる炎。

 

 

 

 

 

「で、その後は?」

「――――そこまでで終わりだ」

「おいおい、何だよそれ!」

リフレッシュルームの片隅で響いたのは、ザックスの気の抜けた声だった。

兵士達でざわめくリフレッシュルーム、その一番窓際に腰を下ろしていたセフィロス、ザックス、クラウドの三人は、空き時間が出来たからといって世間話などをしている最中である。つい今しがた話をしていたのはセフィロスで、それは他愛も無い夢の話だった。

他愛も無いから話さなくても良いだろうと言ったセフィロスに、気になるから話せと食いついたのはザックスで、どうやらその期待が相当大きかったらしい彼は、最終的にその話にガックリと肩を落とした。それは当然、その話が本当に他愛も無かったからである。

「だから言っただろう。くだらない話だと。お前、聞いてなかったのか?」

ザックスの態度に呆れたような顔をしたセフィロスは、こんな話をするハメになった最初の契機について心の中で呪った。まあ大元は自分の一言が発端だったわけだが、それに食いついてきたザックスもザックスだと思う。

当のザックスはといえば、すっかり椅子にもたれ掛かって「はあ、期待はずれ」などと漏らしていた。

「聞いてたよ、聞いてたけどさ、大元はといえばセフィロスが期待持たせるような言い方するから悪いんだぜ。だって考えてもみろよ、“奇妙な夢を見た。くだらない恋愛話だったが”…なーんて言われたら気になるぞ、普通。なあ、クラウド?」

急に話を振られたクラウドは、今迄ずっと黙っていたところ突然口を開かねばならない状態になり、声が裏返らんばかりに慌てて、

「ま、まあ」

などと同意した。

それに満足したらしいザックスは、ほらな、などと言いながら切々と自分の期待を語る。

「俺はさ、セフィロスが見る恋愛の夢なんて言ったらもう、物凄い物を想像してたわけよ。この強面から想像できない恋愛シーンの数々…いやあ、俺はやっぱりいくとこまでいって欲しかったぜ」

「…何を期待してるんだ、お前は」

「そりゃなあ?」

ククク、と引っ込み笑いをするザックスにやはり溜息を吐いたセフィロスは、再度この話をした事を後悔した。「奇妙な夢を見た」という部分に興味を示したというならまだしも、後半の「恋愛話」の部分に期待を持ったというのだから呆れてしまう。

別にそんなものはどうだって良いだろうと思うのに、ザックスはどうやらそういうセフィロスの俗的な部分が気になるらしい。まあ分からないでもない。セフィロスといえば何時でもそういった事など馬鹿らしいという態度だし、色の欠片すら見えないのだから。

ザックスの期待を裏切ったセフィロスの夢というのは、寝ている間に見るあの夢のことである。平生から夢というものをあまり見ないセフィロスにとって、珍しく夢を見たということ、それからその夢が奇妙なものだったという事実は、何だか変に気を重くした。内容は何ともないと思うのだが、とにかく後味が悪かったからである。

その夢の中で、セフィロスは犯罪者だった。

しかしそれは昨今の犯罪のそれとは違い、何だか奇妙な犯罪で、単に恋愛をしたからに過ぎないというおよそ不条理な犯罪者なのである。夢などというものは現実離れしているものだし支離滅裂なものであるからそれ程考える必要性も無いのだが、セフィロスが思うにその夢の中の世界というのは今より遠い昔…おそらくは太古と呼ばれるような時代だった。

便利な世の中でモラル意識も薄れて犯罪というならまだしも、さして娯楽のない太古に犯罪…まあこの時点でこの夢の中の自分はどうかと思うわけだが。

「ま、次はもっと面白い夢見てくれよな」

期待はずれでガッカリしていたところから立ち直ったのだか、おどけた調子でザックスがそんなふうに言ってくる。

セフィロスはそれを一瞥すると、

「仮にそうなっても、もうお前には話さないがな」

そう言った。

それに対してザックスがぶつぶつと文句を言い始めると、ジャストタイムというべきか、丁度神羅の社内放送が流れ始める。そのお陰でセフィロスはそのぶつぶつを聞かずに済んだわけだが、その代わりといっては難だがその場を離れなくてはならなくなってしまった。

何故なら、その社内放送はセフィロスを呼び出したから。

 

『……緊急呼び出しです………××氏、至急科学部門研究室まで………セフィロス、こちらは治安維持部門統括室まで……』

 

上方から響いてくる音に自然と顔を上に上げた三人は、その放送が終わると、すっと元のように顔を戻した。

「どうやらお呼び出しだ。じゃあな」

そう言ってセフィロスが席を立つと、じゃあ、と言ってザックスが軽く手を上げる。クラウドはペコリと小さく頭を下げるようにすると、頑張って、などと声をかけた。

それを振り切るようにして身を翻したセフィロスは、一瞬ピタリと止まると、すっと二人の方を振り返る。セフィロスの目に留まっていたのはザックスではなくクラウドの方で、セフィロスは彼を見遣りながらも一言こう言った。

「…いつか言おうと思っていたが。俺はお前がいると気分が悪くなる」

そう言われて驚いた顔をしたクラウドは、何か言おうとしたのか慌てて口を開けたが、そこから言葉が出る前にセフィロスが歩き始めてしまった為にそのままの状態で固まってしまう。セフィロスはそんなクラウドを振り返ることはせずにその場を去っていき、そこに残されたクラウドは一体どういう態度でその場を過ごせば良いのか分からなくなってしまった。

「気にすんなよ、クラウド。さして仲良くないとあんなもんだぜ。大抵の奴に対してはあんな感じだ」

深刻なクラウドに対して随分とラフなザックスは、本当なのか慰めなのか、とにかくそんな事を言ってクラウドの肩をポンと叩く。

「そうなんだ…知らなかった」

その場を取り繕うように笑ってそう答えたクラウドは、ザックスの言葉を信じたいと思いながらもどうしてもセフィロスの言葉が消えずに、テーブルに向かって目を落とす。

先ほどまで三人でテーブルを囲み語らっていたというのに、やはりその中でもセフィロスは自分に対してああ思っていたのだろうかと思うとやるせない。三人でテーブルを囲むようになったのは極最近のことではあったが、それでもそれに拒否しないということは受け入れて貰えている事だと思っていた。しかしそれはどうやら勘違いだったらしい。

確かに思い返してみれば、セフィロスはいつもザックスに話しかけているような雰囲気だった。そこにクラウドがいても、まるで目に入っていないというような、そんな感じ。

クラウドは薄々それに気付いてはいたが、きっとそんなことは無いだろうとそう考えるようにしてきた。今はきっと、三人で話すのも普通のことになったのだろうと。

しかしそれが甘い考えだったと知ると、どんなにザックスが「それは普通だ」と言ってくれても何だか気落ちしてしまう。

「もっと話して慣れていけば、セフィロスもあんな事言わないからさ」

「…うん。そうだね」

ザックスの言葉に納得してみたクラウドだが、心中では少し疑問を感じていた。

もっと話して慣れていけば―――そう言うけれど、自分の中ではもうそれをこなしていると思っていたのだ。そこへ、もっとと言うのだったらばセフィロスの尺度に依存することになる。

一体、セフィロスは何時になったら「もっと」の領域に入ることを許してくれるのだろうか。

「…うん」

自分を戒めるように、クラウドはもう一度そう頷いた。

 

 

 

科学部門研究室。

先ほどの社内放送で呼び出された男は、そこへ到着するや否や、この部門の統括から山ほどの紙束を渡された。どうやら研究結果のメモを、文書化しろという意味らしい。それはそれで仕事として何度もやってきた事だったが、今度はやけに量が多すぎて一朝一夕で終わるとは考えられない量である。

「博士。これはいつまでに?」

「愚問だな、××君。明日までだよ。いつだってそうだろう」

「はあ…しかし、この量ではさすがに明日までには無理かと…」

「やりたまえ、仕事だ」

そう独特なニュアンスながら強く言われ、男は頭を下げてその場を退出した。山ほどの研究メモを手にして移動したのは研究室の隣にある小さな部屋で、そこはデスクワーク用に設備が整えられている、この部門としては珍しい部屋の一つである。研究バカといっても過言ではない統括の所為で、すっかり研究室ばかりが肥大したこの部門には、こういった寛げるスペースが少ない。

整理する書類が死ぬほどあることはうんざりだったが、寛ぎのスペースで仕事ができるとなると、まあそれも良いかという気にならないでもないという所だ。

男はデスクにつくと、まずは珈琲を淹れてそれを啜り、さてという具合に腰を据えた。そして、山盛のメモを一枚一枚広げていき研究の過程ごとに括っていく。

「…これは、ジェノバ研究のものか?」

基本的に極秘研究が多いこの部門の中でも、秀でて極秘とされる研究。

それがこのジェノバの研究。

確か数十年前からずっと続けている研究だが、最近此処に配属された男としてはその根本の部分には携わっていない為、いまいちこの研究のことには明るくなかった。大体いつもこの文書化というものをやっているものだから、科学部門の人間とはいってもデスクワーク専門みたいなものだろう。

「へえ…なるほど」

時折写真なども交えてメモされているその紙を見て、男は納得したような声を漏らす。研究過程ごとにメモを括り上げていくと、その最初の部分にあたるメモはどうやらジェノバの初期状態を示しているものであることが分かる。初期状態といったらそれは相当昔の話であろうから、これは博士の記憶のメモといえるかもしれない。その割には量が多いのが気になるところだが、この記憶のメモとその他の過程のメモを合わせていけば、何となく男にもその全容が分かるような気がした。

「さて…かかるか。まずは―――初期状態からだな」

男は、デスクの脇に置かれていたパソコンの電源をつけると、博士の手書きのメモをじっと睨みつけた。

 

 

 

「―――じゃあ」

無駄としか言いようの無いどうでも良い話に折り合いをつけたセフィロスは、話の隙をついてその言葉を口にした。

先ほど呼び出された治安維持部門統括室、そこには当然の事ながらその統括殿がいたわけだが、彼ときたら呼び出したくせに何の重要性も無い話で延々1時間はセフィロスを引き止めている。いわば彼の自慢話というところだろうか、その退屈な話を無言で聞いていたセフィロスは、やっとのことそれに終止符を打ってその部屋を出たわけだが、その瞬間にまたしても気苦労の一つと遭遇してしまった。

部屋のドアを閉めて、やっとその身が自由になった時。

いるはずの無い人物がそこに立っていたことで、セフィロスは思わず顔を顰める。

「…お前。どうして此処にいる?」

簡潔にそう問うた先の相手は、神羅の甲冑を身につけた兵士である。青い色の甲冑は下級兵士と決まっているが、この統括室のある場所は下級兵士が立ち入って良いような場所ではない。神羅本社ビル上方の階である此処には、カードキーが無いと立ち入ることができないのだから。

「警備です」

そうハッキリと答えたその声は、甲冑で顔が見えなくとも誰のものか判断できるものだった。それは、此処に呼び出される前、共にテーブルを囲んでいた人間の一人、クラウドのものである。

そのクラウドの姿を見下ろす長身のセフィロスは、ふん、警備か、などと鼻で笑うと、ご苦労という言葉の一つもかけずにその場を去ろうとした。用事もないのだからセフィロスとしてはそれは当然の行動だったが、何故だかその背後に重苦しい足音が響きついてくる。当然、甲冑を着たクラウドが立てている音だ。

 

 

 

 

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