英雄は辛いよ!?
私はセフィロス。又の名を英雄。 花も恥らうような年齢だが、ファンが減るのでそこは伏せておく。 銀髪、長身…世間ではこの俺を表現するのに様々な形容が使われているようだが、たまに愚か者共がマザコンだとか言ってくるのだ。何を根拠にそのような事を言うのかは知らんが実に腹立たしい。その上タコだとか言ってくる奴までいる。一体何なんだ、訳わからん。 …まあ良い。 ともかく俺は誰もが一度は憧れるという神羅の英雄という立場にある。 そんな俺のことだ、勿論周囲はそれなりのものが揃えられている。俺には専用の御付きの者もあるし、取り巻きのファンも沢山ある。その数たるや眩暈がしそうなほどで俺にも測りきれない…くく、これが英雄の力なのだ。 俺はそうして毎日を過ごしているのだが、最近少々悩みが出てきた。 それは、俺の極美麗な額に何やらプツリとしたものが浮かび出てきたことだ。 これはいかなることかと驚いた俺は、まずは御付きの者にそれを問いただした。何しろこの俺の極美麗な額にそのようなものが出ていてはマズイ。うっかり外に出て「いや〜!セフィロス様を御額に小さなタンコブが!あのタンコブ、何様のつもりなの!?」などと言われようものなら俺は困ってしまう。そんなにタンコブを責めるな、タンコブとて悪気があったわけではないのだ、とタンコブを弁護することになりかねない。 こういう時俺は、美形に生まれてきたことを心底心苦しいと思うのだ。 この俺がこれほどまでに美麗でなければこのような事態にはならずに済んだというのに……嗚呼、美貌よ!俺はお前が憎い!!! ――――しかし仕方あるまい、神は俺を選んだのだ。 俺はその運命を背負って生きていくのだ…だからまずはこの小さなタンコブが被害者にならぬようにと細心の配慮をもって、御付きの者のところへと向かう。このタンコブの正体を見抜かぬ限りは安心は出来ない。全国数万人の俺のファンの為にも、早々の解決を求めるべきだ。 俺はそうして御付きの者であるザックスの元に出向いた。 余談だがこの御付きの者はどうも怠惰でいかん。明日のスケジュールはどうかと問えば、そんなの知るかよ自分で調べろ、だとか言う。その上俺が好きなドラマの予約を頼んでおいたにも関わらず、ああアレ忘れちまったわ悪ぃ悪ぃ、とか言うのだ。俺が過去一度ブチ切れて、貴様は一体何様のつもりなんだ!と怒鳴ったら、いけしゃあしゃあと「俺様」とか何とか言いやがった。可愛さ余らんで憎さだけ100倍だ。だから俺は今度密かに、奴の靴の中にガビョウを仕込んでやろうと思っている。 まあそれはともかく俺がわざわざ出向いてやると、ザックスはよりにもよって煎餅をボリボリやりながら「何?」だとか言った。何?じゃないだろう、何?じゃ! しかし怒っている暇すら惜しい俺としては、全国数万人…いや数億人のファンの為にも早期解決をと思い、怠惰なザックスの態度に涙を飲みながらもこう聞いた。 「実は先日、俺の極美麗な額に小さなタンコブができたのだ。これは何だ?」 俺がそれを示すと、ザックスは煎餅を小気味良くバリッとか言わせながらこう答える。 「何だ、吹き出物じゃん」 「何!?」 ――――――――――――俺の極美麗な額に…吹き出物!? ありえん、絶対にありえん!それは何かの間違いだ。これは小さな、極小さなタンコブであって決して吹き出物ではないはずだ。 俺はそう抗議したものだが、ザックスは今度は茶をズッズーとかやりながら「またまたあ」などと言ってくる。 「そういやセフィロスさ、最近脂っこいモノばっか食ってんじゃん。レバニラ炒めとかハマってたしさ。そのせいじゃねえの?ま、年齢的にもうニキビとは言えないだろ」 「……」 確かに最近の俺は脂物の摂取が多かった。 しかし、そんなにレバニラ炒めが悪いとでもいうのか。そんなに酢豚がいかんのか。油ソバや霜降り松坂牛がそんなに悪いとでも言うのか貴様は!? 俺は俄か怒り沸騰し、ザックスを一発殴った。 ザックスは「痛え!」とか言って頭を抱えているがそんなものはどうでも良い。そもそも御付きの者としての勤務態度が悪いのだ。そんな嘘ばかり並べるからいかんのだ。 だから俺は、ついでに煎餅と茶も取り上げると、ジャイアンの如くドカドカとそこを去っていった。折角だから煎餅をボリボリやってみたのだが、どうやらその煎餅は相当美味い。今度からこまめに取り上げることにしよう。 ちっとも参考にならなかったザックスの嘘は置いておくとしても、小さなタンコブは未だに俺の極美麗な額に鎮座しているわけで、これは並々ならぬ大問題だった。 ともかく俺はその小さなタンコブを隠さねばならないと思い、先日足の小指をタンスの角にぶつけた時に買った絆創膏を貼ることにした。因みにこの絆創膏は半透明とか銘打っているものの貼ってみるといかにも目立ち、あまり良い商品とはいえない。これはいかにも詐欺ではないかと思った俺はすぐさまクレームを突きつけたものだが、謝罪として二年分の絆創膏が送られてきた時はさすがに送り返してやった。基本的に美形には絆創膏など必要がないのだから、その辺のことを弁えてもらわねばいかん。というか二年も貼るか。 俺はその事を思い返し苛々しつつも額の絆創膏を見遣る。 「いかん…これでは台無しだ!」 全国数億人…いや、全国数兆人のファンを持つ神羅の英雄たる者が、額に絆創膏を貼って元気少年の演出とはこれいかに。これはいかん。俺の股間…じゃない、沽券に関わるではないか! しかしそう憤ったところでこれを取ったらばタンコブが出てくる。それはマズイ。しかしどうだ、絆創膏オン英雄というのはあまりにも報われんキャッチコピーではないか。 俺はそう思って、暫し心の中で葛藤を続けた。 一瞬、絆創膏を取ろうと思って手を伸ばしてみたが、そこからあのタンコブが出てくると思うと恐怖におののき手がプルプルと震えたものだ。 嗚呼…どうしたら良いのだ、俺は!? ――――――と、その時。 トントントン トントントン 「むっ!?」 何やら背後から音が聞こえた。 絆創膏の前で指をプルプルさせたままクルッと振り返った俺は、音のする方向をジロリと睨む。一体誰だ、こんな難関な時に呑気にトントンだとかドアを叩く愚か者は!? そう思ったがしつこいくらいにトントントントンするものだから、俺は仕方ナシに玄関口までをツカツカと歩き、ドアをガツンと開けてやった。 「誰だ!この愚か者めが!!」 「…あ。セフィロス、やっと出てきた〜」 「むっ!?お前は…クラウド!?」 なんとビックリ、そこにはクラウドがいた。 クラウドといえば俺の取り巻きの一人で、既に親衛隊長の域にまで達しようかというくらいの奴だ。こいつはザックスと違ってなかなか良い働きをしてくれている。特に夜は別格で、なかなかどうして大胆不敵…まあそれも俺あってこそだと思うがな。ふっ。 俺は暫しクラウドの前で美形ポーズを決め込んでみたものだが、数十秒後にふっとあの絆創膏のことを思い出し、慌ててそれを手で押さえた。がしかし、俺のそのカンガルーの如くであった行動はサックリと見抜かれていたらしく、クラウドは首など傾げて、ソレどうしたの?、などと聞いてくる。 しかし此処で俺が「何。大したことではない。少々タンコブが登場したのだ」などと言おうものなら、親衛隊長レベルのクラウドのことだから「そのタンコブが憎い!」とか何とか言って涙を流すに違いないのだ。そんな不憫なことをさせられようか。否、英雄としてそんなことはできん! そんな訳だから俺は、少し捻ってこう説明した。 「何。大したことではない。少々神のお告げが登場してな。今この絆創膏の下では神との交信がなされているのだ」 俺は背景に薔薇を背負いながらそう言うと、だからこれは外せないのだ、と念を押す。見よ、この完膚なきまでの理由を。これでクラウドも涙を流してタンコブに復讐などを誓わなくて良いのだ。 「神との交信かあ…セフィロスってやっぱり大変なんだね。だってこの前は悪魔とも契約してたもんね」 俺は一瞬、クラウドの言う悪魔に首を傾げそうになった。が、ギリギリ25度まで首を倒した所で止めると、ぐるんと一回転させてから定位置に戻す。さしずめ歌舞伎だ。 「ああ、そうだ。俺は実に多忙なのだ」 俺はそう言うと、困ったものだと頭を抱える。 そう…先日タンスの角に足の小指をぶつけたとき惨めにも絆創膏を張ることになった俺は、クラウドに「悪魔と契約中なのだ」と言ったのだ。クラウドはそれに酷く感心したらしく、涙を流さんばかりの勢いで俺の足の小指を見つめていた。それどころか、感激しすぎで悪魔グッズまで購入していた。さすがは親衛隊長だけあって、他のファンとは一線を画している。実に感心だ。 「まあ良い。それでお前は何か用があったのではないのか?」 神と交信しながらもそう聞いた俺に、クラウドは思い出したように「そうだった」と声をあげた。そして何やらポケットをゴソゴソやり始めると、その中から何物かを取り出して俺に差し出す。 「はい、これ。今日もセフィロスにファンレターだよ」 「何と!」 ――――――――――嗚呼、神よ。…俺は何と罪深き人間なのだ!? 全国数兆人のファンがいるのにも関わらず、それにもまして人を魅了してしまうこの美貌、そして雄姿。まるで留まる所を知らぬこのカリスマをどうしてくれようか。これではますます早期にタンコブを消し去らねば、俺の下僕たちが反乱を起しかねない勢いだ。タンコブの乱、若しくはタンコブ一揆として後世に名を残すこの歴史的反乱を、俺はどうして止めることができようか。資料1、などと書かれて教科書の右上に表示されるこの反乱の為に、俺は今から証明写真すら撮らねばならぬ勢いだ。嗚呼、神よ。 |