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クローゼット ------------------------------------
二人きりで会うとき、セフィロスはいつも違う服を着ていた。 トレードマークである黒コートを着ていないのは自分が少し特別な存在だからだろう、だから他人に見せている姿とは違う姿を見せてくれるのだと、クラウドは思っていた。 それはクラウドにとってとても嬉しいことである。 「俺は二人でいるときのセフィロスが好きだな」 「そうか?」 見慣れない服を来たセフィロスが、何も思ってないふうにそう漏らす。だからクラウドは、そうだよ、と一際嬉しそうに頷いた。 もうこれで何着目になるだろうか。 一、二、三……少なくとも十五着以上は見ている。 一番意外だったのは花柄の服で、カーキグリーン色をしていたものの仰天したものである。こんなのも着るんだ、と。一番似合っていたのは黒のジップアップの服だった。黒が似合うのもかもしれない。本当は大いにある筋肉が、完璧に閉じ込められて、着痩せした感じだったのを覚えている。どこかのモデルみたいだった。 その外にも覚えているものはいっぱいある。 グレー色のピンストライプのシャツ、カーキのタートルネック、スタンドカラーの白いシャツ、スラブ編みのレイヤードカットソー……とにかくいっぱい。 服持ちがいいんだろうな、クラウドはそう思っていた。 セフィロスは会うたびに違う服を来てくるから、きっとクローゼットの中はパンパンになっているに違いない。いや、そうでもないかもしれない。セフィロスのクローゼットはきっと大きいだろうから。 「あ、あれセフィロスに似合いそうだね」 町を歩き、ショウウィンドウに洒落た服を見つけると、そんな風に言うのが癖になっていた。しかし強ち嘘ではない、本当に似合うだろうなあと思っているのである。 「あれか、まあ良いかもな」 「でしょう?」 「ちょっと待ってろ」 そう言われて待っていると、数分後には店内からショッピングバックを持ったセフィロスが出てきて、さも当然なふうに買ってきた、と言う。セフィロスの買い物には躊躇いが無い。 「好みだったの?」 焚き付けておいてなんだが、そういう時クラウドは大いに焦った。 だって、他人のたった一言で決めてしまうなんて、何だかその一言を口にした自分に責任を感じてしまう。 「別に」 「別にって……良かったの?」 いよいよ不安になってそう聞くと、セフィロスは、 「着れれば何でも良い」 そう言った。 確かにそうだ。服なんて本来着られれば何でも良いのだろう。 しかしそう言われると今度は、似合う、なんて思った自分が下手な過労をしたみたいで何だか複雑な気分になる。だからクラウドは、それを打ち消すように要求した。 「それ、着てね」
クラウドが良いね、と言って買った服を、セフィロスはちゃんと着てくる。 それがクラウドには嬉しかった。 しかし、いつもそれは一度きり。 同じ服は、二度と見ることはなかった。
ある日のことである。 やはりセフィロスと町を出歩いている際に、クラウドはアクシデントに見舞われた。 ただ喫茶店でお茶を飲んでいただけで自分に罪はない。そういうアクシデント。 「ご、ごめんなさい!」 まだ不慣れらしい店員が手を滑らせ、クラウドの服がびっしょりと濡れたのである。 一瞬何事かと呆然としてしまったが、じわじわと染み入る冷たさに段々と脳がはっきりして、ようやく事の次第を把握した。怒りが沸かないでもなかったが、見上げた店員の顔は今にも泣き出しそうで、気付くとクラウドは忙しなく両手をふるふると振っていた。 「あ、大丈夫です。気にしないでください」 「でも、あの、そのっ」 見てみると、どうやらそれは小冷だったらしい。 これといってシミになりそうな色はついていない。 「乾けば大丈夫なんで」 「でも……」 おろおろする店員に、助け船を出すかのようにセフィロスが口を挟む。 「新しいのを買えば良い」 「そうです。だから気にしないでください」 二人がかりでそう言うと、判断に迷ったらしい店員がぱたぱたと奥に引っ込み、責任者らしき人間と再度やってくる。 どうもすみません。 クリーニング代を払いますので。 丁寧に申し訳なさそうに謝る二人にクラウドは、クリーニング代くらいなら、なんて思ったものだが、脇にいるセフィロスが頑として断った。だからか、二人はますます深々と頭を下げる。 そういうやり取りの後、セフィロスは少し待ってろ、といつも通りの言葉を発した。何だろうかと思っていると数分後にはショッピングバックを持ったセフィロスが帰ってきて、どうやら服の替えを買ってきてくれたのだと分かる。 「着替えろ」 「ありがとう」 クラウドにとって少しぶかぶかだったその服は、それでもちゃんと服として機能していた。胸のところに血糊みたいな柄があり、アーユーレデイ?と書いてあるアーミーテイストの服である。背後にはクラッシュ!とかかれている。きっとそんな店が近くにあったのだろう。 「ありがとうね、セフィロス」 「ああ。濡れた服は捨てていけばいい。荷物になるしな」 「え」 “捨てる”? そう聞いて、クラウドはなぜか焦りを感じた。確かに濡れてしまったし、乾かないと着れないけれども、何も捨てるまでしなくていいだろう。まだ着れるのだから。 「あ、俺、持ってかえるよ」 「持ってかえる?」 セフィロスは怪訝そうな顔をした。だからクラウドは思わず焦ってしまう。 別にセフィロスが買ってきてくれた服が嫌だとかそういうわけではない。 ただ、みみっちいと思われるかもしれないが、まだ着れるのだから捨てることはないと思ったのだ。それに、服をさして持っていないクラウドには、お出かけ用の服として持っていたその服には少なからず愛着がある。少ないから、いつも大体セフィロスと会うときにそれを着ていた。つまり、思い出があるのだ。 「そんなに気に入っているのか?」 「気に入っているっていうか……思い出があるからかな。うん、なんかそんな感じ」 「思い出」 セフィロスは疑問系にするでもなくただその言葉を繰り返すと、腑に落ちない顔をする。そんなに変な言葉だったろうか。 「また着るのか、その服を?」 そう言われ、今度ははっきりと軽蔑らしきものを感じ取ったクラウドは、うん、と答えるのに躊躇って言葉を濁した。 そういえばセフィロスはいつも違う服を着ている。 やはり好きな人と居る時には例え同性同士でも気に留めなければいけなかったんだな、と思い、クラウドは何だか反省してしまった。 あの服は、クローゼットの中にしまっておこう。 部屋にいるときにでも着ればいい。 クラウドはそう思いながら、セフィロスの前では二度とあの服は着るまいと誓った。
クラウドは何着かの服を買った。 セフィロスと会う時なるべく連続にならないように幾つかの服をローテーションさせたが、それにしてもセフィロスの服は毎回違う。どんなに頑張ってもクラウドは何回かに一度は同じになってしまうのに。 一体セフィロスのクローゼットはどうなっているんだろう。
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