「あっ、あ…!」
 純白のイメージがする白い部屋。
 窓際の小さな植木は静かに呼吸をしている。
 まるで―――――――まるで、幸せの象徴。
 その幸せの象徴に囲まれながら、クラウドはセフィロスと抱き合っていた。
 白いベットは広く、いつもまっさらなシーツが敷かれていたが、今はその行為の為に幾分か皺がよっている。その皺を鷲?みしていたクラウドは、一際大きな快感がやってきた拍子にそこから手を離すと、その手を今度はセフィロスの背に回した。
 広い背中は、鍛えられた身体を彷彿させる引き締まりをみせている。
「…気に喰わんな」
「え…っ?」
 ふっと上部から響いてきた声に目を開いたクラウドは、そこにきつい表情をしたセフィロスを発見した。いつもであればそれなりに優しい顔をしているのに、今日は何故だか怖い顔をしている。
 それはセフィロスの「気に食わない」という言葉と関連しているのだろうが、クラウドには何がどう気に食わないのか分からなかった。
「セフィ…ロス?」
 セフィロスの下半身は、今やしっかりとクラウドの内部に食い込んでいる。それは今や慣れた異物感で、摩擦をされるとその感覚が一際大きくなり、その都度クラウドは喘ぎを漏らす。気持ち良いとかそういう感情の前に、まずその行為が悦楽と同等であるという認識があるから、既に反射的に喘ぎを漏らしているという感じである。
「集中してないな、クラウド」
 ふとそう言われて、クラウドは驚いてセフィロスの背から手を離した。
 が、その次の瞬間には突如腕を雁字搦めにされ、あっという間に動きを封じられる。更にセフィロスは、クラウドの両腿を自身の足で固定させると、今までに無いというほどの強さで勃起したクラウドの性器を扱き始めた。
「いっ、あ、ああ!」
 痛い、そう言おうとしたが思うように言葉に出来ない。
「痛いか?だが俺にこうされる事はお前の望みでもあるんだろう?」
「なっ、あっ…ああぁ!」
「答えも出ないくらい嬉しいか?」
 無残だな、そう呟くセフィロスの声が聞こえる。
 痛みの中で僅か開いた目には、セフィロスの蔑んだような笑みが浮かんでおり、そこには僅かな呆れすらも垣間見えていた。
 ――――――――どうして?
 クラウドの中に浮かんだのは、そんな言葉だった。
 どうして突然セフィロスはこんなことをするのだろうか。今の今まで一度もこんなことは無かった。それどころか今までは愛の囁きすらも貰えた程だったのに、今日は一体どうしてしまったというのだろうか。
 そんな疑問が渦巻く中、セフィロスはクラウドに不穏な言葉を投げかけた。
 それはとてもゆっくりとした口調で、しかもどこか絡みつくような妖艶さを携えた声音で。
「……お前もやはり、駄目か」
 "お前もやはり"?
 "駄目"?
 一体―――――どういう意味なのか。
「お前も所詮は同じ穴の狢…恨むべき存在でしかない」
「!」
 恨むべき―――――その言葉が出た瞬間、クラウドの脳裏にある言葉が蘇った。
 それはいつだったかザックスに聞いた言葉で、セフィロスの過去に関連するものでもある。セフィロスはかつて一人の人間を心から好きになり、それを奪われたのだといっていた。その為にセフィロスは恨みを持っているのだと…確かにザックスはそう言っていたのである。
 しかしその事実を聞いても尚、クラウドには明瞭な事情というのが良く理解できていなかった。ただ、クラウドが以前から持っていた気がかりというものとその事実とを照らし合わせた場合、それは僅かな予測を生み出したのである。
 それだからクラウドは、今度はその予測を気がかりとして心の中に仕舞い込んでいた。それは、セフィロスの過去と、そして自分の過去に関わる事で、絶対に表には出せないと思ってきたことでもある。
 しかし、今セフィロスはその気がかりの破片を口にしたのだ。
 今の今まで、まるで幸せそのものとしか思えない素振りしかしなかったセフィロスが、とうとうそれを表に出してきたのである。
 つまりそれは―――――――…この幸せの構図が、偽者である証拠。
「セ…フィ、ロス…!」
 クラウドはそう叫ぶと、渾身の力でセフィロスの身体を振りほどいた。
 普通であればセフィロスの力には叶うはずがないのだろうが、それでもその時は何とかセフィロスの身体から離れることができ、クラウドは咄嗟にベットから飛び離れる。恐らくセフィロスはその瞬間には大した力を入れていなかったのだろう、じゃなければこんなふうに解く事は出来なかったはずだ。
 そう考えると、セフィロスが力を緩めた原因…きっと"本音"を口にした事で意識がそちらから外れたのだろうが、それには感謝しなければならないかもしれない。
 とはいえ、こうなってしまった以上は覚悟は必至だろう。
 幸せの象徴とサヨナラする覚悟。
 気がかりを晴らす覚悟。
 そして―――――セフィロスと離れる覚悟。
「セフィロス…」
 飛びのいた先の床で縮こまっていたクラウドは、まるで命を守るかのように胸を手で覆いながら、未だベットの上にいるセフィロスを見やっている。
 セフィロスは全裸のままじっとクラウドを見やっていたが、やがてすっと視線を外すと、静かに足を床につけた。そうして、ベットから完全に降り去る。
 何かされるのではないか。
 一瞬クラウドの脳裏にはそんな危惧が走ったが、それはどうやらあくまで危惧で終わったらしい。それが証拠にセフィロスは静かに窓際へと進み出た。あの、植木の置かれた窓際に。
 全裸であることなど気にもせず窓際に佇んだセフィロスは、クラウドの方を振り返ることもせず、ゆっくりと言葉を放ち始める。
 窓の外は闇で、星が僅かに輝いているのがクラウドの目にも見てとれる。その夜の闇と、星の僅かな輝きと、セフィロスの銀髪とは、とてもロマンチックのように見えもしたが、それでもその口から語られることは不吉なことでしかなかった。
 セフィロスの声が、低く響く。
「―――――――――俺にはかつて、どうしても譲れない人間がいた」
 今では遠い昔の話だ。
 セフィロスはそう言う。
「俺はそいつと共に在る為に、兵舎を出、ある家に移り住んだ。俺は繁華街に近い方が良いと言ったが、あいつは嫌だと言った…ふふ、妙な趣味の奴だった。だから俺はあいつの望む通り、街とは反対に住んだのだ」
 どこか懐かしむようなその声は、クラウドの心に痛く響く。
 今この空間にいるのは自分なのに、まるでセフィロスの目にはその"そいつ"と呼ばれる人物だけが住んでいるかのようである。きっとセフィロスにはクラウドの姿が見えていないのだ。
 それは、長らくクラウドが心に抱えていた気がかりと完全に一致したものである。
「あいつの趣味は…白い家だった。白い壁面と、大きなベッド。窓際には植物が必要だと仕切りに言っていた」
「それは…」
 それは――――――――この家そのものだ。
 だけれどセフィロスのいう"あいつ"は、もうとっくに此処にはいない。
「あいつは俺の言うことなら何でも受け入れた。まだ帰るなと言えば朝まで俺の元にいてくれた。あいつは…俺にとって、絶対に奪われてはならない存在だったんだ」
 セフィロスはそこまで言うと、ふっとクラウドの方を振り返った。
 その瞬間、クラウドは無意識に身を引っ込めたりする。
 今まで傍にいてそんなふうに思ったことなど一度も無かったのに、何故なのだかセフィロスが怖いような気がしたのだ。特にこんな昔話をし始めたことは、そんなクラウドの畏怖心に拍車をかけている。
 だって、何故いきなりそんな話をしだしたのか分からない。
 クラウドは先日ザックスにセフィロスの過去を聞いたところだったから、クラウドにとってそれはタイムリーな話に違いなかったが、セフィロスにとっては別にタイムリーでも何でもないはずである。
 それなのに。
「俺はな、クラウド。その絶対に奪われてはならない存在を、ろくでもない人間に奪われたんだ。あの夜、俺はあいつを待っていたのに…」
 それは、もうずっと昔の話である。
 絶対に奪われてはならない存在であったその人物を待っていたセフィロスは、いつまで経ってもその人物が現れない事に多少心配などをしていた。最初はただの遅刻かとも思っていたのだが、それも5時間も過ぎてしまうといよいよ本格的に何かあったのではないかと思えてくる。
 そうしてセフィロスがとうとうその人物を探しに出かけると、その人物は何と白い家の僅か手前で血を流して倒れていたのだ。
 大量出血で、もう既に手遅れだった。
 泣いても叫んでも、その人物は返ってくることなどなかった。
 セフィロスはその人物の死を心の底から悲しみ、その死骸を白い家に持ち帰ったものである。そうしてその死骸を丁寧に洗ってやると、暫くの間その死骸を見つめ、最後には…。
 ―――――――その死骸を、抱いた。
 物言わぬ死骸は、セフィロスの愛撫を受け、セフィロスの愛情を受けた。もう既に死後硬直が始まっていた死骸に己の性器を突き入れ、人間の温度さえも保たれていない乳首を愛撫する。冷たい唇に唇を重ね、その中に舌を這いいれると、動きもしない口内をじっくりと味わう。血の味がした。
 そのセックスは、セフィロスを少しだけ満たしたものである。
 確かに死骸は何も言わぬし微塵も動かないが、それでもそれはセフィロスにとって"初めて"のセックスだったのだ。それはセックス自体が初めてだということではない、その人物とのセックスが初めてだということである。
 そう…あれだけ大切に思っていたのに、抱き合った事も無かったのだ。
 その生身の肌に触れることすら、セフィロスには出来なかったのである。
 それがこうして死骸になってから初めて叶ったことは実に皮肉で、セフィロスはそれに少しばかりの満足はしたものの、満足すればするほどそれは虚無感を生んだ。
 あれほど奪われてはならないと思ってきたのに、その人はもういない。
 その事実は、あまりにも空しい。
「―――――俺は知っていた。俺からそいつを奪った人間が誰なのか、俺は知っていた。一瞬俺は…殺してやろうかと思った。だがそれは止めた。…いや、止めたというよりも、あまりにも滑稽でそう出来なかったといったほうが正しいか」
 セフィロスはそう言うと、ゆっくりとベットまで進み出た。
 そうしてベットを背にして立ち尽くすと、クラウドを真正面から見つめる。
「阿呆だと思わないか、クラウド。俺からあいつを奪った人間は、そんな事をしておきながら善人面を下げて俺に近づいてきたんだ。まるで"悲しんでる俺を慰める"振りをしてな。――――その阿呆面は、あいつの親友でもあった」
「親友…って」
「分かるだろう?その阿呆面はつまり、俺に近付くためにあいつを殺したんだ。そんな事のためだけにな」
「……」
 馬鹿馬鹿しいにも程がある、そう言ってセフィロスは嫌な笑みを浮かべる。
 クラウドはその笑みを視界に移しながらも、段々と自分の鼓動が早まっていくのを感じていた。
 ドクン、ドクン…そう鳴っている心臓。
 まるでセフィロスに届いてしまいそうなその音が、とても怖い。
 
 
 
 
 

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