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皮膚の下 -------------------------------
「ねえ大好きだよ。だから…抱いて?」 誘い文句は大体決まってる。 俺のその誘い文句に、大体セフィロスも悪い表情は見せない。 仕事が忙しい時はさすがに機嫌が悪いから、そんなことは言わない。それは最初から弁えてる。TPOってやつを、ね。 優しいセフィロスは、勿論俺の期待に応えて抱いてくれる。 一見恐そうに見えるセフィロスがこんな優しい抱き方するなんて誰も知らないだろう。だからこれは俺の特権だと思う。 セフィロスが俺の誘いに乗って俺の体に手の伸ばした時、俺はやっと安心できる。 ―――――――馬鹿みたいだって、分かってる。 分かってるけど、そういう事でしか今はもう自分を安心させることはできないんだ。 俺は間違ってる。 精神的にセフィロスに依存してるのも事実なのに、それでもまだ足りなくて、身体を要求する。身体を重ねて初めて安心できるんだ。 そう―――――――俺は、独りじゃないって。 「セフィロス…」 悪い癖だと思いながらもセフィロスを上目遣いで見遣ると、セフィロスは俺にキスをした。今までやっていた仕事なんてデスクの上に放って、ただ俺を見てくれる。そういう事が俺は嬉しい。勿論、セフィロスに余裕がある時でなければそれは成立しないけど。 固いフローリングの床に二人で倒れこんで、それからお互いの唇を深く貪って、ようやく皮膚を感じる。 お互いの肌は暖かくて、こういう時不謹慎にもセックスは良いなと思ってしまう。恋愛はそれだけじゃないというけど、その一部だと俺は思う。だってこの皮膚を感じて俺は少なくとも幸せだし、何より安心ができる。 俺は独りじゃない。 俺にはセフィロスがいてくれる。 セフィロスは俺を見てくれている。 ――――――――――――そんなふうに。 「仕事…良いの?」 俺はおもむろにそんな事を口にした。 勿論本心はそれと正反対で、仕事なんかどうでも良いんだ。本心は、仕事なんて投げて俺を見てて欲しいってだけ。でも敢えて俺は謙虚を振りまいてそう言う。 こういう時、俺はちょっと自分が卑しいなと思う。 だって、俺はきっとセフィロスを試してるんだ。こういうふうに言うことで、セフィロスが俺を選んでくれるかどうかを、俺は図ってるんだ。 「ああ。急ぎじゃないし…構わない」 セフィロスはそんなふうに期待に応えてくれる。 だから俺は至極安心して、セフィロスに甘えられる。 首筋にキスをして、それから鎖骨にキスをして…セフィロスも同じことをして、俺を喜ばせてくれる。そのキスの雨が終わると、セフィロスは俺のシャツを捲し上げて胸の突起に舌を這わせた。 「ん…っ」 ぴちゃぴちゃと立つ音に少し興奮して、俺は声を漏らす。 セフィロスはその声を聞きながらももう既に下半身に手を這わせていて、俺は胸から来る刺激よりもそっちの方に感じ始めていた。さすがにコッチは半端じゃない。直接アソコにくる刺激はさすがに強くて、もう理性の範囲じゃなかった。 だから俺は素直に声を上げる。 さすがにセフィロスとの関係をずっと続けていると、俺も男だし、欲しいものはちゃんと欲しいと思ってくるようになって、今ではちゃんと要求も口にできるんだ。 例えば、もっとこうして、だとか、ソコはもっと責めて、だとか。 最初はそれこそ恥ずかしくて口にできなかったけれど、性欲に素直になればそれも当然だって思うようになった。セフィロスと俺はそれなりの関係なんだし、基本的にセックスの相手は恋人ということになる。だったらその相手と完全に通じ合えるように話をするのも悪いことじゃないって思う。 だって、素直になるだけの話だ。 ただし俺は、それ以前の時点でセフィロスを計っているわけで、それは少々フェアじゃないし素直じゃないかもしれない。ただ俺が誘いをかけることとかをセフィロスは単なる「甘える行為」だと理解してるだろうし何も疑いは持たれてないから、それはそれで良いと思う。 行き着く場所は、結局いつだって同じなんだ。 そう…それはほぼ、セックスだけど。 「セフィ…ねえ、もう入れよう…」 暫くの間弄られていた下半身からセフィロスの手を離した俺は、正に自分に素直な欲求をそう口にした。 セフィロスの答えは勿論、YES。 それ以外の答えが返ることなんてない。もしそうなら、誘いをかけた時点でNOが出てるはずだから。まあそんな時はそれ以前に、俺は誘ったりしないけど。 セフィロスは俺の太股を高く持ち上げてから、覆いかぶさるように体重をかけてきた。こういう時って妙な実感が沸く。ああ、今一緒にいるんだなあって…そんな実感。 俺のアソコにセフィロスの先端がぶつかったとき、何となく俺は考えていた。 この皮膚が無ければ、楽だったのに――――――と。
もしもこの体がセフィロスの皮膚を知らなかったら、きっと俺はもっと楽だったんだ。 きっと俺は、こんなに卑しくセフィロスを計ったりしなかったんだ。 きっと俺は。
「寂しいんだ」 そう言うと必ずザックスは飛んできてくれた。 俺がそう言うとザックスは必ずこう聞く。今日だって例外じゃない。 「セフィロスと何かあったのか」 そういうザックスの気遣いは凄い嬉しい。俺とセフィロスの仲を知ってるザックスだからこそ、俺が弱音を吐いたときにすぐにそういう感覚に結びつくんだ。 でも残念なところは、大体その答えがNOだって事だろう。 俺が寂しいと口にするのは別にセフィロスのせいなんかじゃない。セフィロスは甘えればそれに応えてくれるだけ優しい人だったし、別に俺に不快なことを感じさせるような人じゃない。別に不幸じゃないし、むしろ俺は恵まれていて幸せなんだろうと思う。 だけど時々無性に感じる寂しさは、どうしようも無かった。 多分俺は間違ってる。 寂しいなら、セフィロスが原因ではないにしろ、セフィロスに頼るべきなんだろう。だけど俺には何故かそれができなくて、結局ズルイと分かっていながらザックスを頼ってしまうんだ。どうしてこうなってしまうのかは自分でも分からない。ただ、セフィロスに寂しいというのは違う気がしてた。だって原因はセフィロスじゃないから。 ザックスは俺が首を横に振るのを見ながら、心配の溜息を吐く。 「またそんな強情張ってよ。…どうせ何かあったんだろうが。ほら、吐いちまえって」 「ううん。本当に違うんだ。セフィロスじゃない」 俺は真実を口にするけど、ザックスは頑なにそれを否定する。 それを見ながら俺は少し嬉しいと思ってしまうんだ。それだけ心配してくれてるってこと、それが嬉しくて。 ザックスはとても大切な友達で、セフィロスとは違った意味で凄く好きだって思う。だからこうして頼ってしまう部分があるんだけど、それは実際にはとっても酷いことなんだろうって俺は知ってる。ザックスは本心から心配してくれているから、いつでも飛んできてくれる。そういうのは嬉しくて、俺は時々嘘をついてしまうんだ。 何でもないのに、俺が此処にいることの実感が欲しくて―――――それだけの為に寂しさという武器を使って、嘘をつく。 そうして絶対にきてくれるザックスを見て、俺は心底ホッとする。 ああ、俺は独りじゃないんだって。 ザックスもいてくれる。 ザックスは俺の側にいてくれるんだ、って。 それは多分相当ずるいことなんだろう。何だか俗的な感じだけど、浮気相手みたいなもんだと思う。縋る場所は恋人なのに、それでも満足できなくて絶対に自分に安心をくれるって分かってる人を選んで、実感を得る。俺のこと、考えてくれてる人が居るんだって実感。 でも今日のところは本当に寂しかったんだ。 何がどう寂しいのかは分からないけど、誰かに側にいて欲しいと思って…だから俺はザックスに寂しいって言った。だからこれは本当なんだ。 ザックスはその後何度もセフィロスとの事を聞いてきたけど俺が頑なに違うと言ったもんだから、最後には結局折れてしまった。というか、それは真実なんだけど。 「まあ良いや。とにかくセフィロスと何もないなら別に俺はそれで安心だからな。…で。寂しくなくなったか?」 胡坐をかいて人懐こい笑顔を浮かべてそう言うザックスに、俺は「あのさ」と話を切り出す。そう、寂しさが完全になくなったわけじゃないけど、まだ足りないって感じ。 「ザックス…俺、ザックスのことすごく大切だって思ってるんだ」 そう慎重に切り出すと、ザックスは途端に身構えたような表情になった。 多分それは――――――コレから俺が言わんとすることを察したからだろう。 ザックスはすぐに真面目な表情になると、俺に向かってこう言う。 「クラウド、お前…さすがにもう止めろよ。俺だって良心痛まないわけじゃないんだからな」 「分かってる。分かってるけど…駄目なんだ」 「駄目って言われてもな。俺の方が辛いんだぜ」 「…分かってる。ごめん」 そう、俺は分かってるんだ。分かってるから素直にごめんと謝れる。謝れるけど、物足りなさに嘘をつくことはできない。 俺はザックスの首筋に手を伸ばすと、すっとそのまま顔を寄せた。 「今日だけ。今日だけで良い、これで終わりにするから」 「…んなこと言ってお前。もう何度最後があったと思ってんだよ」 ザックスの発言は正しい。俺はもう何度もこの台詞使ってる。そうだよな、最後のお願いは一度しか有効じゃないものだ。それなのに俺は何度もそんな事言っては、ザックスに頼ってるんだ。これも酷くてズルイことだって知ってる。 でも。 「でもね、辛い」 誘い方は知ってる。 ザックスはこの一言で大体俺の欲求を叶えてくれる。今日も例外じゃない。だからほら、今、ザックスの唇を感じてる。 友達とのセックスはいけないんだって分かるのに、それでも俺はそこにまで依存してる。セフィロスとの間に不満もない、寂しいのはセフィロスのせいじゃない、それなのに結局行き着くところはいつも一緒なんだ。 皮膚を感じて、やっと安心できる。 俺はズルイ。逃げ場所を沢山作って、一つが壊れそうならもう一つに依存して何とか自分を保とうとしてる。それでもそこから逃げられないのは俺の弱さなんだって思う。 それでも俺は安心感が欲しい。 ザックスの指の感触が俺の皮膚に張り付いて、どんどんと降下するのを感じる。それが下半身に入ってからは殊更興奮した。アソコに感じるのは、いつもとは違う感触のモノ。 だけど安心できるのに変わりはない。 ただセフィロスとセックスするときと同様に、俺はザックスとこうしている時にも同じことを考えていた。 こんな皮膚を知らなければ良かったのに、って。 知らなければきっと、俺はザックスに依存なんかしなかった。 知らなければ、俺は。
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