undead – children

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静かな部屋の中で、そっと思い出していた。

あれはいつの話だったろう…そう、とにかく眩暈が起こりそうなほど昔のこと。

あの頃は神羅という会社があって、この世界の中心で、俺は少しだけ夢見てた。そういう大きい事に夢見ていたんだ。

それはもう遠い遠い昔のことで―――――…俺は今、名も無く暮らしているけれど。

若気の至りだったかもしれない。

けれど今ではそれは、ちょっとした人生の肴みたいなものだ。

俺は静かな部屋の中、隣で目を瞑る人を見つめる。銀色の髪をさらりと流して眠っている、きれいなその人を。

「俺も、あなたも、死なないままだ」

そっとそんな事を言って、俺はその人の頬にキスをした。

大好きで、ずっと愛し続けてきたその人に。

 

 

 

 

 

再会を果たしたのは、随分と混乱が収まった頃の話だった。

お疲れ様、そんな言葉をかけて長旅を一緒にしてきた仲間に別れを告げた、その一年後くらいの話だったろうか。

たまたますれ違った人に、ふっと心が動いた。

それは一目惚れだとかそういうものじゃなくて、もっと心の中に浸透するようなものだったと思う。とにかくその姿を目にして、動けなくなった。

だってその人は―――――――――銀色の髪と、翠の眼を持っていた。顔の造作どこを見ても最早見間違えることのないくらい記憶に焼きついた人。

まさか、そう思う。

だってあの人は死んだのだ。というより、自分がその手にかけて葬ったのだ。

まさか生きているはずがない。

それは在り得ない話である。

が、心が感じたことに嘘などつけず、身体は無意識にその姿を追っていた。あまり良いことじゃない、そう思いながらも尾行していくと、やがて人通りの少ない場所に入り、その人はピタリと動きを止めた。思わずそれにつられて動きが止まる。

もしかして気付かれただろうか…?

そんな不安が一瞬にして体内を駆巡ったが、その次の瞬間にはもう、それは不安を通り越していた。

振り向いた、その人に――――――。

はっとするほど綺麗な顔、すらりとした身体は黒を纏い、その中に映えるような銀髪が揺れている。周囲には誰もいなくて、その空間には二人しかいない。

ドクン、と鼓動が早まる。

あまりにも長い間、その姿は自分の中に存在していたし、全ての中心だった。幼い頃も、成人してからも、全てが終わったと思った今でさえ。

「クラウド――――か?」

すっと開いた口が、そう問う。

その声で名を呼ばれた事に、ゾクリとした。

嬉しいような奇妙なような、変な感覚である。

だってその人は存在するはずのない人だから。

もしあまりにも似た別人だとしても、クラウドはその人を過去のかの人として認識するのだ。己の名前すら知っているその人のことを。

「ああ…クラウドだ。お前は―――――」

その名を口にするのも緊張する。打ち勝った瞬間に手に感じた重みと心に感じた空白を、思い出す。

お前は――――――――…セフィロスなのか?

「覚えているのか、俺のことを。…長い旅だった。俺はお前を迎えに来た。もしもお前が嫌でないというなら、共に行こう。彷徨える未来へ――――」

唐突にそんな不思議な言葉をかけたセフィロスらしき人物は、そうした後にすっとクラウドに手を伸ばした。その手はしなやかな動きでもってクラウドの眼の中で揺れ、クラウド自身を捉える。

伸ばされた手を握って良いものか一瞬の躊躇いはあったものの、結局クラウドはその手をすっと握った。意味こそ分からないものの、クラウドがその手を握ってしまったことは、セフィロスが言う“彷徨える未来”を選んだことになる。その詳細は何か予想すらつかなかったが、今までの人生の中でずっと生き続けてきたその人と共になら、何でもできるような気がしていた。

一度は愛し、一度は憎み、一度として忘れられなかった、その人とならば。

 

 

 

セフィロスに連れられてやってきた場所は、かつて最終の戦いの場所となった北の大空洞だった。一年ほど振りに足を踏み入れたそこは随分と荒れ果てている。それはそうだろう、脱出の際にこの場所は崩れたのだから。

だから実際のところそれは空洞などではなかった。もう既に瓦礫の山と化している。崖から崩れ落ちた岩などが空洞であった場所を塞いでしまっていたのだ。

そこに辿り着いてまずセフィロスがしたことは、その地面に落ちている石の一つを拾うという不可解な行動だった。

その石は普通の石と何ら変わりがない。

「これを持ってみろ」

そう言われてクラウドはその石を手にした。

すると、何の変哲もない石であるはずのそれから、何か妙なエネルギーを感じた。それはみるみる内にクラウドの中に浸透する。

「これは?」

そうクラウドが聞くと、セフィロスは静かな声でこう言った。

「ライフストリームは…お前も知っているだろう。星のエネルギーのことをそう呼んでいたのだったな。…星と同化することを考えていた俺が、最終的に導き出した答えが、今お前が感じているものだ」

「え?」

感じているもの…とすれば、この妙なエネルギーのことだろうか。

そう、つまり――――――そう言って、セフィロスは石をもう一つ拾う。

「ライフストリームを己の身に受けるのはひどく重圧のかかるものだ。俺は自らそれを行い、それによって俺の中に蓄積されたライフストリームは姿を変えた。星のエネルギーであるライフストリームが存在するならば、個人のエネルギーもまた存在する」

そのエネルギーは普段、姿を現さない。だから普通に生きる上でそのエネルギーは見えもせず感じもしないのだ。

そこまで説明したセフィロスは、でも、と言って話を続ける。

「俺は星との同化への準備を進める中で、それが可能となった。つまり個人のエネルギーを具現化することができるようになったんだ」

「じゃあ―――…これが、セフィロスのエネルギー…?」

この石から感じられる圧力が、セフィロス自身が放出するエネルギーだというのだろうか。

「そうだ。このエネルギー…“セルフエナジー”というものを具現化…つまりこうして他人に感知させられるようになることこそが、“星との同化”の本来の意味でもある」

「――――え?」

それはつまり―――…一年ほど前セフィロスを倒した時にはまだ、セフィロスの企みである“星との同化”は成立していなかったということか。セフィロスの当初の目的は約束の地を探すことだと思われていた。しかし古代種と思われていたジェノバとの同化によってその人は、星と同化して星を支配しようとしていたのである。

その一連の過去を振り返り、クラウドは何故か空虚を覚えた。

今そう告白するセフィロスが隣にいる。

生きている。

それはつまり、死していないこと―――――つまりあの戦いが無意味であったことを示していた。しかも星を救うなどという大仰なことを口にしていた事もあったのだ、これではあまりにも無意味で……あの日々が悲しい。

しかしそう思う反面、セフィロスという個人の存在を忘れ切れない、捨て切れない、再会の果てにホッとしてしまうような自分がいた。

結局は、矛盾していたのだ。心のどこかで、いつでも。

星の破滅を進めていくセフィロスを敵と認識させて、星を救う、セフィロスを倒す、そう自分で言うことによって、セフィロスという人を自分の心から切り離そうとしていたのかもしれない。――――相反する人間として存在することによって。

それでも倒したと思った瞬間の空白は、拭い去ることができなかったのだ。

それ自体、矛盾している。

あの旅、戦いが教えてくれたこと―――――それは、結局切り離すことなど不可能という痛い真実だったのかもしれない。

自分自身を振り返って、クラウドはふっと笑みを漏らした。

その隣でセフィロスは、静かな口調で説明を続けている。

「俺はようやくそれを手に入れ、本当の在るべき姿に辿り着いた。あの頃はまだ表面に囚われていただけだった」

「じゃあ今が…本物?」

「そうかもしれん」

手の中にある石から放出されるエネルギーを体感し、クラウドは「そうか」と頷く。

確かに今は随分と穏やかだと思う。

神羅時代、一度は心を確かめ合った仲だったが、その頃でさえこんなに穏やかではなかった。それは自分がまだ子供で、セフィロスという人の生まれた経緯すら知らなかったからかもしれないが、そう言われると、今言われたことが全てであるようにも思える。

「そういえば俺を迎えに来たって…どういうことだ?」

先ほどセフィロスはそんな事を言っていた。

“迎え”に――――…セフィロスが自分に対してそんなことをするなど、ほぼ考えられないことである。自分がそうするならまだしも、セフィロスはあの戦いで本当にクラウドという存在を切り離していたはずだった。それが今こんなことを言うのには、何か理由があるに違いない。

「それは、クラウド。お前だけが―――――――…」

 

“博士。ナンバーを下さい”

 

そう言ったのは、セフィロス・コピー計画で失敗作とされたクラウド・ストライフだった。

彼は神羅の一般兵にしか過ぎず、ニブルヘイム事件によって宝条の実験材料の一部となったが、高濃度の魔晄漬けともいえる試験管から逃亡する際には既に己の自律神経を失っていた。

つまり、その時点で彼は自分自身ではなくなっていたのである。

これらの事実は全て、あの戦いの中で思い起こされたクラウドの記憶である。

しかし。

 

「クラウド、行こう。お前に見せたいものがある」

そう言って差し出された手を握ると、途端に体がすっと軽くなった。

周囲の景色は段々と色あせ――――――そして、消失していく。

世界は、クラウドの視界から消え去っていった。

 

 

 

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