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TRESOR -----------------------------------
その日は雨だった。
「お前、不思議な力持ってるって、本当か?」 声をかけられ、クラウドは振り向き、苦笑した。 そこにいたのは、神羅カンパニーでも、かなりアウトロー的でいながら、それでも皆に好かれている、根明なザックスだった。 「そんなこと、誰に聞いたんだ?」 始めて会ったはずなのに、何故かザックスに敬語を使おうなんて思わなかった。ザックスの持つフランクな雰囲気がそうさせたのかもしれない。 「教官達からね。今度の新人研修では、お前一人余るってんで、俺が特別に研修参加となったわけ。で、前評判を確かめておこうと思ってね」 「そうなんだ。それはご迷惑を…」 「おいおい、俺はそんな実にもならねぇ社交辞令を聞きたくてここにいるわけじゃないぜ?」 ウィンク一つよこしたザックスは、クラウドの耳に口を寄せて、もう一度囁く。 「で、不思議な力って、本当か?」 「…うーん」 クラウドは複雑そうにザックスを見つめた。 「子供の一年前くらい前までは、確かにそんな力があったみたいなんだけど、ちょっと記憶喪失になったことがあって、それからはまったく不思議な力なんてないよ?」 「へぇ。記憶喪失ねぇ…」 「何か怖い経験でもしたんじゃないか、って母さんが言ったけど、その記憶すらないんだ。おかげで何か大切なことまで忘れてるようで、気持ち悪いんだけどね」 笑ったクラウドの顔は、記憶喪失に悩んでいるようには見えない。 「そうか…そりゃ、悪いことを聞いちまったかな?」 「別に良いよ。それより、新人研修の時は、よろしく」 「おう。任せておけ!」 しとしと降る雨を窓の外に見ながら、それがザックスとクラウドの最初の会話だった。
新人研修は、社内の情報に詳しいザックスのおかげで、かなり順調に終えた。 その後、ソルジャー候補生となるために、ザックスの口利きで有利に書類を作成して、実際にソルジャー候補として存在する候補生達との二人部屋に入ったときも、ザックスと同じ部屋になった。 一年遅れでソルジャー候補生となったクラウドは、ザックスと共に学び、ザックスと共に生活した。
その日も雨だった。 うざったいくらいに湿気を運んでくる雨を見つめて、休日を持て余していたクラウドとザックスは、ちょっとした遊びをしていた。 ザックスが入社してから発明した、と威張って教えてくれた遊びで、発明するまでもない、簡単な遊びだったのだが…。 「…すごいな、クラウド…」 あきれ混じりのザックスは、呆然と呟き、トランプを置いてしまった。 「連戦連勝じゃないか?」 「…こんな簡単なゲームに、連戦連勝もないもんだけどね?」 クラウドは笑う。 「にしてもよ、普通十戦したら、確立は二分の一になって、一・二回は負けても良いんじゃね?」 「そうかな?」 ";color:silver'> ゲームは単純。トランプをジョーカーを抜いて、ちょうど半分にして、一枚ずつ場に出してその目を競うというものだ。互いに出したトランプの、より数字が多い方が場に出されたトランプ二枚を取ることが出来る。そうやって、手持ちのトランプがなくなった時点で、持ち数の多い方が勝ち、という単純ルール。 「ザックスは意外と単純だから、読みやすいよ」 「単純とは何だ!」 怒り出したザックスのおかげで、ゲームはそこで終わり。 まだ昼頃で、時間を持て余す若者達は、これからどうしようか、と互いにグチをこぼす。 そんな時だ。 「済まないが、ザックスはいるか?」 聞いたこともない声が、ドアの外からザックスを呼んだ。 「おい、呼び出しか?」 不平を言いながら、ザックスはドアを開ける為に重い腰を上げる。 しかし…。 「駄目だ、ザックス!」 クラウドが突然に叫んだ。 「はぁ?」 驚いたザックスがクラウドを振り向くと、青い顔をしたクラウドが、真剣な目でドアを見つめていた。 「おい、どうした、クラウド?」 心配して呼びかけても、返事がない。 ザックスは一時迷う。だが、もし命令ならば、開けなければ命令違反で罰則を食らう。もちろん、同室のクラウドも連帯責任ということになる。 ザックスは、クラウドの様子を気にしながらも、ドアを開けた。 「…遅いぞ、もう少しで命令違反の罰則を考えるところだった」 「あ、そりゃ、どうも…」 ドアの外、不機嫌そうな顔をして立っていたのは、とてもじゃないが、こんなソルジャー候補生の部屋を尋ねるような人物ではなかった。 「で、あんたは…セフィロス?」 「ああ。教官連中が全員休暇帰郷に入っているので、俺が用事を言いつけられてな」 セフィロスはザックスを押しのけて、部屋にずかずか入ってくる。 「おいあんた、何、人の部屋に上がりこんでるんだよ?」 「部屋に入らなければ、何も出来ない」 「って、何を?」 「今日の休暇は、実はお前達の技術試験の説明会があったはずだったんだが、それを教官連中は忘れたらしくてな、ソルジャー総出で、各候補生の部屋を尋ねて説明しているんだ」 「で、俺達は、英雄が説明してくれるって?」 「ああ…」 セフィロスはクラウドを振り向く。 「そっちの黄色いのも、良いか?」 セフィロスの無表情が、クラウドを見る。 クラウドは、セフィロスを見つめたまま、無言で硬直していた。 「…お前の相棒は、病気か何かか? ザックス」 「いや、至って健康体だけど…ちょっと問題アリかも…」 「問題があるようでは、ソルジャーになれないが?」 「あんたが尋ねてくるまでは、普通だったよ」 セフィロスはあきれた様子でザックスを見る。 「では、俺が原因なのか?」 「そういうことじゃね?」 現役ソルジャーに対して、全く礼儀をとらないザックスは、いっそ見事である。が、セフィロスは案外と気にしてないらしい。 「俺が原因なら、今後は気をつけるとするか…」 言いながらも、セフィロスは何度もクラウドを振り返る。 ザックスはそんなセフィロスのことも、不思議そうに眺めたが、こっちは自分に実害がないので、気にするのをやめることにする。 問題は、クラウドの方だが…。 ザックスの視線の前で、クラウドはまだセフィロスを凝視していた。
技術試験を終え、二人は候補生の最終段階へ上がった。 最終試験を終えれば、そこでソルジャーになれるかどうかが決まる。 ザックスの成績は順調で、クラウドもそれを追う形ではあったが、案外と成績は良い方だった。 「な、クラウド?」 最近、夜の外出が多くなったクラウドを、ザックスは心配していた。 「ん?」 反して、クラウドの方はザックスの動向に無頓着になり、二人の生活はすれ違ったままだ。 「お前、大丈夫なのか?」 夜にどこに行っているのか、予感があるので、ザックスは尋ねない。だが、クラウドは最近気分の浮き沈みが激しく、それが予感が的中したためならば、ソルジャーになるまではフォローしなくては、と思う。 弟のようで心配なのだ。 「何が?」 今日のクラウドは気分が良いらしい。 「体調とか、気分とか」 「うん。別に異常はないけど…なんで?」 「最近はちょっとお前、変だからさ…」 はっきり言うと、ちょっとどころではなかったが、ザックスは言葉を控えた。 自覚があるのか、クラウドの方は、控えた言葉でも動揺する。 「そうかな? 俺、おかしい?」 「ああ。かなり…」 隠しても仕方のないことだった。今度ははっきり告げて、ザックスはクラウドの返事を待つ。 すると…。 「俺、どうもセフィロスが好きみたいなんだ…」 予感的中である。 「セフィロスの方も、俺のこと、ちょっとは気にしてくれてるし…」 「付き合ってるとでも言うか?」 冗談めかして言うザックスに、クラウドは真剣に頷く。 「うん。夜に外出してるのも、セフィロスに会うためなんだ…」 「やっぱり…」 聞かなくても判っていた。 「それで、付き合いは続けるのか?」 「…判らない。時々セフィロスが怖く思えるときもあるし…気持ちは好きなんだけど、体が恐れてる部分もあるんだ」 「なのに、付き合ってるのか?」 「うん…」 頷くクラウドは、どんどん気分が沈みこんできているようだ。 話題を変えなくては、と思ったザックスは、しかし、聞いてみたいことがあったのを思い出した。 それは、セフィロスと始めて会ったときのこと。 「お前、俺達の部屋にセフィロスが尋ねてきた…始めてセフィロスに会ったときのことを覚えているか?」 「うん。覚えてるよ」 「なら、あの時、ドアを開けようとした俺を制止したよな? あれは、どうして?」 そう、あれが不思議だった。何故クラウドは止めたのか? ソルジャー候補生は、いかなる場合であっても、神羅カンパニーの人間の言葉を無視することは出来なくなっている。それはクラウドも知っていたはずなのに、ザックスを止めた。 「判ったからだよ」 「え?」 「部屋の外にいたのがセフィロスだって、ドアを開ける前から判ったんだ」 「それって…」 ザックスは不思議なものを見るように、クラウドを見る。 「前にザックス、俺に聞いたことがあるよね? 俺達が初めて会ったあの時に」 ―――お前、不思議な力があるんだって? 「俺、本当に記憶をなくてから、不思議な力なんてなくなってたんだ。けど、神羅カンパニーで過ごしていくうちに、少しずつだけど…力の殆どを取り戻してたんだ」 「じゃ…」 「その前にトランプゲームをしてただろ? あのゲームの時も、ザックスが次に出すトランプの数字とか、判ってたんだ。だから全勝出来たんだよ」 済まなそうに言うクラウドに、それは良いのだ、とだけ答えて、ザックスは突っ込んで尋ねた。 「なら、何でセフィロスだって判ってて、ドアを開けないように言った?」 普通、セフィロスが尋ねてきたと判れば、本当に普通のソルジャー候補なら、喜んでドアを空けるだろう。 「開けちゃいけないって、言った人がいるんだ。誰だかは忘れたけど…。ドアの向こうに、憧れの英雄セフィロスがいるって判ったのに、すごく嫌な感じがして、その時、誰だか忘れてしまった人が、開けるな、って耳元で叫んだ」 「それ、誰?」 ザックスには声なんて聞こえなかった。きっと、それもクラウドの力と関係する何か、なのだろう。 「判らない。でも、とても記憶を揺らす声だった。…誰だろう?」 ザックスは、明らかにおかしいと思うクラウドを、黙って見つめ続けた。
夜中、部屋を抜け出すクラウドを、ザックスは追いかけた。何故か、どうしてもセフィロスと付き合っているというクラウドが心配でならなかった。 ソルジャー候補生に与えられた寮を出て、正規ソルジャー専用の寮へ向かって、クラウドは進んでいく。 途中、森とでも表現した方が正しいような中庭を抜けようとして、クラウドは突然に進路を変えた。 どうやら、中庭名物の噴水の辺りへ行くらしい。 自然公園とでも表現した方が正しいようなこの中庭は、最近では手入れもおろそかになっているのか、原生林と称しても不自然でない。 クラウドを見失わないように、注意して追いかけるザックスに気付かず、クラウドは噴水までたどりついた。 噴水の中央に立つ外灯の所為で、辺りの見通しは良い。クラウドは噴水の縁に腰掛けると、細い声で歌い始めた。 まるきり、クラウドが歌っているとは思えない、そんな声が、ザックスの耳にも届く。 歌はしばらく進んでから止まり、今度は水に飛び込んだ。 驚いたザックスが、飛び出そうとした時、別の木々の間からセフィロスが飛び出し、水の中からクラウドを掬い上げる。 「何故だ…」 唸るようなセフィロスの、苦痛の声が聞こえてくる。 「お前は何故…」 ぬれねずみになったクラウドの服を脱がせ、セフィロスは自分の上着を着せ掛ける。 クラウドはそんなセフィロスの首に腕を絡ませ、誘うように目を閉じる。 「何故だ…」 誘われたセフィロスは、クラウドの体を強く抱きしめた。
狂ってる…。 ザックスは部屋に戻り、首を振りつづけていた。 狂ってる。クラウドは、狂ってる…。 あの後見た、ザックスが覚えている限りの光景は、まるで狂人同士の情事だった。 声を上げ、笑いながらセフィロスの腰をまたぎ、自分から快楽の波に飛び込んだクラウドと、それに誘われるようにクラウドと交わるセフィロス。 正気の沙汰じゃない。 外灯に浮かび上がるクラウドの白い肢体は、確かにクラウドに恋愛感情というものを抱いていないザックスでさえ魅了されるものがあったが、それと、セフィロスの獣のような情交とは別物だと思う。 なのに…。 「誰か…」 ザックスは祈っていた。 「誰か…クラウドに叫んだあんたでも良い…クラウドを、救ってやってくれ…」 神になんて、今まで頼ったことはなかった。だが、今この時だけは、ザックスは祈りを届けて欲しかった。クラウドを一度でも止めた、声の主に…。 だが、声は届かない。 眠り続ける声の主には…。
終り
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