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時計 --------------------------------
時を刻む時計を見つめていた。 時にこの時計は憎らしく、時にこの時計はとても優しくて。 会いたいと願うのに会えない日には、それはとても長く感じる。 やっと会えた日には、それはとても短く感じる。
そんなふうに貴方と俺の間には、時間が流れている。
貴方は良く言っていた。 白い空を見つめながら、空虚な瞳に何かを映して、こう言っていた。 「神羅がこの世界を仕切るようになって何かが変わったようだが、その実何も変化していない」 そうだね、そうかもしれない。 それでも此処があって、俺は貴方を知ることができた。だから感謝をしなくちゃいけないんだろう。 でもそれが今、貴方を苦しめるものなら、俺はそれを憎もう。 「時々、息苦しくなる」 貴方はそう言って切れ長の眼を、伏せる。 何も変わらず永久に続く現実は、そうして貴方を苦しめる。 だから俺は、現実を憎もう。 「このまま同じ毎日を続けて生きていく―――――死にそうだ」 そんなことは言わないで。 貴方が死んだら、この世界はどうなるの?俺の心にある世界はどうなるの? そこには世界はないだろう。 だから、せめて俺はこう言うんだ。 「セフィロス、大丈夫だよ」 それは慰めの言葉じゃない。俺は本当にそう思うからそう口にするんだ。 「世界を変えよう。貴方ならできる」 そんな世界が嫌だというのなら、変えれば良い。 他の誰でもない、貴方が望む世界に変えれば良いんだ。 この世界は誰かが作った世界で、それに生かされて誰もが日々を過ごしている。何かの目的を必死に探してもがき苦しみながら生きてる。 だけど、それさえ貴方の目の前では、意味すらないというなら、変えれば良い。 でも、一つだけお願いがあるんだ。 「できるなら、その時俺が貴方の側にいたい。誰よりも近くにいたい」 心からそう願ってるよ。 どうかそこに俺を選んでくれますように。 「素直だな。こっちが気恥ずかしい」 そう言って俺を見た貴方の瞳には、鮮やかな緑が映っていた。 その目に映るものが、貴方の世界。 その緑に、俺がどうかいますように、俺はそんなふうに願う。 「じゃあ手始めに、この時間の流れを止めよう」 俺はそう言って、部屋に置いてある一つの時計を手にした。それはカチカチと止まる事無く時を刻んでいて、貴方と俺の時間を流していく。 正確に時を刻む秒針を、俺はそっと指で止めた。 音が止んで、時が止まる。 動きが止まり、時が止まる。 「それが第一歩なのか?」 「変かな?」 クス、と笑った貴方は、いいや、と返事をする。 だってこの世界の時間を支配するのは、この小さな時計だろう。この時計さえなければ、いつか時間なんて分からなくなってしまうんだ。 太陽が昇り、月が昇る。それの繰り返し。 その大まかな区切りだけで、人は生きていくんだ。 それでも良いじゃないか。 だって、側には貴方がいる。 朝も昼も夜も、いつだってそこに貴方がいることだけが世界じゃないか。 会いたいと願うのに会えない日に、時間が長く感じることもない。 やっと会えた日に、時間がとても短く感じることもない。 それって、凄くいい事じゃないかと思うんだ。 「それより、もう戻った方が良いんじゃないか?」 ふっとそんな事を言った貴方の眼は、もう空ろではなかった。しっかりとこの部屋の景色を映し出し、時を流そうとしていた。 何だか俺は、少し悲しくなってしまう。だって、折角俺が時間を止めたっていうのに。 「戻りたくないよ」 「わがまま言うな」 どうやらタイムリミットらしい。 だけど、そのタイムリミットってやつも、誰かが決めたものに過ぎないんだろう。 だから俺は少し考えてからこう言った。 「ちょっと待って。今この部屋だけは時間が止まってるんだよ?だったら俺にはタイムリミットは無い」 「またワケの分からないことを言って」 貴方がそんな事をいうもんだから、俺は指で止めていた秒針を、引き抜いた。 そうして秒針は、床にポトリ、と落ちる。 ほら、時間は無くなった。俺は勝ち誇ったようにこう言ってみせる。 「時間はもう流れないよ。此処で止まるんだ」 時間は午後10:15。記念にこの時間を覚えておこうかなと俺は思う。 これは世界の流れが止まった時間。 それから貴方と俺だけの世界の流れが始まった時間。 落ちた秒針を見つめながら貴方は、ふう、と息をつく。 「それは違うぞ、クラウド」 「何で?秒針、もう無いよ」 俺がそんなふうに言うと、貴方はふっと笑った。それは優しくて、ちょっとばかり自信のある笑いで、俺も大好きな笑いだった。 そんな笑みを見せながらも、貴方はずっと黙ってる。 おかしいな、俺はそう思って首を傾げてしまう。 だけど、その理由は少ししたあとにハッキリした。そう、それは俺の指に何かが当る感覚と同時に分かったことだった。 「ほら、お前の負けだ」 「え?」 「見てみろ、その時計」 そう言われて俺は時計を見た。 別に何も変わりはないよな、と思ったけど、よくよく考えると、凄く悔しい事にその時計は動いていたんだ。 俺が引き抜いた秒針はもうそこにないけれど、その代わりに分針がしっかり動いていたんだ。 「あー…」 「残念だったな。ほら、タイムミットだ」 俺は悔しくなったけど、でもそれはどうしようもないことだった。此処で分針を引き抜いても、結局いつかは時針がひょっこり動いてしまうんだ。 何だか時間というやつは、どうやら複雑らしい。 俺は少し不満だったけど、降参して貴方にお別れをいうことにした。 もう少し側にいたかったけど、今日はこれで帰らないといけないらしい。 「じゃあ、おやすみ」 「ああ、おやすみ」 俺は貴方におやすみのキスをする。 だけど、勿論諦めたわけじゃない。 俺はいつか、貴方を悲しませるこの時の流れを止めてやるんだ。 そうして貴方の思う世界を作って、そこに俺と貴方だけの時間を流す。 だってそうすれば、その世界の中にも、その時の流れの中にも、貴方を悲しませるものはない。貴方の憎むものもない。 だからとても幸せになれる。 だから、それまで少しだけ、二人の時間を止めておいてやるだけだよ。
でも、もしそれでも悲しくて、苦しいというなら。 俺はちゃんと止めてあげるよ。
“貴方の時計”を。
END
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