tasty cocktail
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視界はヨロヨロ。 目なんか閉じた日にはグラリ、とする。 気分がほんわかする。 「もっと注いで〜」 へろへろになりながらも、クラウドはそう言ってグラスを差し出す。陽気な警備兵仲間は、良いね〜、などと言いながらそのグラスに並々ビールを注いだ。 またもや満杯になったグラスをすわった目で見ながら、クラウドはにんまりとする。 「いっただきま〜す〜」 ゴクリ、ゴクリ……際限なく飲み続ける。 とにもかくにも飲み続ける。はっきりいって底なしだった。とはいえ、脳の麻痺状態は限界近かったのは言うまでもなく――――結果。 「わ〜!クラウドっ!!」 「くか〜…」 クラウドはかなりの泥酔状態でその場で倒れ、眠り込んだのだった。
その日は、警備兵連中のちょっとした飲み会だった。これは大体極秘で行われていたけれど、その理由は勿論、未成年軍団がゴマンといたからである。 勿論クラウドもその一人で、彼は嬉々として参加したのだった。しかしクラウドは実に正直だった。極秘だぞ、という先輩警備兵達の言葉に「はい」と頷いたのは良かったものの、それをずばりセフィロスに嬉しそうに話していたのだった。 しかも、 「飲み会なんだ〜!でね、これ、極秘なんだってさ!」 …と、極秘だという言葉も忘れなかった…。それを聞いたセフィロスは呆然としつつも、 「そうか」 と取り合えず答えておいたが、心の底で深い突っ込みを入れていた。 極秘なことを人に伝えておいて、これは極秘です、なんていう馬鹿がいるか?、と。 しかしクラウドのそんな惚けっぷりがまた、セフィロスは少し好きだったりした。 とにもかくにも、クラウドがそれをセフィロスに伝えておいたのは結果的には良い事だった。とにかく水を飲まして部屋に運べ、という言葉が飛び交いつつもあたふたとしていたその場に、ナイスタイミングでセフィロスは現れた。 セフィロスにとってはクラウドを引き取りにきただけだったが、その場にいた人間にとっては蒼白モノだったのは言うまでもないことだった。 何せ、極秘だったのだから。 が、セフィロスはクラウドを抱え上げると、すっかりと無言で去っていった。 何者だ――――――――英雄!? その場にいた誰しもがそう思った。…しかし、口に出すものはいなかった。 そんな訳で、泥酔したクラウドは自分の部屋ではなくセフィロスのところに運ばれた。 クラウドはどうも夢の中らしくて、何だかブツブツと呟いたりニヤニヤと笑ったりしている。セフィロスは、それを意に介さないように本などを広げていた。 その内容はズバリ“美味しいカクテルの作り方”。 クラウドがこうしてアルコール好きになってしまったのは、実はセフィロスの影響だった。この英雄は酒に強く、最近では自分で作るのに凝っている。それは大概が度数がバカ高いもので、それをミックスさせても蒼褪めもしなければ赤らみもしなかった。 正に英雄。 一緒にいるクラウド用に作るのはそれよりかかなり低めのサワーだとかで、クラウドの場合それを飲んだだけでもホロ酔いになってしまうのが常だった。 しかしこの日のように倒れるのは初めてのことで、これはさすがにいけないな、とセフィロスも思わざるを得なかった。 「う〜ん…」 ふっと寝返りを打つクラウドに、セフィロスの視線が本から離れる。 「…ん…?」 寝ぼけ気味の眼がセフィロスを捉えて、あれ、という顔になった。当然のように記憶は飛んでいる。 「起きたのか?」 そう言ってセフィロスは本を置くと、クラウドの頬に手をやった。その手はひんやりと冷たく、火照った顔には丁度良い。 「何で…セフィロス…?」 「迎えに行った」 「そっかあ〜」 今頃、警備兵軍団がそそくさと宴会をお開きにしている図など知りもせず、クラウドはもわりとする頭でそんな言葉を返した。まだまだ酒気は抜け気っていない様子である。 しかしクラウドは、こういうほんわりした気分は結構好きだった。 特にセフィロスといる時は、思い切り甘えられるからお得である。普段はそうそう甘えられないし、こういう時はこういう時なりの良さがある。 丁度セフィロスに膝枕された状態だったクラウドは、下からセフィロスを見上げながら両手を差し出した。 「ん?」 それに気付いてセフィロスはされるがままになる。 そして引き寄せられて、キスをする。 「ん〜」 クラウドはかなり満足げににっこりすると、そのままセフィロスに抱きついた。 「おいおい、苦しいだろ」 仕方無い奴だな、と呟きながらセフィロスはクラウドの身体を引き寄せた。そうして何とか膝の上に座ったような状態まで持ってくると、セフィロスはクラウドにこう言った。 まだ酒気は抜けきっていないから、こう言っても意味はないかもしれないとは思いつつ、それでも。 「お前、あんまり飲みすぎるな」 確かに質と量からすれば、それだけで酔うなどセフィロスにとっては考えられないことだったけれど、何と言ってもクラウドは未成年だし、そんなに強くない。 この分だと、またあの宴会があった時には更に飲んでしまうだろう。そう思ってそう言ってみたが、実は原因が自分だという事はこの際棚に上げておいた。 「何で〜?」 「身体が壊れるぞ」 「身体〜?いつも壊してるじゃん、セフィロスが〜」 「うっ…」 クラウドの言った意味を分かってしまったセフィロスはギクリとした。そんな様子を見てクラウドはケラケラ笑っている。 これは一本取られた英雄である。 「まあそれはともかくとして…」 コホン、などと咳払いをしつつ、セフィロスは話を元に戻す。やはりその話題も棚上げする所がポイントだった。 「飲みすぎは良くないぞ。お前の場合は特に未成年だし…それに」 「なあに〜?」 セフィロスは次の言葉を言うのを躊躇った。何となくこんな言葉を言うのは嫌な感じがする。 それでも少しして、別に何でもないふうにこう言った。 「やけに甘えるじゃないか」 それを聞いて、何を勘違いしたのかクラウドはムッとした顔になる。クラウドにとってはこれはかなりお得な訳で、何だかそれを否定された気分になったのだ。 やっぱり嫌だと思ってるのかな、そんなふうに思って、 「駄目かなあ…?」 と口を尖らせて言う。しかしセフィロスは全く違った意味でそう言ったので、そのクラウドの言葉に疑問符を浮かべる。 「駄目かなあ、ってお前。駄目に決まってるだろ」 「何で」 「何でってお前……それは、俺が嫌な気分になるだろ…」 「ええっ!?」 そんな!、と思いクラウドは声を上げた。 まさか自分が甘える事でセフィロスが嫌な気分になっているなんて知らなかった。折角、お得だと思っていたのにそれはどうやら駄目らしい。 そう思ったクラウドは今度、急に悲しそうな顔付きになった。 「…分かったよ〜…もー、甘えませんっ…」 そう言ってクラウドはそろそろとセフィロスの膝から降りると、何故か床の上に正座を仕出した。かなり支離滅裂な行動だったが、それはセフィロスを焦らせた。 セフィロスとて、飲んだ後の二人きりのムードは嫌いではない。それが急に拗ね始めてさっぱり無くなってしまうのは、少し勿体無い感じがする。 「クラウド、いきなりそんなに拗ねんでも…」 「もー甘えませんっ!」 差し出した手さえも、サックリと払われてしまう。 「セフィロスには甘えないですっ!」 実家に帰られていただきます宣言をする嫁の如くにそう言い放ったクラウドに、セフィロスは、ん?、と首を傾げる。 “セフィロスには”…?? 「ちょっと待て」 クラウドの素敵な勘違いに気付いたセフィロスは、自分も床に座り込むと、正座をしてムッとしているクラウドを見遣った。 「お前、何か勘違いしてないか」 「してない」 「いやいや、してるだろ」 「してなーいっ!甘えるなって言ったのはセフィロスですっ」 ああ、やっぱり…そう思ってセフィロスは溜息を付くと、片手で頭を抱えた。まさかそんなふうに取られるとは思ってもみなかった。遠まわしすぎたのだろうか。 このままだと勘違いされっぱなしだな、と思いながらも、さっきの言葉をもう一度言うのはかなり躊躇われた。 とはいえ、言わなければやはりこのままになってしまう。 仕方なくセフィロスは意を決した。 「だからな、俺以外の奴にまで甘えるなって…事だ、馬鹿」 さすがの英雄も、照れが隠せなかったのか少し視線を逸らしてそんなふうに言う。それに驚いたのはクラウドの方だった。 「ええっ!?」 またもやそんな声を出す。それから自分の勘違いに気付いて、今度は急速に恥ずかしくなった。セフィロスの言った言葉の意味がちゃんと分かったからといって、今さっきまでムッとしておいて今更、またお得に甘えるなんてとてもじゃないけど恥ずかしくて出来そうもなかった。 結果、部屋の中で二人は照れ合う。…しかもちょっと気まずく。 どうしよう、そう思ったクラウドは、ふと目に入った本を見てひらめいた。本のタイトルは“美味しいカクテルの作り方“。 そういえばセフィロスは自分で割ったりするのに凝っていたというのを思い出したのである。それはクラウドも時々一緒に飲んだりしていたもので、だけどまだサワー程度しか飲んだ事が無い。 もう一度お得な雰囲気になるには、もう一度最初から…そう思い、クラウドはそっとセフィロスを見てこう言った。 「マスターっ!…オーダーですっ!」 「は?」 言われたセフィロスは呆気に取られた。…が。 「“美味しいカクテル”、やや強めでお願いしますっ!」 そう続いたクラウドの言葉に、セフィロスは視線をふと本の方に移す。なるほど、“美味しいカクテル”である。しかし、クラウドにはまだカクテルというものを飲ませたことがなく、それはちょっと躊躇われる。しかも今のクラウドは散々飲んだ後なのだ。 けれど、セフィロスはそれに対して 「…“お一つで”」 と、いかにもな返事を返して、クラウドに“美味しいカクテル”を作るべく立ち上がったのだった。 英雄といえども、もう一度お得な時間が過ごしたかったのである。
マスター特製の“美味しいカクテル”が客の元に届いたのは、それから少し後の事であった。
END
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