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STEP BY STEP ----------------------------------------------
“この前のテスト、パスしてさあ” そんな言葉を耳にする。 “何だか誉められちゃって” そんな言葉を耳にする。 “次の仕事、良いの回してもらえそうなんだ” そんな言葉を耳にする。 ああ、頑張ってるなあ――――――そんなふうに思って、一つ溜息。 周囲は皆、頑張ってる。 頑張って頑張って、どんどん進んで、いつかずっとずっと遠い手の届かない場所に行ってしまうんだろう。漠然とそんなことを考えて、クラウドはふと我に返ってみたりした。しかし振り返って思い返した自分は、とても進んでいるようには思えなくて、それどころか、いつしか立ち止まっていたかのような気もする。 皆との差はどんどん広がって…やがていつかは、埋められない溝みたいに深く、近付きたくても近づけない磁石の同極みたいになってしまうのだろうか。 自分は、歩いているのだろうか。 ふと、隣を見て―――――そんなふうに思った。
「セフィロスって、劣等感って感じたこと無いでしょ」 そんなふうな言葉に、セフィロスは首を傾げてクラウドを見遣った。 何を唐突に言い出すかと思えば、また何と妙な事を、とそう思う。 今さっきまで食事などをしていて、さてこれから食後のコーヒーでも一杯…そう思っていた時分の話だったから尚更そう感じてしまう。恋人同士の食後といったらそれはもう幸せ一杯という図式なはずなのに、どうもクラウドはそうはさせてくれないらしい。 唐突にそのような言葉を口にしたクラウドは、さっきまでの幸せ一杯の雰囲気からは既に脱していたようで、返ってセフィロスの方が遅れを取ったという具合である。まあそれでも二人の間にある会話なのだからそれはそれで楽しめば良いわけだが、しかしこれはまた楽しむとはちょっと遠い話題であった。 何しろクラウドときたら「無いでしょ」などと、ほぼ断定でものを言うのだ。しかもそのような内容を。 妙な話題、そう思ったセフィロスも、だからその言葉の意味をよくよく考えたら少し腹立たしくなったものである。 「何だ、その“無いだろう”とは」 「だって。セフィロスって何に関しても人に負けるってこと、無いでしょ?」 良いよな、セフィロスはさ、そんなふうにボヤきながら溜息などを吐いたクラウドは、セフィロスの回答などさらさら聞く気がないらしく、もう既に「セフィロスには劣等感など無縁だ」というふうに解決をしていた。そこでセフィロスが口を割らなかったのも問題だったかもしれないが、とにかくその場ではそのクラウドの意見が「正しい」ことになってしまったようである。 コーヒーを注ぎ終えたクラウドは、それを手にしながらセフィロスの隣に腰を下ろすと、 「って事は、セフィロスには俺の気持ちなんて絶対分かりっこないんだろうな」 などと、セフィロスにとってはもっての他である言葉を口にした。 顔に出さずとも幸せ一杯な気分だったはずのセフィロスは、自分には分からない、などと言われてそれは大層ショックを受けたものである。だって何しろ、クラウドのコトなら任せろと言わんばかりの気持ちであるのに、その当人からそんな事を言われてしまったのだから。これはもうどうにも許せない事態である。 「おい、何だ。さっきから聞いてれば、俺には無縁だの分からないだの…それはお前、ちょっと失礼というものではないか」 「えー…だって。本当にそう思うんだもん」 「思うんだもん、って……」 セフィロス、呆気に取られる。 そう言われてしまっては返しようがない。確かにそう思っているんだから仕方無いということになるし、しかしかといってセフィロスも自分の気持ち的にそこを譲る気はなく、だからとっても微妙な状態となる。 クラウドにそんなふうに言われるほど、自分はクラウドの気持ちを汲むことができないものなのか…そんな疑問が沸くが、では「俺にだって劣等感くらいある!だからお前の気持ちだって分かるぞ!」と言い切るほど、残念なことにセフィロスは強い劣等感を覚えた記憶は無かった。かといって全く無いという訳ではなかったが。 嘘と分かっておきながらそんな台詞を吐こうものなら、クラウドは絶対突っ込んでくるはずだ。どういう事に対して、だとか、何で、だとかそんなふうに。だからそれは言えない。 …結果、セフィロスは返す言葉が無かった。 そんなセフィロスを他所に、クラウドはブツブツと自分の言葉を吐き出していく。 「あーあ…何か俺、一人遅れちゃったみたいな気分だ…」 そう言ったクラウドの頭の中には、いつだったか聞いた同僚の言葉がグルグルと旋回していた。それは、仕事上のレベルアップだとか目に見える成長を表す言葉達で、そのどれもがクラウドに劣等感を与えたものである。 クラウドとて、神羅に入ってからは真面目に仕事をしているし、決して成長していないわけではない。しかし今迄の努力が目に見えて報われたという事も無かったわけで、周囲でそういう話を聞けばそれはそれなりに悶々とせざるを得ない。同じ時間、同じ訓練、同じものを吸収しているはずの人が、自分では勝ち取れなかったものを手にしたという事実は、やはりどうしても打撃である。 そういうちょっとした劣等感は、どんなに拭い去ろうとしても簡単には払拭できない。ジレンマを感じてそれを誰かに聞いて欲しいと思っても、クラウドの周りにいるのは成功していく同僚か若しくはソルジャーであるザックスやセフィロスなのだ。その誰もが成功者なのに、その人達に相談やら弱音を吐くだなんて、それこそ悲しくなってしまう。 「遅れちゃった……とは、どういう事だ。一体何があったんだ」 「ん。まあ…何かね、回りは皆どんどん遠くに行っちゃうなあって思って…」 「遠くに…」 その周りというのに、自分やザックスは含まれていないのだろうと言うことを、セフィロスは何となく理解した。普段一緒にいるのがもう既に同僚ではなく自分やザックスなわけだから、多分その言葉の皆というのは同僚のことだろう、何となくそれが分かる。 「自分は自分で精一杯頑張ってるつもりでもさ、やっぱり皆と比べたら努力が足りないのかな」 はあ、などと溜息を漏らしたクラウドは、今迄何をやってたんだろうとボソリ呟く。 その呟きは勿論セフィロスにも届き、更にはセフィロスを微妙な気分にさせた。 今迄何をやっていたのか――――確かに同じ時間を過ごしてきたはずの人が自分より先を行っていたらそうも思う。 けれどそういう言葉はまるで、今迄過ごしてきた自分の時間を否定するかのようにも聞こえる。今迄の時間が意味の無いものであったかのように聞こえるのだ。そしてクラウドに関して言えば、今までの時間というものの中に確実に含まれるのが……セフィロスだった。 「…そう思うか」 まるで自分との時間を否定されたのと同じであるセフィロスは、何だか曖昧な気持ちになりながらそうクラウドに向けて言う。 クラウドは何も考えずに、 「うん」 そう、答えた。
休日を貰っていたセフィロスは、珍しくその日をクラウドと過ごさなかった。 本当なら休みは確実にクラウドの為に当てるのだが、どうも先日のクラウドとの会話が心に引っかかりそういう気分になれなかったのである。クラウドはセフィロスの休日などあらかじめ知っているわけではないから、さして問題は無い。 そんな休日の午後、セフィロスはある人物と会っていた。それは、クラウドも知る人物…ザックスである。 いつも日常の中にいる存在であるザックスに、休日を使って会うというのは本当に珍しいことで、ザックスにとってもそれは同じことだった。今迄そういう経験が無い分そういう事が起こると「何かあったな」ということになるわけで、それはその日のザックスも当然感じていたことであった。 だから、顔をつき合わした時のザックスの第一声はこんな感じ。 「何が起こったんだよ!?」 まだ何も話してもいないのに何故か焦り口調でそう言ってきたザックスに、呼び出したセフィロスの方が首を傾げたりする。 「何をそんなに焦っているんだ、ザックス」 「何をって。天下の休日にクラウドと会わないで俺を呼び出すなんて、絶対変だろうが」 「そうか?」 「そうだって!」 そんなものだろうか、そう言いながらもセフィロスはまた首を傾げたものだが、よくよく考えてみればザックスがそう言うのも分かる気がした。 何せ休日は大体クラウドと過ごしてきたわけで、それは今迄自分の中でもクラウドの中でも、それこそザックスの中でも「普通のこと」だったわけである。その「普通」と違う今は、言ってみれば「普通ではない」わけであって、それはザックスにしてみれば相当おかしなことだった。というか、有り得ないことだったのだ。 だから、あの第一声と、焦り口調……確かに頷ける。 そこまで行き着いてからセフィロスは、 「そうか、変かもしれないな」 そう呟いた。 今の状況が変だと言えるくらいにクラウドといるのが普通だったという事実は、何となくセフィロスに小さなショックを与える。それは多分、先日のクラウドの言葉があったからだろう。 今迄何をやっていたんだろうと言った、あの言葉。 確かにそう思うくらい……もしかしたら時間を共有しすぎたのかもしれない。 「で、何よ。呼び出しの理由はさ」 淡々と自分の中で考えを纏めていたセフィロスの隣でザックスは、適当な椅子に腰を下ろしながらそう言った。 セフィロスが呼び出したのは神羅の中でも利用頻度が少ない場所で、それでもザックスとセフィロスにとっては度々使用していた場所である。 その昔、戦略の為のミーティングをする部屋があり、そこはソルジャー五人程度が頭を突き出しあって真面目に話し合う場所だった。その部屋は平和になった昨今では意義を持たなくなり、だから今ではほぼ閉鎖状態である。 そんな昔ながらの小さな部屋は、今やザックスとセフィロスの中では格好の休憩室となっていた。 「ああ。取りあえずお前に聞いてみたいことがある」 「聞いてみたいこと。何だよ?」 今度はザックスの方が首を傾げる。 「つまりな――――――――お前は劣等感ってあるか?」 「……はあ?」 至って真面目にそう言ったセフィロスに、ザックスは素っ頓狂な声を上げた。 何が起こったのか、そう思って焦ってきたは良いが、その理由といえばコレである。果たして休日に呼び出すほどのことなのだろうかと疑問を持たずにはいられない。 しかしザックスがそう思っていたのも束の間で、その次にセフィロスが言った言葉でようやくその理由に納得ができた。 “クラウドがな”、そんな言葉で。 「クラウドの奴が言うのだ。俺には劣等感なんて無いだろうとか、俺にはクラウドの気持ちが分からないだとか」 「ああ、なるほど。そーいう事か」 それで休日呼び出しね、そんなふうに呟き、ザックスはセフィロスを見遣る。見遣った先のセフィロスは冷静なようでいて少し普通ではなかった。何だか怒っているような怒っていないような、そんな表情をしている。 まあそれもクラウドの言葉に悩んだ末の表情だなと理解して、ザックスは「ええと」などと回答を探す。
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