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それを見たクラウドは、ちょっと考えてからその番号を呼び出した。プルルル、と小気味良い音が何回か鳴り響き、その後にプツッと音がする。その後、呼び出した相手…ザックスの声が響いた。 『もしもーし。何だよ、休みに電話なんて珍しいな?』 妙に明るいザックスの声が響いて、クラウドは何だか少しホッとした。何せ今迄静かな部屋で独りきりだったから、そんな明るいザックスの声を聞いたら唐突に嬉しいような気分になったのである。 「もしもし、ザックス?俺だよ、分かる?」 クラウドは電話を耳にやって、そう切り出す。 勿論ザックスは、セフィロスが出るものと思っていたわけだからその声には相当驚いている。 『え?あれ?クラウドか??』 「うん、そうだよ」 『おー、どうした?セフィロスは?確か今日って二人で休み合わせたんじゃなかったっけか』 「うん。そうなんだけど、その…何だか退屈で。俺、独りでいるのと変わらない感じなんだよね」 『へ?そりゃどういう意味だよ』 「うーん…それは、ええと…」 セフィロスが寝ちゃったから、なんて直ぐには言えなくて、何だかクラウドは口ごもる。けれど少し経った後、何かを思いついたようにこんなふうに口にした。 「…あのさ。良いもの見れるから――――――ちょっと来てくれないかな?」
セフィロスと二人で過ごす為に取った休み、それなのに何故だかザックスを呼び出したクラウドは、その通りにザックスがセフィロスの自宅にやってきた時、相当嬉しかった。 こういっては難だけれど、何しろ退屈じゃなくなることが嬉しいのである。 その上ザックスだったら一緒にいて普通に楽しいことは分かっていたし、例えセフィロスが起きても共通の友達なわけだから問題も大きくならない。 何だ何だという具合にやってきたザックスは、待ち構えていたクラウドの話…因みにこれはほぼ愚痴だったが、それを聞いて「なるほどなあ」なんて言って一つ伸びをしたものである。 「で、俺ってわけね」 「ごめん、ザックス」 そう言われてそこは素直に謝ると、ザックスはカラッと笑って「別に良いって」なんて言った。それは別に嫌味などではなく、本音らしい。 実際ザックスはクラウドの言った「良いもの」を見て爆笑した後だったし、呼び出された相手がクラウドだったこともあって気分が悪いということは一切なかった。 「それにしてもセフィロスの奴、熟睡だな」 「そうなんだよ。折角取った休みなのに何だか意味ないって感じ」 「ま、確かにな。酷いわな、そりゃ」 元々セフィロスの言い分に近いものを持っているザックスだったが、その時はクラウドを思ってかそんなふうに答える。とはいえ、疲れているから仕方無い、という部分に関しては否定しないようだったが。 「まあこういう時の一番の方法は、一緒に寝ちまうことだろ。今日は俺がたまたま出れる状態だったから良いけど、これからだって絶対こういう事あると思うぜ」 そんなにしょげてちゃやっていけないって、そう続けながらザックスはクラウドを見て笑う。しかしクラウドの方はちっとも笑えなかった。 だって、一緒に寝てしまったらそれだけで一日が終わってしまうじゃないか。折角とった休みがそんなことで潰れてしまうなんて何だか嫌だと思う。 しかしザックスの言うことは尤もだった。何がって、今後もこういう状況になるかもしれないという部分が、である。 しかしそれでも何だかやっぱり納得できないクラウドは、これといった言葉も返せずムッスリとしていた。 そんなクラウドを見ていたザックスは、 「なあ。お前さ、枕変わったら寝れるか?」 唐突にそんな事を聞いてくる。 一体なんだろう、そう思って首を傾げながらもクラウドは、「ちょっと落ち着かないかも」なんて答えた。 するとザックスは、これまた唐突にこんなことを言い出した。 「そっか。じゃあ、さ。これからザックス君が良いコトを教えます。こりゃ多分、クラウドが元気になるようなコトだぜ」 「俺が元気になるようなコト?」 さっぱり検討も付かない。 「まず第一に、今日俺は初めて見た。セフィロスが熟睡してるトコ。そんでもって第二。クラウドが俺に電話できたのは奇跡的だってコト。で、第三。俺が此処に入れたことも奇跡的。以上!」 「……は??」 何だそりゃ? クラウドは、元気になるどころか呆気に取られた。それのどこが元気になれることなんだろうか。依然として皆目検討も付きませんという状況のクラウドは、やっぱり首を傾げてしまう。 そんなクラウドにザックスは、チッチッ、と人差し指を左右に振ってみせると「良く考えてみろよ」なんてアドバイスをしたものだが、それでも全く効果が無かったようで結果的にザックスはその言葉について解説することになった。 そしてその解説は、とうとうクラウドを納得させたものである。 「クラウドは枕が替わると寝れないんだろ?多分それ、セフィロスも同じだと思うんだわ。あの人ああ見えて結構神経質なトコあるし。まあ確かに此処はセフィロスの家だけど、普通そこに誰かいたら安心して寝れねえだろ。ってことはだ。セフィロスは、クラウドに対して安心してるからあそこまで熟睡できんだよ。だろ?」 何しろザックスは、セフィロスが熟睡しているのなど初めて目にしたのである。疲れていて眠そうな顔は何度も見たことがあったが、それでもセフィロスはザックスの前で実際に熟睡するなどしたことが無かった。 それは立場とかそういう問題ではなくて、落ち着くか落ち着かないか、という問題である。 ザックスとて気心は知れた関係なのだから熟睡とまでいかなくとも転寝くらいはできそうなものだが、それでもセフィロスはそれさえしたことが無かった。 「そんなセフィロスはいつだって気を張ってるわけだ。まあそれはいつものことだし、セフィロスにとっちゃ当然みたいなもんなんだと思うけど。例えば後ろから近付いたらさ、セフィロスって直ぐに気づくだろ?」 「うん、気付くね」 「多分それ、普段は寝てても気づくことだと思うんだ。だからもしセフィロスの電話を弄ったのがクラウドじゃなきゃ、セフィロスの奴は絶対に起きたはずだぜ。っていうか、まずセフィロスからそんなことできる奴はいないって。あ、お前抜かしてな」 「そっか。そう言われると…」 そう言われるとそうかもしれないという気がする。確かに「起きるかもしれない」とドキドキした割にセフィロスが熟睡したままだったのは何だか意外だった。 「そういう意味からしてもセフィロスはそんな社交家ってわけでもないわけだな。何しろ、気配察知したら隙は絶対見せない人だし。で、俺はセフィロスとそこそこ仲良いけど、お前みたいにこの家に何度も上がれるような仲じゃないんだな。だから俺が此処にいることも、はっきり言って不思議な話なんだ」 「え。じゃあザックスって此処に来たの初めて?」 ビックリしてそう聞くと、ザックスは一、二回はあると答えた。がしかし、その一、二回の内容ときたら最悪だった。 「…説教されに」 「へ、へえ…そ、そうなんだ…」 それは嫌な思い出である…。 まあそれはともかくとして、そんなザックスからすれば今あるこの状況というのは、クラウドが不平を言うほど酷いもののようには思えなかった。とはいえクラウドの意見を無視しようという気持ちは無い。クラウドの言い分もクラウドの言い分で、何となく分かるのである。例えセフィロスよりの意見を持っているザックスであっても。 「まあアレだ。確かに毎回毎回同じようなコトしてもつまらんわな。それは分かる、分かるぜクラウド。けどさ、今俺が言ったことでも分かったろ?お前はセフィロスにとっちゃ“特別”なんだからさ、今のこの状況だって“特別なコトしてるんだ”って思えば良い」 「うん…」 クラウドはそう口にしたものの、それでも何だかやっぱり釈然としないものが残っていた。が、それを見透かしたようにザックスが言う。ニッと笑いながら。 「それが無理ならこう思えば良いんだ。“セフィロスなんか俺がいなきゃ安心して寝れもしないくせに”って、な」
すっかり夜も深まった頃やっと目を覚ましたセフィロスは、すぐ隣にクラウドがいない事に首を傾げた。確か今日は一緒じゃなかったろうか、そんなふうに思う。 「クラウド?」 試しに声に出してそう呼んでみる。しかし返事はなく、ただその空間は静かなだけだった。 会ったのは昼頃だったから――――――――もう数時間経っているだろうか。 となるとその数時間の殆どを寝てすごしたということになるわけだが、その間クラウドはといえば独りと同じ状態だったはずである。自分が寝ていたことで退屈していただろうことはセフィロスにも容易に想像がついたが、しかしクラウドの性格上セフィロスを残してこの家から帰ったというのは考え難い。 「クラウド、どこだ?」 仕方無い、そう思い立ち上がったセフィロスは、その家の隅々を歩いて回った。寝室から物置まで隅々、である。しかしそこまで巡ってみてもやはりクラウドの姿は無く、その他の場所といったって検討もつかなかった。 「おかしいな…」 一体どこに行ったのだろうか。 考え難いが、やはり帰ってしまったのだろうか。 参ったな、と今度はそんな言葉を漏らしながらセフィロスは髪をかきあげる。もしこの家に誰かがいてその仕草を見たら、それは多分いかにも余裕そのもののように見えたろうが、実のところセフィロスは外見ほど余裕でもなかった。 何しろ、このような事態は初めてだったから。 今までもこうして折角の休みについつい寝入ってしまったことが何度かあるが、それでも起きると体外クラウドは隣にそっと座っていて、テレビだか雑誌だかを見ながら暇を潰していたものである。そしてちょっと不機嫌そうに、おはよう、なんて嫌味を込めて言ったりした。 しかし今日はそれがない。 あの不機嫌そうな顔も、嫌味が篭った「おはよう」も無い。 それはほんの些細なことであったかもしれないが、セフィロスにとっては大きなアクシデントだった。 しかも、ついでといっては難だかもう一つアクシデントがあった。それは丁度レストルームなんかに入って、前面鏡に近い面積の鏡を前にした時に、起こる。 「な…んだコレはっ!!!」 そう、セフィロスの顔には所狭しと落書きがされていた…。 「やったな、あのバカ…!」 一瞬にして怒り爆発したセフィロスは猛烈な勢いで顔を洗い出すと、たださでさえ困難な油性マジック性落書きを信じられない速さで落としてみせた。それをさっとタオルで拭くと、その次にはもう烈火の如くといった具合にツカツカツカと歩き出す。その目はいつもの二倍くらい釣りあがったいたのは言うまでもない。 何としてでもクラウドを見つけ出してやる―――――――! そう固く思ったセフィロスは、一度巡った家中にクラウドはいないと判断して、先ほどまで望みうすだと思っていたはずの外へと足を進める決心をした。いや、決心というよりも先に足が出ていたかもしれない。 ともかくその第一歩として廊下を伝いドアに手をかける。そしてそれを勢い良く開け放―――――――そうとした、が。 「?」 ガチャガチャ。 どうやらそのドアは妙に重い。まるで重しでもあるかのようである。しかし鍵が閉まっているという事実はない。 ガチャガチャ。 もう一度そうしてドアノブを左右に揺りまわすと、暫くしてそのドアはすっと前方に開いた。どうやら重しは取れたらしい。しかしその重しは一体なんだったのだろうか、そう思ってセフィロスがそのドアの向こうを覗くと…、 そこには。 「おはよう」 そこには――――――にっこりと笑ったクラウドがいた。
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