ソファ

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とても晴れた日。

いかにもお出かけ日和。

それでもいつもの癖のように家でのんびり過ごしてしまうのは何故なんだろうか。

多分一つは、面倒だからという理由。

そしてもう一つは、それほどのやる気がそこにないからという理由。

その理由はいずれも、クラウドのものではなかった。

だから、そういうセフィロスの「面倒だ」とか「そんなことをしたって意味がない」だとかいう良い訳が良く分からない。

ただ側にいること、それだって勿論素敵なことだと思うけど、それにしたって――――――会う度、同じ家で同じ動作をして同じふうに時間を費やすだなんて。

そんなのは何だか、嫌な気がした。

だって、まるで時間が止まってるみたいだ。

 

 

 

「ねえセフィロス、どっか行こうよ」

連続勤務開けで寛いでいるセフィロスに、クラウドはそんなことを言う。

今日という日は二人が示し合わせて取った休日で、世間では週はじめという曜日でもある。そんな曜日だから出かけるには好都合で、その上空は綺麗に晴れているときたものだ。これは家でぐうたらしている場合じゃない。

しかも此処最近ときたら、晴れてようが雨が降っていようが全く同じ休日の過ごし方をしていたものだから、クラウドとしてはちょっと飽きがきていたのである。

だから、そのクラウドの発言はとても素直な気持ちだったといえるだろう。

がしかし、なんといっても英雄は連続勤務明けである。

クラウドの休日に自分のそれを合わせたセフィロスは、休みをそうして移動したことで出勤が連続してしまったのであって、それは言ってみればクラウドとの時間の為にしたこと、そしてクラウドの為にしたことと言っても良かった。

そういう経緯で存在している今日という休日。

セフィロスにしてみれば、休みを合わせてこうして会っているのだから、それだけでも感謝されて然るべきといった感じであったのは言うまでもない。だからセフィロスは、それを口に出さないまでもクラウドの言葉には怪訝そうな顔をする。

一体この上、何を言い出すんだ、という具合に。

「折角の休みだよ?空も晴れてるしさ、何だか家にいるだけなんてつまらないよ」

「つまらない?お前、俺がわざわざ申請して今日の休みを取ったってこと、忘れてないだろうな?」

「わ、忘れてないよ!でも…」

セフィロスの言い分は尤もである。

クラウドも今日という休みが実現したその経緯は良く知っていたし、だからセフィロスが疲れていることも百も承知だった。しかしそれは分かっていても、折角のこの休みにただいつも通りに二人で過ごすというのは何だかしっくりこない。

だって、このまま家にいたってどうせ、ぼうっとしているだけなのだ。

テレビを見たり、話をしたり、お腹が減ったら少し物を食べて、昼寝をして、そしてそんな気分になったらベットに入って――――――そんなことの繰り返し。

一緒にいられることは凄く嬉しい。嬉しいけれど、何だかただそれだけという感じ。

こういう事にモヤモヤするのは自分だけなんだろうか。

時々クラウドはそんなふうに思う。

何しろ自分がそう提案したってセフィロスはこの調子だし、いつだったかザックスにその事を話した時には、ザックスの口からもセフィロスと同じような言葉が齎されたから。

普通の恋人って、こんなものなのだろうか。

自分の方が間違ってるんだろうか。

「とにかく俺は疲れてるんだ。今日は家にいる」

憮然と言い放ったセフィロスに、クラウドは反論などできようはずもなかった。此処を無理に押し通したって意見は聞き入れてもらえないし、それどころかセフィロスの機嫌が悪くなって終わるに決まっている。そんなのは良くない。

「ちぇ…」

クラウドは小さくそう言いながら、セフィロスの言葉に「今日は、じゃなくて、今日も、だろ」と心の中で毒づいた。

 

 

 

そういう訳で家でまったりコースになったその日、やはりやることといえばテレビを見たり他愛無い話をしたりそんな具合だった。これ以上の発展も無ければこれ以下のものもない。正に「ただそれだけ」といった感じ。

ブラウン管に映る笑顔を無表情で見詰めていたクラウドは、セフィロスが寝入ってしまったことにも気づかなかった。丁度、テレビと直線上の位置にソファが置かれていて、そこで隣り合って座っていたのだが、隣のセフィロスは横倒しになるでもなくそのままの格好で寝入ってしまったから、真っ直ぐテレビを見詰めていたクラウドにそれは見えなかったのである。

テレビは、オススメスポットだとかを紹介していた。

“いや〜やはり休日はゴールドソーサーですね”

“たまには息抜きに皆様も訪れてはいかがでしょう”

“今ならお得な割引が…”

―――――――――そんなの縁、無いしね。

クラウドはそれらの言葉を聞き流しながらもそう心の中で思う。

そんなところに行ける訳がない。例えば規則を破って大層遠いそこに遊びに出かけたとしても、セフィロスの機嫌なんか悪いに決まってる。

そういえば一緒にどこかに出かけた事なんか、今まで何度あったろう?

クラウドはふとそんな事を思って、記憶を手繰り、それから指折り数えだした。

最初に出かけたのはミッドガルだったような気がする。その後、仕事絡みでスラム。それからそれから…。

「ミッドガルしかないじゃんか…」

どう考えたってそこしかない。ミッドガルしかない。というか、それほどの遠征などできないからそれは仕方無いかもしれないが、それにしたって内容も簡素すぎる。一体何をしたかと思い返せば、特にこれを買ったというわけでもないし、特に何かを体験したというわけでもない。思えばちょっとくらい何かを飲み食いした記憶しかない。

「つまんない…」

はあ、そう溜息をついたクラウドは、そうしてしまってからはっと我に返った。しまった、と思ったのだ。

つまらない、なんて言葉は禁句以外の何物でもなかったから。

-――――――が。

「…あれ…」

まさか気づいてないよな、と思いながら振り返ったセフィロス…その人は、何ということか―――――――眠っているではないか。

「ちょ…ちょっと、セフィロス?」

確かに疲れていることは分かるけれど、折角合わせて取った休日に寝に入るとはどういったことか。これではあまりにも悲しすぎる。

今更セフィロスが寝ていることに気づいたクラウドは、ビックリして、それから呆気に取られて、最後にはムッスリと怒り出した。

――――――何だよ、もう…!!

「何様のつもりだよ、このバカ英雄っ!」

クラウドはムカムカして、すぐ隣に横たわっていたクッションなどをパフッ、とセフィロスに投げつけた。が、英雄はまるでそれに気づいていない。だから、すーすー寝息なぞついて依然、寝に入っている。そんな態度がまたしてもクラウドをムカムカさせた。

怒りを向ける相手はすぐソコにいる。いるけど全く起きる気配もない。

だからクラウドは、結局その怒りをどこにも放出できないまま悶々とするしかなかった。

とはいえ、たった独りきりのこの部屋の中、この怒りをそのままにじっとしていることなど到底できそうもない。

まさか―――――――こんな休日になるなんて。

折角の休日。一緒に合わせて取った、折角の休日。

そんな特別な休日でもやっぱり、いつもと変わらなく過ぎていこうとしている。いや、いつもより悪いかもしれない。会いたいと心から思う人がそこにいるのに、話すことも叶わない状態でたった一人……あんまりだと思う。

「もう…こうなったら…」

そう呟くと、クラウドはすくっと立ち上がった。それから、つかつかと歩いてどこからか油性マジックなどを取り出すと、そのキャップをポン、と音を立てて開け、それからセフィロスに近付く。

で。

「こんな奴は、こうだっ」

何と言うことか、クラウドは油性マジックでセフィロスの顔に落書きをし始めた。しかもその落書きときたら容赦ない。端正な顔立ちのセフィロスがあっという間に芸術作品に変身、その芸術度たるや並じゃない。…要するに、ヤバイ。

「へへへっ、起きてビックリしたって知らないんだから」

クラウドはその芸術作品にニヤリ、としながらキャップを元の位置に収める。暫くは完成した芸術作品に我ながら天晴れと眺めていたクラウドだったが、そうしていられるのもちょっとの間だった。

何しろ、独りきりなのだ。

セフィロスに復讐の如く落書きしたのは良いけれど、これだってセフィロスが起きるまでは何も起こらない。折角ちょっとだけ楽しい気分になったクラウドだったけれど、少し経つとそうしてすっかり気分が落ちてしまった。

…やっぱりつまらない。

「はあ…」

ついつい溜息なんかを吐くと、やはり元の通りソファに腰を下ろす。しかしそうしてみても見慣れた風景が目に入るだけで、音も何もしない。強いていうならセフィロスの寝息が聞こえるくらいの話である。

クラウドはそんなセフィロスの顔をチラリ、と見遣った。と、その時何かが目に入って、今度は視線をそこに移す。

クラウドの視界に入ったのは、セフィロスの衣類のポケットから覗く携帯電話だった。それはセフィロスが仕事用に使っているもので、プライベートではあまり使用されていないものである。クラウドもそういうものを所持していないからあまり免疫は無い。

なるほど確かに携帯電話だ、なんてそんな事を思いながらクラウドは、いけないと思いつつもそろそろとそれに手を伸ばした。起きるかななんてちょっと心配したけれど、どうやらその心配心より好奇心の方が大きかったらしい。

クラウドはその携帯電話を、すっぽりとセフィロスのポケットから抜き出してしまった。

「え、っと…」

ずっしりと重みのあるその携帯電話は、セフィロスらしく黒の色をしている。クラウドはそれを片手に持つと、色々あるボタンの中から一つをそっと押してみた。丁度それは電話帳機能のボタンだったから、それを押した瞬間にざっとメモリーが表示される。勿論のこと、そこには名前の羅列があった。

「ふうん…知らない人ばっかりだ」

当然といえば当然だろうか。何ていってもセフィロスはクラス1stのソルジャーだし、クラウドとは交際範囲が全然違う。しかもセフィロスの場合はその地位の為に幹部とも面識がある為、その電話帳に並ぶ名前の中にはそれらの人物のものもあったのである。

そんなふうにセフィロスの携帯電話を覗いていたクラウドは、何だかこれって普通の恋人みたいだ、なんて思って少しおかしくなった。

恋人が浮気していないかどうかと言ってプライベートをチェックするなんていう話は良く聞く話である。今迄そんなことはちっとも気にしたことはなかったけれど、こうしてそんな行為をすると何だかちょっとだけ気になった。

しかし、クラウドの目にしたメモリーの中には女性の名など一つしかない。因みにその一つというのは兵器開発部門の統括スカーレットのものだったから、これは問題外だろう。

「セフィロスって意外と真面目なのかな?」

首を捻りながらクラウドはそんなふうに呟く。意外と、と言う言葉が本音を表しているのは言うまでもないが、クラウド自身はそんな自分の本音に気付いていないらしい…。

まあとにかく、クラウドを悩ませるような存在はいないらしいということが判明した。

それはそれとして、クラウドの目にもう一つ留まった名前がある。

そう、それは…。

「ザックス」

ザックスの名前だった。

 

 

 

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