視線だけで…
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“なあ、知ってる?警備兵の男がさ、事務の女に惚れ込んだらしくてさ…” “ああ、知ってる知ってる!で、何か明るみに出たとかいう…” “そうそう。でも立場を弁えろって、処分だってさ!怖えよなあ” “本当、神羅には恋愛も禁物ってか”
神羅カンパニーでは、そんな噂が流れていた。というかそれは、ある意味事実だった。 警備兵の男が神羅本社ビルの事務の女に惚れ、それをしつこく追い回したせいで、こんな事になってしまったのである。それは男の方に非があったのだが、噂は常に尾をつけて回るもので、いつの間にかそれは悲恋にまで発展していた。実際に神羅側がその男を処分したのは、その事務の女性社員からの訴えがあったからで、その処分はセクハラという正しい名目の元に行われたのだ。 それでも、その事実よりかは噂の方が、誰の耳に入っても“涙を誘う”話だった。 その話は一気に広まり、勿論クラウドの耳にも入る。 そしてその話は、クラウドを落ち込ませる事になってしまった。
「ねえ、神羅では恋愛禁止って本当?」 「――――は?」 俯きがちな顔から、上目遣いなどをして見てくるクラウドに、セフィロスは呆気に取られた表情を見せた。 その対応が気に食わなかったのか、クラウドはまだ幼い顔の眉間に皴を寄せた。 「神羅で恋愛したら、即処分なんでしょ?」 「…何訳の分からん事を言ってんだ、お前は?」 二人の会話は互いに疑問系のままで進む。 「だってそう聞いたよ。恋愛したら即処分で、それは社長の命令なんだって」 「…バカか?」 「違うよ!」 いい加減セフィロスもため息などが出てしまう。そんな馬鹿な話があるはずもない。それを真剣そのものに語るのだから、クラウドも全くしようがない奴だ、などと思う。 自分の部屋の中で小さくなっているクラウドの肩に手をやると、セフィロスは「良いか、良く聞け」などと言って顔を覗き込んだ。 「それは噂だ、嘘なんだ。分かるか?大体そんな馬鹿な事を社長命令すると思うか?上の連中にとってそんな事はどうだっていい事なんだぞ」 「でも…」 それでも落ち込んだふうに拒否するクラウドに、セフィロスは「でも、じゃない」と強く言った。 実はセフィロスもこの話を知っていて、噂の方もどこからか流れてきたのを耳にしていた。けれど実際の内容を知っていたから、噂との差異がかなり大きい事は承知していたのだ。その時も、今のクラウドのように本気にしている人間を見て、溜息が出たものだった。 何でそんな話を信用してしまうのか。 とはいえ実際にその男は処分されたのだから仕方ないのかもしれない。因みに処分とはいっても、単にジュノンへの左遷である。クビになったわけでもないし、ましてや殺されたわけでもない。 それがいつの間にか訳の分からない話に発展しているのだから困ったものである。 「もしそれが本当なら、お前、どうするんだ?」 方向転換してそんなふうに聞くセフィロスに、クラウドは「え!」と不幸を一気に背負ったような顔をした。 「どうするって…。どうしよう…」 「だろう?」 それは誰だって困るに決まっている。というか神羅本社ビルなんかは女性社員が多いのだから、そんな恋愛事情はいくつもあるに決まっているのだ。もし恋愛禁止なんていう古臭いシキタリなんかあった日には、その女性社員がゲッソリするに決まっている。 神羅の女性社員の大概が、未来を約束された神羅社員を狙っているというのは有名な話だ。因みにクラウドには口が裂けても言えないが、自分もその的になっているらしいとセフィロスは知っていた。 とはいっても、断固拒否だったが。 「本当にお前、単純だな」 「…ひどい」 真剣に不安になっていたらしいクラウドを見て、セフィロスは思わず笑みを漏らす。単純というより、純粋なのだろう。 あまりに素直すぎて、思わず悪戯心が働いてしまう。 「俺の方が処分されたら、お前、どうする?」 「ええっ!…そんな、分からないよ」 「冷たい奴だな。社長に掛け合ってくれないのか?」 「しゃ、社長に!?」 本気で驚いているクラウドに、セフィロスは笑いが抑えられなかった。そんなに驚くなんて、本当に見ていて飽きない。 「俺はお前が処分されるんだったら、やるぞ」 「本気で言ってんの!?」 「当然だ」 クラウドは大層驚いていたが、セフィロスにとってそれは他愛もないことだった。 実質的にこの神羅で一番戦闘能力が高いのはセフィロスだったし、ありえない事とはいえ、気に食わない問題があれば神羅を潰す事すら容易いことだった。それくらい、セフィロスはその神羅について執着もなかったし、反対にいえば今はクラウドの反応を見ていることの方がよほど意味のあることのような気がしている。 そっか、などとまだ考えているクラウドの髪に手を伸ばすと、その顔を見つめながら、軽く髪を梳いた。自分と正反対の金髪が、揺れる。 「面白いな、お前は」 片方の腕は近くのテーブルに肘をついていて、手で頬を支えている。そう固定された顔から送り出される視線は、真っ直ぐにクラウドに向かっていた。 時折、そんなふうにただ見つめるだけの時がある。それが自分自身でも不思議なくらい、気にいっていたりする。 抱き締め合ったり、キスをしたり、身体を重ねてみたり―――――そんな事よりも何よりも、視線で分かる本音があるようにも思う。 好きなんて言葉はおろか、愛してるなんて言葉も口にしたりしない。それでも、クラウドは気付いているだろう。 その視線から、きっと“本当”を。 「…あのさ」 セフィロスの視線を受けながら、クラウドは口を開いた。 「何だ?」 「じゃあ俺、やっぱこうする」 「何を?」 セフィロスの質問に、クラウドは力を込めたふうにこう言った。 「社長に、こう掛け合う事にする。俺も一緒に処分して下さい、って!」 まだあの話が続いていた事に驚いたが、その内容の方にセフィロスは思わず笑ってしまった。
なるほど、それはいい考えだ。
END
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