SONG FOR US
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かなしいうた
悲しい歌は嫌いだった。 志気を高めるといって皆で歌ったような軍歌も嫌いだった。 楽しい歌だけ好きだった。 音の流れないこの兵舎の中で、昔口ずさんでた歌を一人歌ってみたりする。 ちょっと旋律の綺麗な民謡だ。 俺の故郷に古くから伝わる歌で、俺は物心ついた頃からその歌を知ってた。 昔は何も考えずにその歌を歌ってたもんだけど、今思うとちゃんと歌詞なんかもついてて意味も分かる。でも俺は意味なんか考えずその歌を歌ってみた。 意味なんかない、歌は歌だ。
俺がその歌をふとした拍子で口ずさんでしまった時、セフィロスは首を傾げて聞いたものだ。 “それは何という歌だ?” そう聞かれて俺は改めて知った。 何をって、その曲のタイトルを知らないということをだ。そういえばこの歌は何という歌なんだろうか? “分からない” 俺はそう答えて、古くから故郷に伝わる歌で昔から知ってるんだということをセフィロスに説明する。セフィロスはそうなのかなんて言って納得してた。俺はその後もセフィロスの前でその歌を口ずさんだものだけど、もうその時にはセフィロスは何も不思議には思わなくなっていたようだ。俺は自然に口ずさむ隣で普通に聞いていたし、時々一緒になって歌ったりもするようになった。きっといつの間にか覚えてしまったんだろう。 セフィロスがその歌を覚えてからは、俺達は時々その歌を一緒に歌いながら寄り添ったりしていた。まるでその歌が二人の共通点であるかのように、いつの間にかその歌は大切になってた。 名も無い歌。知らない歌。 だけど俺達にとっては、とてもとても大切な歌。 二人を繋ぐ、歌。
その歌に、答えなんか、いらなかったんだ。 ただ二人で歌って、二人を繋ぐ歌であれば良かったんだ。
それを俺に告げてきたのは他でもないセフィロスだった。 セフィロスは、俺と共にいない時間の中でもその歌を口ずさんでいたらしい。それはキッカケだったんだ。 ある日その歌を口ずさんでいたセフィロスに、ある男がこう言った。 「あれ?その歌、知ってるんですか?」 男は不思議そうな顔をしていたらしい。確かにその歌は一定地域でしか知られていない歌だからそれも分かる。 勿論セフィロスは、その歌がどういう歌で、どういう意味合いを持っているかは知らなかったけど、その歌を口ずさんでいることで、 「ああ」 と答える事になる。 そしてその男は、あろうことかセフィロスにその歌の説明なんかをしてしまったんだ。 俺すら知らなかったその歌の意味。 それを――――――俺は、セフィロスから聞き知ってしまった。 その歌は俺の故郷では古くから伝わる歌だったけど、実際は遠い国の歌だったらしい。ニブルヘイムに生家を持つある兵士が、昔あった戦争の時、その戦地でその歌を知り、そして故郷に持ち込んだんだ。 だからそう、それはニブルヘイムで生まれた歌なんかじゃなかったんだ。 その歌の歌詞は、その戦地での古語だったらしい。どうりで知らない言葉なワケだと俺は納得してしまったけれど、その意味が分かってしまってとても悲しくなった。
時間は満ちてしまったよ 幾度の月と 幾度の太陽の前に もう行かなくては 暖かい日差しはケージの向こう それでも行かなくては 時間は満ちてしまったよ だからもう 行かなくては
そういう意味なのだと聞いて、俺はどういう歌なのか気になって…セフィロスは勿論それを俺に教えてくれた。 これは戦時の歌だ…つまり、家族を置いて戦地へ赴く時の歌なんだ。 大切な人との別れの時に歌う歌。 つまりこれは、別れの歌なんだ。 それを知らずに俺は今まで口ずさんでいた。 その男はその歌を思い出して、口ずさんで、懐かしそうにしていたらしい。彼にとってもまた、故郷での大切な歌なんだ。それも分かる。 けど―――――――。 「この歌は他の時にでも歌われていたんですよ。例えば親しい人の死の時や、長らく家を空けるとき、それから仕事をやめるときなんかも。結局コレは、何かから離れる時の歌なんですよ」 そう言って男は、だから無闇に歌ってはいけないらしいですよ、なんて言って笑う。 男の故郷では完璧な別れの歌。 でも俺の故郷ではそれは、知りもしない言語の、意味の分からない綺麗な歌でしかなかった。 まさかそんな意味があるなんて――――――。 だから、それは別れの歌で、悲しい歌だったから、セフィロスは俺にこんなことを言った。 「縁起も悪いしな、これからは歌わないようにしよう」 「…そうだね」 俺は素直にそう答えた。 でも――――心の中ではちょっと寂しかったんだ。 俺とセフィロスの間にある共通のものが一つ無くなってしまった気がして、それが悲しかった。だってセフィロスは一人の時でもその歌を思い出して歌ってくれてた。 その歌があれば、俺達はどんなに離れていても繋がっていられた。 思い出して、幸せでいられた。 だけどそれは――――そう、別れの歌だったから。
だから、やがて俺達の間からその歌は消えていった。 俺の心の奥底に、そっと残っているだけで―――――――……。
――――歌を思い出すんだ…悲しい歌。 悲しい歌は嫌いだった。 でもその悲しい別れの歌は思い出なんだ。 とても、大切な歌だったんだよ……。
もう誰もいない故郷の家。 そこで俺はゆっくり椅子に座っている。 もう俺は一人で、おかえりと言ってくれる人もいない。 故郷はすっかり変わってしまった…当然か。もうあれから、そう此処を飛び出したあの時から八年も経ってるんだ。 此処はのんびりしている。 何かを考えるにはとても最適で、だけどそうするのにこの家は広すぎた。 俺は数日前、ある男と契約を済ませてた。その契約ってのは、この土地と家の権利を譲渡するっていう、そういうものだ。 それを知ったティファは相当怒ってたけど、俺は別に気にしてない。俺は一度この家を捨てたような人間だし、きっと此処にいるのに相応しくないんだ。それに俺は、此処で静かに暮らすには色々なことを知りすぎたし、身をもって経験しすぎた。 だから俺は、俺が育ったこの家を、これからも大事に使ってくれて…必要としてくれる人に譲るんだ。 広すぎる家とは、もうすぐサヨナラだ。 この先俺がどうやって歩いていくのか――――それは俺自身にも分かってない。 分からないけど、戻ってきてしまった此処から一歩を踏み出すことが始まりだと、そう思う。
悲しい歌は嫌いだった。 志気を高めるといって皆で歌ったような軍歌も嫌いだった。 楽しい歌だけ好きだった。 音の流れないこの兵舎の中で、昔口ずさんでた歌を一人歌ってみたりする。 ちょっと旋律の綺麗な民謡だ。 俺の故郷に古くから伝わる歌で、俺は物心ついた頃からその歌を知ってた。 昔は何も考えずにその歌を歌ってたもんだけど、今思うとちゃんと歌詞なんかもついてて意味も分かる。でも俺は意味なんか考えずその歌を歌ってみた。 意味なんかない、歌は歌だ。
でも、それでもその歌を贈る人の顔は浮かんでた。だからきっと俺は無意識にその歌の意味を、今歌うことに重ねていたんだろう。
この歌を贈るよ。 暖かい日差しはケージの向こうに置いてきてしまったから。 あまりにも多くの月と太陽が巡ってしまったから。 時間は、満ちてしまったから。 今此処には―――――何も無いから。 だから俺は行かなくちゃ。幻想の日差しを胸から捨てて、巡る自然も受け入れて、行かなくちゃ。 だからその為に、今――――――。
この歌を贈ろう。 貴方と、そして俺自身に。
END
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