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SEA PRAYER ----------------------------
ジュノンには、もうあの神羅の支社はない。 だから海は澄んでいて、今では皆がその海を愛でてる。 魚が取れないと嘆いていたじいさんも、今では喜んでる。 良かったね、この海が綺麗になって。
貴方はこの海を知らないだろうけど、本当はとても綺麗だったんだよ。 貴方はこの海を知らないだろうけど、本当はとても澄んでいたんだよ。
海に出かけたいからと言って、連れていってもらった。 まだ春先で、風も冷たくて、海になんて入りたくなかったけど。 海岸は電波が入らないから仕事を忘れられるなんて言いながら、セフィロスは笑っていた。 俺は、それもそうだね、なんて言って笑い返す。 「いきなり海に行きたいなんて、どうした?」 そんなふうに聞かれたから、俺はこんなふうに答える。 「何か落ち着くだろう?」 ちょっとした連休で、少し遠出の海。ミッドガルから海というのは想像つかないけど、ジュノンまでくればすぐ近くにそれは広がっている。 どうせならコスタデルソルにでも行けば良かったかなんて言うセフィロスに、俺は首を横に振った。あそこに行ったら雰囲気がまったく違う。楽しいことに変わりないけど、そういう海を見たかったわけじゃない。 その海は、そこそこ水は澄んでるけどあまり綺麗ではなかった。ジュノン支社が出来て以来、そこから廃棄されるものが海に流出しているんだって。だから昔みたいに魚とかも取れないという話を聞いたことがある。 俺がそんな話をするとセフィロスは、そうだな、と一つ頷いて、 「それも仕方無い。今は待つしかない」 「待つって?」 「どうなるか、待つしかないという事だ」 「ふうん…」 何だか良く分からないまま俺はそう言って話を切った。待っていていつかそれが止まるとは限らないのに、そう思いながらも。 それにしてもジュノン支社はとても良い環境で、仕事中は窓から海が見えるらしい。俺はそこに入ったことがないけど、出張で何度か此処にきてるセフィロスはいつもそんな事を言っていた。此処にはいずれ空港もできるらしい。 「ねえセフィロス。いつか俺も此処で働けるかな?」 そうしたらいつもこんなふうに海を眺めながら仕事ができるのに。 でもセフィロスは何がオカシイんだが笑いながら否定した。 「それは無理だ、クラウド。此処は中継地点みたいなものだからな。警備くらいでしかお前はこれないだろう。それか事務でもこなすんだな」 「そうか…残念だな」 ミッドガルにはこういう自然みたいな景色は無くて、イメージはいつも灰色。俺みたいな立場だと、働くのに出かけるっていっても本当に近くで、やっぱりその灰色の中での行動でしかない。それじゃ少しつまらない。 「じゃあもっと会社が大きくなったら、いつか俺も色んな所にいけるかな?」 神羅はもう随分と大きいけど、ジュノンの後にもまだ支社の計画自体はあると聞いたことがある。それはいつできるかも分からない、本当に計画でしかない話だったけど、そうなったら俺にも少しはチャンスがあるかもしれない。 その時は勿論、セフィロスと同じ場所を希望するんだ。 それで仕事の合間に綺麗な場所で会えたりしたら良いなと思う。 そんな取りとめのないことを思っていた俺に、セフィロスは小さくキスをした。 「そうかもしれないな」 そう言いながら。 その後暫くは、黙って一緒に海を見つめていた。 俺は海を見ながらずっと考えていた。 いつかまたこうして一緒に海を見たりしたいなって。 今は連休で此処に来てるだけだし、もし仮に他の支社ができてそこに行けることになってそこで仕事をすることになったとしても、そこは海が見える場所ではないかもしれない。山かもしれないし、やっぱり灰色かもしれない。 それにセフィロスと一緒にいけるとも限らない。 このままいけばずっとミッドガルで同じ生活をしていくことになるんだろうし、そうしたらやっぱり海に来るのは「遊び」にしかならないんだろう。 そう考えるといつもの俺とセフィロスは灰色の中に一緒にいることになる。それじゃ何だか悲しい気がした。 日常が、こんな場所にあったら良いのに―――そんなふうに思う。 灰色の中ではなくって。 「クラウド」 突然話しかけられて、俺はビックリしてセフィロスの方を向いた。するとセフィロスは、風で髪をなびかせながら、こう言った。 「折角の連休だ。何か他にしたい事はないのか?何だったら場所を変えることもできる。今からなら夕刻には別の所にも着けるだろう」 「そうか、そうだよね」 ずっと此処にいても、確かに仕方無いかもしれない。今は連休だからまだ他にも行こうと思えば行けるし、此処では何だかしんみりして終わってしまうだろう。 そう思って、他に行きたい場所というのを考えてみる。 だけど俺には何でか思いつかなかった。 コスタデルソルみたいな、いかにもレジャーなところには行く気分じゃないし、かといって行ける場所も限られる。いくら今からなら夜には別の場所につけるといってもそれは、グラスランド地域くらいの話だ。 俺の故郷のニブルヘイムなんていったら、相当時間がかかってしまう。 そう考えて俺は、 「いいよ、此処にいようよ」 そう答えた。 此処には海もあるし、まだ静かだし、何しろ此処は灰色じゃない。 会社の近くっていうのは何だか味気ないけど、それでも景色は良い。 そう決心した俺にセフィロスは困ったように笑って、 「もっと綺麗な海だったら良かったのだがな」 そう、言った。
――――――――だけど、セフィロス。
貴方はこの海を知らないだろうけど、本当はとても綺麗だったんだよ。 貴方はこの海を知らないだろうけど、本当はとても澄んでいたんだよ。 あの日、ちょっとした連休の中で見たあの海は少しばっかり濁っていたかもしれないけど、本当の姿はこれだったんだよ。 今思うと馬鹿みたいな話だ。 会社が大きくなったら、もっと綺麗な場所にいけるかもしれない。 そう思っていたけど、本当はそれは反対だったんだ。そうなったらもっと灰色が増えるだけで、綺麗な場所は消えていったはずだ。そんな事に気付くことすら俺はできなかったけど、それくらい貴方と見た海はその時綺麗だったんだ。 本当は少しくらい濁っていても綺麗だったんだよ。 貴方が隣にいたから。 風に髪をなびかせて、笑っていてくれたから。
“今は待つしかない” ―――――――そう…随分と待ったよ。
待ったら、この海は本当に綺麗になった。 けれど……それは貴方が隣にいない、綺麗な海。 一人だけで見つめる、綺麗な海。 ジュノン支社の廃棄物が消え去って、神羅も貴方も消え去って、残された海。 海は澄んでいて、今では皆がその海を愛でてる。 魚が取れないと嘆いていたじいさんも、今では喜んでる。 良かったね、この海が綺麗になって。 良かったね、この海が澄んでいて。 あの頃、この海を綺麗だと感じられる人など此処には誰もいなかった。濁った水は魚が取れなくて、商売あがったりだと嘆いているくらいの話だった。それでも俺はそんな海を見て落ち着くことができて、綺麗だと思えたんだ。 こんな場所が日常の背景だったら良かったと、思っていたんだ。
でも、今はそうは思えない。 神羅も廃棄物もない綺麗な場所だけど、今はそう思えないんだよ。
だって此処には、貴方もいない。
久々に訪れたジュノンで、俺は一人食事などをしていた。 店内で出される料理の殆どは魚料理で、一口つまんでみると自然の塩の味がした。つい食が進んでもくもくとそれを頬張っていると、店の主人が気さくに声などをかけてくる。 「どうだ、美味いだろ?」 「ああ、美味いよ」 主人は満足げな顔をして、昔話などを始める。 「一昔前は魚がさっぱり取れなくてな。それが今ではここまで元に戻った。神様ってのはいるもんだな」 「神様?」 「そうさ。俺は漁師だからな、神様に祈ってたもんよ。どうかあの会社が潰れちまうようにってな」 「…ああ」 なるほど、確かにそうだ。この店の主人にとってはあの支社はただの邪魔者でしかなかった。生活するためには、本当に邪魔者だ。 そんな会話をする俺たちの背後で、何やらショーが始まった。 それは民族衣装を纏った女達の踊りで、何だか歌までついている。笑顔を振りまきながら歌い踊っている女達は楽しそうだ。 フリルの民族ドレスは赤くて、クルリと回る度にそれが宙を舞う。その赤は俺の眼の中に入り、目の中で揺れていた。 「見ろ、若いの。あれは今じゃウチの名物の“豊穣の祈り”だ」 「豊穣の祈り…」 神羅がなくなって、豊かになった海。 その“豊穣の祈り”は、邪魔者の敗北を喜び、豊かに戻った海を祝福する踊りだった。良く聞けば歌もそんなような意味が込められている。 俺は途中までつまんでいた魚に目を戻し、黙り込んだ。 この美味い魚も、あの踊りも、とても素晴らしいけれど、悲しくなる。元に戻って豊かになったと喜ぶ人たちの中に、俺はいるべきじゃないんだろう。 俺は、この美味い魚も、あの豊穣の祈りも、心から喜ぶことなんてできない。 俺の幸せは、きっとこの人たちの不幸の中にあったんだ。 この人達が嘆いていた濁った海の中に、俺の綺麗な海は存在していたんだ。 「ごちそうさん」 俺はそっと席を立つと、数ギルを置いてそのままその場を去った。 ――――――此処には、綺麗な海は無い。
ジュノンには、もうあの神羅の支社はない。 だから海は澄んでいて、今では皆がその海を愛でてる。 魚が取れないと嘆いていたじいさんも、今では喜んでる。 女達は豊穣の祈りを踊り舞う。 ――――良かったね、この海が綺麗になって。
貴方はこの海を知らないだろうけど、本当はとても綺麗だったんだよ。 貴方はこの海を知らないだろうけど、本当はとても澄んでいたんだよ。 あの瞬間だけ、この世で一番綺麗な場所だったんだよ。
俺の海は、今はもう、濁ってしまったけれど。
END
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