その香りを辿り、俺はその香りの発生元を探り当てた。

それは、この建物の中の、トレーニングルームの中から発生しているようだった。トレーニングルームとはいっても数個あり、その中でも此処は今では閉鎖され、器具の物置と化している場所だ。

…なるほど、どうやって鍵を手にいれたかは知らないが、考えたなというところだ。とはいえ、此処でそんな馬鹿なことをしている事に関しては呆れ返るしかない。

そんなにセックスがしたいなら自分の汚れたシーツの上でやれば良い。

そう思いながら、俺はそのドアを開けた。

ドアはすんなり開く。多分、警戒などしていないのだろう。確かに夜にこんな場所にくる奴はいない。特に此処は使用されていない場所だからか管理も甘い。

開けた瞬間に、その香りに俺はむせそうになった。あまりに充満しているのだ。

物に視界が遮られていたが、それを分け入って進むと、そこには――――――。

「…!」

―――――そこにいたのは…。

「クラウド!」

俺は眉を顰めてその名を呼んだ。それに気付いたのか、クラウドはビクリ、として俺の方に顔を向ける。酷く怯えた表情をしていたが、それよりも問題はクラウド自身だろうと思う。

クラウドを犯す男でもいるかと思っていたが、そこにはクラウドしかいなかった。

クラウドは腕や足や身体の数箇所に何か縄のようなものを巻いた状態で、しかもその格好は全裸だった。

何をしていたかは、勿論、分かる。

陶酔しきった顔で、マスターベーションをしていたのだ、こいつは。

それを見た瞬間は、本当に色んな感情が一気に沸き起こった。呆れや、怒りや、とにかく色々だ。

「セ…フィ、ロス…」

俺の顔をみた瞬間に、股間を弄る手の動きはすっかり止まっていた。素早く両足を閉ざして、とにかく怯えた目で俺を見ている。俺はそのクラウドに一歩づつ近付くと、手荒にその腕を引いた。

「い、痛いよ、セフィロス…っ!」

そう言って目を瞑るクラウドの頬を、俺は思い切り叩いた。酷く音が響き、徐々にその頬は赤くなっていく。

「お前が薄汚い鼠だとはな、クラウド」

そう言ってクラウドの腕を思い切り引き離すと、その反動でクラウドは所々に散らばった器具に身体ごと当たった。

ガコン、と鈍い音が響く。

そしてその後に、やはりあの泣き声が響いた。例によってクラウドが泣き出したのだ。もうその声は聞き飽きたというのに、とても耳障りに響き渡る。

「ご…めんな、さい…っ」

クラウドはそう言いながら涙を流している。それを見下ろしながら俺は思っていた。結局コイツは何がしたかったんだ、と。誰もいない部屋に独り、訳の分からない匂いをしきつめて射精をする。それだけだったら部屋でやれば良い。

はっきり言って理解できない。

しかしそんな俺の疑念を、クラウドはたった一つの行動で振り払った。泣きじゃくる中で、右手をすっと持ち上げて、部屋の更に奥の方を指差したのだ。

「…?」

ずっとその姿勢を崩さないクラウドに、俺はその奥に足を向けた。

そして、そこにあるものを見て俺は悟ったのだ。

なるほど、と。

俺の考えは半分当り、半分外れていたのだ。

「…お前がやったんだな」

そう確認の言葉を投げつつも、俺はすっとその場にしゃがみこむ。

そこにあったのは、一体の死体だった。

ズボンのポケットを探ると、そこには予想通り神羅の社員証が入っていた。そこに書かれているのを見ると、その男の正体がすっかり分かった。

ソルジャークラス1st。

しかもその顔は俺も見たことがある。俺自体はその男とは何の任務もかぶったことはなかったが、そう、この男はザックスの友人の一人だったのだ。

俺はその死体から手を離すと、まだ泣き続けているクラウドの側に戻った。そしてクラウドに説明を仰ぐ。とはいえ、その全貌は大体察しがついた。

俺が間違っていた部分もはっきりしていた。

クラウドはそのままの姿で、途切れ途切れの言葉で説明をした。何とも聞き取りにくいが、それでハッキリする。

全貌は、簡単。

ザックスと親しいクラウドが、ザックスを介してこの男と知り合う。そしてこの馬鹿な男はクラウドを玩具扱いしたわけだ。クラウドの身体に巻きつけられているこの縄のような物体で自由を拘束し、そして犯した。

それは続き、男はその度に妙な香りをしきつめていた。その度にクラウドは俺の元にやってきてはワンワンと泣く。という事はあの時のクラウドの言葉はあながち嘘ではなかったということか。

そしてクラウドは今日、とうとうこの男を殺した。今日この匂いが特に強いのは、血の匂いを消そうとした為。

――――――それが全貌だった。

「俺…セフィロスだけだよ…こんな事、したく、なかった…」

クラウドは俺にそう訴える。その言葉を信じないでもないが、この男を殺した後にクラウドがしていた行為を考えると、単純にコイツを甘くみるものではないとも思う。

一言では言えない感情が渦巻く。一概にコイツを可哀想とも見れない。

俺が恐れるまでもないものだが、多分クラウドは――――何か奇妙なモノを持っているのだろう。

「とにかく服を着ろ。処理は俺がしておく」

馬鹿らしい作業だと思うが、それでも仕方ない。クラウドの為ではなく、これは俺に負かされた仕事だからだ。

とはいえ俺は迷っていた。この事態をどう報告するかを、だ。まさかクラウドの名前を出して真実を言うわけにもいくまい。ならば、やはり虚偽を報告するしかない。しかしソルジャークラス1stという貴重な人材を失ったのは確かな事実で、それまでを報告しないわけにはいかなかった。

理由付けは後で何とでもなる。何せ神羅はそういう汚いことが上手い企業だ。

とにかく俺は、死体の処理をした後に、服をつけたクラウドを兵舎には戻さず自分の部屋に連れ戻した。

 

 

 

簡単だ。

ただ、クラウドの身体を犯す。

これは俺の手を煩わせたことへの罰だ。だからこそ優しい抱き方はしない。こいつの言っていたことが本当だったとはいえ、今更俺にとっての嫌悪感を消せるはずもない。

事実、こいつはどういう状況だろうとあの男と寝ていたのだ。最初は無理矢理だろうと、回数を重ねるとなれば、それは拒否もできたはずだ。

それをしなかったのは、こいつが単に淫乱に染まっただけのこと。

だからコレはそれへの罰だ。

「あ、あああっ!」

ベットが激しく軋むのも構わず俺はクラウドを突き上げていた。慣らしもせずに強引に挿入したせいか、血液がべとつく。その他に愛撫などは一切しない。

ただ、突き上げるだけ突き上げる。そんなやり方でもクラウドは激しく勃起している。随分慣れたものだと思うが、確かに最初にクラウドの身体にそれを教え込んだのは俺だったろう。その後は俺の知ったことじゃない。

「セ、セフィ…あ、ん、あああっ!」

激しい音を立てて何度もぶつかり合う下半身は、俺にとっては何も問題は無かったが、クラウドにとっては最早限界だった。それを知っていながらも俺は許さなかった。

良く分からない感情だと思う。

別にその男が何だというわけでもない。クラウドがどうというわけでもない。

だがその時、俺の中で何か激しい感情が渦巻いていたのは確かだった。

それが何なのか俺が知ったのは、もう少し後のことだった。

 

 

 

真実に気付いたのは、ザックスの言葉からだった。

クラウドが手をかけたあの男の友人であるザックスは、クラウドとその男が一回だけしか会っていないことを俺に教えた。

それは、ザックスがその男と廊下を歩いていた時、たった一度クラウドとすれ違ったという事実だった。

それを聞いた時、俺は可笑しくなった。当然だろう。

何故ならその男とクラウドは言葉さえ交わしていなかったというのだから。

ただ、目が合っただけ。それだけだった。

そうだ、所詮はやはり俺の考え通りだったのだ。

 

クラウドが誘ったのだ、その男を。たった一度、目を合わせたその瞬間に。

 

あの夜クラウドを抱いた時、俺の中に強く渦巻いた感情を理解したのはその時だった。酷く汚く淫乱な鼠だと思い、憎いと思う感情。そして、それでもそのクラウドから逃れられないというジレンマ。

俺は最初から悟っていたのだろう、今ではそれが分かる。

 

 

幼いながらに誘惑するような目つきをする。

クラウドがそんな小汚い癖をつけたのは、俺のせいだろう。

それを投げかけるクラウドを憎いと思いながらも、その目から視線が外せない。

その罠にはまっていたのは俺の方だ。

 

 

俺は、クラウドの罠から逃れることはできないのだ。

 

 

 

END

 

 

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