RAT-TRAP

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幼いながらに誘惑するような目つきをする。

いつからだったか、お前がそんな小汚い癖をつけたのは。

もしかしたら俺のせいかもしれないな。そんなふうに思いながらも、その目から視線が外せない。困ったものだと思う。

いつの間にか、その罠にはまっていたのは俺の方だったかもしれない。

 

押しかけるように部屋にやってきたクラウドは、部屋に入るなりいきなり俺に抱きついてきた。それは構わなかったが、その後に香った何かが、俺の不信感を煽り立てた。

妙に甘ったるい匂い。どう考えてもクラウドの持っている匂いではない。

じゃあどうしてそんな香りがその身体にこびりついてるのか。それは答えも一つしかないだろう。こいつは今まで、どこかの誰かと寝てたわけだ。

「セフィロス…」

そう呟いて肩に顔を埋めてくる。その動作自体は悪くない。結構気に入ってる。だがこいつは今まで誰かとよろしくやってたわけで、その後にこうして抱きつかれるのは良いものではない。というより、腹が立つ気もする。

さぞ満足させて貰ったんだろうが。

それでもまだ足りなくて、俺の所に来たという訳か?

……馬鹿馬鹿しい。抱く気にもなれない。

「セフィロス…?」

「邪魔だ。離れろ」

俺の返答に、クラウドは俄か縋るような顔つきになる。かといって何かをフォローする気も起きなかった。

クラウドが来るまで見ていた、神羅のこれまた馬鹿馬鹿しい書類などを掬い上げると、俺はさっきまでの作業の続きを始めた。書類をチェックしろだとかいう面倒な作業だ。大体ソルジャーにそんな紙の上の事などは関係ないだろうとも思うが…それは仕方無い。

結果的に全く無視された状態のクラウドは、その後何も言ってはこない。所詮その程度だろう。別段これといった約束が、俺達の間にあるわけではない。それに、そんなふうに縛られるのは面倒な事この上ない。

それでもクラウドが他の誰かと寝ただろうという事は、俺の集中力を十分に欠けさせた。その事実もまた、腹が立つ。

「ね、え…セフィロス。怒ってるの?…何で?」

おどおどした様子でクラウドはやっとそう口に出す。

「何でかは、お前が良く知ってるんじゃないか?」

思わずそんなことを口に出すと、俺はまた書類に目を落とした。集中力は欠けているし、はっきり言えば頭になど入っていない。背中に目があればどんなに楽か分からないくらいだ。…それにしても、あんな事を口に出したのは不味かったか。

あれではまるで、俺の方が嫉妬でもしているようだ。そんな事はあるはずないのに。

「セフィロス…俺…」

「何だ、言い訳か?」

「違う、よ!…話、ちゃんと聞いてよ」

「知った事か。お前はどこかの誰かとママゴト恋愛でも楽しんでれば良い」

どういうわけか、思ってもみない言葉が次々と口をついた。無性に苛々する。クラウドの方は相当辛そうな顔をしているが、そんな顔をしても無駄だ、と思う。どうせそうやって誘ったんだろう。どこの誰かは知らんが、その目に落ちたにきまってる。

実のところ、こういうことは初めてじゃない。もう何度かあったから俺も断言できるという訳だ。その度にクラウドはこうして俺の元にやってきてはワンワン泣いていて、最初は誰かに無理矢理されたんだろうと思って甘く見ていたが、最近はそうでもないと分かってきた。結局こいつの方が相手を誘ってるのだ。

その理由など聞く気にもなれない。自業自得だろう。

その悪い癖が抜けない限りは、俺はこいつに何かをしてやる気にもなれないだろう。そもそもそんなものすら必要ではないのかもしれない。

大体何故こんなふうに共にいなくてはならないのか。こいつは何故こうして俺の部屋にやってくるのか。

「俺、そんなつもりじゃないよ。俺…は、セフィロスが…」

「うるさい。黙れ」

もういい加減にして欲しい。このままだと俺は何もできないままの上、状況は一向に良くはならない。

どうにかしなくては。この悪い癖をつけた、クラウドを。

 

 

 

「おす、セフィロス!クラウドはいないのかよ?」

「何だ、その言い草は」

任務開けにそう言って近付いてきたのはザックスだった。いつも通りに良く笑っている。それはそれでこの男の持ち味だろうと思うし、あまり興味は沸かないが、納得はしている。ザックスはつかえる男だ。それは俺も認めているところで、たまに任務が重なるときもある。ただ難点は、ザックスはクラウドに肩を入れすぎだというところだろう。

別にこれは嫉妬のような感情ではない。ただ何かにつけては俺とクラウドを一緒に話に出してくるのが気に食わない。何故そんなふうになったのか、頭を抱える部分だ。

「だってさ、クラウド最近おかしいだろ?」

「おかしい?」

「そうそう、何だか妙にそわそわしちゃってさ」

「……?」

それは俺の知るところではなかった。俺が知っているのは、いつものように訳の分からぬまま泣き付いてくる、その姿だけだ。

こういう部分が何かと問題だと思う。あいつは何だかんだと俺には隠し事をする。それは誰かと通じるように、ザックスに何かを話すのも同じことだった。

多分ザックスの方が、俺よりもクラウドに関しては詳しいのだろう。それはどうでも良い事だったが、わざわざその話を俺に持ち出すのがまた気に食わない。

何かにつけてはクラウドの名が出てくる。疲れるだけだ。

「何かあったんじゃないかなあと思ってさ。それ聞こうと思ってたんだけど」

「そうか。なら俺の所に来るな」

「何だよ、何だか妙に機嫌悪くないか?」

「さあな」

どうでも良いだろう、そんな事は。とにかく俺は関わりたくなかった。クラウドの事を考え始めるとキリが無い。気分が悪くなる。

結局俺はそのままザックスを振り切ると、足早にその場を去った。

 

その話が正統な道を通って俺の所に回ってきたのは、その日の夜のことだった。

すっかり部屋に戻った後に、ふいに電話がかかってきて、俺はそれを仕方なく手に取る。どうせまた下らない内容なんだろう。画面には神羅幹部の名前が表示されていて、はっきりいってうんざりした。

治安維持部門統括ハイデッカーの下で働く準幹部の一人。そいつの名前を見ながら、俺は電話を取る。大体、神羅の連中は俺からすれば下らない内容で膨大な連絡をすることがあり、それには俺もほとほと呆れていた。馬鹿らしいことこの上無い。

「もしもし」

『ああ、セフィロスか。悪いが、これから社の方に戻って欲しい』

別段、焦るふうでもない。責任を持つ者なら貴様が行け、そう思ったが取り敢えずはその理由を尋ねる。

「…馬鹿げた話だな、一体何があった?」

男は、淡々と話し始めた。

「いや、最近どうも夜に社内をうろついている輩がいるらしい。それは見回りもしてるが、一応な、セフィロスにという話だったのでな」

「そうか」

そう答えつつも、本当に俺は呆れるしかなかった。見回る人間がいるなら、そいつらが事を調べれば一石二鳥じゃないか。何故そこで俺の名前が出てくるか、さっぱり分からない。

それでもどうせ命令だとか何だとか都合の良い言葉を吐くに決まってるのだ。

ふと時計に目をやる。

――――――もう、夜も深い。

「分かった。とりあえず行こう」

俺はそれだけ言って電話を切ると、重い溜息をついた。

 

 

 

神羅につくまでに二回ほど連絡があり、セキュリティ解除についてなどを長々と説明されたが、それは適当にあしらった。そんなものは大体知っている。知識の範囲内の話だ。

だからそれよりも俺の頭を巡ったのは、夜に神羅に侵入しているとかいうネズミの事の方だった。一体何者なんだ。

とはいえ、はっきり言えばそんなことはどうでも良い事の一つでもある。誰がどう神羅を崩そうと俺の知った話では無い。

問題はその鼠がそうして俺の手を煩わせているという事実の方だ。馬鹿馬鹿しい。そんなことをするならセキュリティ解除くらい知識に入れておけば良いものを。

そう思いながら俺が神羅に辿りついたのは、家を出て一時間もしない頃の話だった。

 

元々知っていたセキュリティの解除を行った後、俺は夜の神羅を巡った。

暗いだけで特に何も恐れることはない。一応、武器は所持していたものの、多分それを使うまでもないことだろうと思う。

鼠がうろついているのは、神羅本社ビルの方はなく、兵舎やソルジャー屯所などがある建物の方で、これは普段から俺も関知している部分だった。

取り合えず隈なく歩いてみるが、特に変わった様子も無い。誰かがいる気配も感じられなかった。とはいえ、わざわざ俺に連絡を寄越すのだからその情報が嘘とも思えなかった。

どこかにいるのだ、薄汚い鼠が。

そう思い、もう一度一通り調べてみる。

しかし、やはり問題は無かった。

「…どういう事だ」

溜息を吐きながら、廊下の途中で立ち止まる。どこか見落としただろうか、そんなつもりは無いが一応はそれを考えてみる。

この付近にあるのは、兵舎、ソルジャー屯所の建物、そして兵士用に用意されたトレーニングルームや実習部屋がある建物だ。

その三つを回ったが問題は無かった。

兵舎は大体この時間は強制的に電源が切られるようになっているし、この時間にうろつく奴もいない。そもそも訓練生や警備兵というの は、この兵舎に入る場合は規則が厳しいのだ。

だからまず此処には問題が無いといえるだろう。後はソルジャー屯所。これはそこそこに可能性があった。ソルジャーは大体、自由が利く。とはいえ3rd程度ではまだ規則に縛られる部分が多いが、それでも違反に対する処置は甘い。そこから考えると此処はあやしかったが、それでも問題は無さそうだ。

そして、もう一つの建物。これは今俺がいる場所だったが、やはり問題はない。というか、こんな場所に入っても何一つ良いことなどない。盗むものすらない。

しかし思えば、窃盗を考えるなら本社ビルの方が随分と面白いものがありそうなものだが、と思う。

―――――とすれば、これは…。

そういう問題ではないのかもしれない。そうではなくもっと…。

そう思いながら歩き進めていると、ふっと何かの匂いが鼻をついた。先ほどまでは感じられなかった匂いだ。

だがその香りに対して俺が第一に抱いたのは嫌悪感だった。どこかで嗅いだことのある匂いだと思う。暫くは思い出せなかったが、俺はふっと思い出した。

そうだ、この匂いはクラウドが漂わせていた香りだ。あの、どこかの誰かと寝た後につけてくる、香り。そうか、だからこんなにも酷い嫌悪感を感じるのだ。

という事は、薄汚い鼠とはクラウドなのだろうか。

そう考えると、呆れるも何もなく、もう帰ろうかとも思った。

――――だが。

もしこの匂いを辿ったならば、そこにクラウドがいたならば、俺は目にすることになるのではないだろうか。

その、相手とやらを。

何となくそれに興味を感じた。今まではどうでも良いと考えていたことだったが、何故かふとどんな馬鹿が相手なのかと思った。その馬鹿な相手もまた、俺の感情を逆撫でする阿呆の一人に他ならないのだから。

 

 

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