星の螺旋

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後編

 

 

 

それは、大きな打撃だった。

宝条のメモから判明した事は、自分はセフィロスを生き返らせることができるという事で、確かにそれは実現した。

けれど、これではあまりにも酷すぎた。

確かに…保障があるわけではない。

そう、クラウドは思う。

宝条が望んだのは、あくまでも実験としての「回帰元の再構築」であって、それはそれ以上の意味を含まないのだろう。

けれどクラウドが望んだのはそれだけでは無かった。

「記憶は真っ白か…」

そう呟いて、落胆を隠し切れないため息をついた。

 

細胞は、細胞を生き返らせた。

だがそこには、人間が求める“記憶”は無かった。

 

 

 

これでは、意味が無い?

 

 

 

 

何とかして辺境の村に辿り着いたクラウドは、手持ち金も無いからと必死に頼み込み、やっとの事で宿場を借りた。

宿屋の主人が、こんなご時世だから、と理解を示してくれたのは、本当に幸運だったといえるだろう。

 部屋は狭かったが、それでも寝起きするのに困ることなどない。とにかく連れ出してきたセフィロスには、

「暫く此処にいてください」

とだけ言っておいた。

記憶が無いセフィロスは、何だか分からないというような顔つきだったが、分かった、と短く返答した。

 これからどうすべきなのかについて考えなければならなかったクラウドは、取り合えず独りになりたかった。外気に触れ、ため息を吐く。

 目的は達成されたのに、このままでは納得ができない。

 それは自分の我侭だと承知していたが、それでもその気持ちを抑え切れなかった。細胞は満足しても、クラウド自身が保有していた感情は満足ができないままなのだ。そう思い、クラウドは可笑しくなった。

 何だ、結局は――――。

「結局はセフィロスとあの頃に還りたかっただけなのか?」

 還りたい…そう思っていたのは感情の方だったのだろうか。セフィロスの故郷である為には、セフィロスの記憶が必要なのだ。記憶があってこそそれは成り立つのだから。

 記憶が欲しい。

 そう、思った。けれどクラウドには、それを操作する術は無い。

「これからどこに行けば良いだろう」

 それについても皆目検討がつかない。行く場所など、何処にも無いのは分かっていた。今の世の中ではどこに行っても復興作業の嵐で、それは二人にとってはどうでも良いことのように思えた。

 仲間よりも何よりもいつも彼を選んできたように、今も、世界の復興よりもセフィロスを選んでいる自分を、クラウドは良く分かっていた。

 

 

 

 部屋に戻ると、先ほどまで傷だらけだったセフィロスはすっかり回復していた。

「どうしたんだ、セフィロス!」

 驚いてそう言うクラウドに、セフィロスは淡々と説明をする。

「何時の間にかこうなっていた。随分と楽だ」

「何時の間にか…?」

 今のセフィロスにそんな能力があるとは思えなかったが、ふと頭をよぎった言葉に、ああ、と納得をする。

「再構築、か…」

 体を再構築できるならば、それは当然の作用なのかもしれない。安心したクラウドはセフィロスの隣に腰を下ろすと、その姿をまじまじと眺めた。

変わりの無い姿。 

不審な顔付きになったセフィロスは、合間を見てこんなことを言う。

「お前は何者なんだ?」

「…クラウド」

「クラウドか……不思議だな。どうもその名前は、引っ掛かる」

「?」

「そして俺は…セフィロスというのか?」

「そうだよ。セフィロスは世界一強いソルジャーだった。皆が憧れてたんだ」

 ふいに遠い目になってそう言ったクラウドに、セフィロスは無感動に、そうか、とだけ言う。

「それで……はどこだ?」

「え?」

 セフィロスの口から出た言葉の一部が、妙に掠れた。聞き取れずにそう聞き返すが、セフィロスはただ頭を横に振るだけで、一向にその言葉の趣旨は分からない。何かを言おうとするが、それが思い出せないらしい。

「良いんだ、セフィロス。ゆっくり思い出せば良いんだよ」

 その言葉に眉をひそめ、セフィロスは前屈みになって目を閉じた。長い髪がそれに伴って揺れ、クラウドの腕にかかる。

『クラウド、お前は笑うかもしれないが……』

『私はお前のようになりたかった』

 かつて、そう言って見知らぬ兵士であったクラウドを、英雄のセフィロスは抱き締めたことがあった。そして彼は、彼自身が抱える孤独を埋めようと、そして感情の欠陥を埋めようと、クラウドと体を重ねた。

セフィロスは冷静だったが、クラウドはそういう訳にはいかなかった。

 相手がセフィロスだったから…だから、惹かれて行ったのだ。セフィロスの中に自分が存在している、それがクラウドにとっての優越感だった。そして、確実に自分を肯定する存在だったクラウドは、セフィロスにとっての「故郷」。

 共依存、していた。

「あなたは…どうしたら俺の元に返ってきてくれるんですか」

 腕にかかる髪を手に取り、クラウドは呟く。

体は此処にあるのに、心は此処に無い。それが、身を切るほどに切ない。

セフィロスはまだ自分の元に返ってきてはいないのだと思った。記憶を…心を殺したままで、セフィロスは蘇ったのだ。そうさせたのは紛れも無い自分だったが、それでも何とかしなければ、と思う。だから、クラウドはその瞳を射抜いた。

 記憶なんて、心なんて、作れば良い。

 宝条がそうしたように、作り出せば良いのだ。

 例えそれが、セフィロスの心を狂わせた宝条の罪と大差無い行為だとしても。

「セフィロス、あなたは俺を縛ったんだ。こうして、縛ったんだ。俺の心を」

 心を作る事など簡単なことだとクラウドは思った。

以前セフィロスがそうしたように、今度は自分が同じ事をすれば良い。そうすれば自分と同じように、セフィロスの心を縛ることができるかもしれない。

ただ違うのは、そこに憧れという純粋な感情は何もないという事だった。今のセフィロスには先ほど教えた情報しかないのだから、そうしたところで立場も分からないクラウドに何かを感じるかは分からない。

 それでも、クラウドはそうすることを選んだ。

 あの頃に返れるなら、自分に返ってきてくれるなら……と。

 腰を上げたクラウドは、セフィロスの目前に跪いた。その位置からセフィロスの顔を見上げると、はっきりとした言葉で言った。

「俺に、あなたの全てを下さい」

 

 

 

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