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半年過ぎたというのに、足は真っ直ぐにセフィロスの所までを進む。一歩たりとも迷ったりしない。それは本当に不思議なことだった。 生活サイクルは完璧に神羅基準に戻ったというのに、それだけは心残りがあるとでもいうようにしっかりと記憶している。頭というより、きっと身体が覚えているのだろう。 その一歩一歩に期待が込められているかどうかは自分でも良く分からないとクラウドは思う。 行った所で、ザックスの言うようにセフィロスの為になるかどうかは分からないし、自分とは一切関係ないことでやはり冷たくあしらわれてしまうのかもしれない。 けれど、そんな事が大切なのではないのかもしれない。 動く足に込められている意味は、きっと自分の気持ちだから。 セフィロスの為に、そういう思いもあるけれど、多分そうしてその場所に行きたがっているのは、まだ気持ちがあるからだ。 勿論、消えはしないと知っていたものだけれど。 一度した決断を破るのは愚かかもしれないけれど、それでも自分に素直になるならば、それは正しい選択だった。
懐かしいその部屋。 懐かしいその顔。 懐かしいその瞳。 半年の間、封じたものだったけれど――――――。
「…クラウド」 尋ねた先に居たセフィロスは、クラウドの顔を見て驚きを隠せないようだった。 そう言ったきり目を見開いている。 どういう反応なんだろうかと思いながら、クラウドはなるべく自分の感情を隠しながらセフィロスに笑いかけた。 ただ一人の知人として、そんなふうに。 「帰れって言うなら直ぐ帰るよ。ただ、様子が変だって聞いたんだ。ザックスから。だからその、心配で…」 そのことだけ聞ければ良い、そんなふうな態度で臨むクラウドに、セフィロスは神妙な顔つきを見せた。それは今までクラウドの見たことのない表情で、どういう意味を表しているかが分からない。 言葉もなくそうされるので、クラウドはもう一度だけ、 「帰れって言うなら帰る、から」 そう言ってみる。釘をさすように。 けれどそんなクラウドに、セフィロスはふっと顔を歪ませた。しかもそれは少し苦笑を伴って。 「俺は…」 やっと出された言葉と共に、セフィロスの指先はクラウドの頬に触れた。 思わずクラウドは目を見開く。あまりにそれが懐かしい感覚だということもあったが、絶対に拒否をするだろうと思われたセフィロスがそんなことをしたのが、信じられなかったのだ。期待はどこかでしていたけれど、それでも、そんなことはないだろうとも思っていた。だからそれは、本当に、クラウドにとっても予想外の出来事だった。 セフィロスの口は、ゆっくりと言葉を放つ。 「俺は酷い人間だろうな」 「え…」 「他愛無い恐怖の為に生きる術を失った。お前の――――笑顔を消した」 そう言った後、セフィロスの腕はクラウドをゆっくりと引き寄せた。いつもその胸に顔を埋めるのが普通だったのに、その時はセフィロスがクラウドの胸に顔を埋めた。少しかがんだその格好のまま、くぐもった声 がクラウドの耳に届く。 それはどこか振り絞ったような声で。 「どうやってお前に償えば良いだろうな」 埋められた胸で響く鼓動が、早まっていく。 それを感じながら、クラウドは恐る恐るセフィロスの背に腕を回した。その背中は半年前と変わらずに広くしっかりしていたが、それでも何か寂しさが漂っているように思う。 それは、自分の傲慢だろうか。 「どうしたら、俺を許してくれるんだろうか」 そう吐かれた言葉が浸透して、クラウドは知らず腕の力を強めていた。 まるで嘘のような言葉の羅列。けれどきっと嘘じゃない。 あの頃そこにあった気持ちが嘘ではないように、きっとこれは嘘ではないんだ。そんな思いが溢れる。 それはずっと望んでいたものだった。まさかセフィロスの口から実際に聞けるとは思ってみなかったものの、今そうしてそれは現実になっている。 許すとか、そういう問題ではない。 最初から、そこに怒りなんて存在していない。 そう伝えたかったが、クラウドはそれを言葉にできなかった。ただ、その背中を強く抱きしめるのが精一杯で。 「クラウド―――――お前が必要なんだ」 それは、あまりにも遅すぎる告白だった。 それでもクラウドは満たされていくのを感じて、それに頷く。 けれどそんなクラウドには、セフィロスの心など読めはしなかったのだ。 喜びに満たされる心の裏――――――そんなものは、何一つ。 だから、セフィロスが呟いた最後の言葉など耳に入りはしなかった。
『例え―――またお前を、泣かせる事になっても…』
喜びをかみ締めた後となれば、少し気持ちが緩むのも仕方のないことだった。けれど取り合えず此処に来た理由を消化しなければと思い、クラウドはザックスの言っていた症状についてをセフィロスに問いかけた。 様子が変だというそれを、まずは見極めなければならない。 「別状はないんだ?」 出された珈琲などを飲みながら、クラウドはそう確認するように言った。セフィロスはいつもと変わらないように、ああ、と答えるだけで、それは確かに変でも何でも無い。 クラウドはホッとして笑うと、 「そっか、なら…良かった」 そう呟いた。 もし本当にザックスのいうようにおかしい部分があるというなら、自分が出来る範囲で何かをしたいとは思っていた。けれどそれが出来ることかどうかはわからないし、そういう事は難しい。取り敢えずはそういう心配は無くなったのだから、一安心である。 とはいっても別にザックスの言葉を信用してないわけではない。 だからきっとその原因はもっと別なところにあるんだろうと、クラウドは何となく纏めてみる。きっと、そうだろう。 「それにしても良く此処に来る気になったな」 静かにそう言うセフィロスの疑問はもっともだった。あんなふうに別れて、あんな言葉を残したクラウドである。 まさか気持ちがあろうともこんなふうに出向いてくるとは思えなかったのだろう。 「ザックスが行けって言ってくれたから。…そう言ってくれなかったらきっと俺、まだ一人で塞ぎこんでたな」 「ザックスか」 まあそれしかルートはないか、などとセフィロスは続ける。 「ザックスには嫌な思いさせちゃったかな…板ばさみだもんなあ」 「そうかもしれん」 今になって思えば、二人にとっての良い時期も嫌な時期も知っているザックスが、本当は一番辛い立場だったのだろうということが分かる。 当事者じゃないのに、ケアするみたいにどちらの側にもいたザックス。 「もう迷惑かけないようにしないと。ね?」 「…ああ」 笑っているクラウドをチラリと見て、セフィロスはそう答えた。が、その顔はあまり芳しくは無い。 きっといつもならそれに気付いていたクラウドも、その時は浮かれていたせいもあってそれに気付かなかった。 そこに答えがあったことなど。 「セフィロス」 「ん?」 「…ごめん」 「…何だ、唐突に」 珈琲カップの中を見つめながらクラウドは別れの場面を思い返していた。 あの時セフィロスに言った言葉。ちゃんと覚えている。 先ほどセフィロスはクラウドに謝ったが、あの別れの場面で自分が言った言葉はどうだったろうかなどと思う。あの言葉は穏やかな口調でも鋭いものだった。それはクラウド自身も感じていた。 セフィロスという人の優しさは十分知っていたし、だからセフィロスがそう言ったからといって全てを消し去るとは思えなかったのに、それでもそう口をついた。 それは皮肉というつもりではなかったけれど、あの時の自分からしたら精一杯のガードの言葉だったのだ。 自分は絶対忘れない、覚えてる。気持ちは変わらない。 それを裏付ける為に言った、反対の言葉。 セフィロスがそれに気付かないわけがない。そう思っていた。それでもセフィロスは自分の想いとは反対の決断を出したから、だから――――。 その人の過去の一部としてでも、ちゃんと残っていたかった。 「あんなこと言っておいて、虫が良すぎる。俺も同じだ。しかも証拠まで渡してさ」 そう言ってセフィロスに顔を向ける。 そういえばあの時のピアスは、まだ持っていてくれているだろうか。 「あの時のピアス、どうした?」 もしかしたら捨ててしまったかもしれないな、そう思いつつもそう聞いてみる。もしまだ持っていてくれたら嬉しい。それは本当に証拠だから。 しかしセフィロスはその問いに首を傾げた。 「ピアス――――何の事だ?」 「え…。覚えてないのか…?」 まさかそこまで忘れてしまったはずはないだろう。そう思いクラウドは、その別れの場面について、事細かに話した。それは勿論セフィロスもその場にいたのだから覚えているはずのことだった。 あの時、こんな事を言って、こんなふうに渡した。 そんな説明をしつつもセフィロスの顔色を窺う。 しかし、それは一向に変わらなかった。 「セフィロス――――本当に、覚えてないのか?」 「……」 「葉桜が舞ってて…そこで渡した奴だよ。俺、その場で耳から取って…」 「……」 「セフィロス…?」 目に映る相手は、まるで何も覚えていないかのように表情を崩さない。僅かに開いた口すらそのままに、言葉は耳をすり抜けていくかのように。 「嘘だろ…?」 クラウドは何故だか、ゾクリ、とした。 そこにいるのは、確かに半年前まで一緒にいたセフィロスと変わらない姿なのに、何かが違うようにも思えたのだ。 最初は嫌な記憶だからすっぽり抜けたのかとも思ったが、それはどうやら違うようなのだ。その、別れの場面の端々すら覚えていないような態度なのである。 「セフィ―――――」 何となく怖くなってカップを置いてからその身体に手を伸ばすと、それは強引に引き寄せられた。 そして、更に強引に唇を奪われる。それはあまりにも唐突だった。 「ん…っ!」 クラウドの頭の中にあったのは疑問ばかりだった。ピアスのことを覚えていないのもそうだったが、その唐突なキスも疑問でしかない。それは待ち望んだ想いの表れでもあるはずなのに、嬉しさより怖さが勝っていた。 まるで言葉を制御するかのようなタイミングのキス――――。 考えられるのは、一つしかない。 セフィロスは、言葉を止めようとしたのだ。 クラウドが投げかける疑問の言葉を、わざと唇を塞いでかき消したのだ。 一体、何故…? 激しい口付けの中で、クラウドの頭はそればかりを考えていた。その瞬間に思い出されたのは、ザックスの言葉。 様子が変だという、あの言葉だった。 暫くして唇が開放されたその後、クラウドは何も言いはしなかった。とはいえ頭はやはりそればかりを考えていて、まともにセフィロスの顔は見れなかった。 そうして誤魔化したセフィロスの事、きっと聞いても答えてはくれないだろう。そう思う気持ちもあり時間にまかせていると、やはり唐突にそれはやってきたのだった。 静かに響くセフィロスの言葉。 それは、とても意味深に。 「自分が壊れていく音が聞こえるんだ。この音が終わったなら……俺は」 「…どういう意味…?」 セフィロスの視線はクラウドに真っ直ぐ注がれている。けれどそうしていながらも、その言葉に対する答えは返っては来なかった。 「だが信じてくれ。お前が……全てだ」 その瞳を見つめ返しながらも、クラウドは何も答えることができなかった。
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