PRIMITIVE
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「強化特訓〜っ!?」 「わっ、馬鹿!声大きいよっ!」 慌てて「しーっ」と口の前に人差し指を立てたクラウドは、目前のザックスに、 「良いだろ?どうせザックス、暇そうだし、いつも」 と言ってのける。 「おいおい!暇じゃないの、俺は!故意にサボってるだけ!」 「一緒じゃん」 時間ある事には変わり無いだろう、と突っ込むクラウドに、ザックスは「分かってねえなあ」と呟いた。 俺は本来無い時間を、敢えて作ってるんだぞ、という説明をするザックスに、クラウドは思い出したように言う。 「そういえばセフィロスが言ってたなあ」 「何を?」 「そういうのをね、“給料泥棒”って言うんだぞ、って…」 ザックスは思わずブッ、と吹き出し、ゴホゴホと咳き込む。まさかそんな言われようだったとは、と思いつつも、事実その通りだったので何も言えなかった。 しかし実際には、重要任務の時だけは抜群の力を持ってして片を付けてしまうザックスであった。 「で、何なんだよ。その…強化特訓、っつーのは?」 「いやだって…俺まだまだだから、さ」 普段の訓練はそれなりに厳しい。その標準訓練で力を付ける者もいるが、なかなか身に付かない場合もある。 クラウドはそれなりに頑張ってはいたが、それでもソルジャーになろうというには、まだまだだったのだ。 「ザックスにしか頼めないから、こんな事」 「そうかあ?」 ホラいるじゃん、もっと強いお方が、とザックスはクラウドをなじる。 「仲良いんだしさ、頼んでみれば良いのに」 「無理だ!」 クラウドはぶんぶん、と首を横に振った。 当然である。 何故かといえば、そもそも訓練を強化したい理由は、その人物―――セフィロスだったのだから。 ふとこの間の休暇期間を思い出す。 殆ど人のいない兵舎の中、セフィロスと二人きりの自分の部屋。 “好き”という一言だけが聞いてみたくて、何となくそう切り出したクラウドにセフィロスが言った言葉。
『ソルジャーになったら記念に言ってやる』
その言葉を聞いた翌日から、クラウドは訓練を必死で受けていた。 何としてでもなってやる―――! 気合が入った。 理由が理由なだけに、自分でも単純だな、と思うけれど。でも今のクラウドには立派な目標となっていた。 「とにかくお願いしますっ!」 頭 サボリ癖のついている給料泥棒とはいえ、ザックスはソルジャークラス1stで、その中でもかなりの力を持っている。 「はあ…まあ、良いけどな」 頭をポリポリかきながらザックスはそう言った。
クラウドの強化特訓は、通常の訓練の後に行われた。 クラウドにとっては課外授業のようなものだったが、ザックスにとってはやはりそれも“サボリ”の一種だった。 そんなこんなでもう一週間も続いている。 何だかんだと自分も身体を動かしているザックスは、実力からいえば物足りないその内容を、それでもそれなりに楽しんでいた。 多分それは、クラウドが本気だったからかもしれない。 久々に本業――――ソルジャーの仕事などをこなしている時、セフィロスがそれを聞いたのも不思議ではなかった。 「どうした。最近、随分と楽しそうだが」 嵐でも来るんじゃないか、と笑いながら言うセフィロスに、ザックスは「いやいや」と笑い返す。 「俺、最近“先生”しちゃってるんだよなー」 「先生?」 さも不思議そうな顔になった相手に、ザックスは親切にも説明してやった。 「そう。何故か知らんけど、クラウドの奴がいきなり特訓してくれとか言うからさ」 「クラウド!?」 思わず声を上げてしまったセフィロスは「ああ、すまない」と言いながら平然を装う。 何も気付いていない様子のザックスの説明は、その後、幸か不幸か延々と詳細に続いた。 「いきなりな、ソルジャーに絶対なりたいような事言ってよ。まったく何だかなあ?ま、そりゃアイツがソルジャー志望なのは知ってたけど、別に今のペースでも大丈夫そうなのに」 「ほう。絶対にソルジャーになりたい、と?」 「そうそう」 「で。その、ソルジャーになりたい理由を聞いたのか?」 「はあ?」 そんなのに理由あるのか、とさも不思議そうにザックスは言う。確かにそれに理由があったとしても大概は、「憧れ」とか「格好良い」などの曖昧なものが多い。 その様子を窺って、セフィロスは、何だ、と思う。 ザックスは知らないらしい。だが、セフィロスには分かっていた。 自分の言葉に連動しているのだろう、と。 「で、どうだ。クラウドの様子は?」 親が教師に、子供の事を聞くような状態で、そんな事を聞く。 実際のところ、あまり長くクラウドの訓練の様子を見た事が無かったセフィロスにとっては、それは興味ある内容だった。 しかも―――――――。 強くなってもらうのは良いことだったが、ソルジャー昇格したらしたで、セフィロスは約束を守らなくてはならなくなるのだ。 「ああ、良い感じだよ。洞察力も瞬発力も…色々と良い感じになってきてる。まあ俺の育て方が巧いからなあ〜」 さりげなくそう自分を誉めるザックスに、セフィロスは「それは無いだろう」と突っ込みをいれておく。 酷いな!と非難するザックスの横で、セフィロスは既に自分の思考の中に入り込んでいた。
久しぶりに訪れたセフィロスの部屋で、クラウドはうとうととしていた。 ここ最近の特訓のせいか、クラウドの疲労はかなりのものになっている。だから、すぐに寝に入ってしまうのが常だった。 セフィロスとこうして二人で会うのは久々で、それはもう楽しみに思っていたはずなのに、身体がもうもちそうになかった。 「眠いか?」 ふとそう聞かれて、クラウドは“そんな事ないよ”と頑張って眼を見開く。…が。それはすぐに閉じそうになり、その度にはっ、として首をぶんぶんと振るが、中々覚めそうにない。 その様子を端から見ていたセフィロスは、ふっと笑みを漏らした。 「…来い、クラウド」 差し出された手に、クラウドはゆっくりと手を重ねる。その手は強い力で引かれて、やがてクラウドの身体ごと、その腕の中に包まれた。 ふんわりとはしていない硬い体だったけれど、それはやはり温かい。 「相当、疲れているようだな」 「そんな事ないってば…」 「強がらなくても良いんだぞ」 どういう訳か、その言葉は妙に優しく感じられる。それでも心の中では「違うって」とあくまで否定し続けながらも、やはりクラウドは睡魔に勝てなかった。 眼がとろん、とおちる。 「セフィロス…」 そう呟きながら、クラウドはセフィロスの胸に身体を預けたまま寝に入ってしまった。 とても不本意で、勿体無いと思うのに―――。 クラウドはやがて小さな寝息などを立て始める。 その寝顔を見ながらセフィロスは、その身体をいとも容易く持ち上げて寝室へと運んだ。冷たいシーツに包まれたベットにクラウドを横たえると、その上に静かに毛布などをかけてやる。 それは、はっきり言ってセフィロスらしからぬ行為だった。 けれど、その時ばかりはそうしてやりたいと思ったのだ。何と言ってもその疲労の大本は自分にあるということが、はっきりしていたのだから。 「…無茶はするなよ」 ベット脇に腰を据えながら、静かにそれだけを口にする。 最早、相手の耳には届いていない言葉だったが、その言葉に反応するようにクラウドの手がモゾモゾとセフィロスの腕を掴む。 勿論、無意識の行動だった。 その手に自分の手を重ねると、セフィロスはゆっくりと唇を近付ける。しかしそれは触れる事無く寸前で止まり、暫くした後に離れていった。
「ゆっくり休むといい」
クラウドの寝息だけが響く空間で、その言葉は緩やかに流れた。
END
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2002/06/22 UP