|
オトコの事情 --------------------------
それは、あまりにもショックすぎる出来事だった…。 まさかそんなはずが!と思ったのも束の間、やはり機能はしていなかった。 機能…そう、機能とはいっても機械ではない。 …それは英雄をどん底に落ち込ませたのはいうまでもない。
任務も無いというのに呼び出されたザックスは、何の用だかも良く分からないままにセフィロスの元までやって来て、まずは座れ、という言葉に素直に従った。 しかし―――どうも様子が変である。 かなり落ち込んでいるように見えるのは気のせいだろうか。 そう思ってザックスも思わず慎重になって「どうしたんだよ」と聞くと、セフィロスはかなり重い溜息をつきつつ、その理由を言い難そうに口にしたのだった。 「…実は…」 こそこそ話の如くに声を潜めて言う。 が。 「なに〜っ!!?勃たなくなった〜っ!!!?」 「馬鹿者!!!デカイ声を出すなっ!!!!」 むんず、と口を押さえられ、ザックスはじたばたする。分かった分かった、と必死に手でジェスチャーすると、ようやくその手は離された。 しかし、セフィロスはあくまでも憂鬱そうで、チラリ、とザックスを見た後にまた嘆息する。 そんな様子を見て、ザックスはゲホゲホしつつも、恐る恐る聞く。 「…なあ、マジ?」 「…そんな馬鹿な冗談つくわけないだろ」 「…そりゃそうだ…な」 ザックスは体勢を立て直すと、前屈みになってセフィロスを見遣った。そして、こう言う。 因みに声はあくまでも最小である。 「…それさ、いつから?」 「…一昨日」 「…で、クラウドは知ってんのかよ?」 「だからそれをどうしようか悩んでるんだ。こんなこと言ってみろ、きっとアイツ笑い出すぞ」 「いえてるな。俺も笑いそうだ」 「……殺されたいのか?」 「……すみませんでした」 そんなやりとりをしつつも、ザックスは思考を巡らせた。 そういう話は何度か聞いたことがある。自分がなったら辛いなあなどと他人事のように思っていたことだったが、まさかこんな身近にその現象が起こるとは思ってもみなかった。 何でもそれは固く言えば、性器障害なんだとかいう。 しかし確かにそれは大問題である。 男として辛すぎる。特にザックスは、それを想像するとかなり心痛がした。思わず胸の辺りを抑えると、セフィロスに向かって、 「そりゃ辛い。まじ辛い」 と、かなり心のこもった声で言う。 「…だろう。これはどうしたら良いものか…」 セフィロスはまたしても嘆息する。 もしセフィロスが全くそういう行為に及ばない生活をしているというならまだしも、残念というか幸いというか、とにもかくにもセフィロスにはクラウドという存在がいた。 いつもだったらセフィロスの方からさりげなく誘ったりするわけだが、それがプッツリ切れるとなると、それもどうもオカシイだろう。 というか。 それを知ったらクラウドは絶対的に笑うのだ。 いや…爆笑する、絶対。 クラウドはある意味、ツワモノなのだ。セフィロスに対して怖気づいたりしないところがこれまた凄い。この部分についてはザックスも、見習いたいと思っていた。 「原因が分からないことにはな…。それだからお前を呼んだんだが、何か知ってることはないか」 「知ってること?…うーん…」 聞かれて、ザックスは唸りを上げる。特に知識があるわけでもないから、困ってしまう。 けれど少しして「あ」と声を上げると、ザックスはまたしても小声でこう言った。 「そりゃもしかすると…精神的な問題ってヤツじゃないか?」 「何。精神的?」 「そうそう。ほら例えば、デカさにコンプレックスがあってとか、そういう…」 「“デカさ”……」 「……問題ないっすね、そこら辺は」 「……多分な」 「……あの…大層、素晴らしいブツをお持ちなんすか、英雄は…」 「……自分じゃ分からん」 「……ですよね」 ―――――――これはあくまで最小音量で交わされている会話である。 「しかし精神的というのは、ありえない話でもないな」 セフィロスはそう呟く。何せそれ以外に何も思い当たるふしはない。 では精神的にグサッとくる事があったという事だろうか…そう考えたが、しかしそれもあまり思い出せない。 結局ザックスを呼び出して真実を話しただけで、何がどう解決するというわけでもなく、その時間は過ぎていく。しかし収穫はあった。セフィロスにとってそれは、もしかしたら、という可能性を手にいれたこと。…因みにザックスにとっては、かなり個人的だったが、やっぱり凄いのか…とかいう事だった。
セフィロスが一番恐れている時間は、勿論、全ての仕事が終わり、クラウドが側にいる時間である。これは普通ならば、かなり嬉しいことだというのに、悲しいかな、どうしても複雑な気分に陥る。 それは当然。 何せクラウドときたら、べったりとくっついてくる訳で、しかしだからといってそこから先をどうとも持っていけない辺りが泣ける。 とにかくクラウド爆笑という恐るべき事態だけは避けなくては!…そう思うわけだが。 「なあセフィロス、そろそろ良い時間だよ」 こんな時に限ってクラウドはそんな事を口にする。時計は十一時で、いつもならこの当りでベット行きだったりするわけで、その言葉がどういう意味なのかは胸にグサッとくるほどに分かる。 「クラウド、今日は帰れ」 「えー?何で?」 「何でってお前…たまにはキチンと帰っても良いだろう」 「たまにはって、いっつも帰らせないのはセフィロスの方だろ?」 「うっ…」 痛い、あまりにも痛すぎる。 いつもそんなふうに過ごしてきたものだから、たまに真面目なことを言ってもどうも駄目らしい。セフィロスは普段の自分の言動を呪った。ああ、たまにはマトモに帰らせておけば良かった、と。 「何だか今日のセフィロス、変」 そうハッキリ言われて、セフィロスはクラウドから目を逸らした。 変は変でも、その変さに嘆きたいのはセフィロスの方である。 ああ、こんな日は素直に帰ってくれないだろうか。それだけで良い。といっても今日が凌げても問題解決とはいかない。 しかし、そんな事を何一つ知らないクラウドは、無邪気にもセフィロスにくっついてきたりする。尚悪い。非常に悪い。人これを極悪と言ふ。 そんな具合だから、セフィロスはクラウドから飛びのいた。 「馬鹿者、半径1m以内に来るな」 「何だよソレ?せめて半径1cmにしてよ」 幸いにもセフィロスの恋人はどこかボケていた。 「じゃあ半径1cm以内に入るな」 「え。じゃあ半径1cm開けるけど、甘えちゃお〜」 「馬鹿者ーっ、触るな!!」 「ええー、何で?」 ――――――――てんで意味が分かっていないらしい…。 セフィロスは頑なにクラウドから離れると、やがて部屋の隅にべったりと背中をつけて、ぜーはー言い出した。さっぱり分かっていないクラウドの方は首を傾げながらセフィロスを追い回していたが、その隅で妙に睨んでくるセフィロスを見て、やがて何か思いついたようにポン、と手を叩いた。 「あ、分かった」 何がどう分かったのか良く分からないが、とにかく何かが分かったらしい。 しかし、その言葉は何だか意味深だった。 「この前の事、気にしてるんでしょ?」 「この前の事…?」 ぜーはー言いつつ、今度はセフィロスの方が首を傾げる。この前の事、というのがさっぱり分からない。大体いつの“この前”なんだかが不明である。 そんなセフィロスの疑問に答えるように、クラウドはこんな事を言い出した。 「ほら、この前の夜。セフィロス、何だか気にしてるっぽかったから…。あ、でも俺は全然気にしてないよ。だから今日はリベンジ戦しようよ」 「リベンジ戦…?何の話だ?」 「え。覚えてないの?」 「……」 世の中にはとても便利な言葉がある。 そう、それは“知らぬが仏”。 この状況からすれば“思い出さぬが仏”とでも言おうか…。 しかし無情にもクラウドはそれをサックリと言ってのけてしまったのだった。それが問題を引き起こしていたとも知らず、にっこりと笑って。
「この前の夜、俺、何でかイけなかったんだよね」
ゴロゴロゴロゴロ…!
その時、セフィロスの脳天を雷が襲った。 イけない…そんな事はいけない!…とギャグをかましている場合でもない。 とにかくその俗語はセフィロスに事実をお知らせしてしまったのだ。しかもその内容といえばセフィロスにとってあってはならないことだった。というよりプライドが許さない。別に夜的テクニックがどうのというプライドがあるというわけではなかったが、仮にも恋人を差し置いて自分だけ気持ちよくなってしまったなんて、あまりにも悲惨である。 クラウド以前にも男女関係無く、いろいろと事を済ませてきたセフィロスだったが、その過去の中にもそんな事実は存在しなかった。 それなのに…! 「な…なんて事だ…!」 思わずセフィロスは頭を抱えた。 そう―――なぜなら。 その事実があまりにもショックすぎて、自分はそれをすっかり忘れていたのだから。 その瞬間にセフィロスの中のあらゆるやる気が萎えたのは言うまでも無かった。
任務も無いというのにまたまた呼び出されたザックスは、もしや例の話ではなかろうかと思いつつもセフィロスの元までやって来て、まずは座れ、という言葉に素直に従った。 相変わらず―――様子は変である。 やはりかなり落ち込んでいるように見える。 しかし先日と少し違っていたのは、セフィロスの背中に哀愁が漂っていたことだろう。思わずその哀愁に引き込まれそうになりながらも、ザックスは何とか無事に声をかけた。 「おいセフィロス、今日は一段と暗いな」 「…ああ」 「どうしたんだよ、今度は」 というか、今度も、の間違いかなと思いつつもソコは敢えて控えたザックスである。そしてそれは次の瞬間に大正解だと分かった。 ごにょごにょ…… 「なにいいい!?精欲減退いいいい!!!??」 …悲しいかな、今度は性欲すら無くなってしまった英雄なのだった。
元通りになる為に、セフィロスが相当な苦労を強いられたのは言うまでもない話である。
END
|