もう一度だけ…

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もう一度だけキスしてと言ったら、もう一度キスしてくれた。

もう一度だけ抱き締めてといったら、もう一度抱き締めてくれた。

もう少しだけ傍にいたいといったら、もう少しだけ傍にいてくれた。

もう一度、もう少し、そう望めばいつでもそれを叶えてくれた。

俺の我儘はいつでもそうして、誰かの優しさに支えられて叶えられていた。

 

 

 

もう一度キスして。

そう言った時、セフィロスは不思議そうな顔をした。さっきした一回のキスでは満足できないのかって顔だ。

俺はそれが分かったから即座に違うよ、と口にする。

「あんまり満足したから、もう一度その満足を味わいたいんだ」

「贅沢だな」

「ごめんね」

セフィロスはそう言いながらも結局俺にもう一度キスをした。それは軽いキスでそれほど長くも無かったけれど、さっきしたキスと同じくらい俺を満足させる。

俺はセフィロスのキスが好きだと思う。

それは俺がセフィロスを好きだから、セフィロスが俺を好きでいてくれるからっていう理由だけじゃなくて、優しくて柔らかいそのキス自体が好きなんだって思うんだ。

だから俺は何度でもそのキスを、欲しいとせがむ。

何度もそうすればセフィロスだって煙たそうにするって分かってるのに、俺はそうせずにはいられないんだ。

だってねセフィロス、俺は贅沢だから。

セフィロスがくれる満足を、もっとずっと欲しいと思ってしまうんだ。

「やっぱ…も一度…。――――駄目?」

そうして俺が何度目かのおねだりをした時、俺はさすがにセフィロスも嫌がるだろうと思っていたのに、何故だかセフィロスはただ笑ってもう一度キスをしてくれた。

俺は贅沢に満足を叶えて、もう一度、を手にいれる。

俺の欲しい「もう一度」は、セフィロスの優しさに支えられて叶えられていった。

 

 

 

もう一度抱きしめて。

俺がそう言ったとき、セフィロスはもう一度俺を抱きしめてくれた。

セフィロスが抱きしめてくれた俺の、その目からは、珍しく涙なんかが流れてる。

だけどそれはセフィロスと何かあったからじゃなくて、単なる悔し涙だった。

丁度…そう、俺がちょっとした失敗をしたから。

俺のよう一般兵は、たまにミッションに借り出されることがある。でもそれはあくまで微々たる戦力のためであって、決してミッションの要って訳じゃない。ただミッションに同行して、最終的にどうなっても良い存在として俺達一般兵はその任務についていく。いわば、捨て駒ってヤツだ。

昨日俺はそのミッションらしきものに借り出された。

でもそれは公式のミッションじゃなくて、何だか大したことのない仕事内容だった。だけどその大したことない仕事内容でも俺みたいな兵士にとっては大偉業と同じことだったし、そこで敵と出くわせばそれはもう真剣でしかなかった。

だけど、同行するソルジャーはそんなふうには思ってない。

特に公式のミッションじゃなかったし雑用程度の用事だったから、同行したソルジャーは詰まらなそうにしているだけだったんだ。だから彼らは、運悪く敵に出くわした時でさえ闘おうとはしなかった。

彼らは俺達を闘わせたんだ。自分たちは見ているだけで。

その敵は多分、大したことない敵だったんだと思う。そう、少なくとも彼らソルジャーにとっては。

だけど俺達一般兵にとってはまるで強敵みたいな感じで、こっちが繰り出す一撃一撃があんまりにも弱くて泣きそうになった。

だけどそこで俺が泣こうがどうしようが、彼らはただそれを黙って見ているだけだったんだろうと思うんだ。実際、死に物狂いで俺が最後の一撃を出して敵を倒したときでさえ、彼らは何も言わずに立ち上がって、じゃあ行こうか、なんていっただけだった。

俺の隣で命を落とした一般兵がいるのを、見て見ぬ振りをして。

「俺はあんなものに成りたいんじゃないんだよ、セフィロス…」

死んだ仲間をどうすることもできなくて、ソルジャーに抗議することすら出来なかった俺は、ただ悔し涙を流しながらセフィロスにその気持ち全てを曝け出した。

セフィロスがただ俺の話を聞いて、そして、抱きしめてくれるだけで何も言わない。

ソルジャーという立場から「それは酷い」って、きっと俺はそんなふうに言って欲しかったんだと思う。だけどセフィロスはそんなことは口にしなくて、ただ泣いてる俺を抱きしめてくれた。それがどういう意味なのかは良く分からない。

だけど何となく俺は、嬉しかったんだ。

セフィロスがあのソルジャー達を抗議してくれなくても、それでも俺は、本音を聞いて尚それを受け止めてくれたセフィロスが、嬉しかった。

セフィロスの胸の中は安心する。

だから俺は、一度離れてしまった後もその胸の中に戻りたくてこう言った。

「ねえ、セフィロス。…も一度、抱きしめて」

「もう一度満足したいからか?」

「ううん、違う。…安心したいからだよ」

俺がそう言うと、セフィロスはやっぱり「もう一度」を叶えてくれた。

だから俺は安心してその胸の中で、悔しい気持ちを涙にして流すことができたんだ。

 

 

 

もう少しだけ傍にいたい。

俺がそう言ったとき、セフィロスはもう少しだけ俺を側においてくれた。

真夜中、日付が変わって数時間経った頃。

明日に支障をきたすから早く帰れと言うばかりのセフィロスは、俺がそう言うと必ずそうして側にいてくれる。真夜中だからどこに行くわけでもないし、特に何をするというわけでもなかった。もう抱き合った後だったから体はあったかくて特に寂しい感じもしないのに、それでも俺はもう少しだけ側にいたいなあと思うんだ。

「テレビでもつけるか?」

部屋の中は静かで、だからセフィロスはそんなふうに言ってテレビをつけた。

ブラウン管に映っているのは神羅のキャスターで、本当なんだか嘘なんだか分からない事を並べ立てては真顔でソレを伝えてる。俺はそれを網膜に映したままセフィロスの胸の中で黙っていた。

“神羅はいつでも市民の皆様の為に…”

“生活の側には神羅が…”

俺達のいる所は、そんなに凄いところなんだろうか。俺はこのテレビのキャッチコピーみたいなのを聞くといつでもそう思った。俺の日常にあるのは、訓練だったりセフィロスだったり仲間だったりするけど、神羅の存在なんかそれほど大きく感じられない。

「神羅ってすごいんだね」

俺がそう感想を口にすると、セフィロスは言った。

「神羅がすごいわけじゃない。回りがいけない。神羅がそうして君臨してしまったのは、周りの責任だ」

「どういう意味?俺達が悪いってこと?」

訳がわからなくてそう聞くと、セフィロスはすっと笑って、そうじゃない、と言った。そして、こんなふうに続ける。

「お前は何で此処にいる?神羅がすごいと思っているから此処にいるわけじゃないだろう。でも中にはそういった虚栄心だけで生き、此処にいる奴もいる。だけどクラウド、忘れるな」

セフィロスは、俺の両目に優しく手の平を被せると視界の中のテレビを遮った。そして俺の視界の中は真っ暗になる。そこは真っ暗だったけどセフィロスの香りが漂っていて、セフィロスの手の平の体温が伝わってきて、俺は何だかとても安心できた。

「目に見えるものや、世の中の流れが全てじゃない。お前の心の中にあるものが、全てだ」

…ああ、そうか。

俺の心にあるのはセフィロスだから、俺の全てはきっとセフィロスに繋がっているんだ。このテレビがどんなにセフィロスを大仰に称えたり強さを誇示したりしても、俺の感じてるセフィロスはとても優しくてとてもあったかくて…だからこれが本当なんだろう。

やがて、テレビはこう告げた。

“皆様、規則正しい生活習慣を身につけましょう”

俺はそれを耳にして、思わずセフィロスにこう言う。おどけた声を出して。

「…だってさ」

「らしいな」

そう言いあった後、俺達は思わず笑ってしまった。だって今は午前三時。どう考えたって眠る時間帯だ。それなのに俺達はこうして起きていて側にいる。それって絶対規則正しくなんかないんだ。

だけど俺は、それでもそれが正しい気がしてた。だって俺の心はそうしたいと望んでた。セフィロスの側にいたいと望んでた。それは悪いことなんかじゃなかったから。

だから俺は、

「神羅の言うことなんかアテにならないね」

そんなふうに言う。

セフィロスはそれを聞いて、ただ笑ってた。

俺はそんなセフィロスを感じて、とてもとても幸せだなと思った。

だからつい、もうちょっと側にいたいなあと思ってしまうんだ。

「ごめん、セフィロス。やっぱり後もうちょっと…側にいて良い?」

「仕方無いな。あと、もう少しだけだぞ」

俺の「もう少し一緒にいたい」を、そうしてセフィロスは叶えてくれる。

だから俺はいつだって、「もう少し」の時間を幸せに過ごすことができたんだ。

 

  

 

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