オイシイ話

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クラウドは少しドキドキしていた。

一般兵の中で、代表なんかに選ばれたその日の事、日頃の訓練の内容が変わるからとその書類を治安維持部門の上に提出してこいとの令を出された。

それはまず、ソルジャーの代表であるセフィロスに提出しろといわれていて、正に今がその最中だった。

セフィロスが神羅に戻ってきていると聞き、クラウドは訓練が終わったその時になって書類を手に足を踏み出す。

セフィロスといえば神羅では超がつくほど有名な人で、今更説明しなくても誰でも分かる。しかし実際にセフィロスと行動を共にしたりするのはソルジャーの一部の人間とそれより上の人間だけで、一般兵な人間にとっては高嶺の花状態に過ぎなかった。

それでもひょんなことからソルジャークラス1stのザックスと知り合いになったことで、クラウドは少しだけセフィロスと面識がある。とはいっても話したことはない。多分、セフィロスはクラウドのことを、単に“ザックスの知り合い”とくらいしか思っていないだろう。しかも今まで会った数回も勿論、ザックスがその場にいての話だったので、こうして二人で会うのは初めてだった。

…覚えてくれてるのかな、俺のこと…?

ふとそんな事を思う。

覚えてくれているなら、それほど嬉しいことはない。何と言っても兵士なんかは神羅には腐るほどいるわけで、セフィロスがそれをいちいち覚えるはずもない。というか、大体会ったりもしないだろう。

そんな訳で、クラウドは少し期待と不安を交えながら、セフィロスの元に向かっていた。

 

 

 

クラウドがその場に辿り付いた時、丁度時刻は六時だった。

トントン、とノックをしてから、丁寧に「失礼します」などと言って部屋に入る。

音がなり、開いたドアの向こうに、セフィロスは立っていた。

が、しかし。

「あ…ご、めんなさいっ!」

顔を真っ赤にすると、クラウドは開けっ放しのドアをバタンと閉めて、折角入った部屋の中から飛び出した。

ドキン、と心臓が鳴り響いている。

「び、びっくりした…」

ドアから離れて廊下の壁に背をつけると、書類を胸に抱えてクラウドは息をついた。今さっき一瞬とはいえドアを開けたとき、部屋の中のセフィロスは誰か他の人間と一緒にいた。

「…女、の人だったよな…?」

確認するように声に出してみる。

確か…栗色の髪の女性だったように思う。

となると、いくら年端のゆかないクラウドとはいえ、何をしていたのかは容易に想像つくところである。例え今が勤務時間中であるといっても、あのセフィロスのこと、そういう常識など通らないと思ったほうが良い。

その場に入り込んでしまったのは、やはりマズかったろう。

「どうしよう…」

胸に抱えた書類をチラッと見つつ、クラウドは悩んだ。まさかこのまま持ち帰るわけにもいかないのだ。セフィロスはその場にいたのだし、どんな状況とはいえ、この書類を渡すことがクラウドにとっての今の“仕事”なのだから。

もう一度入ってみようか。

けれど正に危険なシーンだったら…一体、どうしたら良いのだろう?

そんなことを考えつつ動けないままクラウドが俯いていると、何ということか、そのドアは向こうからギイ、と開いた。

びっくりして、急いで顔を上げる。

と、そこにはセフィロスの姿があった。しかも先ほどとは違い、すっかり服を纏って。

「―――――用事か」

特別不機嫌というわけでもないその表情を見て、クラウドは少しホッとしたが、それでもドキドキは止まらないままだった。しかし此処でどもっていても仕方なく、とにかく仕事だけは済まそうと思って、クラウドは急ぎ、胸の書類をさっと差し出した。

「あの…っ、これ!」

差し出された書類を一瞥、セフィロスは「ああ」と気の無い返事をする。

「書類か…面倒だな」

髪をかき上げながら、セフィロスは少しの間考えているような顔をしていたが、ふと何かを閃いたような顔になると、クラウドに向かって、

「そうだ。お前、ちょっと入れ」

そんなことを言い出した。

そう言われたクラウドの方はドキドキである。入れといわれても、先ほどの女性はどうなるんだというのもあるし、何しろ緊張する。

思わずしどろもどろして、ええと、だとか、でも、だとかを繰り返していると、セフィロスは呆れた顔をしてクラウドの腕を掴んだ。

「いいから早く入れ」

「え、でも、あの!」

ぐい、と掴まれた腕を強引に引っ張られ、クラウドはずるずるとセフィロスのいた部屋の中へと連れていかれた。

 

 

 

部屋の中に入ると、そこには先ほどちょっと見えた栗色の髪の女性がいた。その人はクラウドを見て少し笑うと、会釈などをしてくる。

つい、それに反応して会釈などを返したクラウドだが、セフィロスに腕を掴まれ変な体勢のままだったので、何とも格好がつかない挨拶となった。

「悪いがまた今度にしてくれないか」

セフィロスはその女性にそんなふうに声をかけると、手にした書類をひょい、と見せる。

仕事が入ったから、という意味らしい。

それを見て、女性は仕方無いというように溜息をつきながら笑うと、

「分かったわ」

と物分りの良い返事をして立ち上がった。そのままクラウドの横をすっとすり抜けると、ドアを開け、出て行く間際にこんな言葉を残す。

「また来るわね」

バタン…

閉まったドアの音が響き渡る。

女性が去った後に部屋で、クラウドはチラ、とセフィロスを見遣った。

恋人なのかな?

そんなふうに思ったけれど、セフィロスの表情を見ているとそういうわけでもないような気がした。セフィロスは溜息をついてまた髪などをかきあげている。

「あの…」

クラウドがそう声をかけると、セフィロスは思い出したようにクラウドを見遣って、悪いな、などと声をかけた。

何がどう悪いのかクラウドには良く分からない。

「まったく…タチが悪くてな、あの女」

そうセフィロスが言うので、クラウドはちょっと聞きすぎかなと思いつつ、こんなふうに言ってみた。

「恋人…なんですか?」

しかし、セフィロスはその言葉にギョッとした顔をすると、間もなく笑い出した。

それを見つつ、クラウドはポカン、と口をあける。

笑うんだ、この人でも――――――――そんなことを不謹慎にも考えてたり。

「あれが俺の女だと?俺はああいうのは趣味じゃないんでな」

「はあ…」

じゃあどんなのが趣味ですか、と思わず聞こうかと思ったが、それは敢えてやめておく。

「何ていうんだろうな…ヘッドハンティングとでもいうのか。誘われてるんだ」

「誘われてる?」

「要は神羅を辞めてウチにこないか、とか、そういう話だ」

「え!神羅、辞めちゃうんですか!?」

びっくりしてそんな声を出したクラウドである。何せ折角ザックスを通して少しくらい話せるような状況になってきたというのに、それでもあまりにも悲しい。

しかしそんなクラウドの驚きにセフィロスは「あのな…」と少し呆れ気味の声を出した。

「話は最後まで聞け。そういう誘いであの女はもう何回も来てる。何故何度も此処に来るか分かるだろう?俺が断りを入れてるからだ」

「ああ、そうか」

なるほど確かにそうだろう。

「ところでお前、今、暇か」

「へ?」

「だから。暇かと聞いてる」

「あ、いや…」

暇なはずがない。この書類を出したら今度はまた戻らなくてはならない。予定は常にあるし、本来なら今こうして話しているのも間違っているのだ。

しかし折角のチャンスである。此処で無理ですなんて言おうものなら、もう二度とこんな機会はないだろう。

そう思うとクラウドはかなり迷った。

暇じゃないけど…暇にしたい。というか暇になってくれ。

というか…暇にしよう!

「暇です」

そんな訳でクラウドはハッキリとそう告げた。勿論実際は暇ではない。きっと後で怒られるに違いない。

セフィロスはそれを聞いて安心したような顔をすると、じゃあ、と書類をクラウドに渡した。そして、こともあろうにこんなことを言い出した。

「悪いが、これを処理しといてくれ」

「は!?」

訳が分からない。

書類はクラウドが見るようなものではないし、処理しろと言われてもどうやってどう処理するかクラウドはさっぱり知らないのだ。

しかしセフィロスはそんなことはお構いなしで、クラウドを席につかせると、てきぱきと説明を始めた。

「いいか。まず書類を見たら、サインの欄に俺の名前を書いておけ。で、だ。重要そうだったら内容を覚えておくこと。その他はどうでも良い。それが終わったら書類一式を封筒に入れてだな、本社の受付に出す。この時、ハイデッカー宛だと言っておけ。いいか、それだけだ」

「え。でもそんな、俺は…」

何が何だか分からない内にしっかり席に座らされたクラウドは、目の前に書類をボン、と置かれ、目を回した。その目前でセフィロスは「ああ、忙しい」だとか言いながら髪をばさり、と振りまわし、部屋の中をかけずりまわっていた。

折角セフィロスと話せると思ったのに、それどころかこれでは雑用係である。というか書類を持ってきた時点で雑用係ともいえたが…。とにかく秘書なんて綺麗なものではない。

やがてセフィロスはクラウドに、

「頼む」

などと一言残すと、サクッと部屋を出て行った。

部屋に残されたのはクラウド一人―――――――空しいどころの騒ぎじゃない。

何せすぐ戻らなくてはならなかったし、セフィロスはいないし…である。しかしセフィロスに頼まれた以上それをやらなければならない。此処で文句でも言いながら帰ったら、それこそセフィロスとはもう話せないという状況になるだろう。

「あー…もう」

ひどくガッカリしつつも、クラウドは書類を一枚手にすると、口を尖らせながらもセフィロスに言われた内容をこなすことにした。

 

  

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