NATURE

----------------------------------

 

 

いつも通りの訓練。いつも通りの食事。いつも通りの宿舎。

そんな変わらぬ毎日の中で、特殊といえることがあるとすれば、それはやっぱりセフィロスとの関係だとクラウドは思う。

どういう訳かセフィロスという人の「お気に入り」になったクラウドは、そんな平凡に近い毎日の中で、セフィロスに会うのが楽しみになっていた。

この日もいつもと同じように訓練を終えたクラウドは、たまたま訓練を見に来たセフィロスと交わした約束の為に、長い道のりを経てセフィロスの生活する部屋までやって来た。

今日は何の話をしてくれるのかな?

いつも何らかの話をしてくれるセフィロス。多少は難しいことも言うけれど、これは結構クラウドの為になっていた。

しかしこの日は、いつもとは違う内容の話だった。

それは。

「クラウド。ザックスとは同期なのか?」

「え、違うよ?」

 手馴れたふうにセフィロスに茶など出しながら、クラウドは驚いたふうにそう答える。

「え、何で?」

 今迄ザックスの話が出た事など一度も無かったから、何でそんな話が出てきたのか分からない。

 セフィロスはクラウドをしげしげと見詰めながら、何か思案している様子だ。

 仕方なく、聞かれもしないのにザックスとの出会いなんかを話し始める。

「ザックスは俺よりちょい先なんだよ。だけど仲は良いんだ、俺達。ザックスって…こう言っちゃなんだけど、変なんだよ。そこが面白くてつい一緒に遊んじゃったりする訳で…」

「ふうん?」

「だからその、ザックスがサボってる時にたまたま一緒に…って、あの、セフィロス?」

 どういう訳かセフィロスはご機嫌ナナメな様子だった。クラウドは焦って、どうすれば良いか分からなくなってしまう。セフィロスの機嫌が悪い時というのは大体、クラウドにソルジャー志望としての自覚が足りないと判断された時だ。

 サボるって言葉が悪かったのかな、と思いながらもクラウドは言い訳を考える。

 しかしそれより先にセフィロスが口を開いた。

「ザックスといる時は楽しいか?」

 思いがけない言葉に、またもやクラウドは驚いた。

「え。あ、うん。楽しい…けど」

 何が言いたいんだろうか。考えても分からないので、とりあえず答えだけを口にしておいた。

 良く分からないけれど、こういう時は遠のくと返ってマズイかな、と思い、セフィロスの隣にいそいそと腰を下ろす。

 視線の先が相変わらず自分にあり、さらに近付いたせいでやたらとそれを感じるのはかなりのプレッシャーだったが…。

「…今日、ザックスがお前の話をしていた」

 ふと視線が外されたかと思うと、セフィロスはそんな事を口にした。

「俺の事?」

 一体どんな内容なんだろう?

 それにしてもザックスが自分の事をセフィロスに話すなんて、全くもってビックリな話である。というよりか、その二人が何か話すという事自体が、あまり想像できないことだった。

「お前は“特別”なんだそうだ」

「は!?」

「…聞こえなかったか?」

「あっ!いや、聞こえたけどッ!」

 何だそれは。ザックスがそんなことを言うなんて。

 しかしそれは実際の所、認められているようで嬉しかった。が、そんな気持ちを表に出したら、何だかいけないような気がしてクラウドは平然を装う。

 しかしどういう意味で「特別」なのだろう、やはり気になってしまう。それと同時に、よりにもよってセフィロスに言うなんて、という気持ちもあった。

「あの、さ。セフィロス、怒ってんの?」

 まだ険しい顔をしているセフィロスに、クラウドはズバリそんな事を聞いた。

「怒る?…ああ、そうか。俺は怒ってるのか」

 セフィロスはそんなふうにある種の納得をする。自分でも理解できない気持ちが心を占めていて、どうにも説明がつかなかったのだ。

 だが、はっきりしている事はあった。

 それは、こうして自分にくっついてくる少年兵を、どうにも他人の「お気に入り」にはさせたくないという事だった。

 セフィロスとクラウドの関係は微妙である。こうしてたまに部屋に呼んでは色んな話をする。それは、たまたま訓練を覗きに行った時に見かけたクラウドが、あまりにも危なっかしい存在だったからである。

 ソルジャーの第一人者として、その姿がどうにも気になったセフィロスは、クラウドを呼びつけた。それは最初、説教に近いものだった。それが今では訓練に関連の無い話にまで発展し、さらにはセフィロスでさえ覚えていない、家の食器類の位置まで把握するようになっていた。

「おかしいな…」

 どう考えてもおかしかった。この関係は、おかしすぎた。

「セフィロス?」

 訳が分からず自分の顔を覗き込んでくるクラウドを見て、セフィロスはふと考えた。

 こいつが女だったら話も分かるが…と。

しかし少年はやはり男である。胸の膨らみも無ければ、下半身には余計なものまで付いているはずだ。

「…人には変わりない、な」

 思案の果てにそんな言葉を漏らすと、セフィロスはクラウドの髪に手を伸ばした。

「うわっ」

 ビックリしてクラウドはそんなふうに声を上げた。それは、子ども扱いとかそんな触れ方では無かった。とても優し気な指先が、その髪に触れ、そして頬を覆った。

「何?セフィロス?」

 どういう訳なのか、クラウドは心臓の鼓動が早くなるのを感じた。目前の人は、慣れてるとはいえ確かに憧れの人ではある。顔も男前だし、何と言っても強い。男でも惚れるけれど、でもそれはまた違う気がした。

「試してみた方が早そうだ」

 答えにならない言葉を放つと、セフィロスは徐にその顔をクラウドに近づけた。

「え…」

 この展開は何だろうか、と思いながらも、次の瞬間には唇を取られていた。息が出来なくなりそうな程激しく絡み付いてくる舌に、クラウドは思わず堅く目を瞑る。

 どうしてそんな事をするのかは分からないけれど、それでも嫌な気分では無い自分がいる事に気付き、何だか恥ずかしくなった。

 どう考えてもおかしいのに、と思う。

 だけど…。

「あ、あのっ」

 剥がされていく服を見ながら、クラウドは焦ってそう言葉を放つ。

 どうした、不満でもあるのか、とさも不思議そうに言ってくるセフィロスに、返す言葉が見つからない。

 こんな事して良いんだろうか?

 そう思うけれど、やはりクラウドはセフィロスの思惑通りになるしかなかった。

 

 

 

 散々クラウドを達しさせておきながら、その後のセフィロスは溜息などを吐いていた。

 乱れたその場をせっせと直しながら、自分の服も着込んだクラウドは、その姿を見て少し悔しくなる。

 クラウドには分からなかった。セフィロスが何を考えて自分にそんな事をしたのか、その理由が。

「あの、さ。どうして、あんな…」

 ザックスの話をしていただけだったのに、それだけでそんなふうになってしまった状況が、理解できない。

そう思い、正直なところを聞いてみる。

 だが、それに答えという答えは出てくる事が無かった。

「…分からん」

「え?」

 そんな事を言われたって、クラウドの方が混乱するだけである。分からないのに、どうしてあんな事をしたのか、それ自体も分からない。

 要は、分からないだらけだった。

「その、つまりさ…」

少し躊躇ったようにクラウドはそっとそう言ってみる。言っていい言葉なのかは分からなかったが…。

「もしかして…ザックスに…や、妬いてくれちゃったりとか…?」

「は?」

「いやっ、何でも無いっ!忘れて、ごめんっ!」

勝手に言っておいて勝手に恥ずかしくなったクラウドは、早々に言葉を撤回させた。まさかそんなことあるはずないだろう。セフィロスが誰かに妬くなんて考えられないし、それが自分に関わっているなんて、更に考えにくい。

だけど…普通、じゃなきゃ、あんな事するだろうか…。

クラウドはドキドキしながらも、お茶のおかわりなどを注ぎに立ち上がる。手馴れた様子で茶を注ぐクラウドにセフィロスの目は釘付けだった。

「…クラウド」

「はいっ」

思わずそんなふうに敬語になると、クラウドはドギマギしながらセフィロスを見遣る。セフィロスは別に何とも無さそうな顔をしている。さっきの言葉もなんのその、どこかに流れてしまったかのようだ。

しかし話はそれではなかった。

「お前…いつの間に俺の部屋に、そんなふうに詳しくなった?」

どう考えてもセフィロスよりも物の位置を把握している。湯を沸かしているのもクラウドだし、何だか妙な感じがある。

「えっと…それは、やっぱり…何度も来てるし」

「そうか。ところで何回くらい来ていたかな、お前は?」

そう聞かれてクラウドは指を折りながら数えた。しかしどうも両の指だけでは足りないらしい。

結局クラウドは諦めて、

「かなり沢山」

とだけ言ってみた。

それに対するセフィロスの態度は、何だか言葉では説明できない感じだった。おかしい、という顔つきであるのは確かである。

「おかしいな…」

首を傾げながらそう呟くセフィロスに、クラウドは「何が?」と取り合えず聞いてみたが返答は無かった。仕方ないのでお茶のおかわりとやらをセフィロスに差し出して、クラウドは元通りにセフィロスの隣に腰を下ろす。

出された茶に手を出すセフィロスの動作もこれまた自然で、それすらセフィロスは疑問を感じた。

「おかしいと思わないか、クラウド」

「え、何が?」

「私の部屋をお前は良く知っている。お前の出すものに私は自然と手を出す。ザックスが出てくればそれはそれで気分が悪い」

「あ…ああ、そうなん、だ…?」

ドキドキしながらクラウドはそんなふうに返す。

というか、それはつまり…とクラウド的回答を口にしたかったけれど、何故か躊躇われる。

セフィロスはまだ思案していた。

どうやらこの英雄はどうもそういう感情に疎いらしい。クラウドはそれを察知しながらも何だかドキドキがウキウキに変わっていくのを感じた。

最初はただの説教で、それから色んな話をして…それだけだったのに、何だか違う展開になってきたようだ。

それでも当のセフィロスは気付いていない。

「ね、セフィロス。何か話してよ、いつもみたいに」

徐にクラウドはそう言って、セフィロスの服の端を掴んだ。それから躊躇った後に、そっと手を滑らせて、セフィロスの手を握ってみる。

それは少し冷たくて、大きかった。

けれど、その行動にセフィロスは何も反応せずに「話か…」などと、今度はすっかり話題探しに夢中になっていた。気付いていないのか、かなりの鈍感なのか、その辺は良く分からなかったが、何だかクラウドは面白くなる。

つまりそれは、セフィロスにとって“自然”だったのだから。

「そうだな。では……」

そう言って今日の話題について触れようとした瞬間、セフィロスは思い出したようにこう言った。

「ああ、そうだ。お前、ザックスとあまり仲良くするな」

「え」

思わずぽかんと口をあけてしまったクラウドだったが、少しした後、「はい」と一つ返事をした。

セフィロスはその返答に満足したようである。けれどまだ、何かがおかしいとだけしか思えなかった。それでもクラウドの希望通りに何かを話し出そうとするセフィロスは、次の瞬間にはもう違う事を考え始めていた。

そんなセフィロスの隣で、クラウドは少し笑う。

それから、固く決心するのであった。

 

明日からは絶対ザックスと一緒にいよう!

 

 

END

back