夏の魔法?

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夏――――――――それはかくも厳しい季節である。

薄着になるから目の保養だなんて、360度見回しても男しかいない神羅には在り得ない話だった。勿論本社の事務やらにはぴちぴちのお姉さんがいるわけだが、兵士たるもの、そんな嬉しい場所にはご縁がない。

というわけで。

「クラウド、お前が目の保養になるしかあるまい」

「―――――はい?」

人差し指をビシイイイと突きつけられてそんな事を言われたクラウドは、はて自分は女だったろうか、と真面目に悩んでしまった。が、そんな事は天地がひっくり返ってもあるはずが無いわけで。

「…あの。それは多分、無理なんですけど」

…勿論、丁重にお断りをしたわけだが。

が、しかし。

こともあろうにそんな事をクラウドに言ってのけたセフィロスは、ふふ、といかにも妖しい笑いを浮かべながら、無理などということは無い、などと果てしなく訳の分からんことを言い始めた。クラウドにしてみれば意味不明も意味不明、訳が分からない感じである。

けれど、訳が分からないなどと言っている場合ではなかった。

―――――――そう…これを悲劇といわずして何と言おうか…?

「クラウド。これだ!!!」

「な、何イイイイイイ!!??」

夏の夜の神羅で叫び声が二つ…しかしてその真相はあまりにも馬鹿げていたのは言うまでもない。

何しろセフィロスの手にはある物体が握られていて、しかもそれはどう見てもヤバかった。というか普通に考えればヤバくないものでも、それをクラウドに勧める辺りがヤバイ。危うし、英雄!

「…あの、セフィロス。これを、その…俺に着ろって…?」

セフィロスに手渡されたブツをペロリと広げながらクラウドは半笑い半泣きでそう聞く。しかし聞いたところで答えは分かりきっていた。

「無論だ」

――――――嗚呼、やはし!?

クラウドの手にある物体とは、どこからどう見ても女性物の浴衣だった。まあこの季節は暑いし、風情があるといえば風情はある。が、どうだ。クラウドがこれを着用するとなると、それはまた別の問題である。一応これでも男なんだけどな、と思うクラウドは、本当に着るのかどうかという最終質問をセフィロスに投げかけたが、淡い期待は空しく、答えは勿論…YES、だった。

そしてセフィロスの勧めるものはそれ以外にもあった。浴衣は100歩…いや500歩くらい譲って良しとしても、さすがにコレだけは危険だろうと思われるその物体は、どこからどう見ても女性用のネグリジェだった。しかも悲しいことにレースなんかがヒラヒラしていて、色などは気色悪いほどにベビーピンクときている。…極悪、である。

しかも胸の辺りに可愛らしくリボンなど付いていた日には脳天も爆発、魔晄炉の一つや二つ破壊でもしたろうかと思うもんである。しかし良識のある若者クラウドは、そんなことをしたら皆の生活が悪くなると分かっているので、さすがにそれだけは抑えた。というか当然だが。

で、結果的に。

「クラウド。今は夏だ。夏は暑い。ということは薄着だ。しかしどうだ、薄着といっても健康的白Tシャツなどでは、あまりにも悲しすぎる!」

「え。悲しいって誰が…」

「俺だ」

キッパリ。

「…そ、そうなんだ」

いきなり熱い薄着トークなどを始めたセフィロスに、クラウドはどうして良いか分からずにポカンとしていた。しかも手には浴衣(何故かスイカ柄)とネグリジェ(胸リボン付レース調ベビーピンク)を持ちつつ。

「そうだ。だからこそバリエーションが必要だ。白Tシャツも良いが、たまには刺激…いや、変化があっても良いはずだ!…というわけで俺が密かに購入したその服を着るが良い」

「着るが良いって…着ろ、って感じでしょ?」

「当然だ」

「選択の余地無く…?」

「当然すぎて腹で茶が沸かせるな」

「…っていうか。セフィロスが買ったの、これ?」

「現金払いでな」

「…み、店で??」

「店員も至極勧めていたぞ」

それはハッキリ言って、ひきつった笑顔だったのではなかろうかとクラウドが思うのも仕方無い話であった。

しかし、ともかくセフィロスは店に行って、自ら現金払いでこの浴衣(スイカ柄)とネグリジェ(胸リボン付レース調ベビーピンク)を購入したわけで、普通世間一般的に男一人でそれを購入する際の恥ずかしさを考えた上でそれはかなり評価できる行動である。でかるからして、セフィロスはかなり頑張ってこれらをクラウドの為…というか自分の満足の為に購入したわけであって、それを「こんなの着れるかよ!セフィロス、馬鹿じゃないか!?」などと罵倒しピシャリと床に服を叩きつけようものなら大変に悲しいことになってしまう。というかセフィロスはいじけることうけあいである。

だから、つまり…。

「―――――分かったよ…着れば良いんだろ、着れば」

クラウドはヤル気のない笑いを浮かべながらそう答えると、とうとう意を決し、この瞬間だけは自分が男であることを忘れ、その浴衣(スイカ柄)とネグリジェ(胸リボン付レース調ベビーピンク)を着ることを決意したのだった。

 

 

 

クラウドがその妖しげな女性物の服を着ることになったのは、ある夜のことだった。

結局それを見せられたその日には着ることは無かったのでホッとしたものの、やはりこういう悪夢の日は来るわけである。しかも容赦無く。

その日は丁度セフィロスに呼び出されて、セフィロスの部屋に行くことになった。例のブツを着て来いというので仕方なく着てみたものの、それを着て神羅の廊下を歩くなどというのはあまりにも犯罪的すぎて出来なかったクラウドは、セフィロスの部屋に着いた瞬間に相手と顔を合わす前に「トイレ借ります!」とトイレに直行しその場で着替えるというパワフル且つワンダホーなことを成し遂げた次第である。

そしてようやくセフィロスの前に姿を現したわけであるが…。

「セフィロス…やっぱ、変?」

その瞬間、セフィロスの動きは止まっていた。

あまりにも変だったのかな、そんなふうに思ったクラウドはついそう聞いてしまったものだが、実のところそれは正反対だった。

セフィロスは暫くしてハッと我に返ると、悪いものでも食べたかのように素早い変身ぶりを見せた。

――――――――――というか。

…目が輝いている。

「クラウド――――…」

「何?」

変なのかどうかが非常に気になるクラウドとしては早く続きの言葉を口にして欲しかったが、どうもセフィロスは自分の世界に入ってしまって帰ってこない。

しかしそれがようやく冷めたかと思ったその瞬間、セフィロスの口から出たのは…。

「―――――――――愛してる」

「………はい?」

「今夜のお前は最高だ。今までこの世で見てきた何者よりも素晴らしい。その肌蹴た胸元といい、密かに見える足といい、後はもう腰帯を回して取るだけ…あ、いかん、想像が……いや、何でもない。気にするな。つまりはそういう事だ」

「え。つまりは、って…かなり意味不明な…」

何だか良く分からない歯の浮きそうな文句を吐きながら、鼻の辺りを押さえているセフィロスを見ながら、ついていけないクラウドはマトモな回答を求めようとしたが、それはやはり無理だった。セフィロスはもう既にどこか遠い世界に飛んでいるようで、さあコッチに来るんだ、などと言いながらクラウドの腰辺りに腕を回している。まあそれはそれで構わないのだが、あまりにもいつもとセフィロスの様子が違うのでどうして良いか分からないというのがクラウドの本音だった。

はて…この服を着たは良いが――――だからといって何が変わるというのか。

そこがそもそもの疑問である。特別にイベントがあるわけでも何でもないのに浴衣というのはいかがなものであろうか。とはいってもセフィロスにとっては浴衣というもの自体がイベントの一環であって、何があるというわけでなくとも良いのだろうが。

しかし。

「今日は花火などがあるそうだ」

「え?」

何と驚いたことに、イベント発生、である。

花火―――――――――そう、それは夏の風物詩。

それを聞いたクラウドは、何だ少しは意味があるんだ、などと自分の格好に少しだけ、ほんの少しだけ、あくまでも少しだけだが納得した。

しかしそうして納得したのも束の間…その花火とやらは、クラウドが期待したものとはあまりにも違っていた。

何故ってまず、花火といえば雰囲気が第一である。

それなのにセフィロスがまずした事といえば、窓を開けることだった。勿論これは部屋の窓ということであり、つまりはその窓の向こうの花火を部屋の中から見ようというわけである。

「は、花火はどこでやるの?」

思わずそんなふうにクラウドが聞くと、セフィロスは、

「ん?花火か?無論、神羅でだ」

「へえ…」

そんな話、聞いたこともない。

神羅は確か会社ではなかったろうか?

「大丈夫だ。神羅の中でも至極近い場所でやるからな」

「あ、そうなんだ…」

何がどう大丈夫なんだろうと思いつつも敢えてそこを突っ込まずに納得だけをしておく。

そして、やがて花火が始まったとき、クラウドはそのセフィロスの「至極近い」という言葉の意味をすっかり納得してしまったのだった。

何しろそれは、窓のすぐ向こうで行われていたからである。

――――――――――っていうか。

確かにそれは花火に違いない。違いないけど、果たしてそれを観覧するのはどうなのだろうか。だってその花火はといえば、神羅の兵士が自分の趣味で打ち上げて遊んでいる花火なのだ。

しかしセフィロスはそれを眺めつつ、至極ご満足な表情をしていた。というわけだから、クラウドがそれに対して「こういう場合の花火は、そういう場合の花火とは違うよ」などと言うことは到底出来なかった。こういう時、クラウドは疑問に思ってしまうものだ。

セフィロスって……もしや、ちょっとズレてる?、と…。

「たまには花火も良いものだな」

「う…っ。うん、そうだね」

そんな会話をよそに、花火を打ち上げている兵士達はぎゃはは、などと馬鹿笑いなどを交えてはしゃいでいる。

「…風流だ」

「ぶっ!…そ、そう…だよね!」

相変わらず兵士達は楽しそうだった。

壁一枚挿んで、あまりにも違う世界が展開されている。どう考えてもオカシイ。というか、在り得ない。

しかもセフィロスが風流だと述べた時、兵士達はいかにも普通の花火を手にもってパチパチやっているだけだったのは忘れてはいけないところである。

そんな変な状況の中、クラウドは、自分が浴衣などを着ていることをふっと思い出し、そういえば、とある事が疑問になった。

セフィロスは当初クラウドに、「お前が目の保養になるしかない」などということを言っていた。今日この浴衣を着たときにセフィロスは(多分)喜んでいたが、果たしてそれは目的を果たしたのだろうか。あくまでも当初の予定でいくと“目の保養”というのが目的である。ということは今、目の保養になっていなければ浴衣を着ている意味すらないということになりはしないだろうか。…セフィロスの趣味かもしれないというのは置いておくとして。

そんな訳で、クラウドはその辺りをスイと聞いてみる。

「あのさ、セフィロス。…目の保養っていうのは、これで良かったのかな」

よくよく考えると男の自分が言うのも変な言葉だなとは思うが、まあ仕方無い。

とにかくそれを聞くと、セフィロスは「ああ」などと思い出したように声を上げた。そして、こんなことを言い出す。

「目の保養は完璧だ。が、それが満たされれば次へのステップを踏まねばならん」

「次のステップ?」

何ですか、それは。

そう思っていると、そう聞くより先にセフィロスはとうとうと語り始めた。

「夏といえば休養の時期だ。となれば目の保養は必要…だがクラウド、忘れてはいかん。目の保養だけで休養になると思うか?」

「さあ…。ならないって事?」

「当然だ。休養というからには心から健やかにならねばならん。となると、だ。目だけ健やかでも仕方あるまい」

「はあ…。で、その心は?」

ちんぷんかんぷんで首を傾げながらそう聞いたが最後。セフィロスはニヤリ、と笑いながら、最後の言葉を放ったのだった。

「心身共に健やかに、だ!」

「うわああああ!!!」

――――――――――その後。

ガッツリ、と体力消耗したのは言うまでもなかった…。

因みに、そのクラウドの叫び声を聞いた兵士達は花火をする手を止め、壁一枚向こうであるセフィロス宅を覗き込もうとしたようだったが、さすがはセフィロス…完璧にぺしゃりと窓を閉めていて、部屋はシャットアウト状態であった。

クラウドの心の中では、果たしてこれのどこが健やかなのか、という疑問が浮かんだのは言うまでも無い。

 

 

 

例の夜以降、クラウドは浴衣に腕を通すことがなかった。

その代わり、浴衣よりも恐ろしいネグリジェ(胸リボン付レース調ベビーピンク)を着ることだけは免れられなかったが。

ネグリジェの夜はネグリジェの夜で、これまた凄まじくセフィロスの目が輝いていたことは確かである。その日は花火ではなく妖しげなムービーショウなんかが、やはりセフィロス宅で開催され(注:二人きり)、いきなり「ダンスをしよう」などと訳の分からぬことを言い出す英雄にクラウドは付き合わねばならなかった。しかしネグリジェ姿でダンスというのも妙な話である。

結局そのまま同じ展開になって一晩明かすこととなったが、それらの夜が終わって以降クラウドは自身の恋人のことがさっぱり疑問になってしまった。

夏といえば少しは恋人ムードがあったりするし、それらしい雰囲気にはもってこいだけれど、結果的にセフィロスが何をしたかったのかというと……ちょっと分からない。いや、大分。

当初目の保養だとか言っていたセフィロスだったが、それはいつのまにか心身健やかなる休養に変化したし、良い雰囲気も怪しげな服も結果的には……夜の為の演出みたいな状況になってしまった。

しかもどうだ。

その後のセフィロスときたらこんなことまで言い出す始末なのだ。

「浴衣?ネグリジェ?一体何のことだ。兵士たるもの夏は白Tシャツに決まっている」

その白Tシャツでは悲しいだとか言ったのは何処のどいつだ!?…そう突っ込みたい。がしかし、クラウドは否定などせずに、いつも通りの白Tシャツで過ごしていた。

そう、クラウドには分かってしまったのだ。

つまりアレは、夏のせいだ、と。

夏は暑い。暑いと人はちょっぴりオカしくなるらしい。

っていうことは。

 

「アレは夏の魔法みたいなもんだったのかなあ」

 

とにもかくにも、夏。

危険なこの季節の魔法の犠牲者は、そんなふうに解決していた。

でもそれは、誰にも見せられない貴重なものを観たような、そんな変な思い出になったのは言うまでもないことだった。

 

 

 

END

 

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