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二人が向き合う部屋の中、テレビの音だけが響く。 少しすると雨が降ってきたのか、空気が冷たくなってきた。そうしてやがてその雨量が多くなり、ザアアという音がテレビの音に混じり始める。 その雨の音が耳に入りクラウドは、セフィロスへの回答の変わりに、雨が降ってきたね、などと口にして笑った。 「帰るの、面倒くさくなっちゃうね」 「……」 「―――――――突然降り出すなんて…俺の涙と一緒だね」 「……」 「空も泣きたくなったんだね」 きっとそうなんだよ、そう言って泣きながら笑ったクラウドを、セフィロスはじっと見つめていた。とても泣くなんて無さそうなその凛とした顔は、泣いているクラウドを責めているように見えないでもなかったが、それでもそれは違っていた。違うということを、クラウドは分かっていた。 そういう顔は、心配してるから、してるんだ。 そういう事をクラウドは分かっていたのだ。 そう思うと、更に涙が出てくる。振り出した雨の音に混じって、とうとうと流れる涙。セフィロスを前にして何を泣くことがあるのかと思うが、そもそもそういう発想自体が間違っているのだと思う。 涙は悲しいから出るなんて…そんなものを誰が決めたのだろうか。 「クラウド…何故泣く?」 「分かんない」 「しかし…」 理由がないわけはない、そう言いたそうな顔に、クラウドはそっと囁く。 「涙は悲しい時じゃなくたって、出るよ」 「?」 「あのね、セフィロス」 そう切り出してから、クラウドは少し考えた。 此処にきたとき、自分は泣いてなんかいなかった。だけど、この部屋にいる間に唐突に涙が流れたのである。泣きたくなって、涙が流れて、それはセフィロスが帰ってきても止まらない。だからそれは、セフィロスがいないからとかそういう単純な理由ではないのだ。 本当はこの涙に理由とかそういうものを考えるべきじゃないと思う。 けれど、セフィロスに理解して貰える様に上手く理由をつけるとすればそれは…。 「俺、此処に来たとき…セフィロスの匂いがするなあって、そう思ったんだ」 それはこの部屋に染み付いた、その人の香り。 「それから。此処はセフィロスの部屋なのに、セフィロスがいなくて俺がいるって言うことが…何だか変だなあって、そう思ってた」 「変?」 うん、と頷いてクラウドは言葉を続ける。 「セフィロスがいないのに、俺が先にいるって事は変だろ?俺はセフィロスの部屋に一人きりでいて、セフィロスもいなくて…でも寂しくなんてないと思ったんだ。何だかそういうのって切ないよね。今さっき、セフィロスは俺が泣いてる理由を聞いたけど、その時真剣な顔してた…それも何か泣けてきたんだ」 ゆっくりとそんな事を語りだしたクラウドに、今度はセフィロスが首を傾げる。 一体どういうことか分からないといった具合に。 そんなセフィロスを見遣って、クラウドは、 「俺が泣いてたのは、悲しいからなんかじゃないよ。寂しいからなんかじゃないよ。俺ね、セフィロスと一緒にいることが自然になって、そういうのが…嬉しくて、幸せだなあって思ったから、だから涙が出たんだ」 そんなふうに涙のワケを説明した。 勿論そのクラウドの意見はとても考えて考えて導き出した正しいものだったが、やはりセフィロスには理解不能の意見だったらしい。セフィロスはまたしても首を傾げて、しかも今度は顔までしかめて、何故幸せなのに泣くのだ、などと唸る。 そうだ、確かに幸せなら泣くことなんてない。 普通は、無いはずだ。 だけどクラウドの場合は、その“普通”を少し超えていた。 「だってセフィロス。前までこんなこと考えられないことだったんだよ?」 例えば、そう言いながらクラウドは、今だからできることを並べ立てる。 例えば――――――――セフィロスの家にこうしていること。 セフィロスの家に一人で上がることができること。 隣に自分がいてもセフィロスが普通に話しかけてくること。 何でもないことに、セフィロスが真剣に心配してくれること。 そして…こんな話まで真剣にしあえること。 その総てが、過去は望んでもできなかったことであり、今だからできることだった。そういうものは時間の経過で培ってきた歴史でもあるが、やはり幸せなことに変わりない。 「幸せだなあって思って…いつも幸せだから涙なんだ全然出なくて。俺が幸せを感じてる間に、俺の中には汚いものが溜まっちゃったんだ、きっと。本当ならさ、くじけたり落ち込んだりすることがあって、そういう時に涙が出て…きっと汚いものって涙と一緒に流れちゃうんだよ」 「何だそれは。ではその涙には汚いものが混じってるのか」 セフィロスの言葉にクラウドは、ううん、と首を横に振って、今日は違うんだ、などと言った。 「幸せだから、多分そういうふうに涙を流すチャンスが無くなったんだ、俺。でも汚いものが溜まっちゃったから流さなきゃって身体が思ったんだよ。でも俺は今落ち込んだりしてないし、泣く理由なんかない。だから、この涙のワケは、幸せってことなんだ」 「ふむ…良く分からん」 「分からなくても良いんだ」 困った顔をするセフィロスに、そっと笑いかける。涙の跡に新しい涙が重なって、頬はいつまでも耐えず濡れていた。 泣きながら、笑う。 そんな不思議な表情のクラウドをじっと見つめながら、セフィロスはそっと手を動かした。 丁度涙の跡になっている頬に、セフィロスの指先がすっと添えられる。長細い指先はその涙の跡を追って、クラウドの顎の辺りをなぞり、それから今度は髪の毛をくしゃりと撫でた。 「クラウド、もう泣くな。―――笑った顔が見たい」 「俺、笑ってるよ」 「馬鹿。泣きながら笑うのとは違う」 そう指摘されて、クラウドはますます笑顔になった。しかし、ますます涙も流れた。それはきっと、幸せを感じたからだろう。 「ねえ…俺、幸せだよ。セフィロスと一緒にいられて」 髪を撫でていたセフィロスの手を取ってそっと握り締めたクラウドは、自信をもってそう言った。今更何をという台詞だけれど、そういう「普通になったこと」がとても大切だから、だから改めてそう口にしてみる。 今が幸せなんだということを、言葉にして伝えてみる。 するとセフィロスは、何も返答はせず、ただこんなことを口にし出した。 「―――――――クラウド。……抱きしめて良いか?」 「え。何でそんなこと聞くの?」 「抱きしめたいと思ったからだ」 「いや、そうじゃなくて。何でわざわざ聞くのかなって」 「ああ、そういう事か。…いや、いつも当然にしていることだが、お前の話を聞いていたら実際は感謝せねばならないことなのかと思ってな。だから、了解を得てみようと思ったのだ」 良いだろうか、そうもう一度聞かれて、クラウドは元気に首を縦に振った。 そういえば抱きしめあうことも、前はできないことだったと思う。前は考えられなかった事が、今では当然の「自然」になっている。 そういうのは嬉しくて、幸せで、とても切なくなる。 了解を得たセフィロスは、改まって抱きしめるのも変だな、などと言いながらもクラウドをそっと包み込んだ。クラウドを胸に仕舞いこむように抱きしめて、セフィロスは俯くふうにしている。そのせいか、セフィロスの長い髪はクラウドの視界を遮るカーテンのようになっていた。 「あのさ、セフィロス」 「ん?」 「えっと…その、俺の笑ってる顔って好き?」 少し照れながら、クラウドはそんなことを聞く。 するとセフィロスは、クラウドの頭上から少し笑って「ああ」と答えた。 「じゃあ俺の泣いてる顔ってどうなのかな?」 「泣いてる顔か…そうだな、嫌いじゃない」 「嫌いじゃない、かあ…」 ということは好きでもないということか。 そんなふうに考えてクラウドは少し唸ったりする。今のクラウドは笑っているけれど泣いてもいる。そういう場合はどうなるんだろうなんて考えたりして、更に唸る。 そんな唸りを上げているクラウドの上で、セフィロスは、そっと笑った。 「嘘だ。笑っている顔も、泣いている顔も……俺は好きだ」 その呟きを聞いた後、クラウドもそっと笑った。 そして、小さくて聞こえないくらいの声でそっと、願う。 じゃあこれからも側で泣かせてね、そんなふうに。
時々、ふっと涙が流れるときがある。 涙を堪えると、毒だ。 汚い物が身体に溜まって、どんどんと心が圧迫される。 だから、時々せきをきったみたいに、涙が流れるのだろう。 心を綺麗にするために。
心が綺麗になる場所は、好きな人の側が良い。 心を綺麗にする理由は、好きな人の為が良い。 今、そう思う。
END
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