一番遠い人

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俺はその話に「一番遠い人」と名づけた。

それはかつて俺が一番に憧れ、一番に愛し、一番に遠いと思った人の話。

 

 

 

一人きりの公園。

俺はめっきりこんなふうに物思いに耽ることが多くなった。多分、仕事をしていても何の目的も無いからだろう。だから俺はこうして時間を見つけては公園にやってきてベンチに腰をかけ、物思いに耽る。

だけど最近の俺はどういうわけか一人きりじゃない。

何故かってそれは、俺の一人きりの時間を邪魔する奴がいるからだ。

今日だってその邪魔者はわらわらと俺の側にやってきて、無邪気な顔をして俺に言うんだ。

「わーい、クラウドおじちゃんだ」

「バカ。俺はまだ、おじちゃんじゃない」

俺はそうなじると、それでも笑顔になった。

「ごめんね、クラウド兄ちゃん」

にっこりと笑ってくる邪魔者――――――その正体は、村の子供達だ。

キッカケはいつだったろう…。

今ではどんなふうにこの子供たちと接することになったのかなんて俺は覚えてないけど、とにかくその最初の日も俺はこんなふうに一人物思いに耽っていたんだと思う。

何も無い青い空、どこまでも続く青い空。

それを見ながらぼうっとしていた俺に、この子供たちは近付いてきたんだ。それから…どういう会話をしたんだかは覚えてない。

ただ、いつの間にか俺はこの子供たちに「話」を聞かせる「おじさん」になったんだって事だけは確かで、こうして俺の姿を見つけると、子供たちは決まって言うようになった。

何かお話をしてよ、って。

だから俺は、俺が生きてきた何十年かの人生の中の一部を、小さな小さな欠片にしてこの子供たちに話してやることにしてた。勿論子供たちが望んでいるのは単なる話であって、それは作り話でも伝記でも何でも構わなかったんだろう。けど俺は、何故か俺の経験という過去を、話として口にしてたんだ。

多分それは―――――俺がこの公園に来て物思いに耽ったりしていたからなんだろうけど。

たまに子供たちは、俺にリクエストなんかをする。

そう言うときは俺も少し考えたもんだ。だけど結局、俺の口にする話は俺の過去でしかなくて、それを熱心に聞いてる子供たちを見ると、俺は何だか切ないような嬉しいような変な気分になった。

俺の心の中だけにそっとしまっていた過去の欠片…それが、こういう形だとはいえ、誰かに伝わること。それが何だか、変な感じだったから。

子供たちは言う。

「兄ちゃん、すごいね」

――――――――違う…違うんだ。俺は凄くなんて無い。

そう思うのに俺は、そう言ってくる子供たちに笑って答えてた。

「ああ、すごいだろ」

…そう、答えてたんだ。

 

ねえ、兄ちゃんの得意な英雄の話をしてよ。

そう言われたから俺は、子供たちの言う「英雄の話」をした。

それは勿論、俺の過去の欠片で、英雄というのはかつてこの世界で最大の憧れと最大の力を欲しいままにしたあの英雄セフィロスのことだ。

俺は時々、不思議に思う。

もうセフィロスが消えてからどれくらい経つんだか…数え切れないけど、それでもこの世界にはまるで今尚その人がいるかのように、皆が皆「英雄」を知っている。この子供たちなんかは絶対にその姿を見たことなんか無いはずなのに、英雄セフィロスを知ってるんだ。

それは伝記か何かみたいに、語り継がれているのかもしれない。

俺にはそういう事は良く分からなかったけど、英雄セフィロスが皆の中で今尚「英雄」として君臨してることだけは確からしい。

そうだな…今の世の中じゃ、そんなふうに呼べる奴なんかいやしない。

その英雄セフィロスを倒した謎の男すら、記憶になんか残るはずがないんだ。

俺はそんなことをそっと思いながら、子供たちのリクエストした「英雄の話」を始めた。何の話が良いか―――――――そう、過去の記憶を紐解きながら……。

「じゃあ…そうだな。今日の話は―――――…“一番遠い人”」

俺はその話に「一番遠い人」と名づけた。

それはかつて俺が――――――

一番に憧れ、

一番に愛し、

一番に遠いと思った…

ある人の、話。

 

 

 

その人の名前はセフィロスといいました。

長い銀髪、翡翠色の瞳を持つ彼は、人々から英雄と謳わる存在です。

英雄セフィロスはとても強い兵士でもあり、兵士の男は皆セフィロスに憧れ、その人のようになりたいと思っていましたが、なかなかそう上手くはいきません。何しろセフィロスはとても強くて、とても大きな存在なのです。

だから兵士達は皆、セフィロスに憧れていても、セフィロスに近付くことはできませんでした。

 

そんなある日のこと、兵士の一人であるクラウドは、一大決心をしてセフィロスに話しかけてみることにしました。クラウドは兵士といってもまだまだ弱い兵士で、セフィロスと話すなんてとてもできるような兵士ではありませんでしたが、どうしてもセフィロスのようになりたかったので勇気を振り絞って話しかけたのです。

兵士の中でもこんなふうに勇気を振り絞ったのはクラウドだけでした。

何故かというと、普通の兵士はセフィロスを見ただけで緊張してしまい、話しかけるなんて恐れ多いとすぐさま逃げるようにしてセフィロスから遠ざかってしまうからなのです。

だからセフィロスは兵士に話しかけられることなんてあまり無かったのでした。

さて、勇気を振り絞って話しかけたクラウドは、意外なことに気づきました。

それは何かというと、あの英雄のセフィロスが、とても優しく笑いかけてくれたことです。普通の兵士は緊張してすぐ逃げてしまうから、セフィロスがこんなふうに笑うなんてきっと知らなかったでしょう。けれど勇気を振り絞ったクラウドは、そのおかげでそれを知ることができたのです。

クラウドはとても嬉しく思いました。

セフィロスがそうして弱い兵士の自分に笑ってくれることや、普通に話してくれることが、何だかとっても嬉しかったのです。クラウドは嬉しくてそれを仲間の兵士に話したくてうずうずしましたが、結局誰にも秘密にしておきました。

何しろセフィロスに話しかけられるのは自分だけなのです。そして、セフィロスが話しかけてくれるのも自分だけです。それは、クラウドにとっては何にも勝る自慢でした。

 

弱い兵士のクラウドは、いつしか英雄セフィロスと友達になっていました。

あまりに沢山のことを話し、あまりに沢山のことを知り合ったからです。

クラウドはセフィロスのようになりたかったので、セフィロスに色々なことを聞きました。セフィロスはクラウドの質問にいっぱい色んなことを答えて、いろんなことを教えてくれます。だからクラウドはとても嬉しい気分でいっぱいでしたが、ある日セフィロスにこう言われて悩んでしまいました。

「強い兵士になりたいなら、色んな嫌なことを経験しなくてはいけないぞ」

確かにセフィロスも、英雄といわれるまでに色んな経験をしていて、それはクラウドも知っていました。セフィロスが教えてくれたからです。

でもクラウドは、セフィロスのように強くなりたかったけれど、嫌なことを経験するのは嫌だなあと思いました。だから、それは嫌だとハッキリ言いました。

しかし、セフィロスはそれでは駄目だと言います。

そうして二人の意見は対立し、いつしか二人はギクシャクしてしまいました。

折角英雄セフィロスと友達になれて嬉しかったクラウドは、ギクシャクしてしまったのでとても悲しくなりましたが、何と不思議なことに、セフィロスはそれでもクラウドに話しかけてくれたりしたのです。

だからクラウドは、セフィロスに謝りました。

「俺はセフィロスみたいになりたいから、嫌なことが沢山あっても頑張ります」

そう言って胸を張ったクラウドに、セフィロスはとても満足して頷くのでした。

 

それから数年後のことです。

色んな嫌なことを経験したクラウドは、大分強い兵士になりました。

けれどクラウドは、セフィロスという友達をなくしてしまっていました。何故かというとセフィロスはある日、どこかに消えてしまったからです。その時クラウドはとても悲しかったけれど、セフィロスが言ったことを覚えていたので、セフィロスのようになるために頑張って頑張って強い兵士になったのでした。

そんな強い兵士になったクラウドには、敵がいました。

その敵はとても強くて、強い兵士になったクラウドでもとても大変な敵です。しかもその敵は何と驚いたことに、ある日消えてしまった英雄セフィロスだったのです。

クラウドは強くなるためにいっぱい嫌な経験をしましたが、それが一番嫌な経験だなと思いました。

昔はとても仲の良い友達だった英雄セフィロスが、今では倒さなければならない敵になってしまったのだから、クラウドはとても悲しくて仕方なかったのです。それは、クラウドの中で一番の嫌なことでした。

けれどクラウドは頑張ってセフィロスを倒しました。

セフィロスのような強い兵士になるために、一番の嫌なことをしっかり受け止めたのです。それはクラウドにとって本当に辛い出来事だったけれど、クラウドは何とか頑張ったのでした。

 

そうしてクラウドはセフィロスを倒して一番強い兵士となりました。

でもクラウドは、セフィロスにちっとも近づいていないなあと思い、やはり悲しくなってしまいました。

セフィロスのような強い兵士になりたかったけれど、その英雄セフィロスを倒してしまったらもう頑張れないことにクラウドは気づいたのです。

クラウドはセフィロスの友達でした。

セフィロスのような強い兵士になりたかったクラウドは、セフィロスと一緒に色んな話をすることや色んなことで笑っていることも大好きだったから、セフィロスがいなくなって急に寂しくなってしまったのです。

セフィロスが敵じゃなかったら、今でもまだ一緒に友達として仲良くできていたかもしれません。一緒に強い兵士になることもできたかもしれません。

けれど、セフィロスがいなければそれはできないのでした。

だからクラウドは、せっかくセフィロスを倒して一番強い兵士になっても何だかつまらない気がしてなりません。

昔、弱い兵士だった頃、英雄セフィロスのような人はとても遠いなあと思っていたクラウドでしたが、セフィロスを倒した今でもクラウドは同じように感じるのです。

セフィロスはクラウドの中でずっと英雄のままで、クラウドが英雄になることはなかったのです。

クラウドが寂しくて仕方なかったので、自分が倒した英雄セフィロスの話を色んな人にすることにしました。そうして話していくと、何だかセフィロスがまだ生きているような気分になって少しだけ幸せになれるからです。

クラウドはセフィロスの話を色んな人にする間、こう思いました。

 

「やっぱりセフィロスは、とても遠いなあと…」

 

 

 

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