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more than ideal -----------------------------------------------
「ねえ、セフィロス。好みのタイプってどんな人?」 ニコニコ顔のクラウドが突然そんなことを聞いてきたものだから、セフィロスは一瞬面食らったものである。 何の変哲も無い、普通の日。 すっかり一緒にいることが普通になったクラウドとの間は平穏無事で、正に幸せいっぱいという状態。 そんな状態の中、突然言われたその言葉の内容は、セフィロスに疑問を持たせる。 「何故そんなことを聞く?」 「え、何でも良いじゃん。知りたいんだもん」 「知ってどうする?」 「またまた!そんな細かいこと言わないで教えてよ。ね!」 相変わらずニコニコしているクラウドは、ちっともセフィロスの疑問には答えてくれない。まあ言ってみれば「知りたい」というのも立派な理由なのだろうが、それにしたって今更すぎる質問である。 例えばこれが、一緒にいることが普通になる前であったなら、まだ話も分かる。 好きな人の好みを知りたい、好きな人の嗜好を知りたい、そしてその好みに自分が当てはまっていたなら……そんなささやかな気持ち。そういうものは、付き合う前だとかには顕著に現れるものだろうと思う。 がしかし、クラウドは今やもう立派に恋人の座に納まっていたし、これといってセフィロスが浮気か何かしたわけでもないのだから、これはやっぱり何だか分からない。 クラウドは一体何を考えているのだか―――――…そう思いながらもセフィロスは、取り敢えずは答えを出してみようかと思考に入り込んだ。 ―――――が、しかし。 「う、ううむ…」 好み。 そういえばそんなものは考えたことが無かったような気がする。考えたことがないわけだから答えが出せない。つまり、クラウドの期待に応えられない。 これは何だかマズイな、そう思いながら、セフィロスは今迄関係を持った人間全てを思い出してみて、彼らについてをじっくり考えてみることにした。 外見、内面。それから言動や仕草や様々な事。 思えば色んな人がそれぞれ個性的な動きをしてきたものだと思うが、それはその人独自のものであって何だかあまり一貫性がないような気がする。例えば、怒りっぽい、というふうに括るとしたって、その怒りっぽいがどんなふうに怒りっぽいのかはバラバラである。そう考えると、怒りっぽい、というだけでは括れないような気がするのだ。 「ううむ…」 セフィロスは悩み悩んで更にそう唸り出すと、一見恐そうに見えるその顔を更に恐そうにした。 その隣にいるクラウドは、セフィロスの口から答えが出てくるのを心待ちにしてるらしく、やっぱりニコニコと満面の笑みをしている。 ――――――そんな状態が数分。 ようやくセフィロスが答えを出した時、それは隣のクラウドがそろそろ疲れを見せてきた頃のことだった。 期待状態をずっと続けていたクラウドは、セフィロスの口からなかなか答えが出てこないものだから、「きっともう無理だろう」なんて一人思っていたものである。そう思って丁度一つ息をつき肩をガックリと落としたその瞬間、信じられないことにとうとう答えはやってきたのだ。 セフィロスの口から出てきたのは、こんな言葉である。 「難しいが…煩い奴は苦手だ」 あれほど時間があったのに出てきたのはたったそれだけ…しかもそれは好みじゃないのでは?…これではクラウドも唖然とする他ない――――――――……。 「そっか!なるほどね」 …と思ったら大間違いだった。 何と言うことかクラウドはそのセフィロスの言葉に嬉しそうな顔で「うんうん」なんて頷くと、で、他には?、なんて聞いたりする。それどころか更に、こんな事まで言うのだ。 「まず煩い人は苦手だから…まあ静かな人って事で良いよね。それで。できれば…そうだなあ、あと二つくらい好みを教えてよ」 「あと二つ?一体何の意味があるんだ?」 「まあまあ、良いから良いから!…で?」 何だか良く分からないながらもクラウドのペースにはめられていたセフィロスは、仕方なく他の好みを考えるしかなくなってしまった。しかしそれにしたって難しい。先ほどの言葉だって悩みに悩んだ挙句に出した、セフィロスにとっては最高級の答えだったというのに。とはいえ、クラウドがそう言うのだから考えねばならない。 結局セフィロスは、また悩みまた悩み…という状態を散々繰り返した後に、あと二つの好みというものをひねり出した。 そして出揃ったのがこれである。 1、煩い奴は苦手(=静かな人) 2、軽はずみな行動をする奴は苦手(=慎重な人) 3、能力値の高い奴は好きだ ―――――――ちょっと固い回答かもしれない。 しかしともかくこれで好みが出揃ったわけで、セフィロスにとっては一安心といったところである。何しろこれでクラウドの期待には応えられたわけなのだから。 が、そう思ったのも一瞬のことで、セフィロスは自分でそう言っておきながらも次の瞬間には思わずハッとしてしまったものである。 だってそうだ、恋人の好みと自分が当てはまらなかったら、きっと誰だって少しくらいは嫌な気分になることだろう。例え関係がしっかりしたものになっていたとしても、それはきっと同じことだろうと思う。 セフィロスがそう危惧したのは、他でもなくセフィロスの口にした「好み」と「クラウド自身」がかけ離れているからだった。いや、むしろ正反対といってもおかしくはない。 煩い奴は苦手――――――――。 クラウドは特別煩いわけではなかったが、それにしたって落ち着いているという訳でもない。年齢的にも、どちらかというと煩いに分別されてしまうだろう。 軽はずみな行動をする奴は苦手―――――。 実際クラウドが軽はずみな行動をするタイプかと問われればそれは違ったろうが、それにしたって慎重という訳ではない。 能力値の高い奴は好き―――――――。 …クラウドの能力値が高いだなどとは、お世辞にも言えない…。 「うっ…」 これはマズかったか――――――そう思い冷や冷やしながらもセフィロスはクラウドを見遣る。 がしかし、セフィロスの目に映ったのは、相変わらずニコニコとしているクラウドの顔だった。 「ふうん…そっか、分かったよ!」 「クラウド…お前、実は怒ってるとかないだろうな?」 「え?何で?怒ってなんか無いよ」 何で怒る必要があるの、なんて言いながらクラウドは首まで傾げている。そんな様子だったのでセフィロスは内心かなりホッとしたものだが、しかしそれと同時にやっぱり思ってしまうのだった。 クラウドが突然そんなことを聞いてきたその真意が分からない、と。 しかしセフィロスのそんな気持ちとは裏腹にすっきりニコニコと笑っていたクラウドは、更にこんなことを言い出してセフィロスを再度混乱の渦に巻き込んだ。 「じゃあさ、セフィロス。その3つの条件を満たしてる人が2人、セフィロスの前に現れたとするよね」 「?…ああ」 「どっちも好みそのままの人なんだけど、セフィロスは2人の内1人だけを選んで付き合うことにするんだ。だけど二人とも同じ、好みを満たした人だから困るわけだよね。…で、セフィロスは何で選ぶ?」 「は?」 何だそれは、とセフィロスが思わず素っ頓狂な声を上げると、クラウドはおかしそうに笑ったりする。だからね、と言いながら。 「だから…その2人の内1人を選ばないといけないんだよ。結局セフィロスは最後に2人の内1人を選んだとするよね?」 「ああ…」 何だか良く分からないながらもセフィロスはそう返答をしてみる。 「その決定打になったことって、何だと思う?」 「決定打…」 うん、そう頷きながらクラウドはもう一度こう言い直した。 「最終的にその人を選んだ理由」 「理由、か……」 唐突にそう言われても何だか臨場感もないし、実感も無いのだから何とも良い難い。そもそも理想そのものの人間が二人同時に現れるという事自体あんまり…というよりも絶対と言っても過言でないほど無いものである。 理想を満たした二人の人間――――――その二人に優劣をつける、その決定打。 それは一体何だろうか。 「そうだな…」 セフィロスはまたしても悩みだして言葉を濁すと、即座に頭の中でシミュレーションを始めた。 煩くもなく、軽はずみな行動をすることもなく、能力値の高い奴が二人いるとする。その二人はどう比べてもお互いに落ち度はないはずだ、何しろ理想を満たしているのだから。 煩くないから落ち着くだろうし、軽はずみな行動はしないからこちらがイラ付くことも無い。結果、これも落ち着いていられる。そして能力地が高いわけだから呆れることもなく、ハラハラさせられることもない。これは非常に安心である。 …とすると、ハッキリいって甲乙つけられないという状態であるのは言うまでもなく。 「ううむ…」 ああでもない、こうでもない、という混乱状態に陥ってしまったセフィロスは、やはり同じふうに唸りを上げた。 どう考えても甲乙つけられない二人なのにその内の一人を選べというのは、あんまりにも辛い選択である。しかも確かクラウドは言っていたはずだ、その内の一人と付き合うことにするとして、と。 となれば、やはり恋人として一緒にいたいと思う方を選ぶのが良いに決まっているのだ。 しかしどうだろうか、その二人が二人共、落ち着いていられる相手であり安心できる相手なのである。セフィロスとしてはそれ以外特に望むようなものは無かったし、例えそれがあったとしても基本的には落ち着いていられて安心していられればそれで良かった。 だから、選択できない。 「……」 困ってしまったセフィロスは、何となく隣にいるクラウドをチラと見遣った。 視界に入ったクラウドは、答えを期待しながらやはりニコニコしている。 それを見ながらセフィロスは、何でクラウドなのだろうか、という尤もなことを考え始めていた。 何でクラウドは自分の恋人なのだろうか? クラウドときたらセフィロスの言った言葉とは全く異なっていて、どう考えても理想というわけではない。勿論、一緒にいて全く落ち着かないとか全く安心できないというわけではないが、それでもやはり困って しまう時もあるのだ。例えば今だってそうだろうと思う。 今日のように、こうして突拍子も無いことを言い出してセフィロスを困らせたりする。 もし恋人がクラウドではなくて理想の相手だとしたら、多分そんな質問などしてくることなどなかったろう。こんな質問をされなければ困ることもないし、もっと落ち着いていられるのだ。 でも……それでも。 どういう訳なのだろうか、やはり―――――クラウドでなければ、と思う。 クラウドだから側にいたいと思うのだ。 それは恋故の盲目というのとはちょっと違ったもので、何故だかとにかくそう思うのである。それは多分、理想がどうのということを超えたところにあるクラウドだけが持ち合わせた何かに自分が反応しているからなのだろうが、それを上手いこと表現することはできない。 「…そうだな、決定打は…」 セフィロスはクラウドの顔を見つめたまま、ふとそう口を開いた。 それに反応したクラウドは、期待いっぱいの眼でセフィロスを見遣って「なになに?」なんて言ってくる。 だからセフィロスは、そっと笑ってこう言った。 「決定打は、お前だ。俺は、お前みたいな奴を選びたい」 「えっ…」 そのセフィロスの意外な言葉に、クラウド思わず小さな声を上げる。 だって、それはあんまりにも抽象的で、でも特定的で、何だか答えになってない。だけれどクラウドにとってみれば、あまりにもドキリとする決定打なのだ。 クラウドは一瞬躊躇ったような顔をしたが、その内その顔を僅かに赤くさせると大いに慌てふためきながらも、 「そ、それ…答えになってないよ!」 などと抗議した。 しかし、それでもセフィロスは意見を変えようとはしない。 「それは仕方無いだろう、それしか思いつかないんだからな。俺にはお前以外は思いつかない。むしろ選択肢にお前以外が入るということも…何だかしっくりこない」 「…セフィロス…それ、すごい恥ずかしい事言ってるって気付いてる…?」 「やはりそうか?いや、そうかとは思ったんだがな…」 しかし事実だし仕方が無い、セフィロスはそう続けて、その次には質問する側に回った。 今迄質問される側だったセフィロスにとって一番の疑問といったらやはり、何故こんなことを聞くのか、という部分である。 今度こそ答えて貰おうかと言いながらセフィロスがそれを投げかけてみると、今度はどうやらクラウドからの返答があった。何でこんなことを聞いたのか、という事への返答である。 クラウドは小さく笑うと、肩を竦めてみせながらこう言った。 「心理テストみたいなやつだよ。友達にやられたから、俺もセフィロスにやってみようかなって思って」 「ほう…で、今ので何が分かるんだ?」 テストというからには何か結果があるわけである。 セフィロスにはさっぱり検討が付かなかったが、そんなセフィロスに対してクラウドはさらっと言ったものだ。だから、好みが分かるんだよ、と。 「最初言ったよね?好みを教えて、って。それでセフィロスは3つ挙げてくれたでしょ?」 「ああ」 「あの3つはセフィロスにとっては大切な“恋人の条件”なんだよ。でもね、それは本音じゃないんだって」 「というと?」 セフィロスが首を傾げてそんなふうに聞くと、クラウドは照れた笑いを見せながらこんなことを言った。それこそが正に、クラウドが「こんなことを聞いた理由」なのである。 「つまりね、理想なんていくつでもあるんだよ。顔が良い人が好きとか、性格が良い人が好きとか…最初はそういう部分を重視して判断するけど、結局一番大切なのは、決定打なんだって。だから、最初から決定打に一致してる人だけを重視すれば良いって…そういうテスト」 「決定打……――――――って。…じゃあ俺は」 「“俺”なんでしょ?」 へへ、と笑うクラウドに、セフィロスは思わず微笑んだ。 なるほど、そういう事だったのか。 理想は確かに沢山あって、とかくそればかりが目につくものである。煩くない奴が良い、軽はずみな行動をしない奴が良い、能力値の高い奴が良い、そんなふうに言っていたって、結局重要なのは決定打ただ一つだけ。 他のどんな理想よりも何よりも、それだけが重要なのだから。 つまり―――――。 「俺はどうやらお前だけしか重要じゃないらしいな」 自分の言ったことの本当の意味にようやく気付いたセフィロスは、今更ながら少し気恥ずかしい気分になった。何しろクラウドだけが重要で、クラウド以外は重要じゃないと断言したも同然なのだから。 「じゃあ俺は、今度誰かに好みを聞かれたらお前の名を答えておこう」 「えっ!やめてよ、恥ずかしいじゃん!」 セフィロスの言葉にビックリしてそんなふうに言ったクラウドは、駄目駄目、なんて言いながら手をブンブンと横に振る。その焦りようといったら並ではない。そんなクラウドの様子を見ながら、セフィロスは思わず笑いを堪えた。 クラウドは全然落ち着いてなんかいない。 だから自分も落ち着いてなんかいられない。 だけれども、それでもそれが理想以上に重要なことなのだろう。それがクラウドだからこそ、理想をも凌ぐ重要なことと変わったのだろう。 「クラウド」 少ししてからそう口を開いたセフィロスは、クラウドの手を伸ばすとその頬をそっと撫でた。それから、一番重要なものに向けて一番重要なことを告げる。 「お前がいなかったら、俺は重要なものが何も無い理想論者になるらしい。だからクラウド――――――…俺の側を、離れるなよ」 その言葉が響いた瞬間、クラウドは呆然というような表情をしていた。 しかし直ぐに満面の笑みを携えると、深く一つ頷き、答えを返す。 「…了解!」 そんなふうに。
クラウドの心の中では、もう一言、こんな言葉が響いていた。 だけどそれは、セフィロスには秘密。
“その言葉、そっくりそのまま返すよ”。
END
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