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貴方を守る腕 -----------------------------------------
貴方を抱きしめているこの腕を、まだまだ解きたくないと思うんだ。 多分、こんな姿を見たら皆、凄く驚くんだろうと思う。だけど俺はもう驚いたりしないよ。 どういう姿を見せられようと、多分、俺は驚いたりしない。 それほど、全てを受け入れたいと思うんだ。 貴方が泣いた夜を覚えてるよ。 だからずっと、この腕を解きたくないと思うんだ。
腕からスルリと抜けたセフィロスに、クラウドは不思議そうな顔をした。 「どうしたんだ?」 今さっきまでずっとセフィロスが腕の中にいた。 いつもはとても格好良くてそんな弱さの素振りすら見せないのに、たまにこうして自分の腕の中でその人とは思えないような態度を見せる。 最初は驚きもしたが、クラウドには段々と分かってきていた。 それはセフィロスの中で無意識に使い分けられているものだということに。 公私の使い分けというよりかは、心の距離による使い分けである。 セフィロスは長い髪をふわりと振り、それからクラウドを振り返った。そして静かに言う。 「もうそろそろ帰った方が良い」 「何で?まだ大丈夫だよ」 「いや、もう帰れ」 そう釘を刺されて、クラウドは仕方なく立ち上がった。 椅子やソファ、ベットまであるというのに、敢えて部屋の隅の方で、フローリングの床に腰を下ろしたりする。そういうのは、二人だけの世界に入るのに丁度良い。 その空間は、セフィロスが立ち上がったことによって崩れた。 クラウドはソファにかけてあった上着を手に取ると、 「じゃあ」 と言ってセフィロスを見つめた。相手は一つ頷いて微笑んでいる。 「またな」 「うん」 こういう時、手をかけるドアは重いなと思う。その空間から去る、そのドアは。
帰り道、クラウドは何となく以前のことを思い出していた。それはクラウドの中で思い出される頻度が高い過去で、かつてセフィロスが自分の前で一回だけ泣いた、あのシーンだった。それが記憶の中にこれほど残っている理由は二つある。 一つは、それがあまりにも意外な姿だったという理由。 もう一つは、それがとても綺麗だったという理由。 セフィロスでも泣いたりするんだ―――――――…一瞬そう思ったけれど、良く考えたら何て失礼なことを考えたんだろうと直ぐに後悔した。 セフィロスだって泣くことくらいあるんだ、と。感情があればそれは普通だし、そうしてはいけない理由なんてない。もし仮に、そんな姿を認めないという人がいたとしたら、多分それは、セフィロスを本当には認めてないからなんだと、クラウドはそう思っていた。 いつもの、英雄の姿―――――それだけしか、誰も知らないから。 だから多分それはクラウドだけが知っている姿だった。 あの日、セフィロスは何と言っていただろうか―――――。 嗚咽とかそんなんじゃなく、とても静かな涙だった。その涙を晒しながら、セフィロスは何かを口にしていた。 “俺を許せるか…?” --------当然だよ、セフィロス…確かそんなふうに答えた気がする。でも実は、何がどう許すなのかは分かっていなかった。ただ、セフィロスのすることに、自分が認めないなんて事はないと思ったから、ただそれだけでそう答えたのだ。 後になって分かったことだが、それは、その涙を見てその姿を許せるかどうか、という事だったらしい。 それを知った今でも同じ答えを返せる。 当然だよ、と言える。 どんな姿でも良い。戦闘に負けたって、弱音を吐いたって、挫折したとしても、どの姿でもクラウドには受け止める自信があった。 とはいっても、もしそれを真っ先に見せる相手が自分でなかったとしたら、その自信も半減というところではあったが。 しかし今のところ、そういう素振りも無いし、それは確固たる自信だった。 “俺が在る事に意味はあるんだろうか” ――――当然だよ、セフィロス…それにもやはりそう答えた。 心が弱っているだけだ、そうとも言った。 実際に神羅カンパニーとしてはセフィロスがいる事で有利になっている点もあったろうし、その力を考えれば存在に意味が無いなんて事はない。 けれど、そんなことは口にはできなかった。あまりにも陳腐な言葉だと思ったから。 その言葉に対する答えは、そんな地位とか物質的なことじゃなくて、もっともっと違うものじゃなくてはならなかった。 だから、その人を抱きしめたのだ。 何でも、どんな姿でも、受け入れてみせる。認めるから。 ちゃんと必要としてる人間がいる。 ちゃんと此処にいるから――――。 「…寒くなってきたな…」 クラウドはそう呟いて、手にかけていた上着を羽織った。羽織った後に、自分の腕を見つめる。 神羅で鍛えているとはいえ十代半ばのその腕は、大人というにはまだ少し物足りない気がする。 そんな自分の腕が、クラウドはとても憎々しく思えた。
誰かを守るための腕は、貴方みたいじゃないといけないと思う。 でも、じゃあ―――― 貴方を守るためには、どうしたら良いんだろう……
貴方はとても強い人だけど 貴方は時々とても寂しそうな顔をするから 貴方をずっと守る為に 貴方みたいな腕が欲しいと思う
静まった部屋で、セフィロスはフローリングの床を見つめていた。今さっきまでクラウドが座っていた部屋の隅は、まだ温もりが残っている。 それを感じながら、何となく自分に嫌気すら差す気がした。 先日ザックスが言っていた話を思い出す。最近クラウドは妙にトレーニングに励んでいるとかいう、これは別に良さそうな話だったが、それが何となく心に負担をかける。 あんまりにも身体を酷使しているから体調管理も崩れているみたいだ、とザックスは少し心配げだった。だからそのトレーニングについている振りをして監視してるんだとか言っていた。 そこまでする必要は無いのに、それでもクラウドがそうするのは多分、自分に責任があるんだろうと思う。 何故、クラウドの前で涙など見せてしまったのだろうか。 時々ふいに襲うその気持ちが、たまたまクラウドの目の前で起こったというだけの話だったが、あまりにもタイミングが悪すぎる。 クラウドはきっと気付いてしまっただろう。 セフィロスの中にある、もう一つの顔に。 いつもは英雄たる態度でいれば周囲はそれが普通と思って接してくれる。だからそれはそれで良い。けれど時々、その均衡が崩れたように疑問が流れ込むときがあった。 自分がこうして此処にいること。それにどれだけの意味があるのか。 例えば英雄という肩書きや、その力や――――――それらが無くなったとしたら、そこに自分の意味はあるのだろうか。 そんな疑問が、流れ込んでくる。 それは「もしも」の話であって、およそ現実味の無い話だったが、それでも意味合い的にいは大きいものだった。 それは今までは独りの空間でやってくるものだったが、そのタイミングの悪い夜にクラウドの目前でやってきて、そしてこともあろうにクラウドはそれに答えを出してしまったのである。 当然だよ、そう言って。 答えなど出さなくて良かったそれに、答えを出した。それは、意味を――――作り出したのと同じだった。 「馬鹿な奴…」 出した答えと、持ってしまった意味に、捉えられたのは自分だけではない。 クラウドもまたそうして、捉えられてしまったんだろう。だからそうしてトレーニングなどをしてみて、自分を計ろうとする。 クラウドの、まだまだのその腕。それはそれでも良いのだと思う。それ相応のものがあれば、それはそれで良いのだと。 ちゃんとそれを認めていたのに、クラウドは自分の意思で歩き出してしまった。それも原因はセフィロスにあって―――。 床から目を逸らして、己の腕に目をやる。 多分この腕は、力からすれば誰でも守れるのだろうが、クラウドを止める力は無いのかもしれない。 もしこの腕に力など存在していなかったら、自分がそんな存在でなかったとしたら、そんな疑問にも囚われることも無かっただろう。そして、クラウドに答えを出させることにもなりはしなかった。 だから―――――力など、最初からなければ良かったのだ。 力は、心を壊していくだけだから。それはその時クラウドが“心が弱っただけ”と言ったように。 いつかクラウドもそれに気付いてしまうのだろうか。そう思うと、悲しくなる。 けれど―――――。 けれど、この力がなかったらきっと、この想いには出会えなかった。
貴方を抱きしめているこの腕を、まだまだ解きたくないと思うんだ。
“俺を許せるか…?” ―――――――――当然だよ、セフィロス。 どんな事が起ころうと、どんな姿になろうと、俺は貴方を受け入れる。俺は貴方を認める。 “俺が在る事に意味はあるんだろうか” ―――――――――当然だよ、セフィロス。 俺は貴方が必要だから。俺はずっと貴方の側にいるよ。
何があろうと。 どんな姿になろうと。 ずっと、側にいる。 だから―――――― 貴方を追い続ける。ずっと、ずっと、ずっと――――――。
もう寂しくなんかないだろう、セフィロス? 貴方の泣いた夜を覚えてるよ。誰もきっと信じてはくれないし、そんな姿は認めないだろうけど、俺はちゃんと受け止める。 俺は貴方を守るだけの力を、腕を手に入れたんだ。 貴方みたいな腕じゃなきゃいけなかったから、そんな腕が欲しかったんだ。 「もう寂しくなんかないだろう…?」 だけど俺は気付いたんだ。 ずっと思ってた。 貴方を抱きしめるこの腕を、まだまだ解きたくないと思ってたんだ。 だけどそれは、貴方を守るだけの力を手に入れたこの腕では、もうできないことだったんだよ。 俺が欲しかったのは、守る腕だった。 貴方が欲しかったのは、抱きしめる腕だった。 今、この目から涙が流れるのはどうしてだろう。それは俺がその力を手に入れてしまったからなのかもしれない。 だけどセフィロス。 ―――――――――本当はあの夜、俺も泣きたかったんだ。 静かに涙を流す貴方を見て、本当は俺も一緒に泣いてしまいたかった。だけど俺が涙を見せたら、答えは出せなかった。 貴方を認めるよって、 貴方が必要だよって、 そういう答えが出せないと思っていたから。 だけどあの時、もしも一緒に静かに涙を流していたら、こんなことにはならなかったんだろう。
貴方を抱きしめる腕を、離したくなかった。 それでも貴方を守る腕が欲しかった。
貴方を殺す腕なんか、欲しくなかった。
END
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