|
思考の果てから戻り、クラウドは目をそっと開けた。 部屋はやはり暗く、セフィロスもさっきのままに寝に入っている様子である。 そんなセフィロスにそっと寄り添うと、クラウドはその背中に顔を埋めた。 あの時のザックスの言葉には何も返せなかったけれど、それでもそれに心が揺れたのは本当だった。そうして数ヶ月経って、いつの間にか自分はセフィロスを裏切るようにザックスと関係を持ち始めた。きっとザックスは知っているだろう。自分の心の在り処はセフィロスにあるという事を。けれどそれでも優しく包んでくれる一時の体温はクラウドを和らげていた。 しかし、それはズルイ事だと分かっている。 ザックスの気持ちすらも利用しているかのような行動でしかないし、単に自分は変わりのように体温を求めているだけなのかもしれない。 「セフィロス…」 思わずクラウドはそう呟いた。 そうしてセフィロスのせめてもの温もりを得る瞬間、それが一番の安らぎで、変わりようのない“真実”だった――――。 クラウドはそのまま寝に入ってしまったが、そうするクラウドの呟きをセフィロスはしっかりと耳に入れていた。 クラウドに背を向けたままの状態でベットの中にいたセフィロスが深い眠りになど落ちていないことを、クラウドは知る由もなかったのである。
状況の変わらないまま数週間が過ぎ、クラウドはやはり同じようにセフィロスの元へと帰ってきた。 その時も、裏切るようにザックスと重なり合った後だった。 そういった状況から切り抜けることもできず、クラウドはズルズルとそんな生活に身を置いていたが、そろそろそれも限界だった。 けじめを付けよう。 そう決心できたのは、何故だったろうか。 とにかくそれはずっと思ってきたことだったが、その日、何故かすっとそう決心ができた。それはザックスとの関係もそうだったし、勿論、これ以上進むことの無いセフィロスとの生活にも、である。 このままでは、誰しもに迷惑をかけてしまうことになる。 ザックスにも、セフィロスにも。 けれど、そんなふうに割り切れない一番の問題は、自分自身だと分かっていた。 その日は部屋に明かりもついたままで、セフィロスもまだ起きていて、絶好のチャンスといえばチャンスである。とはいってもセフィロスは帰ってきたクラウドには目もくれない。ただいま、と言った言葉にも反応すら見せない。 もう、終わってる。 そう思って、とにかく呼吸を整えるようにクラウドは窓際に立った。そうして外を眺める。 星が綺麗で、何だか無性に悲しい気分になった。 こうしてこの部屋でこんな眺めを見るのも、これが最後かもしれない。そう思うと、初めて此処に訪れたときのことなどが思い返されて、何ともいえない気分になる。 それでも、断ち切らないといけない。 もう、迷惑はかけない。 きっとセフィロスの中にはもう愛情なんて無いから。 それが無いのにこうして此処に留まることは、迷惑でしかありえないから。 だから――――――――。 「どうした?」 ふっと声がかけられて、クラウドは慌てて声のする方向を振り返った。 「あ…セフィロス…」 そこには、セフィロスが立っていた。 どうして決心をした日にそう声をかえてなどくれるのだろうか。そんなふうにクラウドは思い、悲しくなった。 いつもだったらこんなふうにしていても絶対に声などかけてくれないというのに。まるで最後だから優しくするとでもいうように―――。 しかしクラウドは、ああ、そうか、と答えを導き出した。 それは、同情なんだ、と。 もう既に気持ちの無い人間に対する、せめてもの、同情なんだ。 「セフィロス、俺……」 クラウドはゆっくりと口を開いた。 決断、を。 「俺、セフィロスにさよならを――――」 そう口にした瞬間、二人の視線は真っ直ぐにお互いに向けられた。それはあまりにも久々に絡めあった視線で、あまりにも懐かしい感覚だった。 しかし、それはすっと背けられる。 「そうか…」 セフィロスは特にこれといった感情を表すことなく、目を閉じてからそう呟いた。それから抑揚の無い声でクラウドにこう告げる。 「お前がそう思うなら、そう…すれば良い。俺にはお前を止める力は無い」 端から聞けば冷たいようにもとれる言葉。 それでも久々に交わす言葉と、その声の響きに、クラウドは自然とセフィロスに手を伸ばした。 手が、セフィロスの首に巻きつき、それに返すようにセフィロスの腕がクラウドの身体を包んだ。 優しいのか、冷たいのかすら分からないそんな言葉達も――――――もう聞くことは叶わない。 これが最後だから。 クラウドは本当に求めていたその温かさを感じながら、ただ一言だけを返した。 「さよなら――――――…」
もう帰ることなどないと思っていた兵舎に足を向けながら、クラウドは空を見上げた。 そこには暗い空しか広がっていない。 今さっき感じたセフィロスを、まだ忘れられずに、クラウドはそっと息を吐く。 最後の最後に――――あんなふうに優しくて。 もう愛情すらない無い自分に、優しくて。 それはとても見えにくい愛情だったけれど、それでも温かかった。 一緒にいれた時間は幸せだった。 こんな決断をしたけれど、それでもクラウドの心の中は変わらなかった。
今でも、想いは変わらない――――。
クラウドがいなくなった部屋に、セフィロスは一人きりだった。 元々一人きりには慣れているし、最近はそれと同等の状態だったから、さして表面的には変わらない。 けれど、それには大きな意味があった。 これで、良かったのだろう。 きっと、これで正しかった。 そう自分に言い聞かせながらセフィロスは、先ほどまでクラウドが立っていた窓際に立ちすくんだ。 危機感を感じたのは、もう早い時期だった気がする。というより、最初からそれは危惧できたことのはずだった。 それでも止められなかったのは、多分どうしようもなく、自分もクラウドの魅かれていたという事実があったから。しかし、そうして生まれるものは何だったろうか。 自分を見詰め、自分に愛情を向けるクラウドから、セフィロス自身が何かを奪い去ってしまうというのはもう目に見えていた。とても大切すぎて、あまりに温かいものを与えすぎて、やがてその中で他のものが見えなくなる。 例えばそれは、元々有している強さなどを鈍らせるほどに、強く。 本来クラウドの持っている強さを、セフィロスは良く知っていた。そういうものをもっていなければ多分、自分も魅かれなどしなかったろう。 その強さが、甘い生活の中で段々と壊れていく。 周りの一般の生活が見えなくなり、本来の目的なども忘れ去って。 そうなってはいけなかったのだ。そうなってしまえば、クラウドの持つ強さを発揮できる場所も生まれないし、なにしろそれは自分だけが占有していいはずがない。例え通じ合った相手であっても。 一緒にいれば、駄目になる――――――クラウドは、確実に。 そんなふうにしてクラウドの未来を奪う権利など無いと思った。エゴに似たこの感情で、その可能性を潰すことなど、できるはずがない。 甘い生活は、全てを弱くさせる。 だから。 「お前はお前の為に生きるんだ」 そう呟いて、セフィロスは窓を静かに閉めた。 すっかり冷たくなった部屋が、遮断される。
そう、例え想いが変わらなくても――――――――。
END
|